称号に相応しいお土産
手持ち、残り銀で5096(+12000)枚と銅2枚。
『コリウォンの迷宮』、一層も『迷宮』ですからちょっと紛らわしいですね。
テルチワーンはテル(広げた天幕のような生き物)+チワーン(土壌)で、テルイエはテル+イエ(水)です。一番想像しやすいのは、土のような色をしたエイです。
2023/02/18 脱字を修正しました。
午後の早い時間だったおかげで、≪門≫の料金が上がる前に≪コリウォンの迷宮≫に入れた。
一層『迷宮』は、他所の支脈に似ている。城壁内の≪始まりの四宿≫から入るってところだけ違うけど、暗い洞くつみたいな場所で、何故か倒しても倒してもモンスターが居るし、どう考えてもおかしい感じ(宿のはるか上とか)に、上下の階がつながってる。
そして一番変なのが、
「道が変化してるなぁ。もうぐちゃぐちゃ」
「10日も入らなきゃ仕方ないねっ。」
前回の時のざっくり地図ですら、もう役に立たない、ていうかほぼ使えない。
入る前に確認した生存率どのくらいー、という統計は信用ならん。という訳で、最初からアタシが先頭にたってルート確認後に進む、という慎重ぶりで。「ほぼ使えない」とは評したけど、層をつなぐ≪転移の門≫の恒久化魔法陣はあまり動かない(絶対動かない、とは言えないんだけど)。
そこまでのルート確認、目印探しが今日の目標になった。
前に入ったときは、カビの生えた岩壁に囲まれた通路だったのが、今日見たら、明らかにひとの手で作ったっぽい石組みになってる。その通路が途切れたところからわき道が伸びてて、そっちはカーテンみたいに蔓植物がはびこる湿気の多い緑のなか。足元は起伏だらけの樹木の根と、滑りやすそうな苔。
目印まで迷いたくなかったので、通路のほうを進んでいく。
気配を消して先行していた時、違和感を感じた。光の届かない奥のほうに何か『いる』感じ。 気配との距離、体感で60フィートか。
アタシが気づいたことを相手に悟られないよう、何食わぬ顔で壁や天井まで調べてから、アタシはわざと、
「ちょっと休憩しよっかな」
と呟いて、背中を向ける。途端に、周囲が真っ暗闇に包まれた。っても『何かされる』のは予想してたことだし、別に悲鳴とか上げない。見た景色を逆にたどって、足音を消したまま歩けばいい。目を閉じてたってできるんだから、暗闇だって同じこと(って、師匠は言ってた)。
背中から迫ってくる気配……音というほど大きくない、振動っぽいのが、壁の下のほうと床の下、その両方から追いかけてくるのを感じつつ、仲間の方へ。
暗闇が途切れて、曲がり角のむこうに仲間たちが持つ光が見える。そして、石同士がこすれるような音が背後の約30フィートに迫る頃、声が届く範囲に来た。
「嵐、3つ。暗闇を発生させてきた。見えない、壁の中か床下に居るっぽい!」
『敵』の符牒に即反応した前衛、ヨアクルンヴァルが盾を構える脇を駆け抜ける。
「さがってなよっ!」
「あと呪文じゃなかった」
この報告には、テイ=スロールが一瞬、考える顔をした。
「仮定しまして。周囲の土中を移動している、ならば石材に干渉し、厚みを増します。間に合わなければ石材を壁に変えます。」
ます、と同時に、『ごどごとっ』て石壁の崩れる音がする。
曲がり角ギリギリまで進み出た前衛のかげから覗き込んでみると、暗闇の中で何か大きい、生き物の足だか手だか、何かが床を叩く音。憤慨したような鼻息? みたいなのも混じってる。
「アタシがまだあそこに居ると思ってるみたい。」
「見当たらないから怒ってそうですね」
ボリスが予想した通り、三つの気配がこちらに向かってくる。後ろでテイ=スロールが「壁と床の石材を倍の厚みにしました。暗闇から出たところに、≪酸の矢≫飛ばします」と押し殺した声で報告。
アタシもクロスボウ構えて、待ち構えて。
足音が近づいてきて、ぼっ、と暗闇のなかから出てきた……アレなんだろう。とりあえず撃ったけど。
広げたテントに岩の鎧を載せたようなやつが、石床の上をべちっとたたく。呪文で酸の矢が2体に当たって、嫌な音がしたけど。致命的、という感じはしない。現にその2体がジャンプしてきた。残り1体が通路の幅的に入り込めず、後ろの闇の空間から鼻先? だけ突き出してる。
「あれは、テルチワーンです」
土のなかに居る天幕のような、という意味の名前のモンスター。テルイエだったら海やらにいるし見たことあるけど、土だってええ!?
