賢人の知恵
前回までで『ワキおにぎり』議論で覇太郎を制したカズキは、しかし肝心の女子たちに納得してもらう術を思いつけていません!!
そこで早速『賢人』の力を頼ります・・・!!
「……しかし、まさかカズキがそこまで真剣に考えているとはな」
覇太郎は称賛ともやれやれといった感じとも捉えられるような表情で俺を見る。
「しかも普段の優柔不断なカズキじゃなかった。あそこまで本気なお前を見るのは初めてかもしれない」
「俺だって守りたいもののためには我が身を顧みずに戦うさ。そう、それだけニーナちゃんのワキおにぎりは魅力的なんだ」
そう、綺麗な銀髪に日本人離れした美しい顔立ち、豊満なボディにまるで雪のように白く透き通るような色でスベスベなワキ。
そこで握られる米は、そこでできあがる不格好だけども肌の温もりが感じられるおにぎりは、きっと多くの男を惹きつけて離すまい。
俺はぽけーっと口を開けて、早くもそのおにぎりへ想いを馳せていたが、とても現実的な覇太郎の一言に目を覚まされる。
「ところでカズキ。ニーナちゃんにワキおにぎりを作ってもらうとして、どうやって許可を取るんだ? それにきっとアイアも黙ってないぞ?」
そう、現実と夢の間には大きな壁がある。
俺の場合、それはワキおにぎりを作るためのワキを提供してもらう予定のニーナちゃんを説得する方法と、アイアという存在の2つであった。
「そうなんだよな……というか今日はそもそもその相談をするために覇太郎だけ攫ってきたんだよ」
覇太郎を説得したことで、なんだかやり切った気分になってしまっていた。
だがーー
「実は、ニーナちゃんを説得する方法については、思いついてなくもないんだ……」
「本当か!? ぶっちゃけアイアよりもそこが一番の難関だと僕は思っていたんだがな……」
「ニーナちゃんは日本に来て、まだ間もない。理解力と適応力は尋常じゃなく速いが、日本文化全てを吸収しきっている段階ではない。それを利用させてもらう」
「つまり……?」
「ニーナちゃんを騙して、日本では女の子がおにぎりをワキで握る文化があるってことにする!!」
「お前最低だなっ!!」
「これぐらいしなきゃ美少女が人前でワキでおにぎり作る訳ないだろ!!」
再び呆れた顔をする覇太郎はさらなる問題点を突き付ける。
「仮に騙されてくれたとして、アイアと同居しているんだから、すぐにそんな文化はないってばれちゃうんじゃないか?」
「……その通りなんだよなぁ」
確かに覇太郎の言う通りで、俺もその問題には気付いていた。
「……ねぇねぇ、どうすればいいと思う?」
だけど全然対応策を思いつけないからここは全力で覇太郎を頼ろう。
てへっミ☆ という顔を意識して片目でパチパチとウィンクする。
覇太郎が何かとてつもなく汚いものを見る目になった気がするけど、でも根が真面目なやつなのでちゃんと答えてくれる。
「アイアとニーナちゃんに与える情報の種類を変えよう。そしてそれぞれに個別で納得してもらうんだ」
「というと?」
「ニーナちゃんには、真実と詭弁を混ぜた説明をして納得してもらう。真実とはワキでおにぎりを握ってもらうということと、この行いが男性への下心へ働きかけるものだということ。そして詭弁とはワキでおにぎりを握るということはそれほどマイナーではないということだ」
「ほう?」
「日本文化とまで言ってしまうと早々に嘘がバレてしまうが、ワキでおにぎりを握るというのは実際に漫画の中の世界では存在している訳で、このシーンを見た多くの子供たちはトラウマとしてワキおにぎりを認識しているわけだから、不特定多数の人々がワキおにぎりを知っていると言っていい。つまりマイナーではない」
「腹を割って目的を話したことで信用を得つつ、それでも恥ずかしいと思うであろうワキでおにぎりを握るという行為に対しては詭弁を用いてそれが特殊な行為ではないと安心させるわけか!!」
「そういうことだ。アイアに対しては、ニーナちゃんにワキでおにぎりを握ってもらう許可を得たという事を前面に押し出して説得しよう。ニーナちゃん自身がぜひワキでおにぎりを握りたいと言ってくれさえすれば勝率はさらに高くなる」
「いやいやいや……さすがに自分からワキでおにぎりを握りたいなんて言うわけないだろ……」
俺のある種否定的なその発言に、しかし覇太郎は「フッ」と目を怜悧そうに細めて、淀みなく言葉を続ける。
「そこはエサで釣るのさ」
「エサ?」
「そう。学園祭で売り上げが1位になると、賞品として『ネズミ夢王国』のチケットがもらえるということにする!」
「なるほど!! 『ネズミ夢王国』に行きたくない女の子なんていないもんな!!」
かく言う俺も『ネズミ夢王国』は大好きで、今でも行きたいと思っている。
最後に行ったのは2年近く前で、高校の卒業旅行ということで覇太郎とアイアと3人で朝から晩までアトラクションを楽しんでいた。みんなして地元の駅に戻るまで、自分の頭に着けていたネズミのカチューシャを外し忘れていて、そのことに気付いた時の恥ずかしさも今ではいい思い出だ。
「でも、実際に学園祭が終わった後にそんな賞品が無いと知ったらさすがにニーナちゃんが怒るんじゃないのか?」
エサをぶらさげて散々焚きつけておいて、最終的に実は全部ウソで~す、とか言われたら俺だったらマジギレする。
「そこは問題ないさ。カズキの予想じゃ男どもがいっぱい買っていくだろ? その売り上げで充分賄えるだろ」
「そっか。それならそんなに問題にはならないか。実際に行けるわけだし」
ということで俺たちの方針は確定した。
「概要説明書を書いて、ニーナちゃんを説得して、最後にアイアを攻略しよう!!」
いつも読んでいただきありがとうございます!!
次回からは早速カズキが女の子たちと交渉をしていきます。
そしてもちろん思い通りには運ばないわけで・・・!!
次回更新を楽しみに待っていただければ幸いです!