弱い弱い亡霊
手持ち、残り銀で5116(+19000)枚と銅3枚。
意図せずに書いたら駄洒落になったんです。本当です、信じてください!
自分の喉の奥がキューってなったのが、他所から聞こえる音みたいに遠かった。
アタシの右腰のあたり、確かに冷たいもやのようなものがわだかまってる。右腰っていうか、脇に抱えた『本』にくっついてるの。これ、この形って、手の指みたいな……?
恐る恐る動こうとした途端、
「マーエ!」
アタッカーから鋭い声。
と、殺気が飛んできた。
「ゴメン、ちょっと動くけどそっちにはいかないから!」
ボリスが怪訝そうに首をかしげる、けど剣先は動かないあたりは流石、武人。
アタシはそっと、本にくっついてる『もや』の輪郭を指先で辿ってみる。それでも、何も感じない。冷たい! とか ぞっとする! とかありそうなモンなんだけど。
『本』をそーっと床におろしてみると、もやがそちらに移動してって、上に丸まった。アタシの先入観なんだろうけど、大事なものにすがり付く小柄なひとを想像しちゃうなあ。
本からそっと離れてみても、もやは位置を変えず。
何回か実験してみて、この『もや』は『本』にくっつきたがることが分かった。
分かった時点で、アタッカーは警戒を解いてくれたし、皆と合流することにした。入れ替わる感じで僧侶が『もや』を調べて、その間アタシは休憩。それとヨアクルンヴァルにアレは幽霊じゃないと思うよ、って気休めを言ってみた。
漏れ聞こえるメバルさんの独り言(独り言だと思いたいんだけど)からすると、気休めにさえなってないかも、だけど。
「あれは霊なのだが、弱くて、お話できない。ここの版木に、強い思いがあるみたい。」
メバルさんの声からは、役に立てない悔しさがにじみ出てる。かといって、一挙に除霊とかするのも、思いきれないって感じ。
「ま、まあ、特に悪さするわけでもないなら、いいんじゃないんかねぇっ、放っておいても」
「それなんだけどヨアクルンヴァル。もうちょっと調べてみるわ。」
「マーエ!?」
あの『もや』みたいなのを纏わりつかせながら調べるのか? って、ウォーリアにしたら「冗談じゃない」みたいな口調だったけど。アタシは別に平気。
入口近くの棚しか見てなかったから、今度はもっと奥の棚も見ていく。
版木は読めなかったから、元の棚に戻しておいた。だって写し文字だし、読み解こうとしたら一日つぶれそうで。
そしたら、白いもやの霊も離れていった。アタシのことは全然意識してないみたいだったんで、後を追うと。
二列の棚の中央、通路幅が広くなっている場所の隅に、死骸を見つけた。その死骸に染みこむように、もやが消える。調べるだけ調べてみたけど、褐色に干からびて、骨に乾燥した皮や肉やらがこびりついた死骸だった。別の部屋でも見たローブと、革サンダルっていう簡素な格好で、布のひだには埃が積もりまくり。
もやの時点でも感じたけど、このひとってすごい小柄。立ち上がったとしても、アタシの肘くらいまでしか背丈がないんじゃないかな。
背中を棚にくっつけてそのまま床に座り込んだ恰好で、だらりと床に垂れた腕の下には、何冊か本が見える。触っていいものかどうか判別つかない……怖いワケじゃないけど、今度こそ、アタシに霊がとり憑いたりする危険は冒せない。
大盾構えて、かげから絶対出ないようにしてるヨアクルンヴァル(微かに震え中)を先頭に、皆を連れてきてみたんだ。
「僅かでも異様な気配があったら、すぐ知らせてくださいよ」
「了解!」
ピリピリしてるアタッカーもそうだけど、アタシだって緊張してる。目の前で、死骸にしゃがみこんでる僧侶は無防備そのものなんだもの。盾のかげのヨアクルンヴァルは無言で震えてるし。その脇で集中した表情なのがウィザードで、アタシとは別方向を警戒してくれてる。
そんな風に物々しく警戒していたのに、僧侶が立ち上がって、
「分からない。強い遺恨はないみたい。本を動かそうとしたら、止めようとする。触らないことをお勧めしたい。」
と宣言した。
「推測ですが。司書のような人物であったのでしょうか」
「テイ=スロールの考えは当たってるんじゃないかな。アタシより、本を持ち出されることに執着してるっぽいし」
「じ、じゃ、ほっといて先にゆこうかねぇ!」
ヨアクルンヴァルが、自分を励ますように妙に明るい声を出す。
幽霊にまとわりつかれながら本を調べて回るより建設的だよね。
アタシは地図を凝視して、決めた。
「あっち(北東隅)のアーチから行ってみよう」
立ち上がると、周りの誰も動かない……顔を逸らしてるのは何でなの。
心臓の鼓動が5回くらい聞こえた後、僧侶がやっとこちらを見た。
「マーエ。今のは駄洒落なのだろうか」
「えっ……あ、いや! 違う違う!」
慌てて手を振って否定したら、クスクス笑いをこらえようとして、変な口元になってるボリスとか、震えの止まったヨアクルンヴァルも立ち上がって。
わざとじゃないけど、リラックスできたんならこれはこれで良い、かな?
手持ち、残り銀で5116(+19000)枚と銅3枚。
次回は探索の続きです。
お読みいただきありがとうございました。