ジャンプしてきたでっかいテルチワーンを、ウォーリアの盾が弾く。脇でアタッカーがもう1体を切りつけ、片方の剣で尻尾の棘を受け流してた。
邪魔にならないよう、アタシは後ろの頭突き出してる3体目を狙ったんだけど。
前に出た2体があっという間に切り刻まれるのを見てビビったか、クロスボウの矢玉を嫌ったのか、頭がひっこんだ。そして、暗闇の中から大きな手のひらで石を叩くような音。
隣でテイ=スロールが小さく笑った。
「報告します。後ろ側を、石壁でふさぎました。」
この報告に気をよくしたのが、前衛たち。
「おお、助かりますね!」
「いくよボリスっ!」
この程度の暗闇はどってことないらしく。すっごい打撃音と、「ごげぇ」とか「しゃぎゃー」って感じの叫びが響いて、消えて、やがて戦闘は終了した。
テルチワーンって、地面のなかを自在に動き回るモンスターなんだけど、『みつど』が高い? 石とか岩盤は通れないんだって。
倒して改めて見るとホントでっかい。薄焼きチャパティを折りたたんだみたいな形に、細くて棘のある尾が長く伸びてて。鈍く光る皮は分厚くて、土と同じ、細かな粒みたいに明るい色と暗い色が混じってる。背中の中心から、ひらひらの縁に向かって、固い岩みたいな鱗がひろがって、ところどころ切り裂かれてた。
メバルさんとテイ=スロールの指示で、先に倒した2体を解体してるうちに、暗闇も晴れてきた。この暗闇も、魔術師の呪文に似たようなのがあるのと同様、モンスターの能力なんだって。地面の中から暗闇を発生させて、獲物がわたわたしてる所に襲い掛かるそうな。
ま、アタシは察知していて、冷静だったんだけどね!
ひっぺがした皮や、すごく沢山とれた脂身と肉、鱗とかは結構な量になった。テイ=スロールが壁を元通りにした後、テルチワーンの『お宝』も手に入れてくれたし。
「事前注意しておきます。骨とか死骸も出てくると予想されます。」
大丈夫。アタシは平気だし、他のメンバーもご同様。
ウィザードは一息つくと、この前、ダーフーもどきと戦った時の『地面の中から小石や石といった、土じゃないものを取り出す呪文』を使った。
骨とか腐りかけた何かのついた骨とかはね、やっぱり出てきた。僧侶さまと一緒に、短くもきっちりとお祈りしたから良しとしたい。
そして遺品といえど、もう迷宮で入手したモノなんで、ええ。……と言うのは建前。気になるモノも見つけたんで、いくつか別袋に入れておく。
そう、今日の我々は『なんでも入る袋』が3つもあるのだ! 本当にこれって便利。
その後は、見たことのあるモンスターとの遭遇が何度かあった程度で、二層『夜』への≪転移の門≫の位置確認もできたから。いつものように、ウォーリアが半分の力を残して戻る、と宣言して帰ってきたのだった。
ウィザードと僧侶が鑑定してくれたおかげで、本日の実入りは……
黒いガーネット 434
アクアマリン4粒 711
手甲1双(錆が浮いてる) 20
水色の石削ったダイス1個 5
曲刀1本 110
炭が入った小袋 6
カゲイヌの毛皮 18
細い蝋燭8本 5
青紫色の厚布ブーツ一揃い 13
テルチワーンの鱗3匹分 72
テルチワーンの皮3匹分 162
テルチワーンの脂身3匹分 652
テルチワーンの肉3匹分 1432
合計で一人あたり、銀貨728枚。なんだけど、アタシは1体分の肉と脂身をセットで買い取って、手取りは33枚と銅貨で3枚。
「まめだねぇ、マーエは。孤児院かい?」
「まあそんな所。」
えへへって笑いながら、アタシは自分の『なんでも入る袋』に荷物を詰めなおしたのだった。だって久しぶりなんだし。
お肉のひとっていわれるからには、称号に相応しいモノをお土産にしたいじゃん。
手持ち、残り銀で5129(+12000)枚と銅5枚。
ロケット1個とか、錬金術の紋章が入った小箱とか、小さな巻物4本とかも入手してます。その辺の話はまた次回以降に。
お読みいただきありがとうございました。




