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死んだら逆行しました。絶対最愛の人を生かします!

作者: 峰風猫

誤字脱字があったら教えてください。お願いします。(´・_・`)



注・中途半端なところで終わっています。こんなの短編じゃない! と思う方はご自衛ください。

ある、ありふれた昼下がり。今日もわたしは最愛の人に愛を叫ぶ。


「アレクシス様、愛してます!」

「………」

「今日も格好いいですね」

「………」

「きゃあ、冷たい態度も素敵!」

「…………、…はぁ」

「キャーッ、溜め息すらも格好いいですっ!」

「……………………」


それは、全くスルーされているのだけれど。

今度こそ無言になってしまった最愛の人ことアレクシス様を、斜め後ろに引っ付きながらうっとりねっとり眺める。


アレクシス・ハイドリヒ。名家ハイドリヒ家の次男で、容姿端麗頭脳明晰なハイスペックイケメン様。

わたしの、誰よりも愛する人。

絶賛片思い中なのである。


ここでわたしの自己紹介を挟ませてもらう。ディアナ・ホフマン。ホフマン魔法伯家長女で、容姿は10人中8人が可愛いね、と言うような上の中の可愛い系女子。頭はそんなに賢い方ではない。この世は不条理なのである。


愛する人に嫌われていても、馬鹿正直に愛を叫ぶしか脳のない残念な頭をしているわたしであるが、成績は特別クラスの中辺りをフラフラしている。

特別クラスとは、わたしたちが現在通っている魔術学園の、成績上位の人が在席するクラスのこと。アレクシス様もいるクラスだ。そのクラスの真ん中というのは、中々良い成績、ということなのである。えっへん。

————それは、生活を削ってまでも勉強をしているわたしの努力によって成り立っているもの。少しでもだらけたら、成績が転落することだろう。

それは困るので、あまり回らない頭に知識を詰め込むため、自由時間を潰してまでも他の人の倍勉強に打ち込んでいる。地頭はよくないが、コツコツ詰め込むのは苦手ではない。

わたしは努力の天才なのだと、師匠が褒めてくれた。

いや、今はそんなことはどうでもよくて。


半歩横にズレて、角度の違うアレクシス様の横顔を堪能する。

あはん、この角度のアレクシス様もす・て・き♡


「あはは、またやってるー」

「…ベルン」

「あ~、ベルンハルト様。こんにちは」

「こんにちはー、ディアナちゃん」


ケラケラと笑ってひょこっと後ろから現れたその人は、アレクシス様の幼馴染みの親友ベルンハルト・バックハウス様。

これまたアレクシス様の中性的な容姿とはまた違う美しさを具現化したハンサム様である。眼 福☆

勿論アレクシス様と同じ特別クラスの人。つまり賢い。


「お菓子いりますか?」

「いるー」


中々どころではなく背が高い人で、155cmギリないわたしは彼の顔を見るには首が痛い程見上げなくてはいけないのだが、ベルンハルトは人懐っこい犬のような笑顔でわたしの視線まで身を屈めてくれるので、その端整なかんばせをわたしは好きなだけ観賞することができる。

わたしが取り出したクッキーからチョコクッキーを選び取ったベルンハルト様———甘党なのである———が、それを口にぽいっと放り、無表情のアレクシス様の肩に腕を回す。


「なーなー、アレクぅー」

「…なんだ」

「こんな可愛くて良い子なんだからさぁ、ちょっとくらい受け入れてあげたらあ?」


ニヤニヤと人の悪い笑みでわたしを押してくれるベルンハルト様に感謝の念を送り、ついでにもっと言って!と。ベルンハルト様は、何故かわたしに好意的なのである。

バチーンと、アレクシス様に見えない角度でウィンクをしてサムズアップしてくるベルンハルト様。一生付いて行きますぅ!


「調子に乗るから駄目だ」


はい、絶賛調子に乗っています。

流石アレクシス様よくわたしのことを分かってらっしゃる!

