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第03伝【星心竜の咆哮】―後編―

「ターン開始フェイズ」


 辰巳がそう呟く第4ターン目。

 互いのライフと手札は以下の通り。


【星永 辰巳】

【手札:1】

【ライフ:7500】


【業火 蓮司】

【手札:4】

【ライフ:4200】


 手札枚数は蓮司が勝っているものの、ライフは辰巳が上回っている。

 戦闘可能なレジェンド数は、辰巳が3体、蓮司が5体。

 互いの場にカードは存在せず、この佳境を迎えた第4ターン目が互いにとって正念場である。


『ダイスロール!』


【星永 辰巳】

【2】+2=【4】


【業火 蓮司】

【3】


「サイコロの目の合計数は俺の方が上だ。このターンで攻めさせてもらう!」


「……させるか!」


 蓮司は手札からコスト【5】の戦術カード【呪縛の鎖】を捨てることで、自身のサイコロの目を変更する。


【星永 辰巳】

【2】+2=【4】

【コスト:4+5=9】


【業火 蓮司】

【手札:4→3】

【3】→【5】

【コスト:4+5=9】


「これ以上、ライフを削られるわけにはいかない」


 辰巳のライフは7500で、蓮司のライフは4200。

 蓮司としては、これ以上ライフ差を広げられるわけにはいかない。


「今度はぼくが、あんたを追い詰める番だ!」


「追い詰める、ねぇ……」


 辰巳は思わず笑ってしまう。

 蓮司のセリフでは、まるで自分の方が優勢で蓮司を追い詰めているかのように感じる。

 だが、辰巳からすれば違う。

 むしろ終始圧されているのは辰巳の方だ。手札は残り1枚、戦闘可能なレジェンド数は残り3体。

 一方で蓮司は、手札は3枚、戦闘可能なレジェンドも残り5体。

 組める戦術の幅が違いすぎる。

 たとえライフが多かろうと、この限られた戦術の中で勝たなければならないのは正直言ってかなりキツい。

 しかも相手は戦術カードを廃棄することに長けた陽属性。1つでもアクションが通らなければ、それだけで勝利への糸口が塞がってしまう。


『ドロー!』


 ドローフェイズ。

 互いにデッキからカードをドローして手札に加える。


【星永 辰巳】

【手札:1→2】


【業火 蓮司】

【手札:3→5】


 蓮司の選択したギミックステージ【煉獄】の恩恵により、ドロー枚数は常に1枚多くなる。これにより、どうしてもハンドアドバンテージで辰巳が蓮司に追い付くのは難しい。


「今回は、ぼくが攻撃側だ。ぼくの戦術フェイズ!」


 蓮司はスマートフォンを操作して、戦闘させるレジェンドを選択。

 手札からカードを3枚選んで作戦場に伏せる。


「レジェンドを選択。さらに、手札のカード3枚を場に伏せる!」


【業火 蓮司】

【手札:5→2】


「ぼくの戦術フェイズは、これで終了だ」


「なら、俺の戦術フェイズ!」


 辰巳は自身の手札2枚を見つめる。

 その後、スマートフォンからレジェンドを選択する。


「レジェンドを選択。俺は、これで戦術フェイズを終了する!」


 どうせ伏せても廃棄されるだけ。それにこのターン、蓮司がどう動くかを探るためにも、とりあえず様子見として戦術カードを伏せるのは控えることにする。


「なら、レジェンド入場フェイズ。見せてあげるよ、ぼくの切り札!」


 蓮司はスマートフォンの画面に触れて己のレジェンドを入場させる。

 蓮司が愛用するレジェンドの中で、最も強力なレジェンドだ。


「コスト5! 入場しろ、【ヘルファイア・イビルドラゴン】!!」


【ヘルファイア・イビルドラゴン】

【陽属性/コスト:5】

【ダメージ値:5000】


【業火 蓮司】

【コスト:9→4】


 身体中を紅蓮の炎に包まれた深紅の巨大なドラゴン。ヘルファイア・イビルドラゴンが入場した。


「イビルドラゴンの入場時能力を発動!」


【ヘルファイア・イビルドラゴン】

【能力①】[<陽/2枠分>【このレジェンドの入場時】あなたは自分の作戦場から戦術カードを3枚指定して廃棄し、その後、自分の廃棄所から戦術カードを任意の枚数だけ指定して自分のデッキの一番下に好きな順番で戻す。そうしたら、この能力でデッキに戻した戦術カード1枚につき500のダメージを相手のライフに与える。ただし、相手は自分の作戦場から戦術カードを1枚指定して廃棄することで、ダメージを受ける代わりにこのレジェンドのダメージ値に加算する。]


