探索の続き
手持ち、残り銀で5116(+19000)枚と銅3枚。
このダンジョン、階層間をつなぐ恒久化魔法陣も、何年か経つと「どっか行っちゃう」ので大騒ぎになります。諸行無常って言うでしょう。
昨日は、変化しちゃった一層≪迷宮≫の目印を見つけるだけにしてたけど。
今日はもう二層≪夜≫まで行くことにした。アタシ達は独立系だから、たとえば一層の変化した部分をマップにして情報提供しろ、とか、行方不明者の捜索依頼とか、そういうのには縛られなくていい。チームに所属すると、そういうのを優先するよう求められるらしいんだ。
逆にアタシ達が変化しちゃった多次元複層ナントカ構造の地図を知りたくなったら、同業の仲の良いところに情報を求めるかしかないし、それだってお礼が必要になる。自分たちの中に行方不明とか、考えたくはないんだけど、もしあったとしたら、クエスト発注するしかないし、やりなさいって強制することはできないし。
ま、良いところばかりって訳にもいかない……だよね。
「それに今回は動いてなかったけど、層をつなぐ『転移の魔法陣』も何年に1回かくらいで、どっかに無くなってしまうからねぇ」
「ヨアクルンヴァルは出くわしたことあるの?」
「あるさっ。運よく、って言うべきかね。二層から帰りの途中だったから、一層に出たところで場所を記録取って、情報を高く売りつけたのさっ」
あっはっは、と笑うウォーリアの後ろをついていきながら、ウィザードが頷く。
「恒久化魔法陣は、他流でも読めるよう、解析しやすく作られていましたから何とかなりました」
「え、それって解析できなかったら……」
すこし怖くなって、全部言えなかったけど、テイ=スロールは分かってくれたっぽい。
「二層≪夜≫に足止めだったでしょう。」
「ひえぇ」
いずれは他の冒険者グループがやってくる、かも知れない。けど、そんな何時来るか分からないような助けを期待して、魔法陣の前で衰弱死を待つのはぞっとしないなぁ。
そういう話をしながら、二層≪夜≫の未発見ダンジョンへとやってきたんだ。転移した場所の様子は、前回と変わりないっぽいし、新しい足跡とかもない。
住み着いてる大きなクモを驚かせちゃった他は、何にも出会わずに。
大きな広間までやってこられた。
広間中央に仲間を待たせておいて、アタシ一人で隠し扉の前にやってくる。きちんと言えば、隠し扉の正面じゃなく、脇に、なんだけど。
罠はないだろうことは前回確認済みでも、身に着けた習慣、てヤツね。手に入れてあった鍵は、埃でざらついたけどちゃんと動作してくれた。
隠し扉を開くと、アタシは短剣の刃をひっぱりだして光の呪文範囲を調節する。仲間に一度手を振って、一人で踏み出す。
通路は110フィートほど進んで、右に折れる。音は聞こえないし、気配もない。
頭の中にある地図で言うと、この右側の先には、以前破壊さえできなかった金属扉の向こう側、だ。何を見つけることになるんだろう?
念のため、手袋ずらして額に手を当てる。うん、汗はかいてない。緊張してないけど、集中は保ててる、なら進もう。
曲がった先はまた一本道で、120フィート行くと光のなか、右手の壁が途切れてる。つまり、ここが『金属扉の向こう側』?!
壁の途切れ目は、鉄扉だった。重たそうな両開きのヤツ。調べてみる限り、鍵穴はないし、把手をまわしたら引っ張りあけられそう。重たそうってだけで。
そして鉄扉なせいで、向こう側の音やら気配やらが掴みづらい。一応何も居ないとは思うんだけど。
「そんな感じだったんで、一緒に開けてもらおうと思ったんだ」
「いかにも何かありそうですね」
書き込んだ地図からして、この先は通路なのか、ひとつの大きな部屋かも。どっちにしろボリスとヨアクルンヴァルが、片手ずつ把手をもって、もう片手には武器を構えてる。
ウィザードも何か呪文を用意してるらしい。内部から何かが「ギョンゲー!」とか飛び出してきても、べちーん! って石壁が防いでくれそうで、ちょっと笑える安心材料だ。
通路の先からの気配はなし。
アタシ自身も、クロスボウを構えて、前衛二人にむけて静かにうなずく。二人が同時に開け放ち、さっと緊張が走る──。
「む」
「棚?」
前衛の短いコメントのとおり。手にした光のなか、見える限りの棚、棚、棚、そして革装丁の本、本、本。
「書庫なのだ?」
僧侶の表現したとおり、そこは広い書庫に見えた。
手持ち、残り銀で5116(+19000)枚と銅3枚。
次回はこの『書庫』を探索するおはなし。
マップをpixivにアップしました。
https://www.pixiv.net/artworks/105880609
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