転生者はひた隠さないようです
手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。
才ある者は往け【さいあるものはゆけ】 能力のある人は、然るべき場所に赴いてその能力を活かすべき、という意味の慣用句。「さもなくば、才無き者たちが駆られる」と続きます。異能を隠すことはあまり良くないことです。異能故に悪用されることもあるあるなので、難しい話ですけど。
ス……何とか家は、スカライス家という一家です。お察しのように、一家とは『養子』が基本の縁組で成り立つものです。
「転生者って知ってる?」
「知らなーい」
「ふーん、まあそっか」
知る訳ないかって馬鹿にした目。
だったら最初から聞くなっての。
という内心の反発は覆い隠して、アタシは指先でそーっと、椅子代わりの丸太を動かすと、そこに座る。さっきのお菓子の影響、普段通りに体を動かすと丸太がすっ飛ぶ気がして、気を付けてみてもこれだからね。人差し指と中指の先だけで「ずずっ」と丸太が動いちゃう。
■■■(名前覚えてないです、ハイ)が、おや? という感じの目で追ってきて、声かけてきた。
「君は筋力が高いんだね。俺? 俺はどっちかというと頭脳派。」
聞いてないのに語りだされた。
そして、異界の魂に特有の物言い……膂力とか、スタミナじゃなく『筋力』『耐久力』という言い方。『打撃点』なんて変な言葉とか。やたらひとを数値化したがる癖がある、ってのもそのひとつらしいけど。
この■■■はそこら辺用心深く、直に数値でひとを表すような言い方はしてこなかった。
代わりに……
「俺はね、そもそも自分の持ってる才能のでかさにビビってる、『チート』ってほどじゃないけどね。でもほら、こういうのって目立つとより危険な場所、仕事に割り振られちゃうだろ。だから敢えて隠してるんだよ。まあすべての魔術を超越した何かとかじゃなくて、知識のね、体系とかなんだけど。武の才は無いよ、流石に。迷宮探索には一回行ってみたんだけど、向いてないって分かったしね。ス■■■■家のノリについていけないって言うか」
「へー」
べらべら喋る話し方もだけど、内容にも腹が立ってきたぞ。才ある者は往け、って言いかけたのを、悟られないようそっと飲み込んだ。
ス…なんとか家は、さっきの説明にでてきた、村の主だった家のひとつ。ボリス達のような、村での役目が別にある冒険者じゃなく、本業からしてク=タイスに赴いての迷宮探索、地元の森、山の警戒っていう一家だったハズ。
べらべら喋りはまだ続いてる。
「だからさあ、産まれる前の記憶ってあるわけで、それってカーリも持ってるんなら、同じ運命、同じ境遇でさ、シンパシーっての感じるんだよね。その辺色々話してみて、これって運命だと思ったわけ。」
「ふーん」
あ、これどっかで聞いたような気がする。
ザ…なんとか先輩が言ってた風だなって、思い当たったとたんに思いっきり顔をしかめそうになったけど。そこはアタシもプロ。ゆるぎない意志で『よく分かってない風で、愛想だけはいい笑顔』を保ったのである。
「同じ国に生きてた記憶があるなんて、運命だよ。それに本当にあの幻獣の異能は凄いね。けど、誰かが言ってたんだけどさ、幻獣の使いようが分かってないなぁク=タイス家は。やりようを変えれば間違いなく、大量生産体制を作り上げて木材工芸で村どころが地域支配できちゃうね」
「そうなんだー」
頭の中で、「カー…ナントカさん側の話も聞いてみなくっちゃな」とメモしてた。
それと向こう側で毛布のかげからこっち(アタシじゃないほうね)を睨む楽師たちにも、聞いた方がよさそう。
だってク=タイス家に批判めいた言い方、ってそれ。巧妙に『自分じゃないよ』をアピールしてるけど、ちゃんと調べたら『君が言ってる』のが判明するんじゃないかな。
聞かれたらいけない人に聞かれたら(本当はアタシもなんだぞ)、『叛意』になっちゃうの、分かってるのかな? ていうか『ないせいちーと』って何のことだろう。
『隣領からの引き抜きを手引きしてる』疑いも濃厚だし。
アタシのことを知性低めに見くびってくれるよう、誘導したさ。とはいえ、こいつ……
そろそろ相槌の手持ちが無くなりそ。
あ、そうだ。
「ふぁ……なんか眠くなるねぇー」
と、大あくびしておいた。
気を付けてないと、眠り込んでしまいそうなのは事実なんだもん。
何度か『目をしっかり閉じて、ぱっと開く』動作して眠気を払ってると、天幕の外から顔をのぞかせたひとが、調弦とかしてる楽師たちに手招きしてるのが見えた。
ひとりふたり、と入れ替わりで立ち上がって。その気配で、アタシたちの周りで仮眠とってた楽師たちが、もそもそと起き出してきて。■■■も、調弦してるひとたちの空いた席へ移動していく。
アタシは眠そうに目を擦ったりしながら座ったまま、戻ってきた楽師たちに頭を下げて。話をしてくれそうな人を探すことにした。
手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。
巧妙な根性腐れとの会話劇、すごく難航しましたがひとまず掲載です。
今後ちょこちょこ加筆修正するかもしれません。
お読みいただきありがとうございました。




