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残り銀貨500枚からの再スタート  作者: 切身魚/Kirimisakana
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強者のしるし

手持ち、残り銀で4909(+12000)枚と銅0枚。

交易用の仕入れ、開始です。

 早速お買い物用に、借りた『なんでも入る袋(小)』を持っていくことになった。持つのはアタシとメバルさん。

 テイ=スロールが立ててくれた計画に従って、買う予定のものは盾2つ、乾燥野菜系を4包み。ショコア豆の生豆(焙煎はすぐ香りが飛ぶから、長距離運ぶときは生の方がいいんだって)をあと3種。それと、「持ち運びやすい、綺麗な布製品」をいくつか。


 昼ご飯を皆で食べて、最初はスロール商会おすすめの野菜卸商会に向かう。

 ≪豊饒の大地≫が肥料やら提供してるお付き合いで、品質を把握してる(強い)。何より仲間にスロール家のお坊ちゃん(長男ではないけど)がいるもんね(強いね)!

 てか、お坊ちゃんて柄でもないか。テイ=スロールは『迷宮』に何年も仲間とともに潜ってるプロ魔術師だもんな。

 なんで交易用に買うのが『乾燥野菜』かっていうと。

 冬でも野菜をうまく保存できるのは、雪が多い乾燥した土地くらいなもの。雪があまり降らなかったり、氷室をつくれるほど寒さがない土地だと、この季節は野菜が不足するのだ。さらに保存できても、秋の収穫物を工夫してたって、どうしても飽きがくる、でも春野菜にはまだ早い。

 だから野菜。そして、乾燥ものはかさばらないのがいい。

 野菜以外も不足するっちゃあするし、飢えのせいで酷いことをしなくちゃならない土地もあるっちゃああるけど。アタシらとしては、「食べるモノはもの足りないが銀貨ならある」ところに売りつける予定。ちょっと足りない、巡回の商人が持ってないような品ってこと。

 テイ=スロールが、主に西の方で採れにくいもの、と指定してくれたおかげで。若ナバナの乾燥葉を2包み。同じく、干した赤ソラナム、黄ソラナムで半分ずつまとめて1包み。

 それとカマリウの実の干したのを1包み……って、これはそのへんで売ってる乾物じゃないか。


「普通に売ってるものじゃ、売りにくくないかな?」


 と訊いたら、テイ=スロールが説明してくれた。これも価値がでるものなんだって。


「離れた土地では、距離に応じて高値がつく品です。西のほうでは栽培種になってないので。」


 そういうことで、お買い上げとなった。


 次に盾を買いに行ったのは、重装戦士の行きつけ工房。同じドワーフがやってるってところ。横の騎獣用鍛冶と同じ建物で、間口が広くなった店先は、丸太を組んで商品を陳列してある。開け放ってある引き戸や窓から、もうもうと湯気があがってて、金属と炭の燃える匂いが混じってる。

 丸太の脇から入ってすぐ、会計カウンターと、鎖と錠前のついたお高い品物の展示してある一角。奥には、精製済みの棒や四角の形をした金属や、モンスターの骨や皮革がずらっと箱と棚で区切られてる間を通っていく。

 そのせいで、一度に通れるのは大人が2人くらい。ヨアクルンヴァルさんは一人で幅いっぱいだった。奥の工房で見せてもらうのかな、って思いながらついてくと、


「こっちだよ。サムライの兄さんはもう着いてるはずさっ。」


 工房に入る手前の開いた戸をくぐって、中庭のほうに。

 空は曇ってて、薄っすら明るい。中庭は試し斬りとか、試合とかする用らしく、砂を敷いた一角があって。材木を組んだ柵や、藁を縄で巻いたものがあちこち立ってる。そこの真ん中に、オアイーナブスさんが居た。