「ぼくは自分の場から戦術カードを3枚指定して廃棄。これでぼくの廃棄所には戦術カードが12枚置かれた。この中から6枚をデッキに戻し、あんたに3000ダメージを与える」


「バーン、ダメージ?!」


「そう。ただし、あんたが自分の場に伏せた戦術カードを1枚選んで廃棄すれば、ダメージを受ける代わりにこのレジェンドのダメージ値に加算されるよ」


「俺の、場には……」


 辰巳は自分の2枚の手札を見つめる。戦術を確保するために伏せなかった行為が、こんな結果になるとは予想だにしなかった。

 蓮司はニヤリと微笑む。


「あんたの場に戦術カードは1枚もないから、この3000ダメージからは逃れられないよ!!」


「っ!」


 バーンダメージを受けるか、それともレジェンドのダメージ値アップか。

 その究極の二択を迫る蓮司の切り札。まさに凶悪の一言に尽きる。


「星永辰巳を焼き尽くせ、イビルドラゴン!!」


 ヘルファイア・イビルドラゴンの咆哮と共に吐かれる炎が辰巳に襲いかかる。


〈Gaaaaaaa!!!!!〉


「ぐ、ああ……っ!!」


【星永 辰巳】

【ライフ:7500→4500】


「レジェンド入場はこれで終了。さあ、次はあんたの番だよ」


「ああ……。来い、俺のレジェンド!」


【月盾の番兵】

【月属性/コスト:4】

【ダメージ値:5300】


【星永 辰巳】

【コスト:9→5】


「コストを4つ支払い、【月盾の番兵】を入場させる!」


「陽属性だけでなく、月属性のレジェンドまで……」


 星属性使いとして知られる辰巳。それがよもや、星属性以外の属性のレジェンドまで使用してくるとは。

 そのことが、蓮司からすれば目の前の相手が本当に『一等星』なのか疑問に感じてしまう。


「……まあいい。ぼくのイビルドラゴンが、最強のドラゴンなんだ!!」


 互いのレジェンドが入場したことで、バトルフェイズに移行する。

 蓮司はすぐさまヘルファイア・イビルドラゴンのアタック宣言を行う。


「イビルドラゴンでアタックだ!」


「……」


 辰巳はヘルファイア・イビルドラゴンと月盾の番兵のダメージ値を確認する。


【ヘルファイア・イビルドラゴン】

【ダメージ値:5000】


【月盾の番兵】

【ダメージ値:5300】


「ダメージ値は月盾の番兵の方が上。なら……」


「おっと。ブロック宣言の前に、まずはイビルドラゴンの能力を発動させてもらう!」


「イビルドラゴンの、能力……?」


【ヘルファイア・イビルドラゴン】

【能力②】[<陽/1枠分>【このレジェンドのアタック宣言時またはブロック宣言時】あなたは自分の手札からカードを1枚指定して廃棄する。そうしたら、相手の廃棄所に置かれている戦術カード1枚につき500の数値を、このレジェンドのダメージ値に加算する。]


「ぼくは手札から戦術カードを1枚選んで捨てる。そして、あんたの廃棄された戦術カード1枚につき500が、イビルドラゴンのダメージ値に加わる!」


【業火 蓮司】

【手札:2→1】


「俺の廃棄所にある戦術カードは12枚、つまり6000アップか。それに――……」


【ヘルファイア・イビルドラゴン】

【ダメージ値:5000→11000】


 このままブロック宣言をしなければ、それだけで一撃死を招くほどのダメージ値だ。

 それだけではない。この能力で蓮司は手札から戦術カードを廃棄所に置いた。これで次のターン、再びヘルファイア・イビルドラゴンが入場した場合、バーンダメージのためのコストが補充されてしまった。


「ならば、月盾の番兵でブロック! そしてブロック宣言時、月盾の番兵の能力を発動!!」


【月盾の番兵】

【能力①】[<月/2枠分>【このレジェンドブロック宣言時】攻撃宣言をした相手のレジェンドを1体指定し、このターンのターン開始フェイズ中に出したサイコロの目の数1つにつき500の値を、そのレジェンドのダメージ値から減算する。]