冷たい拒絶の言葉すらポジティブに受け取ってうっとりするわたしに、ベルンハルト様が苦笑いを滲ませて、変わんないねー、と。


「えっへへーポジティブなのがわたしの取り柄ですから」

「そんな取り柄なくなってしまえ」

「ベルンハルト様! 今の聞きました? アレクシス様がわたしに言葉をくれましたよ!」

「あはは、聞こえたよ~」


キャアー! と紅潮する頬を押さえて感動の共有を求めると、良かったねぇ、とベルンハルト様がにこやかにわたしの頭を撫でる。

そんなわたしたちをアレクシス様が氷点下の視線で一瞥して、1人スタスタ行ってしまう。


「あぁ~、アレク待って」

「では、わたしは戻りますね。良い休み時間を~」

「うん、またね」


大人げないスピードで去っていったアレクシス様と、アレクシス様を慌ただしく追いかけて行ったベルンハルト様を、手を軽く振って見送り今まで歩いて来ていた道を逆戻りして図書館へ向かう。勉強をするために。

休み時間すら休めず勉強漬け。なにやら目から汗が出てくるような気がしないでもないが、これがわたしの選んだ道だ。


何をしてでも、最愛の人(アレク)を殺させないと、そう決めたのだから。




始まりは、今から10年前の、わたしが5歳の時。

なんでもないようなありふれたある日、ビシャーンと雷が落ちたような衝撃を受けて、わたしは思い出したのだ。当時から、13年後までの記憶を。

わたしは13年後無残に殺される。復活した伝説の邪竜によって。

恋人(アレク)も、ベルンも、わたしの友人たちも。全て殺された。

所謂、時戻りをしたのである。ちなみにわたし以外に記憶保持者はいないもよう。なんてハードモード。


—————そう、『前回』では、わたしはアレクシス様の恋人だった。

わたしはともかく、最愛の人(アレク)を殺させてたまるかああ!! ということで、記憶を思い出した時から現在に至るまで全力で解決策を実行しているのである。勉強漬けもその1つ。

頭の足りないわたしがアレクシス様と同じ特別クラスにいるには勉強漬けする必要があるのだ。わたしは既に10年物のお漬物である。


邪竜は、わたしたちを殺す時にマーキングをした。心臓に、呪いの釘を打ったのだ。

“次の時”でわたしたちを確実に食らう為に。

次の時とは、『今回』のこと。邪竜は時戻りができるのだ。そうやって、マーキングした獲物を補食する。

呪いの釘を打たれたのは、わたしとアレク。本命は勇者の血を引くアレクで、運命の相手(キャー!)たるわたしもついでにロックオンされている。なんたる理不尽。でもそのおかげでこうして対策をとれているんたけどね。


何故かわたしは『前回』の記憶を保持したままだ。唯一わたしが『前回』の記憶を暴露した師匠によると、わたしが魔法的影響を受けにくい体質だから、なんだとか。色々説明してくれたのだが、難しくて全く分かりませんでした。すみません、おつむが弱いもので。


多分、師匠の庇護下引き込もっていれば、わたしは助かる。師匠はそれだけ強い人だから。

でもそれだとアレクが食べられて、アレクの魔力を吸収した邪竜が強化されてしまう。そうなれば、学園が崩壊するのは免れないし、その他にも被害が届くかもしれない。なによりわたしのアレクが死んでしまう。

それだけはああぁあっっっ、という感じなので、わたしは『前回』の記憶を思い出した幼少の頃から死にもの狂いで対抗力を着けてきた。


当のアレクシス様は、わたしを一切覚えていないからか、前回ならありえない程わたしを嫌っているのだけど。

否、理由は明確。初対面にぶっ飛ばし過ぎました。反省しております。

いやだってさぁ、9年ぶりに対面したんだもん。アレクが女性嫌いだったのを、記憶の片隅に押し込み、突撃した結果だ。

もしかしたら—————なんて淡い希望が木っ端微塵になりましたとも。



ずくん、と心臓が波打つ。

アレクシス様のことを思っての痛みではない。わたしを蝕む呪いの幻痛。

心臓を誰かに揺さぶられるような苦痛に、初期より遥かに熱と痛みを孕む胸にそっと手を当て、僅かに目を細める。

良い感じに育ってるなぁ、と。アレク…いやアレクシス様の呪いを吸い、膨らんだ呪いの釘を思い浮かべながら、苦痛を逃がすようにそっと息を吐く。

このままアレクシス様の呪いを吸い続けていれば、邪竜のマーキングは完全にわたしに移る。邪竜が襲うのはわたしだけになるのだ。その時は、邪竜を倒しやすい所までわたしを囮に誘導すれば、きっと師匠が倒してくれる。師匠が来るまでわたしが生きてるか疑問だけどね。


絶対に、今度こそ。殺させません。

愛しい人(アレク)





日差しが若干弱くなり、あまり薄着は出来なくなってきた、秋の訪れを感じる時期。

東の山に住み着いた竜の群れを討伐した騎士団が帰還したと、王都はお祭り騒ぎになっている。魔術学園も例外ではなく、貴族の学園だけあって馬鹿騒ぎはしていないが、浮わついた雰囲気が漂っている。


