ジョブチェンジ村人
手持ち、残り銀で4890(+12000)枚と銅0枚。
真面目な農村なら、農閑期は内職で忙しいでしょう。真面目な農村だって、時と相手と貧窮度合いによっては分かりません。
2022/12/03 脱字を修正しました。
仲間たちと相談しながら、アタシは変装の技を使った。
元々目つきの鋭いアタッカーは、ちょっとだけ目の回りの影を変えて、『仕事でひと殺すのはいつもの事』って感じの目に。あとはもう黙ってビヌトゥア乗ってるだけでいい感じ(とにかく怖い)だから、ついでに腕に使い古しの金ぴか腕輪とかつけて、金持った傭兵風にした。
ウォーリアは、面頬を下ろしておけばもうやること無し。
ウィザードは、≪豊饒の大地≫の帽子とローブがある。
農村にとって、農業に関係あるギルド、そこに所属してる魔術師をどうこうするのは危険なこと。……なんだけど、テイ=スロールって若いし。まだ顔にそばかす痕とか残ってるのが丸分かりだし。ひょろっと細身だし。そうだなぁ。
「付けヒゲとー、髪まわりも粉はたいておこうかな。」
染め粉をはたいて、髪は白いものの混じった巻き毛に。ほぼ真っ白のあごヒゲつけて、練り粉で目元と口元に皺をつける。あとは背中を丸めるように荷車の御者台に座っておけば、年季のいった魔術師の一丁上がり。
つけヒゲをテイ=スロールにつけちゃったから、アタシ自身はイヌ系獣人の鼻から口もとのマスクを着ける。それと金持ってそうな感じをだすために、じゃらっとした感じの首からさげる大きいガラス玉つきペンダント。
メバルさんは……もうこれ以上手を加えなくてもいいんじゃ? と一瞬思ってしまった。だって『呪符』を使うと、青い肌と銀髪の美青年が、健康的な血色のいい銀髪の美青年だもん。
「無表情に前だけ見てて。背筋は伸ばしたまま。うん、いいね。居るだけで周囲を圧倒するタイプだなあ。」
「やはり絵姿をのk」
「ボリスはちょっと黙っていようか。」
うるさいのは置いといて。
手袋の上から、大きな宝石(裏に箔を張ったガラス玉だけど)つきの指輪を3つほど装着。これで『お金持ちの司祭が急いでます』って感じをだせるだろう。
アタシは先頭の騎獣に乗って、油断なく村を見回しながら(それとなくよ、それとなく!)乗り入れる。
真冬を抜け出したばかりの冷たい空気は、昨日の雨のせいで湿気まじり。日が昇ったばかりの村の周辺は、凍りかけた道の端にジュワやらカンゴウといった家禽が、泥のついた雪みたいに押し合いへし合いしてる。カンゴウは番鳥にもされるし、こっち見たら騒ぐかな? ってちょっと警戒してたけど、土をほじくりかえすのに夢中で、しずかに進むビヌトゥアにも荷車にも興味なさげだった。
村ってすごく閑散とした印象だ。独立系農場は、大きな母屋に、納屋も何もかも建物が一緒で、寄り添うような建て方だから、小柄な要塞って感じだったけど。こっちは、道に沿ってあっち向いて一軒、反対向きにもう一軒、枯草色の畑を挟んでまた一軒、てすごく広がった感じがある。
畑にでてるひとの姿は遠くに見えるけど、道ぞいには居ないな。家は煙がたってるところが一軒。ゆったりした勾配を下っていくあいだに確認できた、『散らばった建物のだいたい真ん中?』というあたりに、石組みの1階と木造で2階という唯一の二階建てがあって、隣り合にもう一軒、こちらは木造だけど≪万神殿≫に似せようと頑張って白く塗ってる建物がある。
あとは散り散りで、ざっと数えて30軒にちょっと足りないくらいか。
遠くの放牧地らしい、枯草色の丘へ走っていく影が2つ。家のかげから、走りだしてく足音、左右にいくつか。木窓からこっそり見つめてる視線もある。
ふっ、遅いのだよ。
一番後ろの荷車は、二階建てから駆けだしてくるひとが出てきた頃にはもうそこを通り過ぎてて、
「振りむいちゃだめだよ。」
アタシが警告するまでもなかった気はするけど。背後で何か訴えかけるような調子の声が響いてるのは、断固、全員で無視した。
そして、事前に話し合っておいた計画が3つくらいある。
走っていったひとの数、袖に隠しておいた鏡で見てとれる他のひとの動き。それと、木窓からこっそり覗いたつもりだろうけど、プロには(アタシのことね)お見通しの視線が、何に注目していたか、という分析。
3つくらいたてた計画から、一番無難なヤツを選んだ。
