アバウト鈍感ラブカップル
手持ち、残り銀で4970(+12000)枚と銅5枚。
以前の仲間、キマル(ウォーリア)とヒョウム(レンジャー)の登場です。
「気のせいだよー」
「私たち平気だもん」
「「ネー」」
マーエ「このアバウトどもめッ……こいつらの世界では92~93度くらいでお湯が沸くんだわっっ」
みたいな話です。
「悪霊が憑いてそう」
と、誰かが呟いた。
それを聞いたヨアクルンヴァルが高速振動しだした上に、ビヌトゥア達がとうとう立ちすくんでしまって。餌で釣っても釣られない、なだめても撫でても動かないぞ、って状態になってしまって。
アタシは一人、歩いて屋敷に行くことにした。
どのみちキマル達に面識あるのって、アタシだけだしね。
そう納得はしてても、例の敷地に向かっていくのは勇気がいった。
風に生臭いような、ウンコみたいな、酢みたいな、嫌な匂いの混じった空気が吹きつけてくるし。板と丸太組みの柵には、血か、と思うような赤黒い液体が柱の先端からねっとり伝い落ちてる。
で、柵についてる扉を開けたら、
「ギャアアアアアァ」
って、悲鳴そっくりな音を立てて開くし。入った先の庭は、雪が降っててもここまで寒くないだろ、ってくらい寒い。おかしいよねコレ、空気が寒いんじゃないわ。首筋の毛が逆立ってる気がする。
家はこじんまりして見えるけど、二階建ての石造り。明るいお日様の下で見てるのに、なんで、影が濃く見えるんだろう。というか家全体がうっすら影の中にあるような、印象。
漆喰塗りの壁が薄灰色で。陰鬱、という言葉が頭に浮かんでしまって。
振り払うように、アタシは明るめの大きな声を張り上げる。
「こんっにちはー! キマルー! ヒョウムー! マーエが来たよ!!」
しばらくして、奥からひとの気配がする。
出てきた二人、キマルもヒョウムも、別れた時と同じでほっとした。
キマルは金茶色の髪のしたから、意志の強そうな眉と、明るい青緑の目が覗いてて、アタシを見たとたん、さらに明るい笑顔になって。
ヒョウムは淡い金髪の巻き毛で、頬骨高くて、顎髭を短く整えた……あ、左顎に切り傷こさえてる。でもって、キマルがアタシに飛びつくように抱き着いてる後ろで、はにかんだように微笑んで軽く頭を下げる。
二人とも元気そうでよかった。
良かった──んだけど、ねえ、玄関ホールのそこかしこに、死霊でもおるんかい。壁には赤黒い何か、そう、手のひらを血に浸してつけたような痕がべったべったついてるし。
客間へと案内されていく、その一歩一歩ごとに足元の床板から
「ギャー」
「呪ってやる」
「死ね」
って、耳元で、それか背後からか、囁くような、男女が入り混じったような、恨みのこもった声がする。囁くようなのにはっきり聞こえる。
(この家は呪われてるっ)
確信したのは、客間に入ったとたん、ドア枠の横から、ランプ台が吹っ飛んできたときだった。金属製の、壁に打ち込む釘が2インチはくっついてるランプ台。その釘が、ヒョウムの頭に向かう形で吹っ飛んできて、
「おっと危ないなー」
とか言って、ヒョウムは空中で掴んだけど。
仮に、仮にだけど、脇の壁から自然落下したとしてもよ。ヒョウムの頭にまっすぐ釘が向くように落ちてくる、訳がないだろっ。
アタシが頑張って震えないようにしながら、指摘すると。キマルは「そうなのよー」と照れたように笑って。
「この家は古いからー。結構あちこち、モノが落ちてくるの。」
「そーそー、棚からナイフとか、金づちとかよく落ちてくる。」
「ネー」
おい……新婚さんよ。どうやったらそこで、
「やっと手に入れた愛の巣だし、これから手直し修繕、頑張っていこうね。」
って、ラブい展開にできるんかーい。
この呪詛に満ちた空気読もうよ?
アタシですら、周囲に影が濃くなったのを感じたのだよ?
しかし。
新婚さんは、霊的なものに鈍いっていうか、お互いの目を見つめ合って、屋敷の模様替えのこととか春からの畑のことやら、裏手の森での採集活動とかを話しているだけで、『そのほか』はまったく感じてないらしく。
……らしく、じゃないや。
訂正。
全然、感じてない。
「ねえ、このテーブルの継ぎ目から血みたいなのが滴ってるんだけど。」
「あーそれ、古い木製だから。暖炉に火を入れて温まると、樹脂がにじんでくるんだよねー」
いやいやどう見たってこれ、血ですよ。
「ひとの声みたいなのが聞こえない?」
「アハハ、風だよ風。隙間風が多くてね。」
「マーエは職業柄、耳が鋭いから。ひとの声みたい、とか思うから余計そう聞こえるだけだよー」
いやいや「呪ってやる」ってハッキリ。
どう見ても聞いても、この家に何か『憑いてる』としか思えないし、それはキマルとヒョウムを呪ってるんだけど。
それを頑張って指摘しても、
「気のせいだよー」
「私たち平気だもん」
「「ネー」」
っておーまーえーらー。
寒気を押しのけて怒りがこみあげてきたけど、アタシは自分が何をしに来たのか、忘れちゃいなかった。てか、怒ったおかげで怖さを抑えることができて、冷静になれた。
「それはともかく。二人に大事なことを伝えたくて、アタシはそのために来たんだ。」
そうして、アタシは『転移の座標石』の正確な作動音のこと、叫星組の仕掛けた詐欺のことを語った(アタシの足ちょん切り事件は端折って)。
シジラさんからの援助と、今の仲間のことも語って、語り終えるころにはもう正午に近い光の加減になってたので。
ビヌトゥア達がどーしても敷地に近づきたくなさそうだったから、納屋じゃなく、柵の外の休耕地にキャンプさせてやる許可をもらい。仲間をこの家に連れてくるかどうか……については、相談させて、ってことにして。
アタシは一回、屋敷を出た。
手持ち、残り銀で4890(+12000)枚と銅0枚。
どう見ても何か憑いてますし呪われてます。
お読みいただきありがとうございました。




