流石は年上の女性
手持ち、残り銀で5129(+12000)枚と銅5枚。
旅に出る前は、お土産のこととか頭になかった模様。
話はちょっと前、昼食どきの雑談だった。
会計処理を終えたテイ=スロールが、肩を揉みながらため息を吐き出した。
「今気づきましたが、残念です。……レーアにお土産を買い忘れてしまいました。」
どうしたものでしょうか、と肩を揉みながら困ってるウィザードが可哀そうになって、アタシは提案してみた。
「今からでも、何か店で買ってって、はいお土産だよー、って渡すのはどうかなぁ」
「絶対無理です。あの子に嘘は通用しません。」
「おおぅ……」
絶対、のところにアクセント付きの断言が返ってきた。
そしてアタシもふと、ふっと、なんとなく…なんだけど、考えてしまったのだ。
かれこれ10日近く、街を離れていた訳だし、リクミさんに何か旅のお土産というか。その、プ、ププ、プレゼントとかとは違うんだ、お土産。あくまでその『お世話になっておりますこれ詰まらないものですが』をあげたいなって。
ああもう、考えなきゃよかった。
テイ=スロールの脇でいっしょに「あー」とか「うー」とか唸ってたら、ちょんちょん、と袖を引っ張られた。
「マーエ、どうしたのだ。水を飲んで落ち着くと良い。」
「あー……、いやーそのー……お土産をね。」
僧侶なら、聞いてくれるかなぁ。
笑わずに聞いてくれるよねぇ?
そう思って話してみたんだ。思った通り、メバルさんは笑う、っていうか穏やかに微笑んだまま、頷いたりはしたけど、大笑いとかはせずにいてくれた。耳を傾けながら、袋一杯分の水を一人で飲み干した後、
「だったら、旅の思い出をお話してみるの、どうだろう」
とお勧めしてくれた。なるほど、思い出かぁ。
帰途で前衛たちの『軽い鍛錬』につきあって、屋根より高く投げ上げられた話とかは、面白がってくれるかな?
「あっでも、呪われた屋敷で呪術師を退治したとか……危ないこともあったし。」
「それを話するのは良くないのか?」
「だって危なかったーって話したりしたら、やっぱ心配かけちゃうと思うし。黙ってることもできるけど、さ」
「……うーん、嘘は良くないのだ。」
思い出話すにも問題が山盛りで。二人で行き詰ってると、ヨアクルンヴァルが「なんだい、暗い顔してっ」とやってきた。何を行き詰ってるか説明すると、ハッと息を吐いて。
「そりゃあ、ウチらの仕事は安全なことばっかりって訳じゃないさ。そんなこた、誰だって知ってるんだから言やあいいんだよ、言やあ。」
「そっかなぁ」
「そうさっ!」
バン、と肩を叩かれてつんのめるアタシに、ウォーリアはもう一回、力を弱めて肩を叩いて。
「要は話し方だよっ、は・な・し・か・た!」
「はぁ」
「危ない目に遭ったって話でも、『先にアンタが注意してくれんかったから、危ない目にあった』とか言うより、『こういう事があったけど、私は生き残ったし、経験から学んだよ。アンタにも教えておきたいんだ』って言えば、ホラ。いい感じじゃないかい?」
「おおー! なるほど!」
「ヨアクルンヴァルは凄いのだ!」
流石は年上の女性。尊敬の眼差しで見つめてたら、照れられてしまった。
「いやー、ま、マーエにはほら、いい感じになって欲しいていうか。ねぇ」
「べ、べべべつに誰といい感じとかは気にしないで欲しいんですがっ!」
否定したんだけど、なんだか『お見通しだぞ』っていうか、『応援してるよ』って感じに躱されてしまったのだった。
そういう経緯があって。
アタシは今、黄昏ゆく街のなか、『肌肉健肯』と看板書かれた道場に来ている。右手と右足が同時に前に出たとか、気にしない。緊張は、していない。そういう事にしよう!
「や、ども。マーエだけど。」
ネコ系獣人の変装してるので、会員証代わりの割符を見せる。前後左右に分厚い受付のひとが「ちょっと待ってるといい」と言って、暖炉脇のベンチを指さしたので。座りながら待たせてもらう事しばし。
「やあこんちは。計算通りに帰ってきたらしいな」
前後左右に細い、ていうか骨にわずかな肉しかついてない感じのある、シアバスさんが二階から降りてきた。
「ども、お久しぶりです。」
「留守中にアンタの偽物がやってきたぜ」
「えっ」
「それがもう傑作な変装、計算外に面白かったんで、手足結んで大通りにスッ転がしておいた。仲間みたいな連中が青い顔して拾ってたぜ!」
ハハハ、ってあのー。
話を整理すると、アタシ達が旅立った後、2日目に、「マーエだよー」つってやってきたんだそうな。さっきの受付のひとを、二回り小さくしたような男が。かつらってバレバレの金髪で。オイオイ。
マーエから伝言があるかも、という可能性は考えてたのだけど、会員証、って言われて出さなかったので(そりゃそうだ)。道場主のシアバスさんが、あっと言う間に折りたたんだ。
『手足を結んだ』って、どんな関節の極めかたしたのやら。
「計算するまでもなく、ありゃあ≪叫星組≫だな。殴り込み仕掛けるんなら、声掛けてくれよ。旦那と一緒に」
「そんな予定はないですからっ!」
キマルとヒョウム達がどうするかによっては、予定ができるかも知れないけど。そういう話は今はしないでおこう。
それよか確認しておきたいんだ。
「それよか、リクミさんって」
名前を発音した瞬間、アタシはある重大なミスに気付いて、固まってしまったのだった。
手持ち、残り銀で5129(+12000)枚と銅5枚。
夕方の寄り道は『肌肉健肯』道場。この話はもうちょっと続くのです。
お読みいただきありがとうございました。




