いつもの発作みたいなヤツ
手持ち、残り銀で4890(+12000)枚と銅0枚。
水眼鏡:板に直径の異なる穴をあけた道具。使う時は水を垂らして、即席レンズにする。球面レンズ製品は壊れやすいのにお高い、かつ曇りやすいので、マーエは使っていません。
偵察に出てみると、雨は少し勢いが減ってる、でも小雨というにはしっかり降ってた。周辺のゆったり起伏のある平原は、暗闇に沈みかけてる。そこには何の気配もなくて、ダーフーもどきの仲間が復讐に来たりはしなそう。
それで安心して、『拠点』の中で交代しながら休めたんだ。
翌朝、といっても太陽が昇る前の薄暗いなか、もぞもぞ起き出したアタシたちは、ショッキングなモノを見ることになる。
倒したダーフーもどきは、血抜きのために土壁に吊るしておいた。げんこつを押し当てても弾かれるような柔くて分厚い皮と、その下の肉の塊が重たい代物だったんだけど。
それがね、中の肉も内臓もすっかりなくなっちゃってて、骨とかもなかったみたいに、ぺしゃんこの穴だらけ。小枝が刺さるくらいの穴がたくさん……
「ん。この穴、棘のあった場所かな?」
水眼鏡で拡大してみると、棘のあった部分が溶けたように不揃いな円形で、皮が内側へとへこんでいってる。ほとんど雨で流されたんだろうけど、かすかに臭い。
「同意します。推測ですが、棘に見えていたのは寄生した生物だったのではないでしょうか。」
寄生していたから、宿主が死ぬと栄養がもらえなくなる。そこで中のほう、つまり皮の下へ下へと潜ってった訳か。
切り落とした棘のほうは、なんでも入る袋の中でまったく動く気配も何もない。
ぺしゃんこになるまで中身を食い荒らして、どこに行ったんだろ……というのは、あまり考えないことにした。この皮の中には居ないんだし、アタシ達に探し回る時間も義理もない。『拠点』をもとの地面にもどすとき、一緒に深いところに埋めることで良しとしよう。
それより、今日は村を通るんだ。元々の進み具合なら、そこで宿を探すつもりだったけど、ダーフーもどきと雨のせいで、うん。
挽割り麦粥を食べ終えて、ビヌトゥア達を押し合いへし合いしながら拠点から出してきて、ってやってると、荷車の後ろで着替えてたメバルさんが出てきた。
「はぁー……、お金持ちって感じ。」
金銀の糸で縁やら何やら縫いとりされた、いかにも高位神職! って装いに、アタシはつい口走っちゃった。その横で。
「クッッ!!」
地面に膝と両手をついて、草をギリギリ握りしめるアタッカー。
「ぼ、ボリスが壊れた!?」
「それはいつものヤツだね。」
「いつもって何なん!?」
ヨアクルンヴァル、何故そこでそんな冷静な・ってか『いつもの』?
不思議に思ったアタシの耳に、下の方から聞こえてくる呟き。
「これは……、この美しさは絵師を呼んで後世に残すべき」
「あのー、ボリス?」
ウッカリ声かけたのが刺激になった。
なってしまった。
反応する前に、足をガッと掴まれちゃったのだ。
「マーエ! ちょっとお願いがあr」
「いやいやいや! 絵師とかじゃないからアタシ!」
「そこは仲間同士、できることを手伝うって言ってくださいよ!!」
押し問答っていうか足掴まれたままで身動きとれん。さすが前衛だ、パワーが桁違い……。
「もう、ボリスはいつもこうだから。準備早くして出かけるほうが大事なのだ。」
「はい。」
メバルさんが離してくれた。
もしや『いつものヤツ』って、『メバルさんが割って入るまで』が一そろいなんじゃ。
手持ち、残り銀で4890(+12000)枚と銅0枚。
ボリス氏はむっつりですので時折こうして噴出というか出てくる時があります。
お読みいただきありがとうございました。




