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残り銀貨500枚からの再スタート  作者: 切身魚/Kirimisakana
124/177

階段下の小部屋

手持ち、残り銀で4970(+12000)枚と銅5枚。

血が出るなら、殺せる。有名な言葉ですね。


01/16/2022 脱字を修正しました。

 僧侶は説明してくれた。


「……呪詛術、これは言葉の通り、対象に呪詛をかける魔術なのだ。けど、どのようにやるか、どの程度の被害をもたらそうとするのか。被害の中身を細かく制御できるのか。

 細かい制御とかは、呪詛師の腕前によると言える、のだ。」



 アタシは屋敷の柵にくっついてた血や、耳元で囁いて飛び去って行くような『呪ってやる』の声の話をしたうえで、確認してみた。


「制御できてると思う?」


 僧侶が首を振り、


「あまり思えない。」


 他のメンバーも同じような反応。そう、あの屋敷では無軌道に、そこらじゅうの生きてるひとを呪ってるようなんだ。

 ただ制御できてようがいまいが、もっと調べる必要はあるんだよね。



「……たとえば、呪詛かけた対象のひとに、怪我をさせる依頼に、相手を殺してしまったり、病気にしてしまったら、呪詛師としては腕前が良くないでしょう。

 それで、屋敷調べてほしい。見つけてほしいのが、呪詛師が使う道具。

 呪詛をかけるとき、相手の手がかり要る。高い技術もってると、相手の踏んだ地面でもよいというが、そこまでの技術は無いと思う。腕前次第、その通り。

 例えばマーエが描いたような似顔絵でも、できるひとはできる。あとは、相手そっくりにつくった人形。相手の爪や、髪といった身体の一部。血とかもあるそうだ。」



 その時、考え顔のウィザードが口を挟んできた。


「逆転させた手法もあります。呪詛師が自分の身体の一部を、呪詛対象に付けることも行われると聞きます。」

「なるほど、こっそり服に毛つけたりとか、切った爪をひっかけたりとか?」

「そうです。それらに加えて、自分の排泄物を踏ませたりなどもあるそうです。」

「げ」


 汚いなぁー。

 そうは言っても、自分から血をぶっかけるのに比べれば、やりやすい……かな。近くで手首を切ってバシャア! とかしたって、避けられたら意味ないだろうし。(しかもヒョウムなら余裕で避けそうだし)


 

「……『手がかり』を見つけきれたら、何をしようとしているのか分かるから、防ぎかたとか、呪詛のほどきかたとかができる。

 力ずくで、もできるけど。できるけどしたくない、しないほうが良いように思う。神様からあずかった力で、無理やりに成敗するのは善いとは違うと感じる。

 だから、マーエにお願いする。詳しいことを調べてきてほしい。」



 再度、薄暗い屋敷にお邪魔したら、外套着込んで野山歩く風体になった新婚二人にばったり会った。

 これから裏の森にゆくのだそうで。アタシが屋敷を調べたい旨伝えると、


「そこまで言うなら調べて良いけど、私とヒョウムは出かけるよ?」

「森の中にいい感じのキノコ輪があるんだ。夕飯にしたいし、狩れる幻獣が居るかもしれないからね。」

「今日は何が狩れるかな♪」

「楽しみにしてくれていいよ。」

「ハイハイ、行ってらっしゃい。」


 アタシは気配を消して、二人が出てゆくのとすれ違うようにドアから内部へと滑り込んだ。

 最初の訪問と違い、『何かの悪意』が向かって……うん、来ないね。足音を立てないよう、そして怖いと思ったりしないように。静かな呼吸を心がけて。

 屋敷は二階が寝室2間、客用に2間。西側に、使用人が使うような階段があり、家族用と客用の部屋の間にももう一つ、こちらは手すりのちゃんとした階段。客用2間と、寝室の1間には鍵がかかってたけど、二人で使ってる1間は鍵がかかってない。