 挨拶して聞いてみると。

 昨夜のご飯の時、オアイーナブスさんは、アタシのお返しを受け取るには受け取ったけど、やっぱ、


「たいした武者働きもしておらんのに銀貨をもらった」


 のが、気になってたんだって。そこでうちの重装戦士が、『盾に加工をするお手伝い』を頼んだそうな。

 けど加工って何するんだろう?  ここは鍛冶屋さんなんだし、特にサムライに頼むようなことなのかな。

 不思議に思ってたら、ヨアクルンヴァルが大きな……彼女の背丈からすると『大盾』というサイズの、古びた革張り鋲付き盾を2つ持ってきた。

 一つを地面に置き、もう一つを体の前で両手で構えて、


「アンタらはちょっと下がってな。」


 オアイーナブスさんも、コートを脱ぎながら頷く。


「皆、拙者の背後の方が良かろう。」


 コートを脇の柵に掛けて、ベルトをすこし緩めると、オアイーナブスはさらに袖のひらっとしたシャツの襟も緩めて、片方の肌をさらけ出した。

 この寒いのに! って震える思いがしたとたん、その腕は倍の太さにふくらんだ。同時に、皮膚が、真っ黒で、つやのある小石みたいなものに覆われて。

 あっそういや、額の生え際にも、同じような色のちいさい角が生えてたな。そういう獣人なの……かなって。推理が結論を出しかけたところで。もひとつ驚くことが。

 薄い光を反射するツメがね、こう、指より長いツメが伸びたのだ。

 軽く袖を引っ張る感覚で振り向くと、


「あのね。」


 と声を潜めるメバルさんが居た。


「オアイーナブスはね。『もうりん』の、龍種ルウォンチョンなの。ほかの人には、内緒にする。お願い。この姿、中間形態。怖がらないで。」

「……はい。」


 初めて、まともに見た龍種。中間形態なのか、これでも。

 これでも、というのがちょうどいい。だって、長い長ーいツメを開いた幅とかさ、本人の胴体くらいあるぞ。

 右半身だけを半龍化させると、オアイーナブスさんは無造作に腕を振った。振った先には、足を前後に開いて、盾を構えたヨアクルンヴァル。


 バシャアアアン!


 て音がしたけど、盾は砕け散ってなく、重装戦士もすぐ構えを解く。

 そして別の盾を構えて、もう一回、腕を振って。


「これだけで良いのか?」

「ああ、十分『強者のしるし』がついたよ。ありがとさん!」


 服を整えたサムライが尋ねると、重装戦士もにっこりした。


「『強者のしるし』って、その盾の傷のことですか?」


 アタシは我慢しきれなくなって、聞いてみると、「そうだよ」と、三本の傷が入った盾をヨアクルンヴァルが掲げて見せてくれる。鋲の一部がひしゃげ、張ってあった革は引きちぎられたようにズタズタ。その下の、すごく丈夫で知られるガヂイの板にも、深い溝が入ってて。

 竜種を知らない人が見たら、その傷は、飛竜ワイバーンか、そういうドラゴン系モンスターの爪痕にしか見えない。

 ヨアクルンヴァルは、傷の入った盾2つをメバルさんの袋に押し込みながら説明してくれた。


「こういう傷ありの品を、放牧地の境界とかに置いておくのさ。ドラゴンより弱い連中は、これを見るだけで近寄らないもんだ。」

「縄張りのしるしに見える、ってこと?」

「そーいうこと」


 防具としては古いから、原料代くらいの値段でしか取引できない。

 けど、そういう需要のあるところに売れば、もっといい値段になるというのが、


「買える余力がある、まだ持っていない、という縛りがあるからね。沢山は売れないと算段して、2つだけさっ。」


 ヨアクルンヴァルの説明だった。

手持ち、残り銀で4902(+12000)枚と銅0枚。

お昼ご飯代を払ったので、ちょっと減りました。引き続き仕入れパートです。

オアイーナブスさんは竜種ルウォンチョンと呼ばれる、獣人の中でも少数の種族。鱗色から墨鱗モウリンと呼ばれます。数が少ないというだけで色々危険なので、あまり大っぴらにはしません。


お読みいただきありがとうございました。

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