独立系農場
手持ち、残り銀で4897(+12000)枚と銅0枚。
旅の第一日目、後半です。
「どうするー? ここの独立系農場。先にはもう宿とか無さそうだよ?」
街道からの分かれ道で停止して、ざっくり地図片手に、仲間に声をかける。ざっくり地図ってのは、大まかな領地の名前は書いてあるけど、細かい境界線は書いてなくて、大きい道と、泊まれそうな独立系農場だけ書いてある。
アタシの騎獣乗りが(初心者なりに)上手くいったおかげで、もう1刻くらいは進めそう、なんだけど。ここで街道をどんどん行っちゃうと、宿のない場所で野営するしかなくなるわけで。
「初日だし」ってことで、独立系農場で宿をとることにした。なにせ小休憩する前、テイ=スロールが、荷車の御者台から教えてくれたのだ。
「忠告です。降りた時に、足をしっかり踏みしめるよう、意識しておいてください。」
「足を? 足場が悪いん?」
「いえ、マーエさんは、騎獣に乗るのはこれが初めてですよね。膝とか腿とか脛とか、とにかくしっかり踏ん張らないと、転倒する可能性があります。告白します。僕はしました。」
「け、経験者なんだね……。」
ウィザードは、重々しくうなずいた。それで意識してたつもり、なのに。
鞍から滑り降りたとたん、ぐらっと膝が動いて転びかけて、思ったより足を酷使してたことに気が付いたのだ。
そういう訳で、独立系農場に宿とることになって。アタシも騎獣を水桶に案内したりとか荷物整理とか手伝おうと思ってたのに。
「いーからいーから、座ってなよ。」
って、乗ってた騎獣の手綱はウォーリアに奪われたし。
「足の筋肉が痛み出すまえに、回復を助ける、ちいさい呪文かける。座って。」
って、僧侶に腕をとられて引っ張られてしまった。
独立系農場ってのは、一応の領主にあたる貴族は居るけど、税が免除されてる。街道の整備とかにはひとを出すけど、他にはほぼ役務なし。その代わり、土地の整備やら防備は自分たちで頑張らなきゃならないし、水車の設置とかは領主と相談しないといけないとか、ナントカ。
という話を、僧侶に呪文かけてもらう間、やってきた農場のひとから聞かされた。
呪文かけ終わって、携帯カップで水を飲んでる僧侶を脇に置いて、アタシは自分の鞄から紙を取り出した。キマルとヒョウムの似顔絵。
「このふたりを見たことないかな?」
「いや、無いなぁ。この絵、すごく上手いね。本物みたい。キミが描いたんだ?」
いやぁそれほどでも! むふふほへへっと笑いたかったけど、「まーね、どうも。」とクールに頷くアタシ。
ちょうど、騎獣の世話や荷車整理を終えて、3人が戻ってきた。似顔絵を覗き込んで、
「凄いですね……本物そっくりと言っていい。」
「本物に会ったこたなくても、これ見てたら分かるねえ。」
ウィザードとウォーリアが感嘆して、アタシはちょっと胸を反らす。顔はちゃんとクールに保ってますよ。
顎に手をあてて似顔絵を見ていたアタッカーが、
「顔料を用いた絵は手掛けたことがありますか?」
とか言うもんだから。
「さすがに、本職絵師みたいなのは無理だよ。」
アタシが習得したのは、あくまで地図書きや、状況や、人相を伝えるための、筆や木炭で描く技だもん。
というのを説明したら、ちょっと残念そうだった。
水袋をまた一杯にした(つまり袋一杯ぶんを飲み終えた)メバルさんも、覗き込んでくる。
「このままは、すぐ擦れて見えづらいのだ。保存の呪文をかけておくと、良いな?」
「いいの?」
「いいの。」
何枚だって描く気でいたけど、有難くかけてもらうことにした。もちろん、保存の呪文って、ここで使っても大丈夫なものなのかは、確認したよ。
農場のでっかい母屋(半地下のある二階建て! でか!)には、季節ごとで雇うひとのために空き部屋が3つあって。今のところ空いてるから適当にどうぞという大らかさ。
そのうちの1部屋を全員で使わせてもらうことにして。なおかつ、時間制限をかけた『魔法の明かり』をそれぞれの持ち物にかけて、光が弱まったら交代、って決めた。
「こういうの、ダンジョン内の野営と同じだね。」
借りものの毛布をかぶりながら誰にともなく言うと、ボリスが反応した。
「言葉が通じるだけで、いつ襲ってくるか分からない、という点ではここも『ダンジョン』同様の危地です。」
あー、まー、ね。似顔絵を見て、にこにこ目を丸くしてたひと達に、悪い印象は持ってない。持ってないけど、疑わない理由にはならないのだ。
明日は街道外れてくし、屋根のある所で眠れるとは思えないけど。こういう意味でなら、気楽になるかなぁ。
手持ち、残り銀で4890(+12000)枚と銅0枚。
マーエ達の旅路はまだ始まったばかりです。
お読みいただきありがとうございました。




