表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残り銀貨500枚からの再スタート  作者: 切身魚/Kirimisakana
140/178

司教ジャミーカ

手持ち、残り銀で5116(+19000)枚と銅3枚。

イリム歴は交易歴とも言います。なんか昔からイリムって名乗るひとたちが使ってた暦。約束事には便利だからどこの都市でも使われています。

 水の入った携帯カップを差し出されるのを、手で制して。


「久しぶ(げほっ)りだから、じ、定命 (げふっ)の真似、(ごほっごふっ)したらコレでは…げっほごっほ」


 ひどいかすれ声になりながら、不死者はようやく立ち直った。もうもうと漂っていた埃も、呼吸できる程度に収まったし。

 そして、空気っていうか雰囲気が、なんだろうこれ。

 緊張感が無くなっちゃっ……た、ね。

 強力な不死系モンスターと遭遇するつもりで居たら、でてきたお婆ちゃんがいきなりスッ転んで『大丈夫ですか!』って駆けよっちゃったみたいな。実際のところ、骨に張り付いた皮膚とちょっとの肉って外見がまさに老婆。白い髪だけふさふさしてる老婆。

 仲間たちも同じ感想だったらしく。『誰が行く?』みたいな視線のやり取りがあって、口を開いたのは、


「失礼します。神職のかたとお見受けしますが、どのようにお呼びすれば良いですか。」

 

 テイ=スロールだった。穏やかで丁寧な言葉遣いだけど、顔は生真面目で緊張も抜けてない。つまり、返答しだいでどう転んでもいいぞってことで。状況見守ってるボリスやヨアクルンヴァルも、動いてないのに「いつでも動ける」感じをまとってる。

 その感じは相手にも伝わってるのだろうけど、不死者はそんなの知らない振りで、愛想よく答えてくれた。


「私は≪塵を踏むもの≫の崇敬者のお世話をしております。司教ジャミーカ。この地に教団の施設を作り、資金を賄うため、多くの書物を著しておりました。著すためには読まねばならぬ、それ故ここ」


 と、背後を振り返る。あの本だらけの一室。本でできたベッドと枕、今みて気づいたけど木枠で『机』みたいな形に本を積み上げてるのもあった。『机』の上には、(埃かぶってるけど)まっさらの羊皮紙が留められてて、脇には(埃かぶってるけど)沢山の種類のペンや、インク壺やらが並んでる。


「……ここで、飲食の要らぬ体を神に授かり、ただ疲れだけは如何ともできん為、高弟たちに10日経てば起こすよう命じて、眠りに就いていたのです。書に溺れ、書に身を預けて休む、至福の日々でした」

「いいなあそれ。」


 うっかり口走ったアタシの感想に、干からびた唇がにっこりした。

 一瞬だけの笑顔のあと、不死者は真面目な顔になる。


「ところで、今は交易イリム歴何年ですか?」


 即答しかねた沈黙。

 だって相手は不死者で、そんな細かいことを気にする必要はないはず。

 でもってこの遺跡の中の荒れ……、埃は積もりまくりでカビも生えてるし、ダイア・キンケイは骨になってるしで、1年や2年やそこら、放置されてたようなもんじゃなさそう。それに加えて、教義が『死の救済』を中心に据えた教えだからってのもあるだろうけど、骸骨だらけのインテリアに、幽霊もいる。

 そこでこの質問って、答えちゃっていいんだろうか。

 全員、似たようなことを考えたらしく答えに詰まっている中……


「イリム歴867年なのだ。」


 考えなしに答えちゃうひとが居た!

 メバルさん……アンタってひとはあぁあああんたあああもおぉ!


「なんと……、私が眠りに就いて30年も……弟子たちの霊圧も感じぬし、一体何があったのか……」


 霊圧? 聞きなれない言葉でてきたぞ。


「伝え聞くところによると、30年前は節熱病せつねつびょうという疫病の年。街の内外に多くの病人がでた。関節が膨れ上がる炎症で、動けなくなる。膨らんだ関節や骨に引っ張られた肉が動きを妨げて、食事もできなくなる。死ぬひとがすごく沢山いた。」

「その病は、知っておる……、書で読んだことはあるが、弟子たちは……」

「たぶん、生きてはいないと思う」


 わなわなと震えだす司教ジャミーカを、労わるように肩に手を置くメバルさん。アタシの生まれる前の話だけど、病気の流行は聞いたことあるぞ。

 皆が緊張するなか、不死者は感情を爆発させることもなく。

 ただ、俯いて何かを確かめるように、名前を呟いて、だんだん声が沈んでいって。そして、もう名前を出さずに、


「霊圧が……感じられない。」


 疲れたように。自分に諦めるよう言い聞かせるように、呟いたのだった。

手持ち、残り銀で5116(+19000)枚と銅3枚。

イリム歴、各都市の政府が公式採用してるという意味ではなく。都市ごと(や、教団とかが独自発行する暦もある)の暦も当然あります。ただ、他の都市の商人と遣り取りするのに、

「うちの街暦でVV年の花有月に」

「それってうちの街じゃYY年でしたな」

みたいな事やってたら、行き違いやら何やら起きやすい。そしてイリムはどこでも『イリム歴』を押し付……使うことで正確な取引を積み重ねてきた。結果、日常で『都市ごとの暦』なんて使われてないのです。


お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