「君のヘルファイア・イビルドラゴンを指定し、そのダメージ値を俺のサイコロの目の数1つにつき500下げさせてもらう!」


 辰巳のサイコロの目は【4】。よってヘルファイア・イビルドラゴンのダメージ値を2000下げる。


【ヘルファイア・イビルドラゴン】

【ダメージ値:11000→9000】


 VS


【月盾の番兵】

【ダメージ値:5300】


「このままだと俺は3700ダメージを受ける。……だが!!」


【月盾の番兵】

【能力②】[<月/1枠分>【ダメージ計算ステップ時】このターン中、自分が受けるダメージ量を一度だけ半分にする。]


「ダメージ計算ステップ時、月盾の番兵の2つ目の能力を発動! このターン、俺が受けるダメージを一度だけ半分にする!」


 このターン、辰巳が受けるダメージは3700の半分の1850となる。


「う、ぐあああ!!」


【星永 辰巳】

【ライフ:4500→2650】


 ヘルファイア・イビルドラゴンから放たれた炎の咆哮によって身を焼かれ、辰巳は苦悶の表情を浮かべる。


「あれだけあったライフが、もうたったの2650、か……」


「あはは、次のターンで決めてあげるよ!!」


 レジェンド退場フェイズ。月盾の番兵が休憩室にへと送られ、辰巳の残りレジェンドはいよいよ2体となってしまった。

 そのことで、蓮司は辰巳の休憩室に送られたレジェンドを確認する。


コスト3:彗星のナックラー

コスト3:妖炎・九尾のタマモ

コスト4:メテオ・ガンナー

コスト3:星読みの道化師

コスト4:月盾の番兵


 これら5体のレジェンドのコストの合計値は17。チームに編成できるレジェンドは7体で、そのコスト上限値は23。

 よって、辰巳の残り2体のレジェンドのコスト合計は6以下。さらに今回の小リーグではコスト5のドラゴンを必ず1体編成しなければならない構築制限ルールがあるため、残りのレジェンド2体はコスト1とコスト5であると予想する。


