商売の技芸を汚す行い
手持ち、残り銀で466枚と銅0枚。
黙って尋問、黙って回答。
ドゥイドゥイ屋が嫌われる理由、それはいわゆるデータマイニングと情報商材ってやつです。
先輩冒険者のウォーリアに斧を突きつけられた。
その先輩は、すごい剣幕で、ダンジョンの便利屋を追い払った。
いけない、アタシは混乱してる。
混乱してる自分を感じながら、もう少し客観的に、
「答え方を間違えたら死ぬ」
あるいは
「死ぬまでいかなくても、このパーティから追放される」
とも感じていて。
このパーティから "も" 追放、され、る?
殺気より冷たい、全身がすぅっと冷たくなる感覚。
一方で、アタッカーが、口の前で手を振って「しゃべらない」というサイン。
ウィザードが長方形の、細い紐がついた板を取り出して、ウォーリアを制止してる。僧侶はアタシの袖を、がっつり両手でつかみなおして。
あっこれ逃げられないよーにってこと?
僧侶が肩にかけてる杖から、防護円とは別の、すごく清らかな感じのする白い光が出てきた。最初はちいさな光だったものが、すぐ、防護円いっぱいに広がる。昼間のような明るさになった。
そうなる間に、ウィザードが、安い繊維紙を板の上に載せて、紙包みから木炭を出す。そして、書きつけた文字を光の中、アタシに向かって見せる。
『声を、出さない。文字、読めます?"はい"ならうなずく、"いいえ"なら首を横に振る』
こくこく。(はいはい!)
『この光は、≪真実の審問≫です。嘘をつくことはできません。分かりましたか?』
こくり。(はい)
『これまでに、ドゥイドゥイ屋から、何か買いましたか?』
こくり。(はい)
『買ったものを、今、持っていますか?』
こくり。(一度、切らしかけてたランタン油を買った。それはまだ使わずに、腰のポーチに入れてある)
ウィザードは考える顔になって、また何か書く。
『ドゥイドゥイ屋から、受け取った物は、何かありますか?』
こくり。(便利ポイントと言って、利用するつど、スタンプをもらえるカードがある。これも腰のポーチに入れてある)
回りくどくて、面倒だけど、はい、か、いいえ、で嘘のつきようがない質問が続くなか、アタシもだんだん事態が分かってきた。
ウォーリアはドゥイドゥイ屋が大嫌いで、できることならぶっ殺したいくらい。
それは、他のメンバーも同じ気持ちらしいけど、ぶっ殺すほどじゃなさそう。どっちかと言うと、会いたくない、みたいな。
今回ドゥイドゥイ屋と遭遇したのは、彼らにしてはあり得ないことっぽい。
じゃあ何で遭遇したんだ?
……となれば、普段はいない、アタシの存在だ。アタシ自身というより、アタシの持ってるモノに理由があると疑われてる。
(ドゥイドゥイ屋は商品に何か仕込んでて、それで冒険者のところにやって来やすくしてるってこと?)
つまり、そういうこと?