丘を2つはさんで、道が村からの視界が遮られると、アタシはビヌトゥアを急かして先の地形を把握しにゆく。沼地はこの辺にないけど、低くなった草地? 秣とか刈った後らしい枯草色の土地が広がってる。踏み固められたあぜ道がうねうね網目のように広がってて、身を隠せる場所は見当たらない。
……と、追ってくる村人、というか追いはぎに化けたひと達は思ってるはず。
メバルさんが駆け寄って、騎獣の手綱を受け取ると同時に、テイ=スロールが杖を掲げながら御者台からとび降りる。着地と同時になにかを詠唱しはじめた。
アタシは荷車からやや先行しつつ、50ヤードくらい一緒に走る。枯草の下で、大きななにかがうにょうにょ、って感じにうごくのが視界の端に見えるのを確認したら、今度は背を伸ばして後ろも。
「普段は村で農業やってますが、農閑期には追いはぎも頑張ってます」な村人たち、じゃなかった、追いはぎたちは、さすがに道をそのまま追ってくるような真似はしてない。三々五々、あぜ道を走って、アタシ達一隊を左右両方から囲もうとするルートを取ってるみたい。
ふふふ、甘いのだよ村人兼追いはぎ諸君。
テイ=スロールの呪文が完成し、アタシは合図して荷車をそちらに誘導。平行していた『地面の隆起』が一挙に盛り上がって大きな口を開く。≪豊饒の大地≫が使う土の操作呪文には、こういうトンネルを掘る呪文もあるんだって。
荷車が2台並んではいれる空洞。
ひんやりした黒土の匂いが漂うなかへ、メバルさんが優しい声をかけながら騎獣たちを進める。幸い、嫌がる騎獣はいない。ウォーリアもアタッカーも入ったので、アタシはビヌトゥアから滑り降りると、走ってきたウィザードに手綱を託す。
テイ=スロールは指を3本立てて、左後ろを指した。
アタシも無言で頷いて、道に沿って走り戻る。同時に、トンネルは口を閉じ、盛り上がっていたはずの草地はなだらかに、何もなかったような静けさで。枯草が湿っぽい風に揺れるばかり。
さて、時間は沢山はないけど、十分ある。
アタシ達の荷車がつけた轍の跡を、他の荷車の轍跡に紛れこませて、ついでにコッマエンとかの蹄跡も偽装しちゃえ。
左側30フィート後ろに土が盛り上がる気配を感じて、アタシは頭を低くしたまま走った。最後の一瞬で、軽く手をついて体勢を変えると、足から滑り込む。
「おっと?!」
「失礼、閉じますよ。」
ウィザードがアタシの蹴り(蹴る形になっちゃった)を避けつつ、小さく何か呟くのへ。
「覗き穴だけ残してくれる?」
「了解です。」
小さな呟きが中断されて、代わりに杖を振ってなにか仕切りなおす感じの詠唱をすることになったけど。情報を集めるのはアタシの役だ。
地面からの振動で、追いはぎ(もう追いはぎ確定だよねこれ)たちの接近を感じる。手サインで「もう下がって」ってウィザードに合図したけど、
「いいえ。何かあったら、内側から完全に塞ぎます。」
ってひそひそ声で拒否されてしまう。足音が近くなってきたから、これ以上の言い争いは中止になってしまった。ひとまず集中しなきゃ。
予想した通りの足音の数が、路上でいったん停止して、ガヤガヤと人の声が飛び交う。
荷車がね、見えないもんね。言い争うよねー。
見えなくても、まだそう遠くには行ってないはずだ。
うん。すぐ近くにいるんだ。(地面の下だけど)
まー、今から獣化して足元を匂い嗅いだって無理ですが! アタシの偽装は臭跡たどるのもお見通しよ! 朝のうちに、わざわざ水をだしてもらって、騎獣の蹄や荷車の車輪を洗っておいたのだ。匂いがあったとしても、村の荷車や騎獣と似たような匂いしかない。
ふふふ、見つからないで困ってる。
そうだよねー、焦るよねー。
「こんな事してる間に、獲物がもっと逃げちまうぞ!」
我慢できなくなった誰かが叫ぶのが聞こえ、続いてバラバラに駆けだす足音。足音の数は、集まってきたのと一致するのをきっちり数えた。もうちょっとだけ『用心深いヤツがいないだろうな?』を警戒するため。
それからアタシは、ウィザードに手のサインで「三人のところにアタシたちも行こう」と示して、地下のトンネルをそっと移動し始めたのだった。
手持ち、残り銀で4890(+12000)枚と銅0枚。
手サインは簡易なもので、
「左手を下に、指を3本立てる。右手はやや上、指2本を立てて自分とウィザードを指し、歩くように拍子をとりながら左手に近づける」
という感じです。
お読みいただきありがとうございました。




