司教ジャミーカ
手持ち、残り銀で5116(+19000)枚と銅3枚。
イリム歴は交易歴とも言います。なんか昔からイリムって名乗るひとたちが使ってた暦。約束事には便利だからどこの都市でも使われています。
水の入った携帯カップを差し出されるのを、手で制して。
「久しぶ(げほっ)りだから、じ、定命 (げふっ)の真似、(ごほっごふっ)したらコレでは…げっほごっほ」
ひどいかすれ声になりながら、不死者はようやく立ち直った。もうもうと漂っていた埃も、呼吸できる程度に収まったし。
そして、空気っていうか雰囲気が、なんだろうこれ。
緊張感が無くなっちゃっ……た、ね。
強力な不死系モンスターと遭遇するつもりで居たら、でてきたお婆ちゃんがいきなりスッ転んで『大丈夫ですか!』って駆けよっちゃったみたいな。実際のところ、骨に張り付いた皮膚とちょっとの肉って外見がまさに老婆。白い髪だけふさふさしてる老婆。
仲間たちも同じ感想だったらしく。『誰が行く?』みたいな視線のやり取りがあって、口を開いたのは、
「失礼します。神職のかたとお見受けしますが、どのようにお呼びすれば良いですか。」
テイ=スロールだった。穏やかで丁寧な言葉遣いだけど、顔は生真面目で緊張も抜けてない。つまり、返答しだいでどう転んでもいいぞってことで。状況見守ってるボリスやヨアクルンヴァルも、動いてないのに「いつでも動ける」感じをまとってる。
その感じは相手にも伝わってるのだろうけど、不死者はそんなの知らない振りで、愛想よく答えてくれた。
「私は≪塵を踏むもの≫の崇敬者のお世話をしております。司教ジャミーカ。この地に教団の施設を作り、資金を賄うため、多くの書物を著しておりました。著すためには読まねばならぬ、それ故ここ」
と、背後を振り返る。あの本だらけの一室。本でできたベッドと枕、今みて気づいたけど木枠で『机』みたいな形に本を積み上げてるのもあった。『机』の上には、(埃かぶってるけど)まっさらの羊皮紙が留められてて、脇には(埃かぶってるけど)沢山の種類のペンや、インク壺やらが並んでる。
「……ここで、飲食の要らぬ体を神に授かり、ただ疲れだけは如何ともできん為、高弟たちに10日経てば起こすよう命じて、眠りに就いていたのです。書に溺れ、書に身を預けて休む、至福の日々でした」
「いいなあそれ。」
うっかり口走ったアタシの感想に、干からびた唇がにっこりした。
一瞬だけの笑顔のあと、不死者は真面目な顔になる。
「ところで、今は交易歴何年ですか?」
即答しかねた沈黙。
だって相手は不死者で、そんな細かいことを気にする必要はないはず。
でもってこの遺跡の中の荒れ……、埃は積もりまくりでカビも生えてるし、ダイア・キンケイは骨になってるしで、1年や2年やそこら、放置されてたようなもんじゃなさそう。それに加えて、教義が『死の救済』を中心に据えた教えだからってのもあるだろうけど、骸骨だらけのインテリアに、幽霊もいる。
そこでこの質問って、答えちゃっていいんだろうか。
全員、似たようなことを考えたらしく答えに詰まっている中……
「イリム歴867年なのだ。」
考えなしに答えちゃうひとが居た!
メバルさん……アンタってひとはあぁあああんたあああもおぉ!
「なんと……、私が眠りに就いて30年も……弟子たちの霊圧も感じぬし、一体何があったのか……」
霊圧? 聞きなれない言葉でてきたぞ。
「伝え聞くところによると、30年前は節熱病という疫病の年。街の内外に多くの病人がでた。関節が膨れ上がる炎症で、動けなくなる。膨らんだ関節や骨に引っ張られた肉が動きを妨げて、食事もできなくなる。死ぬひとがすごく沢山いた。」
「その病は、知っておる……、書で読んだことはあるが、弟子たちは……」
「たぶん、生きてはいないと思う」
わなわなと震えだす司教ジャミーカを、労わるように肩に手を置くメバルさん。アタシの生まれる前の話だけど、病気の流行は聞いたことあるぞ。
皆が緊張するなか、不死者は感情を爆発させることもなく。
ただ、俯いて何かを確かめるように、名前を呟いて、だんだん声が沈んでいって。そして、もう名前を出さずに、
「霊圧が……感じられない。」
疲れたように。自分に諦めるよう言い聞かせるように、呟いたのだった。
手持ち、残り銀で5116(+19000)枚と銅3枚。
イリム歴、各都市の政府が公式採用してるという意味ではなく。都市ごと(や、教団とかが独自発行する暦もある)の暦も当然あります。ただ、他の都市の商人と遣り取りするのに、
「うちの街暦でVV年の花有月に」
「それってうちの街じゃYY年でしたな」
みたいな事やってたら、行き違いやら何やら起きやすい。そしてイリムはどこでも『イリム歴』を押し付……使うことで正確な取引を積み重ねてきた。結果、日常で『都市ごとの暦』なんて使われてないのです。
お読みいただきありがとうございました。




