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残り銀貨500枚からの再スタート  作者: 切身魚/Kirimisakana
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君の来世に幸いの多からんことを

手持ち、残り銀で4970(+12000)枚と銅5枚。

今回こそ、ゴーストバスターズ回です!

 ウィザードとアタシで、手早く椅子やらテーブルやら飾りのついた棚やらを動かして。

 僧侶も手伝うよって言ってたんだけど、アタシよか非力だと判明したのでさがってもらった。

 何せ、光る盾の前に出た途端、うぞぞぞって首筋の毛が逆立つ感じだもの。耳元に「死ね」とか「呪ってやる」とか、囁きのような、叫ぶような、距離のおかしい声がやってくる。


 作業に集中すれば、な、な、なんてことないんだからねっ!


 それからアタシがドアノブに手をかけて、


「いくよ?」


 手サインでタイミングを計る。頷く前衛2人。ドアを引き開け、勢いとともに壁に張り付くアタシ。

 光る大盾が通り過ぎる一瞬だけ、空気がきれいになる。そう、死臭さえもね。

 代わりに飛び出した来たのが、圧力みたいな呪詛。


『ぎょぉぉうくえなあああっでああやらぅううう』


 ヨアクルンヴァルの前進にしたがって、その声量が尻すぼみになってって、ジャッ、ガッという何かが切られる音、重たいものが壁にぶつかる音。

 壁に張り付いているアタシからは、明るく光る盾と、ヨアクルンヴァルの背中と、その上下左右からフェイント込みでひらひらと動くアタッカーの残像しか見えん……、『何か』が切られて霧散してるのも、小部屋の壁際に見えた。

 灰が飛び散るみたいに、黒いものが散って、さらに一歩、光る盾が奥へ進む。


『のろぉおっってやあるぅ』


 あ、さっきより声が小さく、勢いなくなってきてる。そして一歩、また盾が奥へ。僧侶の事前注意どおり、シールド・バッシュみたいに攻撃することなく、ただ歩くのと同じだけ盾も前に出すような、力強い足取り。

 そして、アタッカーが打ち払うべき攻撃が途絶えた。

 「まだ? まだ?」みたいに、せわしなく杖を握りなおししてた僧侶が、駆けだすので一緒にアタシも。

 鼻と目に死臭が刺さるけど、構ってられない。盾を支えてるヨアクルンヴァルが、足音に気づいてこちらに一つ頷く。アタッカーが場所を譲り、入れ替わるようにメバルさんが前へ。


「呪うより前に、あなたは、もっと要るものがある。」


 光る盾の影で、黒雲みたいに動いてた何かが


「ここに閉じ込められて、お腹が空いたでしょ。辛かった、でしょう?」


 止まった。


『……ウ、……うぅ。辛い……辛いィ……』

「話、してみると良いのだ。」


 ボロボロに崩れた肉の上に、ぼんやりとした霧みたいになにかが形になって、顔が浮かび上がって。呪詛そのものって感じに呻いてたのが、囁くような声量だけど、ちゃんと聞き取れる言葉になった。(ウォーリアが、悲鳴を我慢したような音で唾を飲み込んでた。)