わたしはそれを他人事のように静観しながら、今日も今日とて図書館で勉強漬けである。アレクに会いたい…。

竜の群れが討伐されるのは分かり切っていたことだ。前回だってそうだったし、討伐に向かった騎士団の団長はわたしのお師匠様なのだ。あの人直々に向かって討伐が成されないなどあり得ない。

あぁ、人間って何かあれば騒ぎたい生き物なんだなぁ、と思うだけだ。我ながら冷めた人間になったものだ。『前』はこうじゃなかったんだけどなぁ。

『前回』では師匠とは他人だったし、普通に竜の群れのことを不安に思っていたし、討伐されたと聞いた時はホッとして、騎士団の帰還の時は皆とソワソワしていた。

本当に、普通の学生だった。

ああ、なんでこうなったかなぁ、と。ありもしない『昔』を懐かしむ。


思い浮かんだ思考を振り払って、手元の本に視線を戻した。

興味はないが、帰還パレードに顔出せと言われているため、わたしは何が何でも課題を終わらせねばならない。すっぽかしたら師匠にアイアンクローされる、とフンスと気合を入れてペンを握り直した。



帰還パレードで学生たちが授業どころではなくなったため、解放された学生たちで賑わう学園を目下に、わたしは学園の屋根に上がり王都を眺めていた。なんとか課題を終わらせ、抜け出して来たのである。怒られたくないもん。————いや、これはこれで怒られることなんだけど。

『前回』のわたしならこんなこと———屋根の上に登ったり、抜け出して来たり————絶対やらなかった。アレクシス様も、こんなじゃじゃ馬なんか好きになってくれないよなぁ、と。『前回』のわたしとの差異を思って1人落ち込む。

『前回』のわたしは、気弱でちょっと馬鹿な普通の女の子だった。そんなわたしが好きだと、可愛いと、恋人(アレク)は言ってくれた。

『今』のわたしは、『前回』のわたしとは全く違う。

これが、わたしが選んだ道なのだから、しょぼくれてどうするんだと自分を鼓舞する。


そうして人で埋まった城下町の大通りを、頬杖を突きながらぼんやり遠目に眺めていると、ふと誰かが屋根上まで近付いてきた気配を感じた。パチパチと目を瞬き、後ろに顔を向けていると、聞き慣れた声が聞こえてくる。


「おい、これのどこが良い場所だアホ」

「あっはは、ホントに良い眺めなんだって~」


アレクシス様とベルンハルト様だ。

2人もやんちゃなことをするんだー、と自分のことは棚に上げてそんなことを思う。

そんな2人を上から見下ろしていると、ふと顔を上げたベルンハルト様とバッチリ目が合った。


「………」

「…………」

「?ベルン、どうし、」


無言で見つめあっていると、アレクシス様にも気付かれてしまった。てへ☆ いや隠れる気はなかったんだけど。


「あー…えー、ディアナちゃんもこーゆーことするんだね? ビックリ」

「もっちろんですよー。息抜きは大事ですから」


訳、いつもこう言うことをしてます。

本当にたまになんだけどね。時間がないから。


「へぇー…そうなんだ。意外」

「え、そうですか?」

「なんかそうじゃん? アレクのことになるとあれだけど、基本的に真面目な感じでしょ」

「あー、そうかもしれないですね」


アレクシス様のことには大袈裟というか敏感というか、そんな感じだけど、それ以外のことは比較的真面目に生きている。

だって、目くじら立てられて時間を無駄にする訳にはいかないから。結局アレクシス様のことだったわ。

不機嫌そうに黙りこんでしまったアレクシス様を連れて、ベルンハルト様がわたしのところまでニコニコと上がって来る。


「ディアナちゃんも気になるの? あんまりそんな感じしなかったけど」

「うーん、興味はあんまりないです。でも、パレードを見るように言われているので…」

「言われてるって、誰に……」


わたしの横に座ったベルンハルト様が喋っている最中に、わっと人々がここまで届くような声を上げる。騎士団が、大通りまで来たようだ。ここでこの騒音なのだから、下にいたら鼓膜がやられそう、とか下らないことを取り留めなく考える。

