夜の訪問者
手持ち、残り銀で4890(+12000)枚と銅0枚。
お話とは全然関係ない設定:ビヌトゥアが『ビヌ(四足の獣)+トウア(多い)』で、ビヌガンヤは、『ビヌ(四足の獣)+ガニヤー(コブがある)』という獣のことです。馴らせば騎獣としてお役立ちですが、ビヌトゥアより小柄で、コブがあるため乗りこなし技術が要ります。性格は素直ですが、体力はビヌトゥアより劣ります。
一番は、テイ=スロール。二番がアタシ、三巡目がボリス、ヨアクルンヴァルで最後がメバルさん、て感じに夜番が決まる。
弱々しい光が爪の先くらいになった杖をもって、テイが揺り起こしてきた。
呪文のナントカをどうとかしたのだそうで、アタシは自分の番になると、短剣の刃をちょっとだけ引っ張り出す。これでアタシの番がスタートして、交代する時間にはさっきの爪の先くらいに光が小さく、弱くなるんだって。
壁に沿って毛布にくるまってる仲間を起こさないよう、コートの内側に光を入れて立ち上がる。
ウィザードのもそもそ毛布にもぐりこむ音、他のメンバーの規則正しい寝息。そういう物音の背景に、壁を隔てた場所で、炉床を均してるみたいな音やら、コトン、カコン、とお椀や盆の立てる物音がちいさく聞こえてくる。
穏やかな夜が更けてく、というヤツだ。
ウッカリ寝入るわけにはいかないから、アタシは予備の繊維紙と、描く用木炭を木筒から出す。
尋ねる用似顔絵はもうあるから……何を描こっかなあ。
今日は生まれて初めての、騎獣、それもビヌガンヤとかコッマエンじゃなく、ビヌトゥアなんてでっかいヤツに乗って、乗りこなせるようになったし。
それか、仲間たちの顔を忘れないように……いや、記録になっちゃうから止めておこう。
旅の景色とかもいいかなぁ。ほとんど街道沿いの、刈り取り終わった畑ばっかりだけど。
コトッ、という木材が立てる物音が、近くでして。
アタシはすぐそれに集中した。
ドアの開け閉めとかじゃなく、連続した、忍び足の音。
すぐ、「シーッ!」「シーッ!」「シーがうるさい!」「シイイイイ!」という押し殺した囁き声が続く。それもこの部屋のドアのすぐ近く。
どうする?
独立系農場を「危地」と表現した、アタッカーの声がよみがえる。
皆を起こす……は、一番に思いついたけど、ん-。「シーッ」と言い合う声に切迫した感じがなかったんだよなぁ。あれ、襲撃がバレたらどうする的な怒った感じじゃなくない?
このドア幅じゃ、ひとりずつしか通れない。アタシは盗賊で、相手がモンスターとかじゃないなら、立ちふさがって渡り合うこともできるし。それかドア脇に隠れて、不意打ちを仕掛けることもできるし。
忍び足とはいえ、素人さんの足音は、プロ(アタシよアタシ)の耳には全然隠しきれてないまま、ドア脇までやってきた。
よし、先手必勝。
前に気配がやってくるより先に、錠をはずしてそっと開くと。自分ひとり分の隙間から、アタシはするっと廊下に出た。コートの中から、短剣の明かりで顔を照らしておく。こうすれば、相手には出てきたのがアタシだって分かるはず。
「ん(ぎゃーーーー)!」「も(んすたーーーー)!」「ひ(えぇーーーー)!」
目の前には、三人。互いに相手の口を手のひらでふさいで、叫び声を喉の奥に押し込んだ格好。
十代くらいかな、アタシより年上ってことはなさそうな、女の子ふたりに、男の子もひとり。
アタシは唇に指をあてて見せた後、手のひらを下に向け、何度か上下させる。幸い『静かに』と『落ち着け』のサインは、通じた。
「そんで? 前衛だったらドアごと叩き切られても文句言えないよ。アタシで良かったね。何の用な訳。」
ドアは閉じずに、靴の幅だけ開けてある。
最初の恐慌が過ぎると──青白い『光の呪文』で、下から照らされた顔はすごく怖かったよね、うん、ゴメンよ──彼らはきょうだいなんだと自己紹介して。夜中に忍び寄った理由は、
「街の話を聞かせてほしい」
から、だった。
この農場を利用してる旅人は、たいていは街に行き来する商人。もちろん頼めば話してくれる。だけど、アタシ達みたいな冒険者だったら、いつもと違う話をしてくれるんじゃないか。してくれるに違いない。でもひとりで行くのは怖いし、弟と妹も一緒に行かないと後でずるいずるいと責められる。
……と思ったから、三人できました。
どんなことでもいいからク=タイスのお話してください!
ひそひそ声で、切々と訴えられて、アタシは困ってしまった。
その気持ち、分かるもん。
良いにしろ悪いにしろ、街って特別な場所だもの。アタシも孤児院のチビだったころは、外の街の様子を知りたくて知りたくて仕方なかったもの。
でもここで座り込んで、ひそひそ話もどうなんだ? 興奮した子供(一番上の姉が、十五歳と名乗ったけど、独立してないならまだ子供。)が声高くなるとなぁ。仲間を起こしちゃうだろうし。
うーん。
お帰り願う理由を頭の中で練りだした時、アタシは手に持ってる繊維紙に気づいた。
手持ち、残り銀で4890(+12000)枚と銅0枚。
呪文のナントカをどうとかした、は、呪文について専門に学んでないと理解できない内容です。専門に学ぶと、今回のように、構成を任意に変更、「N時間経ったら光量を小さく」などのように条件付けできるようになります。
次回、マーエのお絵描きスキル発揮か。
お読みいただきありがとうございました。




