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ルッキングフォードラゴン!  作者: スルメねこ。
4/4

4章-Do you make me excited?-

頬を、涼しげな風が撫でている。

閉じた(まぶた)の奥はまだ暗い。音から焚き火が消えている事を知り、夜明けより少し前くらいの時間帯なのだと推測する。

うっすらと目を開き、東の方を見やると、山の淵が間接照明のようにうっすらとあけぼのに染まっているのが見える。

手元のタオルで軽く顔を拭き、まだ冷たさの残る風に顔を委ねる。

「良い朝だ…。」

この時間帯は、まだ鳥も鳴いていない。自分が動く時の衣擦れの音以外、波が打つ音しか聞こえない静かな空間で、大振りに伸びをする。

「ん…、?」

メルデが少しだけ瞼を上げる。どうやら彼も起きたようだ。

「ふわぁぁあ。そろそろ朝かぁ?」

まだ若干寝ぼけているようだが、彼はすぐに目が覚める。

所謂(いわゆる)体育会系な彼は、たまに早朝から「朝練」なるトレーニングをしているらしく、起きてから目が覚めるまでが非常に早い。

「ふぅ、この感じ、日の出の頃には出発できそうだな。」

メルデが軽くストレッチをしながら言った。

「素早く準備を済ませて出発しよう。」

昨夜、朝食用に作っておいた魚と野菜の煮込みをよそい、手早く食べる。

「おぉ、魚の出汁が効いてんな。」

今回は東洋の「ミソシル」なるものに味付けを近づけてみた。

肝心の味噌がなかったが、それでも染み出す旨味が脳を覚醒させる。

暫くして、夜営の片付けとお互いの荷物整理を終わらせ出発の準備を整える。

「さて、出発しますか。」

東の山脈の(いただき)には朝日が昇り、山々から茜色のコロナが上がっている。

水平線はまだ暗いが、すぐにでも明るくなるだろう。

紫紺に染まる雲がたなびき、山吹色(やまぶきいろ)の太陽を迎え入れる。

“春はあけぼの”

ふと東洋の言葉が頭に浮かぶ。

(夏の明け方も美しいものがある。)

今日も炎天下になるであろう砂原の中、北部を目指し足を進める。






第三ベースキャンプ地から北部洞窟地帯まではそう遠くない。なにしろ見えているくらいだ。

火山性鉱物の影響で青っぽく見える岩肌が、黄色い砂と強いコントラストを生む。

「ふぅ、入り口に来ただけでもかなり涼しいな。」

「洞窟内は気温が低く保たれているからな。」

「暑くなる前に着いてよかった。」

暗闇が手を招く…と言いたいところだが洞窟内に自生する【光粒苔(こうりゅうたい)】のお陰で淡く緑色に輝いている。

(あや)しく()らされる洞窟の奥を睨み、ひんやりとした岩の中へ足を踏み入れる。


それから暫く特にこれといった異変は感じられなかった。

警戒しているのか動物達は姿を見せず、どこか遠くから鳴き声が聞こえるだけだった。虫や自生する植物達はいつもと変わらず、静かな洞内に水の(したた)る音とコツ、コツ、という僕達の足音だけが響く。

第三階層と呼ばれる深さに来た頃だろうか、ふと何か硬いものが岩壁に擦れる音が聞こえた気がした。

それは気のせいだとしても、その頃から妙に爽やかな匂いがする。その匂いにはメルデも気づいたらしく、顔をしかめていた。

一体、なんの匂いだ…?

そのまま特に何も見かけず第六階層まで降りてきた。

遺跡砂漠の洞窟は棚状に空洞が存在し、それぞれ階層として識別されている。各階層(ごと)に存在する遺跡群も異なっており、ここ第六階層では神殿らしきものが多く点在する。

第六階層は他の階層と少し異なり、その中心付近に大きな開けた部屋がある。部屋の中心には大きな樹があり、深層━━━第五階層以下の階層━━━の酸素の多くをまかなっている。洞窟内を流れる水や鉱物から豊富な養分を吸収し、光粒苔などの活動による化学反応で起こる緑色の光|(正確には緑色以外の光も発生しているが、各植物が大半を光合成のために吸収してしまうため、目に届く光はほとんど緑色のみである)によって光合成を行い、洞窟のオアシスといったところだ。

