第一層『迷宮』の探索
手持ち、残り銀で466枚と銅0枚。
迷宮≪第一層≫は、多くの冒険者が挑戦して死亡率統計なども(かなりざっくりとはいえ)作られています。一番低いのが、20%です。
≪コリウォンの迷宮≫、第一層は広い。内部で空間がねじれてくっついて、いろいろしているので、上下に10階くらいあって、ルートによっては死亡率が4割超えたりする。
アタシは前のパーティと、死亡率2割程度の安定したルートに慣れている。
と言ったら、「じゃあそのルートを行こう」という話になった。
彼らは二層のほうに慣れてるはず。今回アタシを雇うのもそこで見つけた何かの探索のため。
……他の冒険者が手をつけてないダンジョンとかの探索だろう、と予測はするけど、ここは何も言わないでおく。本当に契約となる前に、あれこれ口をはさむのは良くない。
できる盗賊は、よく見てよく聞く、そして手を動かすものなのだ。
警告するときや報告のときにこそ、口がよく回るようでなくてはならない。
というのは、孤児院でアタシの修行を見てくれた先生の受け売り。先生は、孤児院出身の引退した冒険者だ。
引退するまで生き残れたんだから、優秀なひとなわけで。
昨夜のアタシは先生の教えを、思い出せるかぎり思い出して、こういう時はこうしよう、ああするんだったかな、って風に頭のなかで想像して。装備の点検もして、それなりに忙しく過ごした。
松明やランタンじゃなく、僧侶の持つ杖の先に、≪魔法の明かり≫をともして進む。アタシは自前の暗視もあるけど、白い光の範囲から出過ぎないよう、ちょっとだけ先行する。
後ろからやってくる4人は、手練れだった。
タルイヌ(犬に似てる四足の獣だけど、胴体が樽みたいなヤツ)の走る足音、アタシが聞きつけて手を挙げると同時に、もうアタッカーは双剣を手に、ウォーリアの盾がカバーしやすい右にでる。
僧侶が手を一振りして、薄っすらと≪防御の加護≫が降る感覚。
別の声が小さな呪文を唱えていて、ウォーリアがアタシに
「下がって」
の小声。
足音を立てずに、幅広い通路の壁沿いに、戦士二人の脇を通り過ぎて戻ると、ウィザードが杖を一振り。呪文の種類は分からない。それに、目に見える、耳に聞こえるような何かも無い。
ちょっとだけ空気が冷たくなった、かな……
すこしして、明かりの輪のなかに、足音と黒っぽい鼻づらが見えた。
とたん、
「ギャン!」
と声を上げて先頭のタルイヌが立ち止まる。
そこに、壁を蹴ったアタッカーの剣が、二頭の首をはねる。で、後ろから飛び越えてきたヤツは、床に着地してそのまま動けなくなった。
動けない、足裏が張り付いてるのかな?
ウォーリアの斧と、最初の死体を足場にして剣を振るうアタッカーの前に、残りの5匹はすぐ死体に。
ウィザードが、ためていた息を吐くと、冷気が弱くなり、
「解除しました。もう床に触れても大丈夫です」
と言う。すごく冷たくして、モンスターの足を一瞬で凍りつかせたらしい。
解体してる間、アタシは周辺の警戒。4人は手際よく皮をはいで、ウィザードが持ってる袋(見かけよりたくさん入るらしい)に、油紙で包んだ肉を入れていく。僧侶のもってる水袋も何か仕掛けがあるっぽい。血抜きやら、脂をとったりで、すっごく水を使うのに、袋は全然、しぼむ気配がない。
湯気をたてる腑とか骨や、傷だらけの皮は、通路のすみに投げ捨てて。他のモンスターが今すぐ来る気配はない。
そう知らせると、ちょっ先に進んだところが広いから、小休止しようということになった。
広い場所ってことは、偵察の出番ですね!?
手サインで先行を提案すると、ウォーリアがうなずく。
「今のヤツラの群れがいるかもね」
「見つけても、見つけなくてもすぐ戻ります」
自信あり!って感じに笑ってみせたけど、実際のところは心臓がドキドキしてた。
今までのパーティだったら。アタシが発見して、戻って武器を構えたころに前衛が接敵。それにだって、誰かが手間どるかも知れないし、8匹もいたら、噛みつかれたりとか、怪我はあったろうし。後衛が弓を撃っても当たるかどうかは、賭けで。
≪迷宮≫入る前の打ち合わせで言われた通り、今回のアタシは全く、戦闘には加担しなかった。下手に手を出されると、アタッカーとウォーリアの連携が崩れるから、って。
今の一戦で、よくわかった……。
この人たちは強いんだ……。
アタッカーとウォーリアの連携だけじゃない。ウィザードも、どこの流派かはわからないけど、確実に仕留めるための呪文、攻撃の補助のため、足止めのための呪文を使ってた。
そして、使いどころが分かってる。
耳を澄ませて、暗闇に慣れた眼と手鏡で、苔のついた通路の先を覗き、匂いもかいで見て異常なし。
そこは幅広いルート路が、さらに広くなった場所で。ここから先にも、2つのルートが分かれている。僧侶が杖で線をひいて、何かとなえると、床がうっすら光って(あ、ここは防護円か)と分かるようになった。
「大丈夫なのだ?のどは乾いてないか?」
僧侶さまが、全然へってない水袋をもちあげてくれるので、貰うことにしたとき。
先の通路の右側から、
『ドゥイドゥ~イ、ドゥイドゥ~イ♪』
という歌声が聞こえてきた。
手持ち、残り銀で466枚と銅0枚。
次回は謎の歌声の主と遭遇です。
お読みいただきありがとうございました。




