episode3 『抜剣』
ここから畳み掛けるように本作の独自要素が溢れてきます……笑
それではどうぞ
胸元の箱からは莫大な情報が流れでて、劉備を奇妙な程に冴えさせる。
整った呼吸で彼は叫んだ
「……抜剣!」
箱折りたたまれるかのように姿を消し、その刹那、閃光が一面に走ったかと思うと、劉備の両手にはそれぞれ剣が握られていた。
彼の冴えた頭からは現状がわかりやすいほどに把握できた。
長躯の男はここから距離を取り筋肉質の若者との一騎討ちを図ろうとしていた。
敵側をそれを承知したのかこちら側にその他の敵が集まり取り囲んでいた。
長躯の男は外套を外し、その大きく艶やかな髭と棗の実のような赤い肌を露にして名乗りを上げた。
「我は関羽雲長!貴様にはここで倒れてもらう!」
対する若者も上衣を脱ぎ、その鉄板のような胸を露にして名乗りを上げる。
「俺は周倉元福!涼から来た者だ!お前の巨体からどんな技が出るか楽しみだぜ!」
続けて周倉は言った
「しかし、お前は得物を持たないのか?」
「必要無い」
関羽は素早く答えた。
そして、関羽が拳を握るとその腕周りに旋風が起こり、やがて、腕に風の回転刃を纏わせたかのような形になった。
「これで十分だ」と、そういって構える。
風の刃と鉄の刃が打ち鳴らしあう頃、劉備は残る賊を全て倒し終えた所だった。
途中から別の場所にいた者達も集まり、最終的には十人を超える人数を倒したが、劉備のもつ二つの剣には血一滴付かず、誰も死者はいなかった。
これは、彼の仁義の志に応えたのか、頭の判断で軽やかに斬る刃がするりと身体に外傷を与える事無くすり抜けていたのだった。
斬られた者が全員倒れる所をみると痛覚だけは与えている様子だった。
やがて関羽と周倉は何合か打ち合うと、ここぞと言わんばかりに大きく息を吸い、常時の劉備では捉えられぬであろう速さででぶつかりあった。
しかし、今の劉備の眼にはしっかりと勝敗の行方が見えた。
周倉は体制を低くして刀を横に薙いだ。
この攻撃は、長躯の関羽には跳ぶことでしか避けられないと踏んだものだった。
刃の届く直前に関羽の周りには旋風が起こりその影を包んだ。
その刹那、周倉は関羽が居るであろう旋風の上部に向かって、走っていた間に左手で腰の袋から取り出した短剣を投げつけた。
普通の人がなげれば風に弾かれてしまいそうだが、強靭な肉体をもった周倉の力では、その刃が風を貫く事ができたのだった。
しかし、風をすり抜けただけであり手応えは無かった。
その時、上に注意がいっていた周倉のガラ空きになった鳩尾に掌底が入った。
そう、関羽は跳んでなどいなかった。
かれの旋風は地を削り、彼の身体を大地へと隠したのだった。
あまりの意表を突く技に周倉は、悶えながらも賛辞の言葉を並べ、やがて倒れた。
この闘いに死者はいなかった。
関羽は倒れた黄巾党をその巨体でまとめて担ぐと、縄で縛り、小舟にのせて、川へ流してしまった。
関羽が襲撃の噂を聞いたのは川下だったと言い、いずれ、彼らも仲間に拾われるだろう。
願わくばもう、こんなことはして欲しく無いと劉備は思った。
だが、今ここで劉備1人が仁を諭しても意味はないだろうとも考えた。
その結果彼らは仲間の元に送られることとなったのだった。無事たどり着けば、の話だったが。
そして劉備はここでまた決心した。
暴に走った者達を、仁義の道へ導くほどの力を付けるのだと。
やがて、しばらくすると村の皆が、初めはチラホラと、後にガヤガヤと、やはり地下から出始め、村を救った英雄──莚売りの劉備 玄徳と、九尺の武人関羽 雲長を讃え始めたのだった。
劉備は母の無事を確認すると、剣を勝手に使ったことを謝るが、母は誇りとしてその身に、携帯しておく事を薦め、劉備もまた、この事件を切っ掛けに力を付けるために双剣の鍛錬を始めるのだった。
関羽はその後、地下宮殿を一通り見渡すと、目当ての物は無かったと見え(本人はそれでも満足そうだった
)、己の進むべき所を確固とするために、再び旅立っていったのだった。
そしてまだ、劉備は知らない。
この先にある新たなる出会いと再会。
やがてはじまる戦乱の世での闘い。
既に賽は投げられた──もう、あの日常は帰ってこない。
次回episode4 『旅立ち』
星はまだ堕ちない。
とりあえずは一段落ですかね、まだまだ続きますけど
この期に別の編も書き進めて行きたいとおもいます
それでは