まで頭の後ろ側で考えついたとき、書き文字の質問は、依頼文になってた。
『代金は、補償します。買ったもの、受け取った物を、ゆっくり床に置いてください。しゃべらないで』
以前もらったスタンプカードと、使ってない灯油の瓶は、ウィザードが調べて、カードを指さす。でもウォーリアは、どっちも信用ならない、って顔で。
二つとも、汚物を触るような手つきで、油紙に包んでつまみ上げると、ドゥイドゥイ屋が走り去った通路の奥の方へ放り投げた。瓶の割れる音はかなり遠くからした。
ウォーリアが斧を下げると、ウィザードもふーっと息を吐く。
「あ、でも■■■さん、≪審問≫はそのまま」
呼びかけられた僧侶は、
「わかったのだ。それより皆、水を一杯飲むと良いのだ」
と、水袋を持ち上げた。めいめい携帯カップに注いで、一杯ずつ……僧侶は5杯飲んで。
飲み終えたころには、毛を逆立てて威嚇する猫みたいだったウォーリアも
「これでちぃとは安心して話ができるかねっ」
と言って、腰を下ろす。眉間にしわは寄ってるけど。
「ドゥイドゥイ屋、あいつらの商品には、場所を知らせる仕組みがある。アンタは知らなかったかい」
まだ声を出すのが怖かったので、ぶるぶると首を横に振る。
アタッカーが携帯カップをしまって、軽く肩をすくめた。
「■■■■■■■■、あまり脅すのは良くないですよ……。気持ちは分かりますが……」
返事は「ふんっ」と鼻を鳴らす音、と
「わかっちゃいるさ、あいつらだって犠牲者だ。だぁけどね、だからって真っ当に稼いでるアタシらの"話を盗"って、売ってまで儲けようって根性が許せないねっ」
「それは僕たちの推測ですよ」
たしなめるように言ったウィザードが説明してくれたのは、アタシの考えと大体似ていて
……その上に、ひどかった。
どこに冒険者が出かけて行って、どんな話をして、何をいくら買ったか、そういう情報をたくさん集めてるのが、あのドゥイドゥイ屋たちだ。
ドゥイドゥイ屋になるようなひとは、冒険者になるほど技量もないし、かといって町の職人に弟子入りしたり、神殿で地味な仕事(それでも食事と寝場所はあるのにね)もしたくない。そういうひとに、錬金手術を受ければ≪機人≫になれるって、ニセ医者は声をかける……らしい。でも手術は成功率が低い。うまくいって成れても借金漬け、成れなきゃ裏路地で腐るだけ。(というのを、吐き捨てるように教えてくれたのは、ウォーリアだ)
情報の大半はどうでもいい話ばかりのはず。
それでも、集め方や、注目する内容を絞れば、
「どこのパーティが稼げているか」
「どの階に高価な素材の取れるモンスターがいるか」
「消耗の激しいパーティはどのルートを通るか」
といった『儲けるチャンス』も見えてくる。
それなら普通に商人の美徳、と言えなくもない……けど。
ドゥイドゥイ屋、というか、彼らに借金を負わせ、商品を持たせて迷宮に送りこみ、情報を吸い上げてる『商会』は、さらにその情報を売って、儲けてる。商品そのものを売り歩く利益より、こっちのほうが大儲けになるはずだ。
冒険者パーティ同士の"偶発的な事故"や、"死亡報告"のいくつかは、こうして取引された情報のせいだ、とウォーリアは言う。
「詐欺師や、敵対しあうギルドの "両方に" 情報を売るなんざ、≪商売の技芸≫を汚す行いだよっ」
「まぁまぁ、水を飲むとよいのだ」
「ありがとよっ」
またヒートアップしそうなのを、僧侶が水入りカップを差し出して止める。
ぷはー、と息を吐いたウォーリアは、もう一回深呼吸した。
「証拠がないから、商人社会にも訴えられないし、万神殿で神様に訴えることもできない。これまた腹の立つ話だねっ」
そう吐き捨てて、ウォーリアは、震えあがって縮こまるアタシに初めて、優しい顔をした。
「ひとまず探索を続けようじゃないか。この後も、ドゥイドゥイに遭ったら今度はアンタをひん剥いて調べるけどねっ」
「そんなことには、ならないですっ!」
《審問》の光は揺らがなかった。僧侶がにっこり笑って、探索は続く。
耳を鋭くして、ドゥイドゥイ屋にだけは出会わないようにしなくちゃ。
絶対に。
手持ち、残り銀で466枚と銅0枚。
証拠を集めきれたとしても、訴え出た先でちゃんと取り上げて裁判が開かれる可能性は、とっても低い……証拠がどっか行ったり、審理のための日程が調整つかなかったり、そもそも訴えが永遠に受理されず、事務手続きのうちどこかに消える可能性が高いことを、手練れだけに、4人はよく知っています。
探索は続きます。
お読みいただきありがとうございました。




