1章-Can you give me a fun?-
風が吹いている。
柔らかな空気が全身を包みこみ、鼻頭、頬、こめかみ、耳、と順に流れていく。眼下には広大な平原が広がり、足元の小さな崖がまるで浮島のようにも見える。平原の所々で点々と見える動物達が、今日も生命の営みを輝かせている。
耳元を撫でる風の音、猛々しく唸る滝の音、大気に染みこんでいく獣の雄たけび、聞こえる音のその全てが雄大に佇んでいる。
(やはり美しい。)
空には鳥や龍が優雅に舞い、地を蹴り駆け巡る獣や竜、水には魚も泳ぐ。巨大な樹から虫のような小さな者達までが自然を形造り、命を轟かせている。
「オイ、いつまで突っ立ってんだ?早く行くぞ。」
「あぁ、今行く。」
渋々足を後ろに下げ、景色に背を向ける。
「さ、久しぶりに会ったんだ。昼から酒でも飲もうぜ?」
「良かろう、存分に付き合って貰おうじゃないか。」
お互い笑みを交わし、今いる高台の麓の丘を目指す。
彼はメルデ━━━メルデ・バラン。
古くからの友人で、よく一緒に酒を飲む。
彼は剣を得物としており、さらに盾も構えている。
その剣と盾は変形し、1つの大きな斧となる。
それは彼が自分で設計・作成した物で、【紅銀牛タウラス】と名付けられている。重厚でしっかりとした鎧も紅と銀で彩られており、その姿は武神を思わせる。
彼の二つ名は【武神アルデバラン】。
漆黒の髪を後ろに流し、燃えるような紅の瞳を輝かせる粋な青年。だが顎髭を生やしたその顔は鍛えられた身体に見合い、どこか威厳を感じさせる。
その右胸にある左角の折れた雄牛のエンブレム。彼の神紋だ。緋い雄牛の顔が堂々と飾られ、その周囲に真赤な炎が揺らめいている。覇気のこもった雄牛の両目には、何者にも屈さぬという固い意思が表れている。
「ここはいつまでたっても変わらねぇな。」
「あぁ。変わるのは過ぎた時間のみ。むしろ美しさはより磨かれているのではないか?」
「お前の愛した景色はこの世の宝レベルの絶景だもんな、ルーメラ?」
ルーメラとは僕の事だ。
ルーメラ・ルナフレア。それが僕の名だ。
得物は狙撃弓銃、あとは弓だ。これらもメルデが作成した物だが、設計は僕が行った。
狙撃弓銃は射程数kmクラスのボウガンで、装填には時間がかかるが当然その威力は高い。暗金属類を使用した純黒のボディと、機密部分を構成する魔結晶や月水晶の蒼い光からメルデが勝手に【蒼黒龍ドラゴン】と名付けた。鎧は黒でまとめられたシンプルな物で、所々に駆動機構や加速機構の蒼い光が見え、黒い外套を羽織ったその姿は死神のようにも見える。
僕の二つ名は【絶対神ドラグニル】。
黒髪は僅かに黄金色に輝き、耳を隠し鼻頭にかかるほど伸びている。好き勝手に遊ぶ髪を時々弄りながら、全てを見透かすかのようなトパーズ色の双眼を整った顔から覗かせる。
「自然程美しいものは無い。」
「ハッハッハ!お前の言う通りだ。お陰でまだまだ飽きずにいられそうだな?」
「あぁ。まだ楽しめそうだ。」
背中に広がる大自然を一瞥し、二つの影は平原を後にした。
「おう、邪魔すんぞ。」
メルデが酒場の戸を開ける。それに続いて僕も足を入れる。
「おぉ、バラン!それにルナまで!久しぶりだな。」
マスターが僕らに気付き、声を掛ける。
「よぉ、飲みに来たぜ。ここの酒は折り紙付きだからな。」
「ハハハハ!そりゃありがとな。丁度、良い酒が入ったとこなんだ、特別に飲ませてやんよ。今度は何してたんだい?」
僕らは事情があってしょっちゅう旅に出ている。突然居なくなり突然戻ってくるせいでマスターには神出鬼没なんて言われている。
「面白い奴を見つけてな。」
