初めて一人で乗ってみた
手持ち、残り銀で4897(+12000)枚と銅0枚。
旅の第一日目、後半の前半です。
昼ご飯に買ったのは、すぐ食べられるものばっかり。塊チーズの小さめが1つと、焼いてあるチャパティ10枚。あとは手持ちの保存食、赤ソラナムの干したのと、タルイヌ干し肉。
火を起こしたから、切ったチーズを炙ってとろけたところを、干し肉と赤ソラナム散らして、チャパティで巻いてかじる。それに携帯鍋で錐葉モンマの茶とかも沸かして。
「ベレバ菜でもあれば良かったかなー」
「こんだけで上等だよ、上等ッ」
あちち、とヨアクルンヴァルが溶けチーズを唇からぬぐう。
「マーエ、午後からはビヌトゥアに乗ってみるかい?」
「え……と、できるかな。今まで乗ったことのあるのって、年取ったコッマエンしかないんだけど。」
しかも、手綱は先輩が持ってて、アタシは鞍にしがみついてただけだったという。
そのことを言うと、ヨアクルンヴァルはカラカラ笑って。
「ビヌトゥアの方が断然、乗りやすいさっ。あんまり乗り心地良くって、寝たりしないよう気を付けるだけでいいんだよ。」
「そんなに乗り易いんだ。」
「試せば分かる、試せば。」
ヨアクルンヴァルはにこにこしてるし、ボリスは、
「寝そうになったら、手綱を持って一緒に走るといいです。体も温まりますし、鍛錬になるし。」
とか言ってて。
そういや、荷車に合わせて走るビヌトゥアは、小走りよりちょっと速く、でも全力疾走にはまだ遠いくらいの速さだった。できなくはないんだろうけど。
「アタシそこまで体力無いと思うよ。」
「ほどほど走って、軽く汗かいたくらいで切り上げたらいいじゃないですか。鍛錬とはそういうものです。」
無理だと思う、って意味で答えたんだけど。
軽装戦士は、発想が筋肉だと思う。
昼食のあと、秣やら荷物やらの整理をして、荷車にはテイ=スロール。経験者なので、お尻に防御呪文済み。
そして、肩の高さがほぼアタシの目線という、三対六本足の騎獣が、にゅっと顔をこっちに向けている。銜の先にある手綱は、横に立ってるメバルさんが持ってる。
「ビヌトゥアに、匂い嗅いでもらって。仲良くなると良い。手をだす。」
「こ……こうかな?」
手袋を外して、アタシの拳が入りそうなでっかい鼻穴の前まで伸ばしてみる。「ぶぅっ」という音で、暖かい息が吹きかけられて、のけぞりそうになるのを意志の力でこらえる。仲良くしてもらいたい側がのけぞったりしたら、印象悪いもんね。
ビヌトゥアが匂いを確かめ終わるまで、がんばって踏ん張ってると。湿った鼻先が手の甲に押し付けられた。静かに足の位置を入れ替えて、騎獣はアタシに脇腹を見せる位置につく。
つまり、アタシの前に鞍がきた。
「あ……、これでいいのかな。」
「うん、仲良し。優しくしてあげてね。」
僧侶の後半の言葉が、どう考えてもアタシに向けてない気がするのは、気にしないことにした。
手綱を持って、垂らした鐙に足ひっかけるのは問題なくできたし。
鐙革を調節して、軽く膝を曲げたら鐙に足裏がかかるようにして、鞍に腰骨が乗るように、全般足は力を入れないよう、などなど。
仲良くなったビヌトゥアは、ぎこちないアタシの動きにも辛抱強く付き合ってくれて。片方の肩を脛で押すと曲がるとか、ゆっくり行け、横にずれる、とか細かな脚の使い方練習は、半刻くらいでできるようになった。手綱も大事だけど、脛で押して指示するのも大事なんだって。
なるほど、試せば分かると言うわけだ。
「すごーい快適ーーー!」
風に負けないように叫んでしまうくらい。快適でもう最高。
常に3本の足が地面についてるビヌトゥアだもの、荷車みたいな、「衝撃が尻に攻撃」が皆無ですよ。ゆっさりゆっさり、て感じに左右で揺れてはいるんだけど、下からの攻撃はなし。素敵!
鞍は丈夫な革、んで毛布を敷いて、その下は分厚い毛皮だから、ちょっとの衝撃は吸収しちゃうんだろう。
先頭をいくヨアクルンヴァルの笑う声が、冷たい風のなかに明るく響き渡った。
手持ち、残り銀で4897(+12000)枚と銅0枚。
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