episode1 『仁の人』
見切り発車で始まった企画ですが、多くのキャラクターの目線から独特の雰囲気の物語を感じてもらえれば幸いです。
なるべく過激な表現は控えるようにしますが、シーンによっては残酷な描写があるとおもいます。
それでは劉備玄徳編スタートです!
宇宙歴184年
惑星涿
主要都市涿県
楼桑村
広大な宇宙を支配している大帝国漢によってこの辺境の地にも長らくの平穏が続いていた。
しかし、平穏と言えども大きな争いが無いというだけであり、庶民は今日生きる為の金銭を稼ぐだけで一日が終わるというのも珍しくない。
だが、この村に住む一人の青年──劉備 玄徳はそのような苦しい生活をしながらも、仁義の志を持ち、日々徳を積む好漢だった。
そして、この物語はその青年劉備が仁義の為に刃を振るう、星を越えた伝説である。
いつもの様に町へ出て莚や草履を売った劉備は母の待つ家への帰路についていた。
村への道……と言うよりは人の歩いた跡に近いものだったが、行きとは違う身軽な背中を風に押されながら、青年はすこし駆け足でいた。
「待たれよ」
そんな青年に声がかかった。
一本道、自分しか居ないと思っていたその道、目の前に、男は現れていた。
否、声をかけられるまでその気配に気付かなかったと言うべきか。
その男は長い布を纏い顔は見えなかったが、九尺はあるだろうその巨体は一瞬言葉が出ないほどであった。
なにかわかる事があるとすれば、塩の匂いだった。
塩と言えば産地として解池が有名だが、その名前は先程の町で聞いた事件の話に出てきたばかりであった。
解池で塩を売っていた男が役人を殺害し、今も逃げているという。
確かその男は身の丈九尺……。
嫌な予感がしない訳では無かったが仁義を重んじる劉備は彼に返答する事にした。
また、仮に彼が例の役人殺しだとしても劉備は彼を責めることはないだろう。
なぜならばその役人こそが民に窮屈な暮らしをさせる元凶だからである。
「なにか御用でしょうか」
丁寧に喋りだす劉備はその男の話に耳を傾けた。
男が言うには、この近くの村──おそらく楼桑村のことであろう──を狙い黄巾党が襲撃をかけようとしているという話であった。
黄巾党といえば、最近話題の宗教である。
黄巾党は民に薬を分け与え貧しい者達を助ける集団だと聞いていた劉備にはその黄巾党が村を襲うというのは今にも信じ難いことであった。
その男は旅の途中に五度賊に襲われたという。
その内三度は頭に黄色い頭巾をした黄巾党であったという。
全てを撃退した男はその内に黄巾党の動向を探り、他に襲われる者達を救おうと行動をしてきたという。
その賊が本当に黄巾党かどうかは置いておくとして、賊から守るために行動をしたという正義感のある彼の言を劉備は信じることにした。
そして劉備は自分の生まれ育ったその村を守るために、自らも微力ながら戦う決心をした。
この時、劉備がその男を信じていなければどうなっていただろうか。
いや、信じてこそ劉備なのであろう。
武器を持ち、逃げずに、村の者達を守るために戦う。
彼にはただ正義を語るだけの役人達とは違うものがあった。
だからこそであろうか、彼を讃える声は後の時代にも絶えることは無いのである。
また、腐敗していく帝国を復興させようとした所もまた彼を彼たらしめるかもしれない。
次回 episode2 『中山靖王の遺産』
星はまだ堕ちない
お読みいただきありがとうございます。
今回は初めということで説明文が多くなってしまったので短めにおわります。
次回からはどんどん話を進めて行きたいとおもいます!
この仁義の刃編をメインシナリオとして進めていきますが、他キャラクターのシナリオも多く書いていくので、お好きなシナリオで楽しんでいただければとおもいます!
それでは。