ファンコニーは聖女
ファンコニーがこれほど陽気なのは不思議だったが、それ以上に、彼女が整備した地下通路の方がすごすぎて、言葉を失った。
「もうすぐゴールです!地上へ出られますよ!」
地下を彷徨うこと、おおよそ一時間。地下通路のゴールには、地上へと伸びる梯子が設置されていた。
「ザイザル様、これを上れば、私の家に着きます!」
「ああっ、そうなのか?地上に出られるんだな。ああっ、それはいいことだ……」
ファンコニーが先に上り、ハッチを開けた。すると、天から次々と光が差し込んできた。地下の暗さに慣れたせいか、異様に眩しく感じた。でも、これで地上に出られると思うと、気分が良かった。
地上に顔を出してみると、これはまた、別の世界に迷い込んだ気がした。私がよく夢に見る、妖精の住む世界に似ている感じがした。一見すれば普通の草原と変わらなかった。しかしながら、目をそむけたくなるほど艶やかに生え渡る草の海に身体を委ねてみれば、行く宛てを失った風や鳥たちと共に、ただ無性に青い空を眺めたくなった。
「ザイザル様は、ここが気に入りましたか?」
そんな妖精の住まう草原に、今はもう一人の客人がいる。昨日初めて会ったファンコニーという少女。私の運命に影響を与えることは間違いないようだった。それは、いい意味でもあり、悪い意味でもあった。私はファンコニーという少女に愛され、ファンコニーという少女のせいで殺された……。
「ザイザル様のお隣、失礼しまーす!」
ファンコニーは私の真横に寝そべった。昨日の私ならば、
「もう少し離れてくれませんか?」
と言っていたはずだった。しかしながら、今はあんまり気にならなかった。ファンコニーがそっと抱き着いてきても、私はただ空を見続けていた。
私がファンコニーに質問をし始めたのは、空がやっと薄くなり始めた頃だった。
「私がどうして生きているのか……教えていただきましょうか?」
「それはですね、私の能力なんです」
「能力?あなたは死人を生き返らせる能力があるのですか?」
「その通りです」
ファンコニーは聖職者……なるほど、私はある程度理解した。
「そして、あなたは国教会から破門されたのですね?」
「はい」
「その能力を授けたのは誰ですか?」
「全て、自分で習得した能力なんです……」
ファンコニーが忌み嫌われる理由がようやく分かった。ファンコニーは、トロイツ国では魔女と認定されたはずだ。だから、彼女は異端であり、そのため常に殺されることになったのだ。
「でもですね、私は魔女なんかじゃありませんよ!」
魔女でないとすると、ひょっとして?
「私の本職は聖女なんです」
「聖女ですって?あなたが?」
「おかしいですか?」
ファンコニーは少しムキになっていた。確かに、いきなり自分は聖女だと言い張る女を見て、滑稽に思うのは自然だった。しかしながら、ファンコニーの不可思議な能力を目の当たりにしたら、もはや、彼女が嘘をつくことなんてないのだろうと思った。
「私は君のことを信じますよ。どうして、私のことを助けてくれたのかは分からないが、どうもダークサイドに堕ちた魔女ではなさそうだ」
「ザイザル様……それでは、私のことを信じてくださるのですね?」
「悪魔か魔王の化身だったら、私を救うはずがないでしょう?」
私がそう言うと、ファンコニーはもう一度、素敵な笑顔を浮かべた。
「ザイザル様……やっぱり、間違っていませんでした。あなた様を好きになって、私は正解でした」