「……くくく。行ける、行けるよ」


 このまま行けば、勝つのは間違いなく自分。

 特に自分の廃棄所には戦術カードは7枚、辰巳の残りライフは2650。ヘルファイア・イビルドラゴンのバーンダメージ能力での射程圏内。

 それに、たとえバーンダメージを回避されたとしても、ダメージ値上昇能力があるのだから辰巳に逃げ道はない。


「ターン終了フェイズ。ぼくはイビルドラゴンを待機室に戻すよ」


 第4ターンが終わり、続いて第5ターン。

 状況としては、辰巳にとってかなり厳しいものと言わざるを得ない。


「5回目のターン開始フェイズ」


「ダイスロール!」


 何としても、辰巳はここで耐えなければならない。

 辰巳は蓮司の手札を見つめる。彼の手札は1枚、しかしドローフェイズでドローできる枚数は2枚。このターンで合わせて手札3枚となる。

 仮にこのターンもヘルファイア・イビルドラゴンを入場させたとしても、バーンダメージ発動のための手札枚数は十分確保できている。

 中々厳しい状況だが、なんとかこのターンを耐え凌いで次のターンに繋げたい。

 互いのサイコロの目が決定する。


【星永 辰巳】

【3】+2=【5】

【コスト:5+3=8】


【業火 蓮司】

【3】

【コスト:5+3=8】


「……。手札を捨てなくていいのか?」


「その手には乗らないよ。このターンで決めきることもできるからね」


 ここで手札を捨ててくるかと思ったが、どうやらそう易々と捨ててはくれないらしい。


「ドローフェイズ、ドロー!」


「こっちは【煉獄】の恩恵で、2枚ドロー!」


【星永 辰巳】

【手札:2→3】


【業火 蓮司】

【手札:1→3】


 互いにドローしたカードを見て確認する。


「……行くよ、蓮司くん」


「さっさと来なよ。替え玉さん」


 戦術フェイズ。攻撃側である辰巳からだ。


「俺は手札のカード3枚を伏せる!」


【星永 辰巳】

【手札:3→0】


 辰巳は惜しむことなく、今度は全ての手札を場に伏せる。

 ここまで来たら、最早戦術を出し惜しみしている暇はない。

 まずはこのターンを生き残る。決着は、この先の第6ターンだ。


「レジェンドを選択。俺の戦術フェイズはこれで終了だ」


 スマートフォンを操作してレジェンドを選択。万全の準備を整える。


「ぼくの戦術フェイズ! ぼくも同様に手札3枚を場に伏せる。そしてレジェンドを選択!」


【業火 蓮司】

【手札:3→0】


 互いの戦術フェイズはこれにて終了。

 レジェンド入場フェイズへと移行する。


「レジェンド入場フェイズ。コストを3つ支払って入場せよ、【流星ストライク】!」


【流星ストライク】

【星属性/コスト:3】

【ダメージ値:2000】


【星永 辰巳】

【コスト:8→5】


「な、コスト3?!」


 蓮司は目を見開く。蓮司の予想では辰巳の残りのレジェンドのコスト合計値は【6】のはず。

 それにも関わらず、辰巳はコスト【3】の【流星ストライク】を入場させてきた。

 つまり、最後の7体目のレジェンドのコストは【3】ということになる。

 だが、これでは辻褄が合わない。何故なら、この小リーグでは必ずコスト5のドラゴンをチームに編成しなければならないのだから。


「……あはは。まさか、ぼくがわざわざ手を下すまでもなくジャッジキルによる勝利になるとはね!」


「ジャッジキル?」


 辰巳は首を傾げる。

 それに対し、蓮司は「(とぼ)けるな!」と声を荒げる。


「レジェンダリーグにおいて、チーム編成時のコスト上限は23! それにも関わらず、これまであんたが入場させたレジェンドのコストの合計値は20! ならば、あんたの最後のレジェンドのコストは必然的に3以下ということになる!」


 蓮司は司会進行役である藍羽の方へ顔を向ける。


「この男はここまでドラゴンを一度も入場させていない! こいつはレギュレーション違反をしている!!」


〈え、と……。そう、言われましても〉


 藍羽はそう困惑気味に愛想笑いを浮かべる。チーム編成時のレジェンド構成の確認は大会運営組織が行うのであって、藍羽に言われたところで対応できるはずがない。

 辰巳は小さく笑いながら、蓮司に言う。


「俺が本当にレギュレーション違反をしているかどうか、それはこのターンの先で明らかになるさ」


「馬鹿も休み休みに言え! このターンで君の敗北が決定するんだ!」


「その発言は、まだ時期尚早だと思うけどね」


 辰巳は流星ストライクの能力を確認する。

 流星ストライクには、攻撃側である場合に発動できる入場時能力がある。


(このターンを確実に生き残りたいなら、ストライクの能力は発動させない方が無難だ。だけれど、今は少しでも手札が欲しい)


 現在、辰巳の手札は0。次のターンで決着を着ける場合、少しでも有効な戦術を手元に引き寄せておきたい。


「よし、流星ストライクの入場時能力を発動!」


【流星ストライク】

【能力①】[<星/1枠分>【このレジェンドの入場時】このターン中、あなたが攻撃側である場合、あなたはコストを2つ支払う。そうしたら、あなたは自分のデッキの一番上からカードを1枚ドローし、このレジェンドのダメージ値を1000加算する。]


「コストを2つ支払って、デッキからカードを1枚ドローし、流星ストライクのダメージ値を1000アップする!」


【流星ストライク】

【ダメージ値:2000→3000】


【星永 辰巳】

【コスト:5→3】

【手札:0→1】


 流星ストライクの能力でドローしたカードを横目で確認し、軽く頷いてから手札に加える。


「さあ、君のレジェンドを入場させる番だ」


「言われなくたって! 再び入場させる、来い【ヘルファイア・イビルドラゴン】!!」


【ヘルファイア・イビルドラゴン】

【陽属性/コスト:5】

【ダメージ値:5000】


【業火 蓮司】

【コスト:8→3】


「そして、先程と同様に入場時能力を発動!」


【ヘルファイア・イビルドラゴン】

【能力①】[<陽/2枠分>【このレジェンドの入場時】あなたは自分の作戦場から戦術カードを3枚指定して廃棄し、その後、自分の廃棄所から戦術カードを任意の枚数だけ指定して自分のデッキの一番下に好きな順番で戻す。そうしたら、この能力でデッキに戻した戦術カード1枚につき500のダメージを相手のライフに与える。ただし、相手は自分の作戦場から戦術カードを1枚指定して廃棄することで、ダメージを受ける代わりにこのレジェンドのダメージ値に加算する。]