 入ってみると、ひやり、とした空気。壁についた黒いしみ(なんで血痕にそっくりなんだよ)とか、気になる。 

 私物とかいろいろな品物がある。でも、小ビンに持っていた『聖水』をかけた手袋は反応しない。触ろうとしたら抵抗を覚えるモノがあれば、間違いなく呪物なのに。

 他の鍵のかかってない部屋を見て回るなら、一階の西からかな。

 不気味にぬるい風がどこからか吹いてくる廊下を歩くうち、別の異臭が鼻についた。酢より刺さる感じで、排泄物と生肉の腐ったのが混じったような──


 これって死臭。


 心を落ち着けようと深呼吸したいけど、この悪臭を深く吸い込むのはヤダ。できるだけ鼻を動かさないで、口の端で静かに呼吸して数回。落ち着いた、と思う。

 これって、西側にある使用人階段の下の方からする。

 階段を降りてくと、目もチクチクしてきたぞ。って、アタシが降りた途端。

 この寒さなのにうろついてる死体喰い虫がざーーーっと影のほうへ走って逃げる。おいおい……。

 階段下のスペース、ちょうど食糧庫と調理場のあいだに面したところには、椅子やテーブル、古びた棚とかがまとめて壁際に押し付けられている。

 さては模様替えとか言って、使わない家具を押し込んだな。

 けどここが一番、腐れゴミの匂いが強い……あれっ。


 壁紙のなかに線が見える。


 って、これってドアじゃない? うん、建物の構造から言っても、階段下の収納スペースか何かだ。置いてあるものを、潜り抜けられるだけ退かして、ドア前に潜り込む。

 鍵はない。持ち手を引っ張ってそっと、手鏡だけ入る隙間を開けてみる。わっ、って感じで死体喰い虫やら小さい羽虫が動く気配。(予想してたから顔背けてて正解だった)

 光源が無い、暗い小部屋(窓もないんだよ)だから、精いっぱい目を凝らしてみて分かったことを記憶に刻んで。

 虫たちにさえ悟られないよう、静かに、気配を消したアタシは、そっと廊下まで後退して、仲間たちのところへと歩いて戻る。

 戻る道すがら、ってそんなに距離は無いんだけど。

 どう伝えたもんかなぁと、悩ましい。

 またウォーリアが高速振動するんじゃないかと思うと、憂鬱で。


「どうみても呪詛師って感じの格好した死体が、腐敗してました。立ち上る真っ黒い呪詛が目に見えて暴走してます。これをどうにかしたいのお願い!」


 って、また無理を強いるのは、やっぱり仲間に悪いっていうか。お金とかでお礼して埋め合わせできるっても、そうじゃなくて。いやがるのを強いるってのが、スッキリしない。

 でも報告はちゃんとしなきゃ。


「階段下の収納部屋みたいなところで、呪詛師って感じの格好した死体が、腐敗してました。立ち上る真っ黒い呪詛が目に見えて暴走してます。これをどうにかしたいのお願い!」


 ああ、ウィザードの顔が無表情を取り繕おうとして強張ってる。正直、ヨアクルンヴァルを見るのが怖い……


「なんだ、じゃあぶん殴れるね!」

「へ?」


 ヨアクルンヴァルの顔、心なしかツヤツヤしてるんだけど?


「だから死体があったんだろ? 殴れるものは、倒せる。有名な言葉だよっ」

「あっうん、そういう理屈……?」


 脇で、アタッカーが小さく笑いながら「それ、血がでるものは殺せる、だったですよ?」ってツッコミ入れてるけど。ヨアクルンヴァルは聞いてなかった。

 怯えてるのを無理して、空元気だすより、こうして自発的に元気に立ち上がってくれるんだから、結果としては良かったってこと、なの……かな?

手持ち、残り銀で4890(+12000)枚と銅0枚。

ハリー・ポッターじゃなく、潜り込んでいた誰かがどうにかなってしまったようです。


お読みいただきありがとうございました。

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