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私の素敵な旦那さま

作者: 織原深雪


 あらあら、私の旦那様。

 やっとお迎えに来てくれたんですか?


 旦那様が先立って、ずいぶんと経ちましたよ。

 おかげで私は、かなり長生きしたのかひ孫まで見たんですけれどね。


 それで、晩年とてもかわいい子が私と旦那様のお話を聞いてくれたんですよ。

 どんなご主人だったのですか?って聞かれてね。

 私と旦那様の馴れ初めを話すと、とっても驚いた顔をしてね。


 「そんなことが現実に! なんてロマンチックなんでしょう。物語みたいですね」


 そんな風に言ってくれて、少し照れつつも旦那様の事をお話しすると、楽しそうに聞いてくれたのよ。


 覚えているかしら?

 私にあなたが声をかけた時のことを……。



 ある日、その前に友人から紹介されて出会ったのが私の旦那様。

 旦那様はとにかく真面目な青年で口数も多くない人だったわね。


 そんな旦那様が、出会って数日後に会いにやってきたと思ったら直立不動でピッと佇むと私に向かって言ったのよね。


 「結婚してください」


 私、びっくりしたものよ。

 いきなりお付き合いでもなくて結婚してくださいって。


 でもね、真面目なこの人を見てたら私もつい「はい」って返事をしちゃったのよね。


 そう私が話すと、聞いてくれたかわいい子は微笑みながら言ってくれたの。


 「私さんがとっても素敵で旦那様は逃したくなくて、もう勢い余って結婚の申し込みだったんですね」


 って、おっしゃってたの。

 ねぇ、旦那様。そうだったの?


 あらあら、難しい顔をなさって。

 でも、その顔のときは照れ隠しだって知っていますよ。

 六十年、一緒だったのですもの。

 分かりますよ。


 それで、結婚して親のいない者同士だったから二人で何もないところから生活したこと。

 鍋だってなくて、仕事帰りに待ち合わせして食堂でご飯を食べていたこと。


 徐々に生活が整って、娘がようやく生まれたこと。


 娘も自分の伴侶を得てからは二人で猫を愛でて暮らしたこと。


 そんな娘が孫と婿殿を連れて帰ってきて賑やかになった晩年。


 旦那様を見送った後は、趣味で近所の子どもたちに書道を教えて。

 わが子は一人だけれど、たくさんの子どもたちを見守ったわね。


 子どものころは、それこそ戦時中で貧しい日々を育ての親に恵まれて過ごした。

 昔の思い出もキラキラしていて、苦労はあっても楽しかったことをよく覚えているわ。

 兄が呼んでくれたこの地で、旦那様にも出会えて。

 わが子にも孫にも、ひ孫にも恵まれて、幸せだわね。


 「それじゃあ、君はもうしばらく見ておいでよ。もう少ししたら迎えに行くから」


 まぁ、旦那様。

 やっと来てくれたと思ったのに、まだなんですか?

 私、とってもいい歳になったと思いますのに。


 まぁ、もう少ししたらお迎えに来てくださるなら、もう少し過ごしてみましょうかね。



 「私の素敵な旦那様。必ず迎えに来てくださいよ」



 寝起きに、そんなことをつぶやく私を、娘が心配そうに見つめていたので私は微笑んで言った。


 「ふふ。夢枕にお父さんが立ったんだけれどね、もう少ししたら迎えに行くけど、まだもう少しこっちで過ごしなさいって。お父さん、勝手よねぇ」


 そんな私の言葉に、娘は少し笑って言った。


 「しょうがないわね。お父さん、お母さんが好きなはずなのに。きっとまだこっちでやることがあるのよ。お迎えまで元気に過ごしてちょうだい」



 そうねぇ、そうしましょうか。

 今日のお話も、あの子は聞いてくれるかしら?


 あぁ、こうしてまだ楽しんでいる私に旦那様は気づいたのね。


 「きっと、ですからね。約束ですよ、旦那様」



 私は今日も、のんびりと一日を始めるのだった。





お読みいただきありがとうございました。

このお話は、本当にあった素敵な出会いのお話から掌編にさせていただきました。

短くまとめましたが、素敵なお話を聞かせてくださった方への感謝を込めて。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 企画からお邪魔しました。 子どもたちとの関係からも、私さんの人柄の良さが分かりました。旦那様も素敵な人なんだろうな。 片方が亡くなっている老夫婦の関係が好みでした。 ありがとうございました…
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