似顔絵スキルもあります
手持ち、残り銀で4898(+12000)枚と銅0枚。
旅の第一日目、前半です。
都市には無いリスクが郊外にはあります。
その休憩の時に、メバルさんは水袋の中身を暖かい水に変えてくれた。ぐつぐついうほどじゃないけどかなり熱いやつで、コートの下に持ってればじわーっと暖かくなる。要は温石替わりなんだけど、
「水飲むとき、どうしよう……」
アタシはちょっと途方に暮れた。お尻への攻撃は緩くなったけど。この熱湯、揺れる荷車の上でどうやったら、携帯カップに無事に注げるのか。そして飲めるまで冷ませるのか。
「大丈夫なのだ。」
はいこれ、と渡されたのはもう一個の水袋。触った温度はひんやり……って、
「予備もっとったんかーい!」
一瞬きょとんとして、破顔する僧侶。
「うん。メバルは水だせる、けど、予備も大事。」
「出せるのに?」
用心深いなぁ、って感心してたら。
「メバルがはぐれたり、気絶してたら、出せないでしょう。予備は大事。」
にっこりされて、アタシも納得した。
冷たい風は吹きつけるけど、コートの中が暖かいから平気。そんな旅路は、さらに2刻。
街道沿いに『宿あり食事あり』の看板を出してる独立系農場に寄って、昼ご飯用の食材を買いつけた。代表でアタシが荷車で乗っていって話をして、ついでに用意しておいた絵も見せる。キマルとヒョウムの似顔絵だ。
期待はしてなかった。
ク=タイスまで騎獣で半日のここなら、今までのうちに、歩いて帰ってくることはできるはずだしね。でも怪我や病気があったら……、もしかしたら……、という期待が無かったわけでもないので。
「こういう感じの二人なんだけど、このごろ見かけなかった?(びらっ)」
「いや、見たこと無いなぁ」
が第一声で。
食糧庫にいたひとにも見せたけど、「見てないな。あんた絵が上手いね!」……だった。
で、銀貨を払って、水や秣も分けてもらい、刈り取りの終わった牧草地の端で休憩することになった。
テイ=スロールが小さな呪文を使って、薄黄色の枯草が残る土をざーざーって脇に寄せて、盛り上げて壁にしてくれた。これが1刻くらいのあいだ保たれるから、風を気にせずに火を焚ける。壁はさらに真ん中で仕切りをつけて、片方はビヌトゥア達をいれて、買った秣を食べさせつつ、水もあげる。反対側は、アタシたちの休憩場所。中央の窪み部分は火を焚いても大丈夫なよう、草の欠片も入ってない、土というより石みたいなツルツルになってる。
そこまで作って集中を解くと、テイ=スロールはふっと息を吐いて。
「助かりました。どこでもこうだといいんですけどね。」
「どこもこんな感じじゃないの?」
「違いますよ。」
テイが言うには、ここは街道沿いで旅人や商人の利用に慣れてる。だから冬用の秣とかも余裕を持ってるし、銀貨で取引もできる。
で、問題は明日以降。この街道を外れて、別の街道へたどりつくまでの区間。月ごとか2月ごとか、とにかく巡回商人くらいしか、旅人がこない土地だ。
基本的に外部の者は歓迎されない。
ぶっちゃけヨアクルンヴァルのようなドワーフさえ、珍しい生き物のような扱いなんだって。じゃあ、メバルさんみたいに肌の色が青いのは?
つい視線が向いてしまう。
獣人以外の種族がわんさかいて、慣れっこなはずのク=タイスですら、当初は苦労したらしい、ってのは話の端々で聞いた。あからさまに異種、異族、って外見だものな……。
アタシが変装させてあげよっかな?
そこまで考えた時、火を起こしていたボリスが顔を上げて。
「そういう所へ行く用に、備えはあります。維持に魔力を使うので、人目がある場所でだけ使う予定ですよ。」
「魔力。ってーと、光の魔術とか?」
テイ=スロールって、魔術師ではあるけど、流派からして『大地』だし。今まで見た魔術も、地面やら壁面やらの変化が得意っぽいんだよな。
「先に言っておきます。僕は使えません。」
聞くより先にテイが否定したので。
「あれかな、神様の奇跡みたいな?」
と言ってみると、今度はメバルさんが首を振って、なんでも入る鞄をごそごそやると、小さな板を指でつまんで取り出した。
「これ、呪符。下宿の知り合いに、精霊使いがいる。魔力あげて、頼むと、持ってるとき、肌の色だけ変える。お願いして作ってもらった。」
「呪符って、すごく高いものじゃない?」
冒険者組合のざっくり買取価格で言うと、この小さい板に『何も入ってない』状態で、銀貨500枚は必要なはず。使い捨てでも300くらいはする。
「うん。作るの、≪深淵に眠る御方≫教会のお金で作った。異郷で伝道する司祭に必要、なのだ。問題のない出費。」
「んん? でも管理してるのはメバルさんだよね?」
「使うかどうかは、上のひとに許しをもらってから。メバルのお財布とは別。」
手元に置いてあるなら、勝手に使ってもバレないのでは、とか、いや神様パワーで分かっちゃうのかな? とか、色々疑問は沸いたけど。
メバルさんは呪符を鞄に押し込むと、騎獣の世話をしに行ってしまった。
手持ち、残り銀で4897(+12000)枚と銅0枚。
手持ち銀貨は、独立系農場で買ったぶんを皆で出したので、1枚だけ減ってます。
マーエが理解しづらかったのは、『支店のお金は、イコール、支店長のお金』という感覚が当然だから(当然使い込みとかありますが、バレるまでは、バレてないのです)。きちんと上司に報告して許可を得てから使用する『別のお財布』感覚のほうが、珍しい部類です。
お読みいただきありがとうございました。




