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残り銀貨500枚からの再スタート  作者: 切身魚/Kirimisakana
137/177

弱い弱い亡霊

手持ち、残り銀で5116(+19000)枚と銅3枚。

意図せずに書いたら駄洒落になったんです。本当です、信じてください!

 自分の喉の奥がキューってなったのが、他所から聞こえる音みたいに遠かった。

 アタシの右腰のあたり、確かに冷たいもやのようなものがわだかまってる。右腰っていうか、脇に抱えた『本』にくっついてるの。これ、この形って、手の指みたいな……?

 恐る恐る動こうとした途端、


「マーエ!」


 アタッカーから鋭い声。

 と、殺気が飛んできた。


「ゴメン、ちょっと動くけどそっちにはいかないから!」


 ボリスが怪訝そうに首をかしげる、けど剣先は動かないあたりは流石、武人。

 アタシはそっと、本にくっついてる『もや』の輪郭を指先で辿ってみる。それでも、何も感じない。冷たい! とか ぞっとする! とかありそうなモンなんだけど。

 『本』をそーっと床におろしてみると、もやがそちらに移動してって、上に丸まった。アタシの先入観なんだろうけど、大事なものにすがり付く小柄なひとを想像しちゃうなあ。

 本からそっと離れてみても、もやは位置を変えず。

 何回か実験してみて、この『もや』は『本』にくっつきたがることが分かった。


 分かった時点で、アタッカーは警戒を解いてくれたし、皆と合流することにした。入れ替わる感じで僧侶が『もや』を調べて、その間アタシは休憩。それとヨアクルンヴァルにアレは幽霊じゃないと思うよ、って気休めを言ってみた。

 漏れ聞こえるメバルさんの独り言(独り言だと思いたいんだけど)からすると、気休めにさえなってないかも、だけど。

 

「あれは霊なのだが、弱くて、お話できない。ここの版木に、強い思いがあるみたい。」


 メバルさんの声からは、役に立てない悔しさがにじみ出てる。かといって、一挙に除霊とかするのも、思いきれないって感じ。


「ま、まあ、特に悪さするわけでもないなら、いいんじゃないんかねぇっ、放っておいても」

「それなんだけどヨアクルンヴァル。もうちょっと調べてみるわ。」

「マーエ!?」


 あの『もや』みたいなのを纏わりつかせながら調べるのか? って、ウォーリアにしたら「冗談じゃない」みたいな口調だったけど。アタシは別に平気。

 入口近くの棚しか見てなかったから、今度はもっと奥の棚も見ていく。

 版木は読めなかったから、元の棚に戻しておいた。だって写し文字だし、読み解こうとしたら一日つぶれそうで。

 そしたら、白いもやの霊も離れていった。アタシのことは全然意識してないみたいだったんで、後を追うと。

 二列の棚の中央、通路幅が広くなっている場所の隅に、死骸を見つけた。その死骸に染みこむように、もやが消える。調べるだけ調べてみたけど、褐色に干からびて、骨に乾燥した皮や肉やらがこびりついた死骸だった。別の部屋でも見たローブと、革サンダルっていう簡素な格好で、布のひだには埃が積もりまくり。

 もやの時点でも感じたけど、このひとってすごい小柄。立ち上がったとしても、アタシの肘くらいまでしか背丈がないんじゃないかな。

 背中を棚にくっつけてそのまま床に座り込んだ恰好で、だらりと床に垂れた腕の下には、何冊か本が見える。触っていいものかどうか判別つかない……怖いワケじゃないけど、今度こそ、アタシに霊がとり憑いたりする危険は冒せない。

 大盾構えて、かげから絶対出ないようにしてるヨアクルンヴァル(微かに震え中)を先頭に、皆を連れてきてみたんだ。


「僅かでも異様な気配があったら、すぐ知らせてくださいよ」

「了解!」


 ピリピリしてるアタッカーもそうだけど、アタシだって緊張してる。目の前で、死骸にしゃがみこんでる僧侶は無防備そのものなんだもの。盾のかげのヨアクルンヴァルは無言で震えてるし。その脇で集中した表情なのがウィザードで、アタシとは別方向を警戒してくれてる。

 そんな風に物々しく警戒していたのに、僧侶が立ち上がって、


「分からない。強い遺恨はないみたい。本を動かそうとしたら、止めようとする。触らないことをお勧めしたい。」


 と宣言した。


「推測ですが。司書ビブリオテーカのような人物であったのでしょうか」

「テイ=スロールの考えは当たってるんじゃないかな。アタシより、本を持ち出されることに執着してるっぽいし」

「じ、じゃ、ほっといて先にゆこうかねぇ!」


 ヨアクルンヴァルが、自分を励ますように妙に明るい声を出す。

 幽霊にまとわりつかれながら本を調べて回るより建設的だよね。

 アタシは地図を凝視して、決めた。


「あっち(北東隅)のアーチから行ってみよう」


 立ち上がると、周りの誰も動かない……顔を逸らしてるのは何でなの。

 心臓の鼓動が5回くらい聞こえた後、僧侶がやっとこちらを見た。


「マーエ。今のは駄洒落なのだろうか」

「えっ……あ、いや! 違う違う!」


 慌てて手を振って否定したら、クスクス笑いをこらえようとして、変な口元になってるボリスとか、震えの止まったヨアクルンヴァルも立ち上がって。

 わざとじゃないけど、リラックスできたんならこれはこれで良い、かな?

手持ち、残り銀で5116(+19000)枚と銅3枚。

次回は探索の続きです。


お読みいただきありがとうございました。


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