その３
クラスに入るとみんなが集まって来た。
「魔王を封印しに行くんだってな！俺も行こうか？」
「あんたは冒険者ギルドでもっと鍛えなさいよ。私がついてくよ！」
「お前は出会いを求めているだけだろ？」
「……あはは。みんなおはよ。激励してくれてるの？」
「そうだよ。ミカはみんなのために旅立つんだよ？
悲しむフリくらいしなよ」
「ミカゲ～」
「てへ。冗談だって」
ぺろっと舌を出しておどけるミカゲは、悲しい雰囲気にならないようにしているのだ。
みんなだってホントはそうなの……かな？
苦笑しつつも自分の席へ。
「ミカ。ミカゲ、おはよう」
「ユウ、おはよ」
「うん、おはよ」
隣の席のユージーンだ。イケメンだけどそれを鼻にかけない良い奴だ。密かに好きだったりする。
ミカゲも好きなので遠慮してるとこはある。
そしてライバルが多いのでなにも出来ない。
それにフラれるのは怖いけどね。いつも爽やかだな。
「ホントに旅に出るのか？」
「うんまあ。そう言う家系らしいので」
「そうか。寂しくなるな」
「え」
それってどういう意味だろうか？もしかしてユウくん私のこと……いやいやいや。どんな思い上がりだよ。
「ほら。俺、ミカゲと付き合うことになっただろ？」
「は？」
「だからみんなで遊びに行けないのは寂しいよな」
は？なに照れながら言ってんのこの男は！
「ち、ちょっと。それまだ話してないんだよ」
ミカゲが慌てる。ええ。聞いてませんけどね。まさかの裏切り。
その場にいたくなくて教室を出る。
「ミカ？」
ミカゲの声が背中からきこえるけど無視して走る。
なんか。ついてない日なのかな～？
「ちょっと。授業サボっていいの」
「………」
先ほどから屋上でボケっとしてる。はぁ。天気いいな。
「ほら。恋愛ごとき魔王に比べたら大したことないわよ」
「じゃあ。ともしびちゃんだけ行けば～？」
大体なんで私がそんなことしないと行けないのか。
あ～あ。光の巫女サボって海にでも行こっかな～。
「うけけけけけけけけ！」
「…………」
「うけけけけけけけけけ！見つけたぞ、光の巫女よ！」
なんか。鶏みたいな魔物が喋ってるよ。なにこいつ。見たことない魔物だね。
「私は光の巫女ではないです」
「え？いや、そんなことないだろ？その身に纏うオーラは確かに光の巫女！」
「今日は休みです～」
慌てる鶏魔物にそう言うものの納得はしてくれないみたい。
「あなたは風のウコッケイ！」
「うけけけけ！やはりともしびちゃんがいるではないか！なれば今回は貴様が光の巫女だな！」
「はぁ。めんどくさい。今こっちは失恋したばっかだから～。ほっといてほしいんだけど」
全くやる気出ない。鶏魔物め。
「やる気が出ないだと！これならどうだ！」
羽ばたいて羽根を飛ばすと学園のガラスがいくつも割れる。
生徒たちの悲鳴が上がる。
「あんたなにやってるの！」
「うけけけけけけ！どうだ怒れっ！？」
吹き飛ぶウコッケイ。伸縮自在の光の棍で叩いたのだ。
「ば、ばかな～！？この風のウコッケイを一撃でこれほどのダメージを与えるだとぉ！？」
ふふん。今日の私の魔力は絶好調だからね。
「風のウコッケイともあろうものが大したことないわね」
「ともしびちゃんこいつのこと知ってるの？」
「まあね。魔王軍の将軍の切り込み隊長だよ」
「ええ？それでこんなに弱いの？」
「あなたが今、光の魔力で溢れているのと失恋が力に変わってるからね～」
そうなのか。じゃあフラれてよか……ないよ！
しかしこの怒りをこいつにぶつけるのはありだよね。
のんびりと、へこませてもくれないなんて。
「おのれぇぇぇぇ！風のウコッケイをナメるなよぉぉぉぉ！」
「あ、こいつJKを舐めるなんて変態なんだ～！」
「やかましい！玉ころがぁ！」
茶化すともしびちゃんもカウンターを食らっている。
ウコッケイは怒って風の魔法を飛ばしてくる。
「向かい風って腹立つ～」
「ちょっと！制服気に入ってるんだから、切り裂かないよね！」
風の魔力で学園はめちゃくちゃ。綺麗な庭も壊されて植木鉢が飛んでいく。
「うけけけけけけ！見ろっ！風のウコッケイの秘技を！」
うわっ！中二病だ。どうしよ。
くるくると回転して突進してきた！
なんとか棍で弾くも吹き飛ばされる私。吹き飛ぶJKは私くらいだろう。
めちゃくちゃ腕が痺れる。あいつ。
「ちょっと～！ともしびちゃんなんとかして～！」
「大丈夫よ。あなたにはありあまる魔力があるんだから！」
呑気に私を見守ってるよ。もうどうしてこんなことに！
失恋したんだからのんびり休ませろ！
つづく
