バキバキのフラグ、ドキドキの真実
『フラグ』って言葉、誰にでも通じるかな? って思ってしまうけど、元々オタク用語だから常用会話に用いる時は要注意!!
「--というわけだよ、諸君。一緒にアイディアを出したまえ」
「なにが、『というわけ』よ。あんたがアイスキャンディー舐めて寝ただけで、1人で何も考えてないじゃないの」
世界的大事件ーー昨日のテンプレの出来事がダブルで続いた件について、俺は確信を持ってこう呼ぶことにしたーーの翌日、俺は再びアイアの部屋へと上がり込んでいた。
一昨日と違うのは、俺とアイアの他に覇太郎と、そしてニーナがちょこんと座っていることだ。
「そういえばニーナちゃん、昨日と恰好が違うね」
アイアの隣に座っているニーナちゃんは、昨日はビキニアーマーを着用していたのに、今日は普通の洋服を身に纏っていた。
アイアの私服を借りてるのだろう、見覚えのある半袖服だ。
「さ、流石にあの恰好をこの世界でするのは恥ずかしいと思いまして……」
照れた様子がまた可愛いなこの子は。
短い袖から時折チラリと覗けるワキがまた艶やかで、ついつい目が行く。チラリチラリとバレないように目線をやって、俺の感動の根源を拝む。
昨日からずっとワキの事ばっかり考えてしまって、中々他に頭を使えなかった。
俺のそんな頭の中を読んだのか、アイアが目を細くして俺を不審がっているみたいだ、マズいマズい。
「と、ところであのビキニアーマーは脱いで大丈夫なものなのか? 例えば、『この鎧を脱ぐことはできぬ! 魔術的に……』とか『この格好のどこがおかしいというのか? 魔術的に普通であろう?』とか、『この鎧を外すと魔術的に世界が大変なことに!』とかそういう設定はないの?」
はぐらかすために別の話題に変えたのだが、これはこれでアイアに『コイツ何言ってんだ?』みたいな不審な目を向けられてしまった。
失敗だったかな。
しかし、特にアイアに追及されることはない。
なかったのだがーー予想外の返事が返ってくる。
「あぁ、あの鎧? 今日も天気がいいしさっきお風呂で洗って、今は日干ししてるわ」
「えっ!? アイアが!? えっ!? しかも日干しぃッ!?」
そんな、『あっ、今日は天気もいいし普段は中々洗えない靴でもあらっちゃお☆』みたいな感覚で!?
「そうよ? ニーナは疲れてて、昨日ご飯食べさせてからさっきまでぐっすりだったし、あの鎧は次元の狭間? に漂流している間ずっと身に着けていたっていうから」
「いやいやいや、この世界に生きる人間が容易く触っちゃいけないかもしれないだろ! 魔術的にさぁ!」
そこんとこどうなの!? とニーナちゃんを振り返ると、俺の心配などどこ吹く風で答える。
--それも、これまた予想外の形でだ。
「いや、魔術とか使えませんし、そもそも存在しませんし。あれ防水の高機能鎧で水洗い可なので、洗ってもらってむしろ助かりました」
「よ、鎧まで現代的……え? というか魔術だったり魔法だったり使えないの? 次元を超えてこの世界にやってきたんじゃないの……?」
あれ? 色んなラノベテンプレ的なフラグをバキバキに折られて落ち込んでいた中で、それでも魔法とかくらいはあるんじゃなかろうかと、心の中で密かに期待を高めていた異世界ファンタジー的な展開が……、あれ?
「あれはれっきとした科学ですよ。5次元の並列に別世界が膜状に存在しているのなんて私の世界では常識の範疇でしたし、移動方法も公にはされていませんが確立されています」
「あぁ……そうですか……」
急速に、心に僅かばかり灯っていたロウソクの先ほどの希望の火が、消える。
何か勝手に期待しちゃってた分際でだけど、そうですか……。
剣とか魔法とかファンタジーとか、そういう世界観がよかったなぁ……。
俺が萎びれている横で覇太郎が、
「……いや? 僕たち今とんでもない真実を耳にしなかったか……?」
などと1人慄然としている様子だけど、今の俺はショックでその反応に関心を持つことができなかった。