その2
「さあ。これを来なさい」
母が差し出したのはどう見てもただのパーカー。水色の綺麗なのだけど。
でもどこか不思議な力を感じる。
「これは?」
「光のローブよ」
「いやいや。ただのパーカーだよ」
「いいから着ろっての!」
ともしびちゃんまでもそう言うので着てみる。
うん。ぶかぶかだ。サイズが合わなくて手が隠れちゃう。
「ぶかぶかだろ?それが良いって言う男は多いな」
「お父さん、キモい」
いつの間に部屋に入って来たんだよ。
「がーん」
がっくりくる父はいいとして母を見る。
「これはね。光の魔力を溜め込んでるからぶかぶかなのよ」
「なにそれ?へん」
「魔法を使うとジャストサイズになるのよ」
「そして。自然の魔力を取り込んでまたぶかぶかになっていくの」
「不自由なんだけど~」
「あなたの今の状況みたいね」
「他人事に言うな!」
私とともしびちゃんが言い合っていると不意に母に抱きしめられた。
「ごめんね。こんなことさせて」不意に母が抱きしめた。恥ずかしいよ。
「お母さん?」
「分かってとは言わないけど。世界のためにお願い」
「……いや。私はみんなのために行くよ」
ホントに行きたくはない。花の学生生活をしていたい。
でもなぁ~。うちの家系じゃしょうがないよね。
まあ、帰ったら欲しいものくらいは買ってもらおう。
「さあ。今度はお父さんの胸に飛び込んで来い!」
「ありがとうお母さん。突然の展開に戸惑ってるけど行ってみるよ」
「そう?嬉しいわ」
「でも、この国の領主様にはちゃんと言っといてね?」
「なにを?」
「女の子に頼らないで自分で魔王を倒してって」
「そ、そうね。それが普通よね。お母さんハッとしたわ」
今?もっと前から気づいてよ。むしろこの世界の勇者とかろくなことしないから、私のような光の巫女が誕生したのかも知れない。
「じゃあ明日でもいい?」
「いいわ。みんなを呼んで旅立ちの無事を祈りましょう」
母がそう言ってくれるけど、よく考えたらこれって生きて帰れるか分からないんだよね。
制服を着て出かける準備をする。
鏡を見て確認する。よし。いつもの私だ。寝癖もオッケー。
「行ってきま~す」
しばらく学校行けないんだもん。ちゃんと行っとかないとね。
近所のおじさんやおばさんにあいさつして歩く。
「ミカちゃんおはようさん。リンゴ持ってけ」
市場ではおじさんやおばさんが挨拶してくる。
「ありがとうございます!」
「なに言ってんの!あんたのお陰で魔物の被害も少ないんだからありがたいこった」
「そんなことないです。冒険者の方々のお陰ですよ!」
「そうよ。そのとおり!」
「ともしびちゃんうるさい」
二人のやり取りを見ておばさんは懐かしむようにともしびちゃんを見る。
「あら、ともしびちゃんじゃないの!私がぴちぴちの頃以来ね~」
「そっか。お母さんの時のことですか~?」
「そうそう。あんたのお母さんも魔王を封印しに行ったのよ」
そして懐かしむように空を見上げる。
なんで空を見てるのか分からないけど今日も良い天気だ。
「あなたもぴちぴちな頃ってあったんだね~」
「と、ともしびちゃん!」
「アハハ!口が悪いのも相変わらずだね!ひひひ!」
おばさんがなぜかツボッたのか笑っている。
この人笑い上戸だった。笑い袋より笑うんだ。
「おはよう!ミカゲ」
「おはよ、ミカ」
学園が見えてくるとクラスメイトもいるので挨拶する。
「えと?その玉みたいのなに?」
「あたし?あたしはともしびちゃん。光の神器だよ」
「ああ。そかそか。ミカは光の巫女だもんねー」
「嫌なもんですよ」
ミカゲは小さい頃からの幼馴染み。てか学園は一つしかないから、学園通う人とは小さい頃から知り合いだったりする。
普通科から剣士科や魔法科などあってスキルによってみんな入る科が違う。
私は光の巫女としてのユニークスキルがあるので前衛と後衛どちらも戦える。
ミカゲは魔法科。たまに合同訓練の時は一緒に組んだりする。
そして男子に人気があるのだよ。さらさらの綺麗な黒髪。小柄ながら出るとこ出てるので男子にコクられてはカウンターで轟沈させている。
「あれ?もしかして魔王が復活したってこと!?」
「そうすねー。ミカ=ハシマは明日旅立ちますから」
「そそ、そんな!ミカがいないと寂しいし、恋のライバルとしてもバトルできないじゃん!」
ともしびちゃんを鷲掴みしつつ私に迫ってくる。
「ミカゲ、こ、声がおっきいよ!」
「そんなこと些細なことよ!どーすんの!」
お互い同じ人が好き。でもそれは今はいい。
お互い抜け駆けはしないって約束してるから。
周りがざわついている。そりゃあ、魔王が復活したら不安になるよね?あれ?
「なんだ。また魔王かよ~!」
「そうよね。復活ばかりでしつこいのは一途とは違うよ~」
「つ~か、俺が倒しに行けば英雄になれる?」
「いやいや、勇者とかなら任せればいいよ~。
ミカちゃんも無理して行くことないって!」
「あはは。そうなんだけどね」
光の巫女は有名なので学園の生徒に話しかけられることはよくあるよ。
でも勇者か~。あいつは駄目だ。会ったことないけど噂ではよく聞く。
それよか魔王なんてとっとととっちめて学園生活を楽しもうっと。
つづく