メコンの欲
一方、宮殿のパーティーの中心にいたメコンたちは、四方を令嬢に囲まれていた。この一件が無ければ、見向きもされなかったはずだった。それが、今では急速に株を伸ばし、令嬢の婚約したい貴族ランキングのトップにまで上り詰めた。
「魔王退治ってのは、思わぬ幸運をもたらすんだな!」
メコンは酔った勢いで、こう口走った。
「メコン様?そんなことをおっしゃってはいけませんわ!ようやく世界が平和を取り戻したところだと言いますのに!」
令嬢たちも、一カ月の緊張が抜けきって、昔の華やいだ生活に戻ろうとしていた。
「でも、私たちがいるからもう大丈夫だ。あんなもん、全然強くなかったぞ!」
メコンがそう言うと、令嬢たちはメコンを褒め讃えた。
「……それでだな、私はこれから重大発表をしたいと思います!」
令嬢たちがおっーと歓声をあげた。
「それはひょっとして……」
キャシーは察した。つまり、この中からメコンの伴侶が決まるということだった。
「私の伴侶をこの中から選びまーす!」
令嬢たちは、より一層エキサイトした。聖者の伴侶になることができれば、家の繁栄どころの騒ぎではなかった。数世紀に一度とないビッグチャンスを活かすべく、令嬢たちは奮起した。
「さて、その前に、私は皆さんのことをもっと知りたいと思います。ですから、一人ずつ自己紹介願えないでしょうか?」
メコンがそう言うと、令嬢たちが勝手に自己紹介を始めた。みんなの声が混じってしまって、何を言っているのか聞き取れなかった。そこで、メコンはキャシーに目配せした。キャシーは首を縦に振って、
「皆さん、一度お静まり下さい!」
と言った。
「いっぺんに紹介したって仕方がありません。順番を守って、一人ずつやっていこうじゃありませんか?順番は……とりあえず、高位貴族から始めましょうか?」
そう言って、キャシーが最初に自己紹介を始めた。その後は、キャシーのお友達と思われる数名の高位貴族令嬢が続き、後は中位、下位と流れていった。全体の自己紹介が終わるまで、おおよそ一時間かかった。
「はい、皆さまありがとうございます。なるほど、皆さん、個性が強いですねえっ……」
メコンが伴侶に求める条件としては、まず、身長が145㎝以下であることがマストだった。メコンの身長は170㎝で、自分よりもかなり背の低い女性を好んだ。この条件に合致するのは、キャシーを含めて五人だった。高位が二人、中位が二人、そして、下位が一人だった。二つ目の条件は、身体能力が著しく低く、典型的な箱入り娘であることだった。つまり、主人に対してはいつでも従順であるが、無条件に可愛がりたくなる、ということだった。この条件を適用すると、中位の二人は共に騎士であるため除外された。残るは三人。
もう一人の高位貴族令嬢は、キャシーの旧友で、名をヨークと言った。父親は国王の遠い親戚であり、大臣だった。趣味は花の栽培と読書だそうで、その外見はいかにもと言った感じだった。
そして、下位貴族令嬢は、田舎の諸侯を親に持つ娘であり、名をカーチャと言った。
「カーチャと申します。よろしくお願いします!」
とにかく元気の塊なのだが、頭があまりよくないみたいで、行動が乱雑だった。そんな危うさがまた、庇護欲を高めると言えば、それも間違いではなかった。
「トロイツ国王!質問がございます」
メコンは国王に直接質問することにした。
「この世界でハーレムと言うのは認められていますでしょうか?」
結局のところ、一人に絞りこむことはできそうになかった。そのため、救済策を請うことにしたのだった。
「ハーレムですか?前例がありませんが……勇者様のお望みとあれば、特別に許可いたしましょう」
国王はあっさりと許可した。
「承知いたしました。それでは、皆さん。私は一時的にハーレムを作りたいと思います。キャシー、ヨーク、そして、カーチャ、この三人を当面私の伴侶といたします!」
三人は、メコンの前に跪いた。
「末永くよろしくお願い申し上げますわ!」
キャシーとヨークは知り合いだから、大した問題にはなりそうもなかった。もう一人のカーチャはと言うと……。
「よろしくお願い致します!メコン様!」
とりあえず、大丈夫そうだった。しかしながら、メコンの伴侶に選ばれなかった、高位、中位の令嬢たちから、白い目で見られることになるのは、これも避けられない運命だった。
「あーあっ、もう一人の勇者様はどこに行かれたのかしら?」
「ザイザル様でしょう?もう二時間は経っていますのに。もしかして、帰られてしまったのかしら?」
「私たちは、もう勇者様の伴侶になることができないのかしら?」
令嬢たちは、またとないチャンスを逃してしまったことを悟って、大層がっかりした。