次はあるのか
手持ち、残り銀で466枚と銅0枚。
冒険者レベル、という概念はこの世界にないので特に表記してません。
神格が様々あって僧侶の使う魔術が様々あるように、魔術は、『世界のありようを解釈する哲学』が異なるため、流派が違えば使う術も、実は魔力の源も異なります。精霊に至ってはもう……、部外者にはお手上げらしいです。
下の階に降りても、順調に探索は進んだ。
カードと灯油を捨てたせいか、「ドゥイドゥイ」の声は聞こえることはなかったし。ほんとうに、ビビリながら聞き耳たててたよ……。身の潔白を証明する、覚悟はあったけど、できればやりたくないことだからね。
そして、手練れは手練れ。
『針蜂』の強いやつ、『鉄蜂』が群れてきても、防護円のなかでやり過ごしてから、巣を探り出して、凍らせて(僧侶が水系の神様で、水をいくらでもだせるんだって。魔術師が、それを凍らせてた)採取したり。
黒いチリが集まったような巨人は、アタシが発見した。
魔術師が何かして。
アタッカーとウォーリアが、腕4本ある一人の戦士みたいな連携で(以前遭遇した時はマジで苦戦したのに)、割とあっさり倒した。
その戦闘で分かったけど、アタッカーの持つ剣、間違いなく2本とも魔力剣だわ。薄緑色の魔力光が、刃のうえに光ってる。一階のときは使ってなかった、てことね。
で、ウォーリアの盾は風を切る音をたてて、軽い板きれみたいに、ひらっひらと動き回る。絶対、軽くないのに、巨人の振り回す棍棒をやんわりいなして、かと思うと、突然勢いつけて押し返しては、体勢を崩させたり。
巨人の体勢が崩れると、アタッカーが一歩突っ込んで、連撃をいれる。何回かは、盾や、ウォーリアの肩を踏み台にしてとびかかって、それから背後でもう一撃、みたいなこともやってたぞ。
そういう時、ウォーリアはわざと盾の軌道をずらして、自分へと攻撃を誘っている。ぶちかまされる寸前に、盾が戻って火花を散らし。巨人の膝裏に薄緑色の魔力光がみえて。
見えた、と思ったら巨人が膝をつく。(腱を切ったか、膝の骨を切ったかも)
その膝が、白い煙を上げて燃え上がる。(ウィザードが何か使ったかな?)
巨人が苦しがってる声をあげて、振りあげた棍棒が、腕ごと切り落とされて。ウォーリアが斧で、その反対の腕を切り落とし。
気が付いたら、僧侶がアタシの肩をつついて。
「周りを、警戒してほしいのだ」
そう言うと、前衛の怪我を確認しに行った。アタシにはそう見えなかったけど、棍棒がふれてたらしい。僧侶はそういう傷を、『小さな呪文』でササっと治して、さらに落ちてる棍棒とかも調べて。それと小さな袋が見つかって、アタシを手招きする。
「手を、出して。小さな防御をかけるのだ。中身のどれかに、呪物がある気配がした。」
小さな防御、というのは、水袋から綺麗な水を両手にかけながら呪文を唱えることだった。
特別な感じはしないけど、拭かずに調べて、というから濡れた手のまま、袋を棒と、ピンセットで持ち上げて、中身をひとつずつ取り出していく。
子供サイズか、ってくらい小さな黄色の手袋が一双。
何かの牙が2本。
黒いぶち模様のある毛皮(すごく臭い)が1枚。
3本の短剣、全部バラバラな様式。
ロウで封してある、液体が入ってる陶器の瓶1本。
汚れのついたクロスボウ用の矢と矢筒。
銅に、3つの青い石がついたブレスレット……に、ピンセット近づけようとしたとたん、手に抵抗があった。力を入れても前に出せない感じ。
僧侶がやってきて、ブレスレットを認めて。
「これが呪物なのだ。」
片手に持った水袋から、もう片方の手袋した手のひらに水を出して。
水滴をばっ、とブレスレットに振りかけた途端。
『ぎゅぐるるおぅうるうううぁ!』
って感じの声と、灰色の嫌な臭いがする煙が立ちのぼる。煙はすぐ消えてしまって、ブレスレットにはまっていた石も消えてて、銅も腐食したような、緑色と灰色と茶色のカタマリになってしまった。
あー、耳ふさいでおけばよかった。
耳から首の後ろまで、毛が逆立つような嫌な感触がする……。
ほかにも、プラチナみたいな金属の細い棒(僧侶と魔術師が二人で試して、金銀合金だと判明。それだって良い値がつく)が6本。黒い石を彫ったお守りらしい、ネコ科の獣の小さい像が1つが見つかった。
離れた場所で休んでいた前衛も協力して、ウィザードの持ってる『なんでも入る袋』に放り込む。
僧侶は、皆に水を飲むよう勧めて、自分も6杯くらい飲んだあと、ウィザードの持ってた繊維紙に何か書きつけていた。
(この人やたら飲むけど、一回も何も出してないな?)
アタシの懐疑の目線に気づいたのか、僧侶は顔をあげて、にっこりしてから紙をあげて見せた。
『針蜂の巣 銀180枚
針蜂の針 銀2枚
粉塵巨人の棍棒 銀7枚
カゲイヌの牙2本 銀34枚
カゲイヌの毛皮、未加工 銀45枚
短剣3本 銀3枚
クロスボウ用の矢9本と矢筒 銀19枚
陶器の瓶 ?(瓶だけなら銅6)』
おお……。
銀で290枚……陶器の瓶の中身が不明とはいえ……、いい稼ぎだなあ。
たとえ5等分、いやアタシ新人だし、減らされたとしても……、なんてウフウフ考えていたら。ウォーリアが立ち上がって、肩をまわす。
「さ、もう2戦くらいはいこうか。まだ半分の力には至ってないだろ?」
「四分の一どころか、ですよ」
笑いながら立ち上がるアタッカー、と、それに続く二人。
アタシも急いで立ち上がって、先行偵察に進み出た。
結局そのあと2回、モンスターと遭遇して。
「半分の力を残して帰るよっ」
というウォーリアの号令で、同じルート……は、ドゥイドゥイ屋に会いたくなかったので通らず、別ルートで帰還して。
『始まりの四宿』内の、石像に守られた魔術障壁を通過して。僧侶が見立てたアイテムは、鑑定不要で売却できた。(なお、中身不明の瓶はその場に捨てた)
鑑定料をとられないから、売却益は銀貨1029枚。
と、面接にも使った宿屋兼酒場の仕切り付きテーブルで発表されまして、皆で乾杯。銀貨190枚の袋が、アタシにも渡された。端数は、ここの食事と飲み物代になる。大皿でジュワジュワいいながら出てきたのは、最初に倒したタルイヌの尻肉。(残りの肉は食事代のたしになった)
焼けた肉の匂いは美味そうだけど、アタシはエールをちょっとずつ舐めて、誰かが、何かを言い出すのを待ってた。
するとウォーリアが、アタシのほうに空のジョッキを掲げる。
「今日はいい働きだったねっ。明日は、二層≪夜≫に行くよ。頼めるかい?」
「ハイ!」
ウォーリアは下働きの子を呼び止めると、もう一杯エールを注文する。アタシはようやく、食べ物を口に入れる気になった。
「ただし、条件があります」
アタッカーの言葉で、フォークを持つ手が止まった。
手持ち、残り銀で656枚と銅0枚。
やった!手持ちがちょっと増えたよ!
お読みいただきありがとうございました。




