麓の灰墟《はいきょ》 2
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映像記憶装置の内容を二人は見終えた。
ロザリィは少し瞳を閉じて考え、息をふうと吐く。
そして立ち上がる。
孤児院の外には圧倒的多数のグールが存在した。
人間は一切存在しない。
「……魔女には火を、異教には断頭を、『吸血貴族』には白木の杭を。……『|正義の柱《Bois de Justice》』」
巨剣は持っているだけで交差させない。
よってもちろん死者が召喚される事もない。
起こった変化は意外な物であった。
溢れ返るグール達、その三分の一程が動き出す。
それらは皆一様に近くの建物を破壊し始める。
否、それは創造であった。
意思すらない、下僕となり果てた者達へ向ける武器の作成である。
柱や梁を折り取り、即席の杭を作る。
武器を手にしたそれらは、倍近くの数が居るグールを難無く灰へと変えた。
火山の後の如く、灰が廃墟を覆う。
死者を収納したロザリィの元に孤児院にいた子供たちが駆け寄る。
肉体の欠損も傷もない。
ちゃんと生きている。
事は襲撃の時に遡る。
イッド公爵の名を聞いた時、ロザリィは戦うと言う判断を考えもしなかった。
勝機の無い戦いを挑んで町もろとも全滅するより、救える最大の人間を救う事を考えたのだ。
敵は町の住人の顔を覚えては居ない。
それを利用し、気付かれぬ様に出来る限りの住人を孤児院の地下シェルターに隠していたのだ。
隠した人数は死者達を出す事によって分からなくした。
全員を救う事は決して出来ないが、これがロザリィの出来る最善策であった。
「受付のお兄ちゃんは生きてた……? 」
子供の一人が聞く。
まだ六歳にも満たぬ少年に伝えるには、真実は残酷すぎる。
「死にましたよ。酷く残虐な方法で。人間としての誇りを持って死ぬことすら出来ませんでした」
ロザリィは一切の嘘を言わなかった。
少年が悲しみと憎悪に蝕まれるのも承知の上で。
この世界において、多くの人間は五歳の時点である程度の自己判断が出来る様になる。
この程度の事で絶望する様ならば、生きては行けない。
だからと言ってありのままの真実は酷な物だ。
「彼らを恨むならば『吸血貴族狩り』になって下さい。多くの者は三年も続けば良い方ですが、恨みは晴らせるかもしれません。ですが選ぶのは貴方自身の意思です。憎しみのままの行動では彼ら化け物と変わりません」
少年の感情に困惑が生まれる。
「では、貴方達は各自の判断で行動してください。私にはテンプル騎士団第十三支部長としての責務があります」
カンダタにはそう言うロザリィの硝子の双眸に、あるはずの無い感情の起伏が見て取れた。
再び山に向かって歩き出す少女の頭上でカンダタはそれが何だったのかを考えたが、彼程の博識と洞察力を以てしても答えは見つからなかった。




