episode2 『中山靖王の遺産』
そろそろ今作の特徴が滲み出てきます。
ひと味もふた味も違う三国志。
ぜひ、お楽しみください。
青年劉備は長躯の男と共に、黄巾党に襲われるとされる村──案の定楼桑村であった──へと駆け足で向かった。
その道中劉備は男に自身の名前や、その村で暮らしている事を言った。
しかし、男の方は特に出生を明らかにせず、ただ一つ古代の遺産を探しているということは語った。
遺産と言えども財産や建造物等ではなく、武器、兵器の類を探しているという。
その遺産を使い、その男が何をしようとしているのかまでは聞けることはなかったが、この時、劉備には一つ彼を連れて行きたい場所ができたのだった。
「……地下宮殿」
劉備はボソリと呟いた。
その名の通り地下にある宮殿である。
と、いえども、実際には朽ち果てており洞窟と言った方が近いだろう。
それはまさに、楼桑村の地下にあるのだった。
普段は食料の貯蔵場所として利用されている場所であり、暗い為に奥まで進む者もおらずその実態はよく調べられて居なかったが、その場所にはこの男が欲する物も眠っているのでは、と考えた。
しかし今は、そういう意味ではなく、村の住民の逃げ込んだ場所として想定し、口から零れたものだった。
そう、村に着いたものの人一人としてそこには居なかったのだ。
そして、劉備と男が地下宮殿への入口である小屋を目指して歩き始めると、黄巾党の連中が到着し、異様な光景の村を徘徊し始めたのだった。
黄巾党の者は少数で、地下宮殿の事も知らないらしい、だがその手にはギラリと光る刀があった。
住民達は恐らく見張りが黄巾党を見付け、ギリギリの所隠れたのだろう。
身を屈め、隠れながら移動する劉備と男の目にはついさっきまで人々が暮らしてたであろう跡がみえた。
劉備は共に暮らす唯一の家族である母の身を心配し、そして思い出した。
我が家には先祖の遺した宝剣があると、母がよく語っていた事を。
それは、武器の無いこちらには有意な情報であった。
劉備は男と共に少し道を外れ、我が家へと向かった。
だが、その扉の前にはこの黄巾党の中で指示役と見える屈強そうな男が立ち、手下からの報告を受けていたのだった。
「よりにもよって、ここに居るとは…」
劉備はため息を吐いた。
そしてまた顔を上げると手下は去り、指示役一人だけとなっていた。
動く気配はなさそうだが、倒すには絶好の機会だ、と武人ならばそう考えるのだろうか、と劉備はまたため息を吐こうとした。
しかし、顔は下げられず、その息は呑まされることとなった。
何故ならば、その瞬間に指示役は地に伏せたからだ。
否、正確には音もなく飛び出し、目に見えぬ速さで手刀を打ち込んだ長躯の男によって、倒されたのだった。
あっけにとられた劉備に男は声を投げる。
「早くしろ、他の者が来る前に見つけ出せ」と。
その言葉に動かれた劉備は唐突な出来事の前に、難しく考えることを辞め、今、生き残り、他の住民を救う事のみを考えることとした。
見慣れた我が家へと足を入れた劉備だったが、いつも居るはずの母が居ないだけでここまで変わるのかと実感した、一度、別の家と間違えたかと思うほどだった。
そして彼は真っ先に先祖を祀っていた小さな小さな祭壇を目ざした。
と、いっても彼の小さな家では数歩あれば直ぐに手を伸ばせる所にあった。
そして、一度も触れたことの無い祭壇と共に置かれた古めかしい木箱を手にしたのだった。
男は外を気にしながらも、安全だと判断したのか家の中へと入ってきた。
そして、劉備の開けた木箱の中身である、もう1つの大きな箱──しかし今度は胎動するかのような光の線をもった金属のような謎の物体とも言えるものだった──を目にして声を震わせて言った。
「遺産………まさしく、これこそ、古代の遺産……!!」と。
劉備には、それがなんなのか理解できなかった。
しかし、これが今の状況を打開するならば利用できるかぎり、利用しようと考えた。
まず考えたのは、どうやってこの箱を開けるかだった。
これそのものが塊なのではなく、もった感覚が、中に何かが入っているといった感じだった。
もしも、入っているとすれば大きさ的に剣……だろうか。
男も遺産を見るのは初めてのようで、開け方は知っていそうになかった。
それは、一瞬の出来事であった。
家の壁が崩れた、否、破壊された。
あの、指示役によって。
男の長躯に比べれば背は低かったが、普通の人と比べれば尋常ではない程に筋肉が鍛えられていると、衣服の上からでも分かった。
指示役の顔は思っていたよりも、近くで見ると若々しくみえる。
歳は劉備よりも下であろう。
この状況において分かる事は二つあった。
一つは男の一撃を喰らい、直ぐに立ち直った屈強な指示役が目の前に立って居ること。
もう一つは、鋭い敵意を感じる事。
そこから導き出される答えは"逃げなければ死ぬ。
"だった。
一瞬の出来事の為、劉備には見えていなかったが、足下でうずくまる長躯の男を見て理解できた。
男は劉備を庇い、崩れる壁から庇っていたのだった。
その光景がふと、劉備に火を付けた。
自分の為に誰かを傷付かせたくなかった。
誰かが傷付け合うのを良しと思わなかった。
それは無理なのかもしれない。
だが、劉備は心に決めた。
このような世を二度と作らせはさせない、と。
その為にも劉備は戦う事を決意した。
そして心に着いた火は大きな炎となって、その志に応えるかのように、腕に抱いた箱と鼓動を合わせ、やがて自分のものとした。
僅かな刹那だったが、その時劉備は確かに大きな一歩を歩みだしたのだった。
箱はやがて光だし、周囲へ魔法陣を投影し始める。
その、異様な光景に指示役はサッと後ろへ飛び去り、口笛を吹いて仲間を呼び集め始めた。
一つの魔法陣に当てられた長躯の男は。
ゆっくりと起き上がり、怪我などしていなかったかのように指示役へと構え始める。
そして劉備には箱が語りかける。
【〖接続………完了
素材照合………適合
適合率………完全適合
黒白の双剣……………全権限譲渡〗】
【はじめまして、新たなる我が主】
〖よろしくねん♪︎おにゅーな我が主くん♥〗
【白……少し、黙ってて下さい】
〖えーー、こんな完全適合者を目の前にして黒は黙っていられるの!?〗
【私は黙りませんよ?説明しますから】
〖むっ…それってワタシの事を説明の邪魔って言ってる?言ってるよね?〗
【えぇ、よくわかりましたね】
〖グサァァァッ!!〗
【と、その前に白…ひと仕事しなくてはいけないようですね】
〖ぶー、黒の言うことなんか聞かないも~ん、プンプン!〗
【では、主早速ですが我々の力をお見せするとしましょう】
〖む…無視された……っ!!…………まぁ、鬱憤ばらしにまずはお掃除と行きますかッ!〗
【〖唱喚要求……抜剣〗】
【主、復唱してください】
劉備玄徳は帝国の中山靖王が遺した遺産を手に、大きな争いへと巻き込まれていく……己の志を胸に。
次回 episode3 『抜剣』
星はまだ堕ちない
今回はヒロイン(?)であり、キーアイテム(?)な双剣ちゃんが出てきましたー。
思いきって横文字を投入しましたが……案外結構ハマってくれたかなぁ、と思います。
まぁ、それでもまだ序盤の序盤。
始まったばかりなので、今後も色々な要素がまだまだ出てくるのでお楽しみに。
それでは。