座っているわたしと丁度同じ目線のアレクシス様とベルンハルト様から視線を逸らして、騎乗した騎士たちの先頭をじっと見つめる。

————いた。


「あそこに、あの先頭にいる人が、わたしのお師匠様なんです。あの人に帰還を見るように言われてるんですよ」

「…先頭って、ヘンリック・アーベライン?」

「はい。おっかない人でですねー、約束を破ったらどうなることか。本当に思い出して良かった」


もしかしたら、公衆の面前で叩きのめされる可能性もなきにしもあらず。

すっかり忘れてまして、と説明するわたしを2人が瞠目して見つめる。


「え…、ディアナちゃんのお師匠様ってアーベライン団長なの?」

「はい。5歳くらいのときに魔力暴走を起こしかけまして、魔力の扱いを覚えるためにヘンリック様に師事させてもらっています。今もずるずると師弟関係を続けてますけど」


ヘンリック・アーベラインことわたしの師匠は、生きる伝説とも言われるすんごい人。

まだわたしが会った時はそうは言われてはいなかったが、それでも文武両道の魔法の天才と噂されるような人である。


魔力暴走と説明したが、わたしがヘンリック様に会うことになったのは、わたしの胸に刺さる呪いの釘のこと。魔法伯のお父様ですら解読できないような強力な呪いで、それはもう大騒ぎだった。まあ邪竜の呪いですから、と一回死んで無駄に胆が据わったわたし自身は案外けろっとしていたものだが、死の呪いだったこともあり、紆余曲折あって魔法の天才ヘンリック様の元で暮らすこととなった。

ずるずるというのも、わたしの呪いが解呪できていないからである。


当時の彼は、まだ伝説とはなってはいない若いヘンリック様なのだが、わたしは彼が国を救うことになる人だと知っている訳で、それはもうおっかなびっくり接していたものだ。彼が無表情で無愛想なのも余計怖かった。今では結構懐いてるけど。


火魔術を飛ばせ、と指示を受けていたわたしは手元に基礎の魔術式を構築する。

わたしの魔術の適性は水。つまり正反対の火はとてつもなく苦手な魔術なのだが、やれと言われたならやるしかない。師匠は容赦がないのである。

基礎の魔術式に必要な術式を書き足して魔術陣の形にしていく、のだが。これがまた癖ある作業で、適性のない人がやるにはとっっっても大変なのだ。

暴れるとしか言い様がない魔術式を無理矢理抑えこみ、ギリギリ歪む術式を正常な形に矯正しながら術式を書きこんでいく。

あうちっ。崩れたああ! あああ、待って待って連鎖しないでっ!?。

下手くそな構築を見せて、恥ずかしいやら申し訳ないやら。少しはできるところも見せたい気持ちもあって、ひいひい言いながら魔術式を組んでいくわたしの手元を、ベルンハルト様が覗く。


「んーと、花火、みたいな魔術?」

「えーえー…そうです。それを元に鳥を象って、ヘンリック様の所まで飛ばす、つもりなんですけど…」


見ただけでわかるなんて、流石ベルンハルト様————————

って、あああああ、また崩れた!

うわあ、これできるかなあ…。いや、ヘンリック様にやれと言われたのだから、できるかじゃなくてやらないと。お仕置きが待ってる。


あうあうと情けない声をもらしながらなんとか完成した魔術陣を眺め、歪んでるなあ…と。


「下手くそ」


うぐっ。いつもならポジティブに受け止めるアレクシス様の冷たい言葉が、グサッとブスッと心臓ハートに刺さる。

えぇ、えぇ、分かってますよ。下っ手くそですよね、この魔術陣。作り手のわたしが一番分かってますとも。でも結構頑張って作ったんですよぉ…。(コンプレックス)


「まーまー、ディアナちゃん火の適性持ってないんでしょ? それなら十分だよ」


珍しく沈んでいるわたしをベルンハルト様が慰めてくれる。おぉう、傷心に沁みて痛いくらいです。

その言葉で一瞬で復活したわたしを、アレクシス様がほら見たことか、と白けた目を向ける。

はぅっ、わたしは今、アレクシス様に視線を向けてもらっているっ! 鼻血出そう。


————まぁ、おふざけはここらでストップして、完成した魔術陣を起動させる。

ボゥっと火が灯った魔術陣が収縮して、次に小さな魔術陣から炎がブワッと溢れる。それは馬ほどの大きさで止まり、炎が鳥の姿を象って翼を広げる。

ふわりと鳥の輪郭が揺れて、炎の魔術が鳥の姿に見えない程の一瞬で、空高くまで昇る。魔術学園の塔よりもっともっと高く昇り、鳥の姿に戻った魔術が陸と平行になって、炎の筋を空に残して大通りまで翼を羽ばたき飛んで行った。

炎の鳥は火花を散らしながらくるくると騎士団一行の上空を舞うように蛇行して大通りを飛ぶ。そして大通りを一周した炎の鳥は体を小さくして一行の先頭…ヘンリック様の腕にちょんと止まった。


