心配の裏返し
手持ち、残り銀で4970(+12000)枚と銅5枚。
地元で不審者とかでましてね。ええ、危機意識の薄いひと達には本当に腹が立つってもんです。
寒気より怒気。
カッカしながら足音も荒く戻ってくと、敷地の柵が見える木立の影で、ビヌトゥア達が丸くなるように草地に座らされてて。仲間は、その内側で休憩していた。
もう震えてないけど、ヨアクルンヴァルはアタシの様子に心配そうな表情になったし、僧侶に至っては、
「まあまあ落ち着いて、白湯を飲むと良いのだ。飲むのだ。」
て携帯カップをぐいぐい押し付けてくる。
頭っていうか額に熱が集まってる感じはしたけど、胴体のほうが芯から冷えてたので、それは有難く頂戴して。
「落ち着く、えっと…深く息を吸って、深く吐く。もう一杯くらい飲むのも良い。」
「うん。」
肋骨が膨らみ切るまで吸って、胃がきゅって感じするまで吐いて。湯気のたつお代わりは手に持ったままだけど。うん。ちょっと落ち着いた。
「あー、落ち着いた。落ち着きましたっ。……怒ってるのは変わんないけど!」
「怒るとはまた、何でですか。」
チャパティかじるアタッカーが苦笑いまじりに聞いてくれて、アタシは堰を切ったように話した。
あの屋敷には明らかに呪いがかかってるし、アタシにさえ感じ取れるような呪詛だったってことと。
キマルもヒョウムも、腹が立つくらい元気で、すっ飛んできた燭台を空中キャッチするくらい元気だってこと。
≪転移の座標石≫が偽造品だって話はしたけど、あの二人の様子は立ち込める呪詛を、呪詛って認識すらしてない。キマルは元から体が頑丈だし、ヒョウムはすごい反射神経だから、呪詛のせいでモノが飛んできたなんてのも、全然危険だと思ってない。
道を教えてくれた小作人の心配ぶりが、記憶に蘇る。
アタシだって心配だったのに。
もしかして、二人とも怪我とかして動けなかったらどうしよう、とか。片方だけでも酷い状態だったら大変だ、とか。
もしかして、もしかして、で悪い想像ばっかしてしまいがちなのを、何とか打ち消してここまで来たのに。
「……思い出したらまた腹が立ってきた……」
「まーまー。無事だったことは良いことです。」
「それは、まあ、そうだよね」
病気とか飢えてるとか怪我はなかったんだし。ただ。
「ただ呪詛られてることを、きちんと理解していないのは困る。僕たちだって呪詛まみれな家に訪問したくないです。明白に対象ととられてなくとも、呪詛に巻き込まれるのは非常に迷惑ですから。」
奥歯で苦いもの噛んだような顔になるアタッカー。
「何かそういう経験でもあるの。」
「ええ。よく似た他人への呪詛に僕が巻き込まれました。呪詛が不完全な形になって、僕はくしゃみが止まらない。くしゃみするたび、周りの誰かが手に持っていたモノを落とすという……しかもそれが、≪迷宮≫のなかで始まったんですよ。」
「ひぇええ」
絶対やらかしたくないヤツだ。罠調査してる時とか特に。
「でもボリスはさあ、そこで呪詛だって気づいたじゃん。キマル達ったら、全然わかってないんだよ。」
「マーエは、心配してたぶん、腹がたつのだな?」
「えっと……うん、そうだね。」
また額に熱が集まりだしたとき、僧侶の言葉でスッとそれが消えた。
アタシが心配して、予想が(少なくとも、≪転移の座標石≫については良い意味で)違ってて腹を立てるのは、身勝手ってもんだよね。
「それでも、呪詛は何とかしたい……な」
「何とかするには、まず、マーエは呪詛の仕組み、知らないといけない。これはメバルが人づてに聞いて知っている、呪詛師のやり方なのだが……」
僧侶の説明してくれた『呪詛師のやり方』を、アタシは頭に叩き込んで、再度。
今度は呪詛の発生源をハッキリさせるため、昼間なのに闇をまとった感じの屋敷へと向かったのだった。
手持ち、残り銀で4890(+12000)枚と銅0枚。
さて次回はゴーストバスター成るか。
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