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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

もしも私の願いが叶うなら。

作者: 狂気の沙汰

ある、取調室。

連続殺人犯と口悪刑事のやり取りを抜粋してお送りしております。




「なぁ、天堂寺(てんどうじ)。どうして5人も殺したんだ?」

「そうですね…………。刑事(七瀬)さん、少し昔話を聞いてくれませんか?」

「……それが動機に繋がるなら聞いてやる。」

「では、聞いてください。」


 -・-・-・-・<-*-'-*->・-・-・-・-


 昔々、少し性格が歪んだ蓮華(れんか)という名前のイラストレーターをしている少女がいました。蓮華には2つ下の病弱な弟颯人(はやと)と3つ下の元気な妹藍華(あいか)が居ました。両親は共働きで、父親は運送業の夜勤で週に2、3回会うくらいでした。

 颯人は、入退院を繰り返していましたが、8歳の夏に体調を大きく崩してそのまま亡くなりました。

 両親はそれが原因で仲違いをするようになりました。その時10歳だった蓮華は、藍華に両親の仲違いをなるべく見せないようにしていましたが、5年後両親は離婚しました。

 蓮華と藍華は、母親に引き取られました。蓮華は公立の高校に入りアルバイトを始め、それなりに仲良く暮らしていました。

 それから4年ほど経ったある日、無事に入学した大学が早く終わりおやつにケーキを買って蓮華が帰ると、その日休みだった母親と高校の都合で午前授業だった藍華が血をながして倒れていました。蓮華は慌てて救急車を呼び、警察にも連絡しました。辺りを見回すと藍華の近くにナイフが落ちていました。

 蓮華は、通帳と印鑑の位置がおかしいことに気がつきましたが、警察の人に「何か無くなっているものはあるか?」と問われたとき「ありません。」と答えました。なぜなら位置が変わっているだけで無くなってはいなかったからです。警察の人は「ならば怨恨かもしれない」と結論付けてとりあえず帰っていきました。

 蓮華は、仕事用に借りている部屋に寝泊まりすることにしました。1週間ほどして、警察の人が「捜査が難航している。母親や藍華が恨まれるようなことはあったか?」と聞いてきたとき、蓮華はこの事件は解決されないと悟りました。とりあえず、「母と藍華は優しい人でした。私ならともかくあの2人が恨まれるようなことはないと思います。」と答えておきました。

 蓮華は、近所で空き巣が横行していると知っていたので、空き巣の犯人を探すことにしました。

 犯人はあっさりと見つかりました。野中という人でした。蓮華は、野中が何か知っているのではと思い、そっと尾行します。野中は、空き巣の仲間にぼそりと「人を殺してしまった。」と呟いていました。

 蓮華は、野中が母親と藍華を殺した犯人だと知りました。しかし、何もせずにただ放っておきました。

 1ヶ月後また、警察の人が来て「まだ、犯人は見つかっていない。申し訳ない。」と言うので蓮華は「1日に起こる事件が1件だけではないので仕方ありません。捜査してくださっているだけで、母も藍華も喜んでいると思います。」と優等生的に答えました。犯人を知っているなんて絶対に悟らせませんでした。必要ならば野中を利用しなければならないからです。

 蓮華は、この世界が美しくて醜くて優しくて残酷だと知っていました。この世界は1人では絶対に生きていけないのです。

 でも、蓮華は決して自害することが出来ませんでした。母親との約束を守る為には仕方がありません。

 そこで、間接的にじが…………いえ、刑法と野中を利用することにしたのです。日本では、刑法第199条に殺人について書いてあって、罰則は「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する」と定められています。

 蓮華は、考えました。ならば野中を殺せば良いのではないか、と。しかし、過去の法廷の記録を眺めていると1人だけだと懲役で終わると知りました。しかも、野中は肉親の仇なので情状酌量で、無期懲役にすらならないかもしれません。だいたい死刑になる人は大量殺人や、無差別殺人、連続殺人の犯人だと気がついたので、野中の友人や空き巣仲間、野中と仲の良い親戚、野中の彼女、そして最後に野中を殺すことにしました。

 すぐに犯人を悟られないように野中からより遠い関係の人から殺しました。関係のない人を殺すのは少し躊躇いましたが蓮華は自分が大事なので目的の為ならば仕方がない、と割り切りました。

 現実には名探偵も、窓際の優秀な刑事さんも居ません。5回の殺人に少しずつ関連性を残して最後の野中ときにがっつり証拠を残しておけば連続殺人が終わったときに蓮華が捕まるという寸法です。

 そうして予定通り蓮華という女性は捕まりました。めでたしめでたし。


 -・-・-・-・<-*-'-*->・-・-・-・-


「どうですか?」

「狂ってる、としか言いようがないな。」

「もともとですが精神鑑定に出しますか?……無駄だと思いますが。」

「いや、そんなことはしない。話が無茶苦茶だが矛盾していないし刑事責任能力は有るだろう。」

「ふふ。本当はこうやって本当の動機を話すつもりではなかったんです。ただ陳腐な行きすぎた復讐譚にするつもりでした。でも……。」

「でも、なんだ?」

「不思議ですね。七瀬さんと話していると誠意を持って話さないといけない気がするんです。」

「誠意、か。連続殺人犯が口にする言葉ではないな。」

「私にとって連続殺人は手段ですから。」

「天国に居る母親や弟妹達が悲しむとは思わなかったのか?」

「私は一神教を信じません。ですから、天国なんて都合の良いものも信じません。信じるとすれば多神教の冥府等でしょうか。そこでは死者の記憶は段々薄れていくそうです。それならば、悲しみはしないでしょう。」

「なら、父親は?」

「私にとって父は家族じゃないんです。だから、悲しもうが傷付こうがどうでもいいです。」

「家族じゃない?なぜ?」

「父は私から見て親として最低でした。母と離縁したのならもう家族じゃありません。私の家族は母と颯人と藍華だけです。」

「…………そうか。」

「七瀬さん、」

「なんだ?」

「私の願いは叶うと思いますか?」

「さぁな。」

「もしも私の、天堂寺蓮華の願いが叶うなら。雨が降る日に死刑に処されたいです。」

※この作品はフィクションであり、もし同姓同名の人物が居たとしても一切、まったく、これっぽっちも関係ありません。

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