遠視の魔術でヘンリック様の腕に止まったのを確認して、ほっと息を吐く。

よっし、一応成功! 不恰好だけど、近くで見ないと分かんない程度だろう。合格点、の筈。多分、きっと、怒られない、と思う。


「…すごいね、適性ないのにこれだけできるなんて」

「ありがとうございます。師匠がスパルタなおかげです」


驚きに目を見張るベルンハルト様の、若干呆然とした褒め言葉に、ヘンリック様を上げたいのか下げたいのかという返事をする。

ヘンリック様のせいで感覚が麻痺しているが、適性のない属性の上級魔術を発動できるのは普通ではない。

花火の魔術は中級魔術だが、鳥の姿で本物の生き物のように動かすのは上級魔術。結構凄いことをわたしはやったのだ。えっへん。


「お前は、初級の攻撃魔術すらできていなかった記憶があるが」


大通りの方に顔を向けて、こちらをチラリとも見ずにアレクシス様が独り言のように呟いた。

それがわたしのことだと直ぐに理解できず、パチパチと瞬きを繰り返す。

……今、アレクシス様がわたしに話しかけてる、…のか、な?

えっ!!!


「え、えぇっと、その、攻撃魔術は、壊滅的に不得意なので、」

「そうか」


あわわわ、と動揺を顕につっかえながら返答をすれば、素っ気ない返答が1つ。

視界の端の端の方で、赤い炎が掻き消えた。わたしの精神が乱されたため魔術が崩壊したのである。

興奮をそのままに、隣に座るのほほんと微笑むベルンハルト様の腕に抱きつくようにして掴みかかる。


「べ、べ、ベルンハルト様、今の聞きました!? アレクシス様がわたしの情報を記憶しているって言ってましたよね!?」

「アレク、記憶力いーからねぇ」

「わたしに質問もしてきましたよ。これはわたしに興味があるということですよね。ハッ、もしやアレクシス様がわたしのことを好きになる日もそんなに遠くない!?」

「黙れこの妄想女」


ドスのきいたイケヴォが飛んできたので、おふざけを止めて大人しくお口をチャックする。

パレードに興味はないので、ニコニコと王都を眺めるアレクシス様だけを見つめる。


目を細めると、アレクシス様にまとわりついている黒い靄が視えた。邪竜の呪いだ。きっと、今のわたしはもっと凄いことになっているのだろう。自分の呪いは可視化できないのは幸いだ。

静かに深呼吸をするようにして、アレクシス様の呪いを自らの体に招く。元々同質の呪いは直ぐに混ざり、1つの呪いとなった。

こうして、少しずつアレクシス様の呪いを吸収してきた。昔より体が楽になっていることだろう。それに比例してアレクシス様の呪いがわたしの体を蝕んでいるが。


貴方(アレク)のためなら、なんだって。

わたしの全てを捧げます。きっと、今の貴方には、迷惑なだけなのかもしれないけれど。

わたしは、どうしても貴方に生きて欲しい。わたしの命が犠牲になったとしても。

だから、まあ、わたしが嫌われているこの状況は、とても悲しくは思うが、少し都合が良かったりする。わたしのせいでアレクシス様が悲しむのは嫌だから。

なので、わたしは貴方の嫌いな、自分に一方的に愛を押し付ける女を演じる。嘘ではない。わたしがアレクシス様を大好きなのは本当なのだから。

わたしが本当に愛しているのは、『前回』の“アレク”なのかもしれないけれど。


愛してます。わたしの最愛。わたしの恋人。




邪竜が復活するまで、あと2年——————









 ディアナ・ホフマン

ホフマン魔法伯家長女。特別クラス。アレクシス大好き。逆行して、呪いの釘に蝕まれながらも、最愛の人の呪いを吸収している。可愛い系。女子平均身長より低め。


 アレクシス・ハイドリヒ

名家ハイドリヒ家の次男。ハイスペックイケメン。女嫌い。生まれつき呪われており、《アレク》より大変な人生を送っている。そのせいで色々あり、《アレク》より女嫌いが悪化している。中性的な容姿。


 アレク

『前回』のアレクシス。ディアナの恋人。ディアナを溺愛していた。復活した邪竜に心臓を抉り取られた。


 ベルンハルト・バックハウス

超身長が高い。甘党。アレクシスの親友。ディアナを気に入っている。ハンサム。



 ヘンリック・アーベライン

ディアナの師匠兼監視役。魔術騎士団団長。生きる伝説。国を救ったらしい。10年前からディアナの呪いを解呪しようとしてくれている。文武両道で、魔法の天才。勿の論イケメン。ディアナにも容赦ない。儚い系。見た目に反して全く儚くない人。20代前半くらいに見えるが、アラサーのおじさん。




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