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恋とヤンデレ

 昼食を終えて、私たちは夜のパーティーまで暇になった。私は再びバルコニーに戻った。先程より数は減ったが、それでも多くの民が残って、彼らなりの戦勝パーティーを愉しんでいた。


「見ろ!勇者様が戻ってこられたぞ!」


 私を見つけた人が周囲に叫ぶと、皆一斉に私の方を見上げた。


「あれは……リーダーのザイザル様だ!」


「ザイザル様、万歳!」


 私が特別何かしたわけではない。しかしながら、こうして私のことを称賛してくれる民の姿を目に焼き付けて、私はそっと涙を流した。


「皆さま、ありがとうございます!」


 私は深々と頭を下げた。


「ザイザル様ザイザル様ザイザル様…………」


 私は耳が良かった。だから、私の名前を連呼する少女の声が聞こえた。しかしながら、この時はあまり気に留めなかった。


「ザイザル様……私ではいけませんか?」


 日が暮れ始めて、私は再び宮殿の中に戻った。


「これはこれはザイザル様!」


 トロイツ国王が、私を部屋に招き入れた。


「もう暫くすると、パーティーが始まります。どうぞ、貴賓室でお休みくださいませ」


 そこには、メコンたちが既にいた。


「ザイザル、どこに行っていたんだ?」


「いや、少し風に吹かれていたんだよ」


「へえっ、そうかい?それよりさ……」


 メコンは耳元で囁いた。


「今日は全ての令嬢さんが揃うんだってな!楽しみだな!」


 メコンは新しい恋を模索していた。私は純粋にパーティーに参加することしか、興味が無かった。


「君も見つけるといいよ!私たちは英雄なんだから!英雄に伴侶は付き物だろう!」


 確かに昔から変わらないメコンだったが、恋を模索するメコンは、少しばかり大人びているようにも感じた。それに引き換え、私はまだまだ子供なのだと思った。



 パーティーは七時に始まった。まず、国王の簡単な挨拶があり、その後は私たちが会場に入場した。参加者全員の拍手喝采を浴びた。ここまでは、先ほどとあまり変わらなかった。


「皆さま、本日はこちらにいらっしゃる勇者様たちの労をねぎらうとともに、勇者様たちの新たな門出を祝って、いささか急ではございますが、お見合いの場として設けさせていただきました。諸侯、並びに、令嬢の皆さんのご理解を頂きたく思います……」


 私は一番高いところから、会場を見通すことになった。今まで遥か上にいた特権階級の貴族と令嬢が、今は私よりも低いところに座っていた。そして、私の前に直接やって来る高位貴族と令嬢は、深々と頭を下げ、


「この度は誠におめでとうございます」


 と言っていく。世界がたった一つの行いで変わってしまった。私は未だに、魔王を倒した実感がなかった。これほど簡単に、世界の最高層にたどり着いてよいものなのか、と思った。


 パーティーの後半は、主にメコンの望み通りであったが、私たちと令嬢たちのお見合いの場になった。令嬢は総勢百名弱と言ったところだった。皆、目を金のように光らせていた。私はこの異様な空気が重苦しかった。それを見かねたメコンが、


「どうして固まってるんだよ?もっと、リラックスしようぜ」


 と言ったものだから、私は余計に、この空気が嫌になった。


「メコン……私は少し風に吹かれてくるよ」


 そう言って、この場から抜け出そうとした。


「ザイザル様?いかがなされたのですか?ご気分が優れないのですか?」


 令嬢カーストの頂点に君臨するであろう、トロイツ国王令嬢のキャシーが、心配そうに私のことを見つめた。


「いいえ、決してそんなことではないのです。ただ、少し疲れたのです……」


 そう言って、後は全てメコンに任せた。


「ザイザル様……」


 私のことを目当てにしていた令嬢がいたのかもしれない。しかしながら、それも全てメコンに任せていれば問題なかった。やはり、恋はまだ早かった。


「まあまあ、皆様方。ザイザルは昔からあんな感じなのです。すみませんね。さあさあ、残った私たちで楽しもうじゃありませんか!」


 メコンがしっかりフォローしたおかげで、令嬢たちもすっかり明るくなった。さてさて、あの中からメコンの伴侶が果たして見つかるのかどうか……私は少しだけ、そんなことを考えた。


 バルコニーに立ったのは、これが三度目だった。夜になっても、世界の民はまだ残っていて、彼らなりのパーティーを続けていた。私も生まれは庶民だから、この景色を見ている方が、なんだか安心した。


「ザイザル様……やっと見つけましたわ!」


 聞き覚えのある少女の声……それは、先ほど私の名前を連呼していた少女の声にそっくりだった。


「だれ?ここにいるんですか?」


 私が尋ねると、声の割には大人びた少女が姿を現した。


「ザイザル様……私の運命の人……」


 少女はニコニコと微笑んでいた。

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