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第1話

 エステナ王国王直属騎士団所属、アレクハート・レグレス。


 ポツンと呟く。

「何故、こうも理不尽なのか……」


 彼は、辺境の集落の中で一人、目の前の景色に呆然としながら突っ立っていた。正確には、「集落だった場所」なのだが。

 建物のほぼ全てが全壊。

 残っているのはたった少しの瓦礫。人の姿も、集落の面影も、全てがなくなっていた。

 理不尽――そうだ、理不尽。成すすべなく破壊されたこの景色を表現するのに、これ以上の言葉はない。


「『我が望むは新世の理想郷。ここに再度、楽園を』」


「【アーティ・ヴィ・レガリア】」


 彼は、何かを呟いた。瞬時、集落全体に光の魔法陣が静かに広がる。真上から見ると、彼を中心に円形の輪が広がっているように見えるだろう。輪の内側には、何かわからない幾何学模様が入っている。

 それはアレクハートの「魔法」。いや、彼の「固有能力スキル」だ。

 彼はそれを利用し、瞬時に辺りを探る。彼の広げた実体無き魔法陣の中は、彼の領域と言ってもいい。無論、その中の物全てに干渉できる訳ではない。というか寧ろ、「干渉」というよりかは「感知」だ。


 そして数舜後、アレクハートは全てを理解した。

 ――生存者、無し。……遅かったか。


 彼は広げていた陣を解除……消滅させ、今度は辺りに注意を向ける。

「さて、()()()()()()()……?」


 そう、彼は感づいていた。これは何者かによる「襲撃」だと。

 つまり、これをなした真犯人を野放しにしておくのは危険と判断する。

 騎士である彼にとって人々に危険を及ぼす存在の排除は、使命とも言ってもいい。


 集落付近を見回し、おおよその見当をつけたアレクハートは全力で駆けだした。

 山の中、そこにソイツは向かったのだろう。そして偶然か、それは王都の方角。


 己の腰に吊り下げた剣を確認した後、彼は森の中へと突入する。


 「最強」である彼の額には、何故か汗がにじんでいた。


 ◇◇◇◇


 森の中。少年と少女が駆けている。空は薄暗く、さらに生えている木々のせいで視界が悪い。

 そんな中でも全力で駆ける二人は、完全に怯えていた。



「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁはぁ……!」


 死ぬ。死ぬ死ぬ死ぬ。無理。あんなモノ、いちゃだめだ。

 みんな死ぬ。誰も生き残れない。


 頼む、頼む頼む……! 絶対、見つけないで! ここに、来ないで!!


 心臓が悲鳴を上げる程に、鼓動は速く強くなっていた。走り続けているせいか、息が苦しい。

 後ろを振り向けば、自分が手を引いている少女の姿があった。自分と同じ、十歳の少女。必死になって付いてきている。

 恐らく、彼女も僕と同じ心境だろう。あんなモノを見て正気でいられるはずがない。

 考えれば、集落から抜け出して、森へ逃げることができたのは奇跡なのかもしれない。

 今頃――集落はどうなっているのだろうか。もう、あの変な光によって、跡形もなく消し去られてしまったのだろうか。

 でもそんな中、ただ一つだけわかったこと。


『みんな死ぬ』


 お父さんもお母さんも隣の家のランおばちゃんも……みんな……。

 胸の奥から込み上げてくる何かが、駆けていた足を止めそうになる。今すぐに集落に戻ってみんなに「大丈夫だよ、これは悪夢だから」って言ってもらいたい。


 だけど。そんなことはあり得ないんだ。

 少し低いところにあった枝が、駆けている僕の腕を削る。そこから走る痛みに、否が応でも「これは現実だ」と思い知らされる。


 止まっちゃだめだ、逃げなきゃ。集落あそこに戻っても死ぬだけなんだ。

 もう、逃げるしかないんだ。



「……きゃっ!」


 地面に突然()()()()木の根に躓いた少女が転ぶ。手を強く引かれた少年も反動で態勢を崩した。二人もろとも地面に手を着く。

 止まっている場合じゃない……。

「大丈夫? 立てる?」視線で会話する。頷く少女の手を引いて立ち上がろうとして……やっと異常に気付く。


 二人の目に映った景色は、明らかに異様だった。


 あり得ない速度で成長する植物たち。つい先ほどまで足元で雑草していた小さな花々が、今はもう膝の丈まで伸びている。今もまだ……目に見える成長を続けていた。


 紛れもない、超常現象。何が起こっているのか、理解が追い付かない。

 その間にも草木は恐ろしいほどに生い茂り、木々はますます高く広く枝を広げていく。


(はぁ……これじゃ……先に進めない……!)


