好き、の続きは?
勇太、と呼ばれる声に僕が振り向くと愛偉は手を振りながら「ごめーん、遅くなった!」と走ってきた。
「別に待ってないよ。約束もしていないし。」
「えー!そんなつれないこと言うなよ。冷たいぞ。」
「うるさい。そんな大声で騒ぐなよ。周りに迷惑だろ。」
プイっと目を逸らしていうと愛偉は「お・こ・っ・ちゃ・い・や♡」と俺の頬をつんっと突いた。
うざい。マジでうっざい。
そもそも本当は今日はこいつとは会いたくもないし話すことも嫌だったから一人でさっさと帰ろうとしたのに。
愛偉と俺は名前が逆なんじゃないか?と勘違いされるほど名前と人が一致しているイメージがない。
藤原愛偉。バスケ部で背が高く細マッチョ、頭は僕のほうが良いが要領は愛偉のほうが数倍良い。
だから友達だっていっぱいいるし、人望もあるから生徒会長もしている。
そして僕、鬼道勇太。
名前だけは男らしいのにね、名前負けしてるよね、そうよく陰でも表でも言われるのが僕の評価だ。
煮干しや牛乳を摂取すれば背が伸びるとおばあちゃんやお母さんに言われたから苦手だけど頑張って食べたり飲んだりしたのに僕にはどちらも効き目がでない。
両親や他の兄弟はそれなりに身長が高いのに何故僕だけ・・・と悩んだが、コロコロと小さい母方のひいおばあちゃんの若い頃の写真を見てから、もしかして隔世遺伝というやつかもしれないと最近思っている。
どことなく僕に似ているのだ。
女の子ならば可愛い、と素直に喜べる容姿だ。
写真は海に遊びに行ったときに撮ったもので、ひいおばあちゃんもひいじいちゃんも水着姿でニコニコ楽しそうに笑っている。
少しぽっちゃりだが、僕はこのくらいのほうが触って気持ちよさそうだから好きだ。
「あら、あんたおばあちゃんの若い頃にそっくり。」
お母さんがボソッと言った言葉に僕は落胆した。
「お、おじいちゃんに似たかった。」
写真の横でおばあちゃんを後ろからぎゅうっと抱きしめている男性。
男!って感じだ。
うすく割れた腹の筋肉、高身長、太陽の下が似合う好青年。
僕は自分の白く細い腕、少しも割れていない腹筋を見て「あー・・・」と嘆いた。
僕は身長も伸びなく筋肉も付きにくい。日焼けしようとすれば黒くはならずひりひりと赤くなるだけ。
運動神経も悪く、人見知り、女みたいな容姿。
ほら今日だって忘れ物をとりに教室に戻れば女子が陰口だ。
「あれで鬼道勇太ってマジでないよねー。
全然勇ましくないし、アソコも細そうだし?てかむしろ無さそうじゃね?」
「いえてるー。鬼っていうか姫っぽいしね。きゃははは!」
「うちらより女の子って感じだしね!ねえ、知ってた?あいつさー、趣味がお菓子作りらしいよ?
きもくない?ありえないよねー。」
「知ってる知ってる!愛偉君が言ってたもん!あいつの作るカップケーキまじで美味いんだぜって!」
声から察するにどうやら僕の苦手な派手女子グループだ。
「愛偉君ねー・・・マジでカッコいいよね。」
「そういえばさB組の真田さんっているじゃん?
真田さん今日愛偉君に告白したんだけどさー、振られたらしいよ。」
「うわぁ、あの真田さんでもダメなの?可愛いのにね。」
B組の真田さん。そんな、真田さん。
愛偉が好きだったの?僕によく話しかけてくれて優しかったのも、だからなの?
ただ僕は勘違いしていただけなの?
ショックで教室に入らずにふらふらときた道を戻っていると昇降口で真田さんと会ってしまった。
真田さんだ、どうしよう。
あっだけどもしかしてこれはチャンスなのでは。
少女漫画漫画でよくあるパターン発動では?!
あるある・・・いける!
最初に愛偉がすきだったとしてもそれはもう過去の話、俺がお前を幸せにしてやるぜ!愛してやるぜ!
一緒に愛し合おうぜ!・・・いける!
「あの、真田さん、」
「・・・ッケ、死ねよ。全部オメーのせいだ、うっぜ。」
話しかけた途端、ゴミムシを見るような目で吐かれた言葉に撃沈。
あの可愛らしかった声が凄く低音で眼光も鋭かった。
告白もしていないのに僕の初恋は終了した。
「今日、真田さんに告白されただろ?」
「真田さん?」
「B組の真田さん。」
「髪長い?」
「そうだよ!この馬鹿!他にどの真田さんがいるんだよ!」
「えー・・・だって今日二人いたから。ひとりは髪が長くて、もうひとりはショート。」
「モテ自慢かよ!羨ましいよ!ばかっ!」
「なんでそんなキレてんの?腹でも減った?」
「違う!それよりも何で真田さんふったの!」
「え、何で?気になるの?今ままで聞いたことなかったじゃん。」
「・・・いいだろ、別に。さっさと言えよ。」
あー、駄目だ。やっぱり苛々する。
愛偉が悪くないって分かっているのに理不尽な怒りでむしゃくしゃしてしまう。
「・・・言ってもいいけど、お前さ、後悔するかもよ?それでもいいわけ?」
「はあ?」
「今までは遠慮してたけど言ったらもうガンガンいくよ?それでも後悔しねえ?」
「はいはい、よく分かんないけど良いよ。」
後悔もクソもねーわ、ばか。
これ以上なんもねーわ。
好きな女の子はお前が好きで?
俺は馬鹿みたいに舞い上がって勘違いした挙句に利用されて、ガチギレされて?
これ以上なんかあるってか?ああん?
「俺、お前が好きだ。」
告白と同時に愛偉は俺にキスをしてきた。
答えなんか言わせない、というような強引な深いキスに俺は思考が止まる。
あった。ありました。
今日一番ていうか人生で一番、これ以上だった。
苦しくて肩で息をしていると愛偉は「やっべ、立った。俺んち行こ、今日誰もいないから。」は俺の背中に手を回した。
嘘だろ、マジかよ。
こいつのアレが俺に当たってる。
「大事なハジメては優しくするから、安心しろ。事前準備は完璧だから任せて!」
「・・・は?」
「今はあれだよな、混乱して吃驚してるよな。でも大丈夫、勇太は俺のこと絶対好きになるから。」
「ちょ、ちょっと、待って、」
「一応確認だけどさ、俺が入れる方でいいよね?」
ニコニコと無邪気に笑う愛偉に俺はどうしようと焦る。
するとチュッと頬に愛偉の唇が触れた。
「大丈夫、俺らふたりなら幸せになれるよ。愛してる。」