しかし、その樹には明らかな変化があった。

それは、むしろ異変というに相応(ふさわ)しいものだった。

本来は根から吸収した鉱物の影響により、様々な色に反射している樹だが、今は何故(なぜ)か緑1色に染まっていた。

安全色、と言えば良いだろうか。

翡翠やエメラルドより鮮やかな緑色で、少し青みがかった色だ。

それに、所々黄色く光っていたのも気になった。

メルデと目配せを交わし、樹に近付く。

すると、あと4~5mといったところで樹の様子が変わった。

それまでほとんどが緑色だったのが、一斉に黄色に変化したのだ。

所謂(いわゆる)警戒色に染まりこちらに敵意を向けるその樹に、僕達は2人とも困惑を隠せない。

「なんだこれは…?」

思わず口から言葉が漏れる。

緑から一斉に黄色に変わった樹は、周期的に明るさを変え、波打つような光を発している。

「ったく…、気色悪くなったな…。」

メルデが気持ち悪がるのも無理は無い。先程から感じていた爽やかな匂いはここで最も強くなり、もはや吐き気を(もよお)すものになっている。

一体何があったのか。

「この樹の遺伝情報が変わったなんてことじゃないだろうしな…。」

「表面に何か付着しているのか、はたまた何かに感染しているのか。」

「ん?この光るやつ、周りの植物(やつら)にも拡がってないか?」

メルデの言う通り、黄色く変色した緑色の何かはこの樹を中心にじわじわと拡がっている。

成程(なるほど)どうも感染の線で考えて良さそうだな。」

「となると(こいつ)が感染源と見て間違いないな。」

「あぁ。それでだメルデ、これからどうする?この何か(感染原因)、放っておくとなると悪い予感がするが?」

この黄色くなった樹からは、憎悪のようなものを感じる。何かを強烈に(うら)むような気配を。

呆眺龍(あの龍)のついでに調べる必要があるな…。」

調べなければならないものが1つ増えた。

「面白い事になってきたぞ…。」

不覚にも口角が上がり、胸の内に煌々と燃え上がる高揚する感情が疼く。

それを見たメルデが、楽しそうににやける。

「やはり、まだまだ飽きずにいられそうだな?」

2人は未だ警戒を放つ樹を後にし、更に下の階層へと降りる事にした。






第十階層。洞窟の最下層。この遺跡砂漠で最も深い場所である。

遺跡砂漠の洞窟は全て繋がっているため、どの入り口から入っても必ずこの階層に辿り着く。

第十階層とは言うが実際は第十階層から第十二階層までを指し、これらは吹き抜けのような構造によりほぼ一体化して1つの空洞を成している。

第十階層には1つの空間以外存在せず、三階層分の縦穴に螺旋状の道が存在する。ここにも遺跡は存在するが、遺跡跡とすら言えるかどうかの僅かな石材が点在する程度である。

この階層の真上には他の空洞は存在せず、地上まで続く足場のない縦穴が天井に開いている。

その穴から降る光に照らされ、青く輝く岩床の上、黒い塊が落ちていた。

メルデと目を合わせ、静かに下へと降りる。

「こいつは…」

既視感のある塊を見て、メルデが声を漏らす。

「間違いない。呆晀龍(やつ)だ。」

丸くなっていた塊が首をもたげ、こちらを見やる。

「起きやがったか…。」

怠惰(たいだ)な目で僕達を見て、龍は伸びをするように翼腕を広げる。

ふと、「また貴様等(きさまら)か」という声が聴こえた気がした。僕の気のせいか…?

沿わせていた尾を自由に降ろし、こちらに向きなおす。

「龍よ、貴殿は何者だ?」

………。

(しば)しの沈黙。

『貴様等に答える義理は無い。』

龍は重く低い声で答えた。

軽蔑の眼差しでこちらを眺めるその龍はその群青(あお)い口を閉じ、気だるそうに首を振った。

「なら、戦えばわかるよな。」

メルデが抜剣し、そのまま斧に変形させる。

『退屈凌ぎにもならんな。』

龍は渋々立ち上がり、こちらへ構えた。

「楽しませてみせようか?」

メルデが笑って斧を担ぐ。

『………失望させてくれるな?』

「あぁ、失望はせずに済むだろうな。舐めてもらっては困る。」

『…。』

僕も狙撃弓銃を構え、戦闘態勢に移る。

メルデとアイコンタクトをとり、呼吸を揃える。

互いに(うなず)き、合図を送る。

刹那。

メルデが前触れなく斧で重撃を叩き込んだ。が、しかし。

『舐めておるのか?』

龍は時を飛ばしたかの如き速さで一回転し、その大槍のような尾で斧を横から叩き落とした。

『ッ!』

龍が眼を見開き、大きく吸息する。


【グルォォォォォォォォォォンッッ!!!!】


4章-end-

第4章を読んで頂き、誠にありがとうございます。

ようやく人物や世界背景が出揃ってきて、しっかりと物語になってきたかな、と思います。

今回は、早速答え合わせから行きましょう。

第1問の答え!

呆晀龍。その名付け親は、なんと酒場の壮年です。マスターじゃありませんよ?

第2問の答え!

平原から遺跡砂漠の入り口までは大体20kmくらいです。ルーメラとメルデは結構歩いてますね。

第3問の答え!

「沿岸部との境の辺りに設置された第三ベースキャンプ地」とありますね。3つ目のベースキャンプ地です。

では3章のクイズ、第1問。

呆晀龍の尾は、「大槍」と比喩されましたが、それに対し、怒裁龍の尾はなんと比喩されたでしょう?

そして、第2問。

帝王と称されるほど肉が美味しい憐羽鳥・ホロムーンですが、作者が付けたその名前の由来はなんでしょう?

さぁ、第3問。

後半で絶品バジル焼きにされた白身魚達。ちなみに、このバジルは誰がどこで採ってきたものでしょう?

さてはて、1章、2章、3章とかなり連続して出していたのですが、遂に書き溜めされていたメモが無くなり、ここからは完全に1章投稿後に新しく執筆したものとなります。

どうでしょう。流石に表現は上達してますかね?

今回、ようやく洞窟内に入ったルーメラ君とメルデ様。実は4章は本来もう少し長くする予定でしたが、あまりにも長くなってしまったので後半を5章に分ける事になりました。

各章、おおよそ5~6分(10分以内)くらいで読めるように作品を作っているのですが、この文字数はどうでしょうか。

投稿時間でなんとなくわかる方もいらっしゃると思いますが、通勤・通学のタイミングに合わせております。

電車に乗っている間や、バス停などでバスが来るのを待っている間などの暇つぶしにして頂ければ、と思います。

では、ここまで読んで頂きありがとうございました。

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