「ほぅ?ルナが面白い奴と言う程なら興味深い話だな。」
「こんなものが落ちていた。」
懐から1枚の鱗を取り出す。
「ん?見たことない鱗だな。真黒じゃないか。」
「んな不思議な鱗を見たのは初めてだろ?」
「あぁ。なんの模様も付いてない真黒なその鱗、どうやって見つけたんだ?」
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僕らはその時森に居て、確か外から都市の様子でも見に行こうとしていた時だった。
ふと見た場所の光が吸い込まれていた。否、よく見ると光が吸い込まれていたのではなく、闇黒の龍が休息をとっていた。
全身に真黒の鱗が生え、一切光沢を持たない体。
ネコ科のそれに似た強靭な手脚からは毛は生えず、代わりに黒鱗に覆われ群青色の鉤爪をギラつかせている。
尾は重なる鱗が装甲を成しており、1つの大きな大槍にも見える。
その体を隠すように、一対の翼腕が覆っている。
それは体長の割に大きく、まるで毛布でも羽織っているように翼が降りていた。
そこから、鉤爪と同じ群青色の瞳が覗いていた。
こちらへ嘲笑を飛ばすように見えた口は群青。牙は黒く染まっていた。
気付いているのかいないのか、大欠伸をして翼を広げる。
こちらを一瞥し、奴は垂直に跳躍し、ブーストして飛んでいった。
1枚の黒鱗を残して。
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「ほぉー…じゃあ、その鱗はその龍の鱗なのか?」
一通り話を聞いたマスターが驚くような表情で問う。
「おそらくな。光を吸収する鱗の持ち主…、面白い。地の果てまででも探してやろうではないか。」
「どうやら久しぶりにルーメラに刺激を与えたようでな。俺もアイツをとっ捕まえてやりたいのさ。」
「武神に絶対神を刺激した黒龍とやら、捕まえたら俺にも見せてくれよ?」
「構わん。な、ルーメラ?」
「あぁ。良かろう。ここに連れてきてやるさ。」
「おぉ!約束だぜ?男同士の契約だ!」
マスターが嬉しそうに拳を突き上げる。
「おっと、ささ、今日もたっぷり飲んで金落としてってくれよ?」
店員に呼ばれたマスターは満面に笑みを浮かべ、厨房へ戻っていった。
「さて、飲んだら旅の支度しなきゃな?」
メルデがジョッキを傾けた。
1章-end-
第1章を読んで頂き、誠にありがとうございます。
この作品はテスト投稿を除けば初投稿、いわば初公開の作品となります。
そして、テスト投稿と同じメモに手を加えた作品となっていますので、ほぼ同じ中身となっております。
にしても読み終わりの目安5分て…。短い…。
テスト投稿にて、直接的な描写が多いのでは?という意見を頂いたのですが、良い手直しや上手い言い回しがほぼまるで思いつかなかったので、いっそここでクイズでも出してみようかと思います。
同じ章でのクイズじゃ面白くないですし、次章の後書きで今章のクイズを出そうと思います。
さて、実はこの作品の続きと思われるメモが見つかったので、この作品を連載として出してみる事にしたのですが、なかなか執筆が進まない。(泣)
かなりあるあるなんじゃないかと思うのですが、大まかなストーリーは出来ているんです。ストーリーは出来ているんですけど、その間の細かい物語が全く思いつかない。(笑)
現在7章までのストーリーは構想しています。
しかし執筆中なのはまだ4章…。どうしたものか。
地道に頑張っていくしかないですけどね。
読者の皆さんからのご意見を頂いたり、投稿したりする度に成長していく所存ですので、是非よろしくお願いします。
最後に、ここまで読んで頂きありがとうございました。