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残り銀貨500枚からの再スタート  作者: 切身魚/Kirimisakana
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荷車経験者の撃沈

手持ち、残り銀で4902(+12000)枚と銅0枚。

ビヌトゥアは騎獣の一種です。長い毛と太い足(6本)をした草食獣。毛は安物ですが、耐久力と力強さ、素直さで重宝される家畜です。

コッマエンはビヌトゥアより小柄で取り回しが楽な騎獣の一種、こちらも草食獣。耐久力はあまりなく、寒すぎる時も暑すぎる時も、自己判断で働かない強情っぱり。代わりに増やしやすく育てやすいです。

 夜明け前の鐘が鳴る前に、アタシはもう朝食(冷えたチャパティに、冷えた肉団子と、冷たい茹でナバナの葉を挟んで、酢とヒマナッツで調えたもの。要は作り置き)を食べ終え、『ふわゆる』の中庭にいた。

 たいまつを焚いてくれてるなか、6本脚のビヌトゥアが7頭、のそのそやってくる。アタシの目線の高さが、分厚い毛におおわれた肩のあたりにあって、鼻先から尻尾まではアタシが3人くらいか。

 首と、一対めの足の後ろから革の帯をかけて、毛布を敷いた上にさらに鞍をおいてるのが4頭。鞍なしが1頭。残りの2頭は、革帯をつけてるのは同じで、肩の上に木枠を渡してある。その木枠の両脇から、荷車まで長い柄が伸びて、引っ張るようになってる。木枠の内側は穴が開いてて、そこに紐を通してはみにつないである。

 護衛が鞍ありに乗って、残りメンバーが荷車に分乗する形な訳か。

 それで最初は、アタシが御者台に登った。実をいうとビヌトゥア乗った経験が無いから……。荷車なら、それこそ孤児院の農作業とかで沢山、乗ったり押したりした経験者だもんね。

 進め、止まれ、遅く、速く、そういう掛け声は、コッマエンとかと一緒だし。


 シジタさんが見送り(と騎獣や資材引き渡しの監督)にきてくれてた。御者台に登る前、アタシの方へ歩いてきて。


「弟夫婦の消息をつかんできてほしい。旅の無事を祈っている。」


 なんて答える……、どう答えたらいいだろう。

  

 頑張ります、じゃあ月並みだ。

 絶対助けたい、けど、確実とは言えないから、「最善を尽くします」かな?

 シジミさんはヒョウムのお姉さんだもん。血のつながりがある弟を探してほしい、無事でいて、って気持ちは、アタシがキマルに感じるのと同じはず。

 だったら、『最善』とかじゃ、足りない言葉な気がする。

 でもなんて言ったらいいんだ


「ありがとさん!」


 ヨアクルンヴァルが、兜の前のほうを開けて、にっこりしていた。


「無事でもそうじゃなくっても、一度連れ帰るか、ちゃんと消息が分かるようにするさね。じゃ、行ってくるよっ!」


 手を上げると、踵でビヌトゥアをそっと促す。つられてほかの騎獣も歩き出すので、アタシも手綱を握り、シジマさんには頭を下げて。

 シジリさんは、門の扉を閉めながらずっとこっちを見てた(気配でわかる)。

 うまく言えなかったけど、気持ちは伝わったと思いたい。



 それから約2刻。


 ガタガタする荷車なんて、慣れてるから大丈夫!


 ……とか、見得を切ってごめんなさい。

 や、ク=タイスの外周の門を出るまでは良かったんだよ。石畳だし。

 問題は、門を出た街道から始まった。

 孤児院で使ってた荷車は、


「がとん……ゴロゴロ……がとん……(たまに)ゴットン!……ゴロゴロ」


 って感じだったの。それがこの貸し出し荷車、


「ガッ!ズガガガガガンゴガン!ゴン!ゴドドドドドド!ガゴン!」


 なんだよ!

 

「尻が……尻に物理攻撃が来る……。」


 最初の休憩(日が昇ってから1刻くらい)で、降参宣言したよ!

 もう!

 情けないやら、恥ずかしいやらで泣きそうな気分だったけど、仲間は誰も馬鹿にしなかった。

 テイ=スロールは、


「同情します。御者を交替しましょうか?」


 って提案するし、ヨアクルンヴァルも、


「ビヌトゥアの走りのほうが、楽かも知れないねぇ。」


 とか言ってくれる横で。メバルさんは、小さい治癒の呪文で痛みを消してくれた。お尻が2倍くらいに腫れあがった感じだったのが、無視できる痛さになる。


「動きが少し鈍る、だけど、お尻だけにかけられる中ぐらいの防御の呪文、いるか?」

「なんで尻専用の防御呪文があるんすか。」


 思わず聞き返しちゃったところ、鎧の種類によっては、動きやすさ優先で尻まわりが薄い、無い、ってのがあって。でも防御自体は必要だって要望が、そういう神様の加護をお願いする呪文のバリエーションにつながったのだとか。


「ボリスとか、軽装の戦士は使うの嫌。マーエはどうする。」

「使います!」


 即答したさもちろん。

 呪文かけてもらう間、騎獣に上半身寄りかかってると、ボリスは荷車の台の下側あたりを覗き込んでた。

 そして何か納得したらしく頷いてる。


「台を吊ってもいないし、板バネ構造でもない。衝撃がそのまま座ってるところに来るようですね。車軸も一本の棒ですから、曲がるときはしっかりと減速してからでないと、横転しかねない。」

「詳しいなぁ」

「あ、まあ、知り合いにこういう乗り物を、や、乗り物に詳しいひとがいまして。」

「?」


 聞かれたくないこと、だったろうか。でも連続衝撃の理由は分かった。要はこの荷車、安物だってことだな。

 いいもん、防御呪文かけおわったから、もうへこたれないぞ!

手持ち、残り銀で4898(+12000)枚と銅0枚。

VOICEVOXで読み上げ確認しましたが、今どきの無料ツールは高機能ですねぇ。

手持ち銀貨は、朝食ぶんだけちょっと減ってます。旅の第一日目が始まりました。



お読みいただきありがとうございました。


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