表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残り銀貨500枚からの再スタート  作者: 切身魚/Kirimisakana
114/177

獣に成れない者たち

手持ち、残り銀で4890(+12000)枚と銅0枚。

鼻先煙でくしゃみ一発、「鼻の先に煙が漂ったらくしゃみが出る」の慣用句です。

 そんな問いを、うっかり口に乗せてしまった後で。後だからこそ、アタシはしこたま後悔した。何をって、自分のうっかりっぷりを。

 だって問うたアタシ自身、自分は獣人ですよ、なんて胸を張れやしないのに。親が知れない種が知れない、なんなら獣身変化もできてない。

 テイ=スロールの言葉の端を捕まえて、なんとなく『獣人という感じがしない』のを安直に、それこそ鼻先煙でくしゃみ一発みたいな安直さで訊いて。

 訊いて良いんかいっていうと、アタシは自分のうっかりを呪う勢いで、良くない。


「あっでも、答えたくないなら、答えなくってもいいから。」


 どう答えてもらうにしろ、その答えを受け止める準備ができてないことに、言っちゃった後で気づいて後悔してるのだ。

 昔、獣化するにはまあ小さいって言われる歳のころ、育て親の一人に訊いてみたときと、同じ後悔だ。その時、育て親は、頭のてっぺんからつま先まで、アタシをジロジロ見つめまわしたあと、感情の消えた声で告げた。

 

「自分の祖獣を知る方法はある。三日だ。最低でも三昼夜、命をつなぐだけの飲み食い、排泄の時以外は、ひたすら祭壇で祖獣に祈れば良い。"いずれの獣がわが祖なるや"とだけ念じれば良い。」


 聞かされて、嬉しそうになったアタシに、育て親の言葉はさらに冷たく降り注いだ。


「答えが得られたなら、お前は厳粛に受け止めねばならない。神々に問うとはそういうことだ。答えが何であれ。」


 答えが何であれ、の意味をつかみかねて、アタシは曖昧に頷こうとして、首をねじってた。獣人が変化する獣にお祈りしたら、きっと祖獣が答える、それ以外の何があるってんだろう。

 育て親はきちんと、冷たい声で疑問を解いてくれた。


「問うて、『祖獣』が明らかになろうと、異種異族と明らかになろうと、天啓を否定することはできない。ただ受け止めるだけ。それしか許されない。」


 静かな語り口の意味が、アタシの耳に沁みとおって、背筋まで沁みとおって震え出した時、育て親はしゃがみこんで、アタシをしっかり抱きしめた。

 それでも、「もし、獣人じゃなかったら? 森人エルフだとか、もっと少ないあの種族だとかだったら?」と思うと怖くて、自分が何者か分からないことより、「もっと少ない何か」だと神様に教えられるのが怖いことだった。

 だから、10を数えた後でもまだ変化できず、15になってもアタシの身体は、まぁその、ナニもついてない上に獣化もしなくて。それでも、方法は知ってても、神様に願って答えをもらうことはしないで。ずるずるべったり、同じような『獣化できない仲間』と夜中に駄弁ってたわけだけど。

 

 もしアタッカーとウィザードが『少数な種族』だったとして、そのことを仲間相手といえど気軽に教えてもらえるとは。思っちゃいけない。

 けれどアタシはうっかりにも訊いてしまった。

 だとしたら、どうする?


 そもそも、このパーティは、ドワーフと、僧侶さまってのも街にたった一人の超少数種族だって話だもの。

 「仲間相手だから気軽に言える」ように。アタシから働きかけておくべきじゃないのか。

 テイ=スロールが喉の奥で何か詰まったような音を立て、アタッカーがもともと鋭い目つきをさらに怖くしたこのタイミングで。言葉にならないやりとりってか、2人とも『予測してはいたがどう答えたものか』と、お互いにどちらが何を言うか、言わないか、そういう算段をしてるような沈黙のタイミング。

 アタシは何を言えるかって、そりゃ、大したことは言えないんだけど。


「ちなみに、アタシは獣人かどうかもはっきりしてないんだ。孤児院育ちって言ったでしょ? 名前を書いた紙きれ一枚、門の前に揺り篭が……って感じで!」


 ここは本当かどうかは知らない。そもそも名前と獣種を書いただろう、紙きれさえなかったかも知れないもん。アタシは盗賊の技量を、自分の情報調べるのには使ったことがない。


「獣人じゃなくって、ほら、古い言いかただと『成れずの者』とか言われる種族なのかも。まあそれならそれで、なんで無性なんだって疑問がでてくるんだな、これが」


 あはは、と上げた声が自分でもわざとらしい!


 内心でどうしようと半泣きになってたら、アタッカーがふっと肩の力抜いて、


「もっと古い時代だと、卑徒ひとというお世辞にも褒めてない言葉が伝わっています。獣人からすれば、獣化しない者というのは、祖獣を持たない、得体のしれない、不気味なものでしょう。」


 気を遣わせて済みませんね、とまで付け加えられて。


「コッチこそごめん! 聞いてほしくないことだったら、もういいから!」


 アタシは急いで頭をさげた。

手持ち、残り銀で4890(+12000)枚と銅0枚。

卑徒と書いて「ひと」と読ます。確か酉島伝法先生の『宿借りの星』にでてきた表現です。少数者に対する差別、残念ながら割とあります。


お読みいただきありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