 一瞬にして森林から大密林ジャングルへと姿を変え……行く手を阻む自然。


 そして追い打ちをかますかのように……暴風が吹き荒れた。続いて、雨。そしてすぐにそれは雪に変わり、静かに舞い落ちる。次には地が揺れ、天より雷鳴が轟いた。

 それは一瞬のうちに起こった出来事。


 それが意味するは――。


(来や……がった……)


 上空より飛来する影。いや、大きく広がった木々が光を遮っているため、影は見えない。だけど、その存在感が影となって二人を上から押さえつけた。

 すぐ前方に降り立ったソイツは、光輝いていた。

 大きさは……三メートル程。その姿を例えるならば、ドラゴン。

 一対の翼を広げ、首を高く持ち上げた姿は、まるでお伽噺の挿絵そのまま。


 相対するだけで、否。ソレを認識した時点で、全身が震え、膝がガクつき、息が荒くなる。

 まだほぼ無傷なのに、まるで風前の灯。そう表現できる程、両者の間には絶対に覆せない強弱関係があった。

 だが、こんな時に限って……僕の脳は冷静になっていた。いや、こんな時だからこそなのかもしれない。


 音もなく……ソイツは咆えた。すると、驚異的な成長を果たしたソイツの周りの植物たちが一斉に砕け散る。

 まるで命ある者の末路、自然の摂理とも言わんばかりの光景。誰にも逆らうことのできないモノに触れた感覚。故に、僕も冷静になっていたのかもしれない。


 ソイツ……ドラゴンがこちらを見る。その目に宿すは、敵意ではなく、「無関心」。だが、目障りとでもいうように、ドラゴンは力を溜め始める。

 そのドラゴンの放つ光が一層強くなっていく。揺らいでいくその姿。時折


 僕は、死を覚悟した。ううん、強引に覚悟させられた。

 だけど、別にいい。いや、逆に感謝してる。やっと、僕にやるべき事を教えてくれたんだから。

 僕のたった一つだけの「夢」。


 それは誰かの「騎士」になること。

 「騎士」。誰かの笑顔を守るために強大な敵に立ち向かっていく、かっこいい人。

 僕はそんな「騎士」に憧れた。きっかけは……何でだったのかな、思い出せない。でも、目標はあった。

 ――騎士アレクハート。どんな窮地にもその身一つで向かい、どんな弱者にも手を差し伸べてきたという、最高の騎士。

 彼の言葉の一つ。

『「騎士」は人を……いや、笑顔を守るのが役目だ』


 だから、僕は立ちはだかった。

 少女とドラゴンの間で。少女を守るかのように。


 ドラゴンが大きく翼を広げた。輝くそれは、まるで人間の力では表せないような、そんな美しさがある。「自然とはそういうものだ。我々には表せない……全く理解ができない存在なのだよ」誰かがこう言っていたのを思い出す。いや、本だったか。


 まもなく、溜め込まれた力は放たれた。


 ゆっくりと押し寄せる光の波。いや、ゆっくりに見えるだけだろうか。


 そんな中。

「――だめぇぇぇぇぇええええ!!!」

 声が、響いた。僕の後ろで地面に手を着いたままの少女の声。


 僕は首を振る。

 せめて……僕に夢を叶えさせてよ。憧れには届かなくても……「騎士」にだけはなりたいんだ。キミのための……。


――直後。

 僕は光に包まれた。波のように押し寄せる力の奔流に流されまいと、両足を踏ん張る。

(頼む! 彼女ミラだけは……ミラだけでも……守るんだ!)

 次第に感覚が薄れていく。

 少女が何か叫んでいるけど……もう聞こえない。


(理不尽ってこういう事なんだね)

 家族も、集落も、友も、夢も。全部、成すすべなく奪われて。でも、抗えないんだ。こんなの、悔しすぎる。

 零れた涙も、光の奔流に飲まれて消えた。


 ……。


 もう、無理。身体が……持たない。そろそろお別れだ。


 ごめんね。許して。


「ミ……ラ……、さ……よな……ら……!」


 感覚は無くても、僕の口は、一字一句間違えずにその名を呼んでくれた。


 何だろう、あったかい。

 最期に……失ったはずの感覚が一瞬だけ蘇った気がした。



忠告しておきますが、転生モノではないです。

良ければ評価など。酷評でも構いません。よろしくお願いします。

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