白と黒のでっかいやつ
手持ち、残り銀で4890(+12000)枚と銅0枚。
戦闘に持ち込む前にできること。
ダーフーは『大幅』の中文読み、なんかでっかいヤツの意です。
アタシは「何かに襲われた」と「防御」を叫んだ。
立ち上がったとたん、左肩と首の間に一撃くらったけど。あそこで皆に「攻撃」を指示するには、あまりにも情報が無い。向こうには、遠くから攻撃できる手段が何かある。弓矢じゃないだろうけど、何かが。
視界の端、雨のカーテンの向こうに、ぼやけた白黒の塊が見える。さっきより近い。
前衛二人が進み出ると同時に、テイ=スロールが短い呪文を叫んだ。草や土くれをこぼしながら、土が壁のようにせりあがる。
それより速く、また白黒の塊の『毛』がぶわっとして。
ヨアクルンヴァルが大盾をかざして割り込んだ。パッ・ガッ! って感じの鋭い音。
直後、せり上がり切った壁のこっち側に、切り落とした『毛』が落ちる。盾で弾ききれなかった『毛』を、アタッカーが切り落としてた。
テイ=スロールが立ち上がって、前衛二人がアタシを挟むようにして荷車まで一緒に後退した。
倒れてるビヌトゥアが、壁のすぐ前で苦しそうに胴をよじってる。怪我してる足が上手く動かないみたいだ。そういや、と手を触れると。
「あ、感覚が無い。」
「麻痺か、まったく無か?」
荷台から降りてきた僧侶がやってくる。
「全く無し、てか、体がここだけ欠けた感じ。」
「無の方だな。強い麻痺だ。」
普通の薬だと遅い、と言って治療呪文を使おうとする僧侶を、アタシは手を挙げて止めた。麻痺が広がる様子はないし。前衛二人が油断なく見張ってるほう、土壁の端と端にはまだ動きが見えなくて。その動きを見るのは、アタシの役だ。まだ動けるし、目や耳や鼻だって効くんだから、アタシが動くべきなんだよ。
気配を消すのは当然して、さらに雨でびっしょり濡れてるけどフードもすっぽり被ると、アタシは地面に伏せた。伏せたまま移動で、前衛の間を通り、土壁の右端にくっつく。
手鏡に息を吹きかけてからぬぐって、土壁の端から手鏡だけを出す。
ここまでの間、だいたい10数えるくらい。『毛』は飛んでこない。
雨の向こうで、白黒のぼんやりしたやつが見える。大きさは、ビヌトゥアの胴体と同じくらいだ。麺麭みたいな形(寸詰まりの芋虫っぽいとか思ってしまった)で、両端が黒く、こっち向いた端にはもう二か所、角だか耳だか、三角形に黒い部分がある。で、全体的に黒っぽい長い『毛』が生えてて、それが動いてるせいで、輪郭がぼんやりに見えるんだ。
体は地面にくっついてないな、ちょっと浮いてる。何本かの『毛』が、足みたいに何対も地面に刺さって、胴体を持ち上げてるのか。あれって、見た覚えもあるんだけど、知ってるヤツよりずっと小さいんだよな。あんな『毛』は生えてないし。
観察はこれで十分。
考え付いたことがあるから、今のうちに試してみよう。
小さな動きで、アタシは紐を外すと、『それ』をできるだけ速く遠くに放り投げた。
ほぼ同時、ってもアタシよりは遅い動きで、白黒のヤツが反応する。背中側の『毛』がばっと広がり、バズバスッ!と革袋を貫く音がした。
予想はしてたけど、予想どおり、だったな。
アイツ、暖かいものにだけ反応してる。
さっき投げたのは、朝がた僧侶にもらった、温石がわりの暖かい水袋。
アイツはビヌトゥアの足の下側(毛が薄くて体温が分かり易いはず)とか、むきだしだったアタシの顔(とっさに避けて肩に当たったけど)とかを狙った。そして、分厚い土壁で遮られたら、その向こうにいるアタシや仲間のことは、まるで見えてないみたいになってる。
顔を伏せたままざりざりと後退して、この話を仲間に伝えると。ヨアクルンヴァルが首を傾げた。
「そいつぁ、沼とかにいるダーフーじゃないかい?」
テイ=スロールも頷く。
「同意します。あの幻獣も、白と黒です。毛が生えている、攻撃に使用しているの2点は異なりますが。」
「いや、アタシの覚えてるダーフーはもっと、島か岩かってくらいデカいし、動かないよ?」
ダーフーは水の多い、湖ってほど深くはない、ほぼ浅い水の沼地で、デンチャ芋とか掘ってるとでくわすヤツだ。全体的に白で、頭と尻、あと頭の脇に2箇所黒い部分がある。そこは似てるけど、大きさは違う。小さくても荷車を2台つなげたくらい、大きいとちょっとした島みたいで、ひとがウッカリ踏んでも動かない。水の中に頭を突っ込んでひたすら、その下の水草や生き物を食べてて、食べ物が少なくなると、のろのろ這って動くくらい。
あんな毛は生えてない。
攻撃とかしてこない。
今のところ、土壁が遮ってるから、アタシ達は無事。僧侶はビヌトゥアに治療呪文を使い終えたところだったので。
手早く皆で作戦を練った。
手持ち、残り銀で4890(+12000)枚と銅0枚。
謎のなにかと、次回は戦闘です。
お読みいただきありがとうございました。