『わたしぁ……、呪詛師になる前は、魔術師になるために奉公にでておりました。』


 けれど師匠が賭博で借金を負い、自分はそのカタに、呪術師の弟子になりました。

 ひとを呪うことは、危険を伴う魔術です。必死で学びました。使い捨ての弟子として、呪詛返りの代理となって死ぬわけにはいかなかった。

 どのようにして呪詛返りを避け、逸らせばいいか学び、一人立ちした後も、借金の取り立てをしていた≪叫星組≫からは離れることができず……。


「借金が膨れていたってことかな?」


 つい口を挟んでしまったら、亡霊はこくりと頷いた。アタシは言いながら、予測が当たってるだろうな、と確信しながら問うてみる。


「それって、自分のほうに証文の控えはあった?」


 亡霊は首を振る。やっぱり。

 難しい顔になってしまうアタシに、ちょいちょい、とテイ=スロールが袖を引っ張った。


「確認です。それは詐欺である可能性が高くないですか……?」

「そうだよ。てか、それ以外ないよ。一人前になったのに返しきれてないなんて変だよ。」


 ひそひそ声のやりとりをよそに、盾の向こうの独白は続く。


『この屋敷の買主に、呪殺を仕掛ける仕事を請け負いました。』


 不動産屋の案内人の装いで屋敷に慣れるまで住み込み、気づかれないように髪を集めて、病死を装って呪殺すれば一回で銀貨五千が手に入るはずだったと。

 先の買主は見事病死させることができた。ところが、今回の二人は違った。そらもう冒険者だから……じゃなく。

 この呪詛師が、ちょっと荷物を置きにこの隠し小部屋に入ってる間、二人は勝手に模様替えをはじめてしまったのだ。その模様替えが、山のようなあの家具だった訳で。

 呼べど叫べど、という喩えの通り、どんだけ声を出しても二人とも気づきゃしなく。

 呪詛師はまだ、髪も何にも手に入れてない状態ではあったけど、屋敷のなかの気配とか声とかで何とか呪ってやる、気づかせよう、としたんだ。

 まー徒労だったうえに、飲み水も食い物もない状態。衰弱し死に瀕しながらも、思うことは『あの新婚二人とも呪い殺してやる』だった……と。


「もうこの時点でプロじゃないなぁ。依頼は病死だってのに。」

「シッ、余計なことは言いっこなしですよ。」


 ボリスが鋭く囁く。幸い、アタシの感想は亡霊を逆上させることなく、哀しそうに首をうなだれさせた。


『この仕事が終われば、報酬で≪天下万術≫に弟子入りできたのに……無念……』


 背後でウィザードが息をのむ。

 そんなアタシたちの反応を他所に、僧侶は静かに、優しく語り掛けてる。苦しみの多いこの世での執着を捨てて、魂が軽くなれば天国に行ける、ビールの吹き出す火山とより取り見取りのお相手がいるよ、って。

 何その天国!?

 て思ったのはアタシだけじゃないみたいで、亡霊も目を見開いてたけど。僧侶は真面目そのものの顔をしてて。

 実際に神様に呼ばれて、その教えを広める宗教者の顔だ。普通の信徒だって、神様は実在するし、そのお力はすごいって分かってるけど、確信してる度合いが違う。

 「水をこぼしたら下に流れるのは当然でしょ」と分かり切ってる、そのくらいの、確信。

 そんな絶対の確信を前に、躊躇うように亡霊が眉をゆがめて、泣きそうな、笑いかけてるような感じに口を開き、


『ああ、そうできればいいな』


 と。

 捨て鉢や、恨みじゃない。憧れっていうか、本当にそうなりたい、って気持ちが伝わってくる。その言葉にうなずいた僧侶が、何かを唱えて、杖からも光がでてることに気づいたとき、盾のかげになっていた死体が、ざらっと崩れて。白っぽい灰の山になっていた。



「まさかひとの死体があったとか、信じらんない!」

「古い屋敷だから、どこかに野生動物が入り込んだと思ってた。」


 新婚さんの反応ってばこれだよ。

 もちろん、アタシはきっちり状況を説明したし、掃除も手伝わせた。ヒョウムの採ってきたキノコは鍋にして、一緒に夕食を囲みながら。

 残されてた(すごい臭い)衣類とかを見せると、二人とも『不動産屋のひと』のものだ、と口をそろえた。


「内見している間に帰っちゃったと思ってた。」


 っておーまーえーらー。

 いや、……いい。周りはどうでもいい、って感じにラブい二人なのは、分かってたことだし。

 アタシの代わりに、天を仰ぐボリスと、口が半開きになってるヨアクルンヴァルが見られたから良しとしよう。

 灰の周りに残った品物、臭いし状態もひどいけど、アタシは洗って持って帰ることにしようと思う。あれだけ呪ってやるって言われたけど、死んでしまったヤツにだって、係累とか居たかも知れないし、≪万神殿≫でお焚き上げをするとき、一緒にこれを焼いてもらうことだってできるかも知れない。(提案したら、僧侶はすごく嬉しそうににっこりした。)

 その話をすると、キマルは


「しょうがないなぁ、マーエってば。変なところが世話焼きだよね。」


 って、でも顔は全然嫌そうじゃない笑顔で、アタシの腕を軽くたたいた。

 ああもう。呪われてても気づかないくらいのおバカで、休みの日は寝ていたいってタイプで、体力おばけの直情径行だけど。キマルは良いヤツなのだ。

 そういうキマルが、休日は一緒に昼寝したいって選んだのが、ヒョウムで。こいつだって仕事してないときの鈍感おバカっぷりは相当で、キマルが決死の覚悟で告白するまで、「いやいやキマルが? そんなことあり得ないよ」と思い込んでたクチだけど。

 森の開発や畑に何植えるか計画とか、ボリスさんとヒョウムが熱心に話し込んでる脇で、アタシは静かに、二人の新婚生活が今後は平和であるように、と祈っていたのだった。

手持ち、残り銀で4890(+12000)枚と銅0枚。

この世界には神様は実在します。そして、異界から紛れ込んだ赤い表紙の本が、真面目に福音書として信仰の助けとなっています。ビール火山とストリッパーが居る天国とかが、文化に合わせてちょっと翻訳されてます。

次回は、何か引っかかる部分を紐解きしつつ、再び街へゆこうかと存じます。


お読みいただきありがとうございました。

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