心の中で引っ張りあい
手持ち、残り銀で5116(+19000)枚と銅3枚。
現代日本人の感覚じゃどうか知りませんが、誰かが「心臓にかけて誓う」ことは重たいのです。まして、心臓含めた全存在をかけて、神様を証人とした誓いともなれば……ですよ。
ヨアクルンヴァルは思い切りよく宣言したのに。
直後に全員、「この話はどう切り出して行ったらいいんだ……」って顔になった。
実際にボリスは
「複雑すぎて……どこから言いましょうか。」
って耳の後ろを掻きながら、誰に向けたものでもない疑問が宙に浮かんでて。
そしたら、脇にいたテイ=スロールが挙手した。
「まず提案です。何から話すにしても、マーエ自身に秘密は守る、と誓約を立ててもらうべきではないでしょうか。」
「ああ、それなら」
立てるよ、って言いかけた肩を、すごい勢いでメバルさんに掴まれた。
「マーエ。 …マーエ、答える前はよく考えるのだ。神様に対して立てる誓いは、絶対、という言葉を使っていい絶対で、破れないのだぞ。」
うっ、と言う音が自分の喉から出ちゃった。
そもそも誓い自体、自分自身にとか、自分の大事なものをかけてとか、真剣に立てるもので。誰かが「自分の心臓にかけて」って言って本気で誓ったら、ジェスネ派は要らない(でも商人なら、その言葉をジェスネ派の法典官や法律家に文書にさせる)。
それが『神様にかけて』なら、もっともっと本気で。
自分の全部を神様に見てもらい、誓いを破ることがあれば神様ご自身にあらゆるものを取り上げられても文句を言いません、どのような罰も受け入れます、って差し出すことで成り立つやつ。伴侶の誓いでもそこまでするひとはなかなかいない。
アタシってば、今ここで神様、例えば≪黒山羊≫さまにかけて誓いを立てるように、求められてたってこと?
首筋の毛がチリチリするような感じを覚えてたけど、頭の中では静かに周囲を観察してた。
メンバー四人の「そこまでさせるべきなのか?」「でもそのくらいしてもらわないと」という迷いが、せめぎ合ってる様子とかを。
「一緒に居て、あれっ、とか引っ掛かった細かな話が、全部理解できるようになるかも知れない。知りたい」
と、アタシの中の大きい部分がそわそわしてる。
けど同じくらいの大きい部分が、
「危険かも知れないよ。助けてもらったことがあるとしても、この先もそうとは限らない。誓いを立てて、引き返せない道を行っちゃっていいの?」
って逆方向に引っ張ってる。
その真ん中で、考えてるアタシは、自分のこととかつらつら思い返してた。
「でもさあ、アタシは自分のことだってよく知らない。『母は子を知る』けど、母も知れない、獣種も知れない。そもそも祖獣が居るのかどうかもわかんない。
この上、パーティメンバーのことまで、知らないのをそのままにしてても、良い? 言われたこと、割り振られた役目だけやって、報酬もらって、で、後は知らないーって。それで良いの?」
「「「いや良くない!」」」
アタシの中の全部が、声をそろえた。うん。心は決まった。
手持ち、残り銀で5116(+19000)枚と銅3枚。
『母は子を知る』は慣用句です。別の言い方に、『種より畑』があります。
どうでもいい世界設定:男女差ではなく、能力次第でパワーバランスが決定する世の中です。つまり男女の権力差は力じゃ決まらない(決定要因はある、それが上記の慣用句)。結婚形態も割とフリー(一対一は基本でも、継続性がない)。
なので、ク=タイスの継承権などの法は、父系ではなく母系に依拠します。
お読みいただきありがとうございました。




