階段下の小部屋
手持ち、残り銀で4970(+12000)枚と銅5枚。
血が出るなら、殺せる。有名な言葉ですね。
01/16/2022 脱字を修正しました。
僧侶は説明してくれた。
「……呪詛術、これは言葉の通り、対象に呪詛をかける魔術なのだ。けど、どのようにやるか、どの程度の被害をもたらそうとするのか。被害の中身を細かく制御できるのか。
細かい制御とかは、呪詛師の腕前によると言える、のだ。」
アタシは屋敷の柵にくっついてた血や、耳元で囁いて飛び去って行くような『呪ってやる』の声の話をしたうえで、確認してみた。
「制御できてると思う?」
僧侶が首を振り、
「あまり思えない。」
他のメンバーも同じような反応。そう、あの屋敷では無軌道に、そこらじゅうの生きてるひとを呪ってるようなんだ。
ただ制御できてようがいまいが、もっと調べる必要はあるんだよね。
「……たとえば、呪詛かけた対象のひとに、怪我をさせる依頼に、相手を殺してしまったり、病気にしてしまったら、呪詛師としては腕前が良くないでしょう。
それで、屋敷調べてほしい。見つけてほしいのが、呪詛師が使う道具。
呪詛をかけるとき、相手の手がかり要る。高い技術もってると、相手の踏んだ地面でもよいというが、そこまでの技術は無いと思う。腕前次第、その通り。
例えばマーエが描いたような似顔絵でも、できるひとはできる。あとは、相手そっくりにつくった人形。相手の爪や、髪といった身体の一部。血とかもあるそうだ。」
その時、考え顔のウィザードが口を挟んできた。
「逆転させた手法もあります。呪詛師が自分の身体の一部を、呪詛対象に付けることも行われると聞きます。」
「なるほど、こっそり服に毛つけたりとか、切った爪をひっかけたりとか?」
「そうです。それらに加えて、自分の排泄物を踏ませたりなどもあるそうです。」
「げ」
汚いなぁー。
そうは言っても、自分から血をぶっかけるのに比べれば、やりやすい……かな。近くで手首を切ってバシャア! とかしたって、避けられたら意味ないだろうし。(しかもヒョウムなら余裕で避けそうだし)
「……『手がかり』を見つけきれたら、何をしようとしているのか分かるから、防ぎかたとか、呪詛のほどきかたとかができる。
力ずくで、もできるけど。できるけどしたくない、しないほうが良いように思う。神様からあずかった力で、無理やりに成敗するのは善いとは違うと感じる。
だから、マーエにお願いする。詳しいことを調べてきてほしい。」
再度、薄暗い屋敷にお邪魔したら、外套着込んで野山歩く風体になった新婚二人にばったり会った。
これから裏の森にゆくのだそうで。アタシが屋敷を調べたい旨伝えると、
「そこまで言うなら調べて良いけど、私とヒョウムは出かけるよ?」
「森の中にいい感じのキノコ輪があるんだ。夕飯にしたいし、狩れる幻獣が居るかもしれないからね。」
「今日は何が狩れるかな♪」
「楽しみにしてくれていいよ。」
「ハイハイ、行ってらっしゃい。」
アタシは気配を消して、二人が出てゆくのとすれ違うようにドアから内部へと滑り込んだ。
最初の訪問と違い、『何かの悪意』が向かって……うん、来ないね。足音を立てないよう、そして怖いと思ったりしないように。静かな呼吸を心がけて。
屋敷は二階が寝室2間、客用に2間。西側に、使用人が使うような階段があり、家族用と客用の部屋の間にももう一つ、こちらは手すりのちゃんとした階段。客用2間と、寝室の1間には鍵がかかってたけど、二人で使ってる1間は鍵がかかってない。
入ってみると、ひやり、とした空気。壁についた黒いしみ(なんで血痕にそっくりなんだよ)とか、気になる。
私物とかいろいろな品物がある。でも、小ビンに持っていた『聖水』をかけた手袋は反応しない。触ろうとしたら抵抗を覚えるモノがあれば、間違いなく呪物なのに。
他の鍵のかかってない部屋を見て回るなら、一階の西からかな。
不気味にぬるい風がどこからか吹いてくる廊下を歩くうち、別の異臭が鼻についた。酢より刺さる感じで、排泄物と生肉の腐ったのが混じったような──
これって死臭。
心を落ち着けようと深呼吸したいけど、この悪臭を深く吸い込むのはヤダ。できるだけ鼻を動かさないで、口の端で静かに呼吸して数回。落ち着いた、と思う。
これって、西側にある使用人階段の下の方からする。
階段を降りてくと、目もチクチクしてきたぞ。って、アタシが降りた途端。
この寒さなのにうろついてる死体喰い虫がざーーーっと影のほうへ走って逃げる。おいおい……。
階段下のスペース、ちょうど食糧庫と調理場のあいだに面したところには、椅子やテーブル、古びた棚とかがまとめて壁際に押し付けられている。
さては模様替えとか言って、使わない家具を押し込んだな。
けどここが一番、腐れゴミの匂いが強い……あれっ。
壁紙のなかに線が見える。
って、これってドアじゃない? うん、建物の構造から言っても、階段下の収納スペースか何かだ。置いてあるものを、潜り抜けられるだけ退かして、ドア前に潜り込む。
鍵はない。持ち手を引っ張ってそっと、手鏡だけ入る隙間を開けてみる。わっ、って感じで死体喰い虫やら小さい羽虫が動く気配。(予想してたから顔背けてて正解だった)
光源が無い、暗い小部屋(窓もないんだよ)だから、精いっぱい目を凝らしてみて分かったことを記憶に刻んで。
虫たちにさえ悟られないよう、静かに、気配を消したアタシは、そっと廊下まで後退して、仲間たちのところへと歩いて戻る。
戻る道すがら、ってそんなに距離は無いんだけど。
どう伝えたもんかなぁと、悩ましい。
またウォーリアが高速振動するんじゃないかと思うと、憂鬱で。
「どうみても呪詛師って感じの格好した死体が、腐敗してました。立ち上る真っ黒い呪詛が目に見えて暴走してます。これをどうにかしたいのお願い!」
って、また無理を強いるのは、やっぱり仲間に悪いっていうか。お金とかでお礼して埋め合わせできるっても、そうじゃなくて。いやがるのを強いるってのが、スッキリしない。
でも報告はちゃんとしなきゃ。
「階段下の収納部屋みたいなところで、呪詛師って感じの格好した死体が、腐敗してました。立ち上る真っ黒い呪詛が目に見えて暴走してます。これをどうにかしたいのお願い!」
ああ、ウィザードの顔が無表情を取り繕おうとして強張ってる。正直、ヨアクルンヴァルを見るのが怖い……
「なんだ、じゃあぶん殴れるね!」
「へ?」
ヨアクルンヴァルの顔、心なしかツヤツヤしてるんだけど?
「だから死体があったんだろ? 殴れるものは、倒せる。有名な言葉だよっ」
「あっうん、そういう理屈……?」
脇で、アタッカーが小さく笑いながら「それ、血がでるものは殺せる、だったですよ?」ってツッコミ入れてるけど。ヨアクルンヴァルは聞いてなかった。
怯えてるのを無理して、空元気だすより、こうして自発的に元気に立ち上がってくれるんだから、結果としては良かったってこと、なの……かな?
手持ち、残り銀で4890(+12000)枚と銅0枚。
ハリー・ポッターじゃなく、潜り込んでいた誰かがどうにかなってしまったようです。
お読みいただきありがとうございました。




