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見られている

じーーーーっ。

 見られている。だれかに見られている気がする。いつでも、どこにいたとしても。

 ずーーーーっと、だれかが見つめている気がする。自分のことを無遠慮に、じろじろと見ている気がする。

 この気持ちは一種の病気なのかもしれない。いつからだろう。この病気にかかってしまったのは。

 人通りの少ない道に一人もの思いにふけりながら歩いているとき、ふとすぐ後ろにだれかが寄り添っている気分がして、はっとする。それで振り向いても、だれもいないのだ。当たり前のことなんだけど、とても不思議。

 見えないけど、それは見えないだけのことで、確かにだれかがいるんじゃないか。

 ばかばかしいことを考えている自分がいて、笑ってしまう。でも、心のどこかでそれが本当なのだと信じ込んでいる自分がいるのも知っている。

 学校からの帰り道。一人歩いていると、例によってまたそんな気分になった。人通りの多い大通りから抜けて、住宅地へと向かう上り道。ここを上り終えたら、家に到着するちょうどそのとき、思い切って振り返ってみた。だれもいないはずなのに。

 でもそのときはちがった。

 ぼくを見つめる少女の瞳が、そこにはあった。

 電柱のかげに隠れて、顔だけを出して、真剣にこちらを見上げるきれいな瞳が、確かにぼくの姿を映し出していた。

 年齢は、五、六歳くらいではないか。肩までかかる長い髪。やさしげな眉毛の下で、らんらんと光るまっすぐな目。きつく結んだ唇。なんて書いてあるかわからない英字がプリントされたTシャツを着ている。

「え?わたしのこと、見えるの?」

彼女が驚きを隠せない声色でそんなことを言った。その声は耳から入ってくるのではなくて、頭に直接響いてくる声だった。彼女は、いったいなんなんだ。

 とにかく、関わるべきではないかもしれない。

 やっかいなことには巻きこまれたくない。

 なにごともなかったかのように、少女の瞳から目をそらして、前に向き直る。気がつかなったふりをして、坂を上り始める。

「え?え?え?ジンくん。わたしの姿がわかるの?ほんとに?いままでこんなことなかったのに!だって、わたしの方を見たとき、ジンくんの顔が変わったもの。わたしのこと、気づいてくれたんでしょ?ねえ、ねえったら。聞こえないふりをしないで!わたしだよ。わ、た、し!ほら、結婚するって誓い合った仲だったでしょ?幼稚園のときだけど…。でも、ずっと一途に思い続けてたの。あなただけを見つめていたの。ねえ、気づかないふりなんかしないで?ずっと、寂しかったんだよ。やっと、会えたのに。ねえ、ねえったら。」

ものすごい数の言葉が、頭の中に流れ込んできた。その言葉とともに、せつなくて、うれしくて、悲しくて、愛おしい気持ちがぐちゃぐちゃになって、自分の心に押し寄せてくるのを感じた。なんだ、このかんじ?

 彼女はいつのまにか自分のすぐ隣で一緒に歩いていた。小さな、柔らかそうな手が僕の手をつかもうと必死になっていたが、なぜか彼女の手は空を切るだけだった。それでも、延々と僕の方をみて話し続けていた。その言葉が頭の中を埋め尽くして、ひどい頭痛がした。

 君がだれなのか、なんなのかわからないけど。ぼくはこどもが、きらいだし、苦手なんだよ。自分の感情をストレートにぶつけてくるから。

 もうぼくなんてかまわずに、どこかに行ってくれないかな。


 

 

 

 

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