幕間その4:キマルとヒョウムの孤児院訪問
チーム『ゆるふわ』のあと、孤児院に行った新婚さんのお話です。
2023/03/01 タイトルが幕間「3」だったのを、「4」に訂正しました。
まず、君たちへの補償。
君たちの依頼で土地売買契約書を作成したジェスネ派書記に、契約無効の書類を依頼してある。それが筋というものだからな。土地家屋の所有は君たちに属し、小作人との契約も含めた内容は現行で不満がないなら、このままとしておく。また、来年以降の支払い義務は、今回の償いのために相殺し、免除とする。
銀貨で2万5千6百枚、がザレナの個人資産として押収した額だ。
この中から、まず半分が≪万神殿≫へと奉献される。このうち、7000がマーエへの賠償。残りが神殿の取り分となる。
残り銀貨は1万2千8百枚。お好きに使いなさい。
訪れた孤児院で、育て親たちの一人に誘われた先は、小礼拝室。そこでそう告げられて、キマルは喜び、ヒョウムは黙り込んだ。
キマルの聞いた金額は、はっきり言えば大金が転がり込んできて、それは単純に喜ばしい。
ヒョウムとしては、すでに聞いていた話に加え、大金までついて来るという事態を、胸騒ぎなしには受け入れられなかった。
動揺を押し隠すヒョウムをよそに、キマルは思った疑問をすぐ口に出す。
「それはいーんだけど、フィー父さん。ザレナがやらかした件は相当良くないけど、けど、……何か≪神殿≫の動き、凄くない?」
「それはそうか。うむ」
頷いたのは、育て親。フィー父さん、は愛称呼びで、本名はフィーブルテンという。
彼は大きな手をしている。相応に太い指を組み合わせる形にすると、すこし身をかがめた。
「これはあまり大っぴらにせんで欲しいのだがね。」
「あっ、わたし言いません、ヒョウムも絶対言いません!」
秘密を打ち明けてくれる気配を察して、キマルがすぐ宣言する。ヒョウムも隣で、首を振って『他言しない』意志表示。
それを見届けて、フィーブルテンは小さく微笑んだ。
「マーエは大司教様を筆頭に、≪千匹の仔を孕みし黒山羊≫教会の力ある方々から気に入られていてね。早速明日にも、マーエの獲ってきたテルチワーン肉での昼食会が催されるはずだよ。」
「ほぇえー」
キマルが嘆息する横で、レンジャーも詰めていた息をそっと開放する。
「……ダイア・キンケイを仕留めたとは聞いてました。珍味に事欠きませんね。」
「うむ。テルチワーン肉の裂き煮込みを用いたチャパティ包み、黒ガイナンのソースとナマンナッツのペーストを添えたメインディッシュなど、相当な美味だ。≪森の大鹿≫≪くらきもの≫といった、他宗の司祭、司教をお招きしておる。」
≪森の大鹿≫は言わずと知れた大宗派。
≪くらきもの≫も大きな組織。後ろ暗い連中から「規律と法律を押し付けてまわる」と陰口をたたかれる、それだけ都市警備隊よりもずっと、治安の維持をがんばってる宗派だ。
そういうところの偉いさんが招かれて、マーエが獲ってきましたお肉です、という料理に舌鼓を打ってる。
『美味いものをくれるヤツに悪いヤツぁ居ねえ』
『飯の恩は死んでも忘れるな』
獣人でもそうでなくても、胃袋に恩を売られたら、絶対返すのが筋というもの。獣種によっては、夫婦の誓いが「手ずから獲った食物を、相手に食べさせる、食べてもらう」ことが条件になってるひと達も居る。
そういうもろもろを思い出したキマルは、
「そりゃあ色々、してあげたくもなるってもんだ。」
納得したように頷いた。
その横で、ヒョウムは
(もしかして孤児院出って、皆こういう繋がりとかお持ちなのでは……俺の伴侶までもしかして大司教の懐刀とかじゃないだろうな……?)
とひそかに震えていたのだった。
大司教「さすが『お肉のひと』と呼ばれるだけはありますな。この肉の弾力……」
事務方主任「ぷりっぷりの脂身から、じゅわーって溢れるのがたまりませんね」
教区統括「はむっ!ハフハフ! この、2種類のソースで交互に!一口が終わるのが名残惜しい!」
事務方主任「あ、お代わりもあるそうですよ。ベレバ菜で巻いて、塩と黒ガイナンだけというのもこれはこれで!」
大司教「これはこれで……!くッ、もう満腹なのにまだ食べたくなる……」
全員「やはりマーエは特別ですね。我々のことを覚えてもらう必要はない。だが、これからもひっそり手助けをして参りましょう。それが一飯の恩というものです。」
みたいなやり取りがあったようですが、それは別のお話。




