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残り銀貨500枚からの再スタート  作者: 切身魚/Kirimisakana
122/177

アバウト鈍感ラブカップル

手持ち、残り銀で4970(+12000)枚と銅5枚。

以前の仲間、キマル(ウォーリア)とヒョウム(レンジャー)の登場です。

「気のせいだよー」

「私たち平気だもん」

「「ネー」」


マーエ「このアバウトどもめッ……こいつらの世界では92~93度くらいでお湯が沸くんだわっっ」


みたいな話です。

「悪霊が憑いてそう」


 と、誰かが呟いた。

 それを聞いたヨアクルンヴァルが高速振動しだした上に、ビヌトゥア達がとうとう立ちすくんでしまって。餌で釣っても釣られない、なだめても撫でても動かないぞ、って状態になってしまって。

 アタシは一人、歩いて屋敷に行くことにした。

 どのみちキマル達に面識あるのって、アタシだけだしね。


 そう納得はしてても、例の敷地に向かっていくのは勇気がいった。

 風に生臭いような、ウンコみたいな、酢みたいな、嫌な匂いの混じった空気が吹きつけてくるし。板と丸太組みの柵には、血か、と思うような赤黒い液体が柱の先端からねっとり伝い落ちてる。

 で、柵についてる扉を開けたら、


「ギャアアアアアァ」


 って、悲鳴そっくりな音を立てて開くし。入った先の庭は、雪が降っててもここまで寒くないだろ、ってくらい寒い。おかしいよねコレ、空気が寒いんじゃないわ。首筋の毛が逆立ってる気がする。

 家はこじんまりして見えるけど、二階建ての石造り。明るいお日様の下で見てるのに、なんで、影が濃く見えるんだろう。というか家全体がうっすら影の中にあるような、印象。

 漆喰塗りの壁が薄灰色で。陰鬱、という言葉が頭に浮かんでしまって。

 振り払うように、アタシは明るめの大きな声を張り上げる。

 

「こんっにちはー! キマルー! ヒョウムー! マーエが来たよ!!」


 しばらくして、奥からひとの気配がする。

 出てきた二人、キマルもヒョウムも、別れた時と同じでほっとした。

 キマルは金茶色の髪のしたから、意志の強そうな眉と、明るい青緑の目が覗いてて、アタシを見たとたん、さらに明るい笑顔になって。

 ヒョウムは淡い金髪の巻き毛で、頬骨高くて、顎髭を短く整えた……あ、左顎に切り傷こさえてる。でもって、キマルがアタシに飛びつくように抱き着いてる後ろで、はにかんだように微笑んで軽く頭を下げる。

 二人とも元気そうでよかった。

 良かった──んだけど、ねえ、玄関ホールのそこかしこに、死霊でもおるんかい。壁には赤黒い何か、そう、手のひらを血に浸してつけたような痕がべったべったついてるし。

 客間へと案内されていく、その一歩一歩ごとに足元の床板から

 「ギャー」

 「呪ってやる」

 「死ね」

 って、耳元で、それか背後からか、囁くような、男女が入り混じったような、恨みのこもった声がする。囁くようなのにはっきり聞こえる。


(この家は呪われてるっ)


 確信したのは、客間に入ったとたん、ドア枠の横から、ランプ台が吹っ飛んできたときだった。金属製の、壁に打ち込む釘が2インチはくっついてるランプ台。その釘が、ヒョウムの頭に向かう形で吹っ飛んできて、


「おっと危ないなー」


 とか言って、ヒョウムは空中で掴んだけど。

 仮に、仮にだけど、脇の壁から自然落下したとしてもよ。ヒョウムの頭にまっすぐ釘が向くように落ちてくる、訳がないだろっ。

 アタシが頑張って震えないようにしながら、指摘すると。キマルは「そうなのよー」と照れたように笑って。


「この家は古いからー。結構あちこち、モノが落ちてくるの。」

「そーそー、棚からナイフとか、金づちとかよく落ちてくる。」

「ネー」


 おい……新婚さんよ。どうやったらそこで、


「やっと手に入れた愛の巣だし、これから手直し修繕、頑張っていこうね。」


 って、ラブい展開にできるんかーい。

 この呪詛に満ちた空気読もうよ?

 アタシですら、周囲に影が濃くなったのを感じたのだよ?

 

 しかし。

 新婚さんは、霊的なものに鈍いっていうか、お互いの目を見つめ合って、屋敷の模様替えのこととか春からの畑のことやら、裏手の森での採集活動とかを話しているだけで、『そのほか』はまったく感じてないらしく。

 ……らしく、じゃないや。

 訂正。

 全然、感じてない。

 

「ねえ、このテーブルの継ぎ目から血みたいなのが滴ってるんだけど。」 

「あーそれ、古い木製だから。暖炉に火を入れて温まると、樹脂がにじんでくるんだよねー」


 いやいやどう見たってこれ、血ですよ。


「ひとの声みたいなのが聞こえない?」

「アハハ、風だよ風。隙間風が多くてね。」

「マーエは職業柄、耳が鋭いから。ひとの声みたい、とか思うから余計そう聞こえるだけだよー」


 いやいや「呪ってやる」ってハッキリ。


 どう見ても聞いても、この家に何か『憑いてる』としか思えないし、それはキマルとヒョウムを呪ってるんだけど。

 それを頑張って指摘しても、


「気のせいだよー」

「私たち平気だもん」

「「ネー」」


 っておーまーえーらー。

 寒気を押しのけて怒りがこみあげてきたけど、アタシは自分が何をしに来たのか、忘れちゃいなかった。てか、怒ったおかげで怖さを抑えることができて、冷静になれた。


「それはともかく。二人に大事なことを伝えたくて、アタシはそのために来たんだ。」


 そうして、アタシは『転移の座標石』の正確な作動音のこと、叫星組の仕掛けた詐欺のことを語った(アタシの足ちょん切り事件は端折って)。

 シジラさんからの援助と、今の仲間のことも語って、語り終えるころにはもう正午に近い光の加減になってたので。

 ビヌトゥア達がどーしても敷地に近づきたくなさそうだったから、納屋じゃなく、柵の外の休耕地にキャンプさせてやる許可をもらい。仲間をこの家に連れてくるかどうか……については、相談させて、ってことにして。

 アタシは一回、屋敷を出た。

手持ち、残り銀で4890(+12000)枚と銅0枚。

どう見ても何か憑いてますし呪われてます。


お読みいただきありがとうございました。

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