「ぼくの場に伏せた戦術カード3枚を廃棄する! これでぼくの廃棄所に置かれている戦術カードは10枚、ぼくはその内の6枚をデッキに戻して3000のダメージを与える!!」


「だったら……」


 辰巳は自分の場に伏せた戦術カード3枚の内、1枚を選んで廃棄する。


「戦術カードを1枚廃棄することで、そのダメージを受ける代わりに、イビルドラゴンのダメージ値に加算させる」


「はは。当然、そうなるよね」


【ヘルファイア・イビルドラゴン】

【ダメージ値:5000→8000】


 さらに、蓮司はカード効果の発動を宣言する。


「この瞬間。ぼくがイビルドラゴンの能力で廃棄した戦術カード【スクラップ・ドロー】の効果を発動!」


【スクラップ・ドロー】

【戦術カード/コスト:0】

【効果】[【このカードが廃棄された時】あなたは自分のデッキの一番上からカードを1枚ドローして、自分の手札に加える。]


「【煉獄】の恩恵により、デッキからカードを2枚ドロー!」


【業火 蓮司】

【手札:0→2】


 辰巳は思わず自身の顔面を手で覆いながら、辟易とした様子で溜め息を吐く。


「手札が減らない……」


 先程から蓮司はかなりのカードを消費しているものの、ギミックステージ【煉獄】のドロー枚数増加による恩恵のおかげで、ドローカードによるアドの取り方が尋常でないことになっている。

 だからこそ、全然手札が枯渇する気配がない。


「仕方ない。バトルフェイズ!」


 辰巳は気を取り直し、流星ストライクによるアタック宣言を行う。


「流星ストライクでアタック!」


 その後、自身の持つコストの数を確認する。


(俺の残りコストは3つ。ストライクの能力を発動させることは可能、だが――……)


 辰巳は自分の手札を見つめる。手札のカードは戦術カード【増援要請】。

 自分の待機室のレジェンドを1体指定して休憩室に送ることで、そのレジェンドのダメージ値を闘技場のレジェンドに加える効果を持つ。

 辰巳の待機室に存在するレジェンドは残り1体だが、そのレジェンドを休憩室に送るわけにはいかない。

 ならば。


「流星ストライクのアタック時能力を発動!」


【流星ストライク】

【能力②】[<星/2枠分>【このレジェンドのアタック宣言時】あなたはコストを3つ支払う。そうしたら、あなたは自分のデッキの一番上からカードを1枚ドローし、その後、自分の手札から発動条件を満たす戦術カードを1枚指定してその効果をコストを支払わずに発動する。]


「コストを3つ支払い、デッキからカードを1枚ドローする! その後、手札から戦術カードの効果を発動する!」


 辰巳は自分のデッキに手を伸ばす。


(このドローで、このターンを生き残れるかが決まる)


【星永 辰巳】

【コスト:3→0】

【手札:1→2】


「……」


 ドローしたカードを見てから、それをすぐに開示する。


「俺の持つコストは0。よって、戦術カード【ダスト・チャージ】の効果を発動できる!」


【ダスト・チャージ】

【戦術カード/コスト:0】

【効果】[【相手または自分のレジェンドのアタック宣言時】この効果は、あなたのコストが0である場合にのみ、発動できる。あなたは自分のデッキの一番上からカードを3枚廃棄する。そうしたら、この効果で廃棄したカードのコストの合計値分だけのコストを得る。]


「その効果により、デッキトップからカードを3枚廃棄して、そのコストの合計値分のコストを得る!」


 辰巳はデッキトップの3枚のカードを廃棄する。


【湧き上がる憎悪】〈戦術カード/コスト:0〉

【ダメージ・ゼロ】〈戦術カード/コスト:5〉

【ダスト・チャージ】〈戦術カード/コスト:0〉


「廃棄されたカードのコスト合計値は5。よって、俺は新たにコストを5つ得る」


【星永 辰巳】

【コスト:0→5】


「さらに、今しがた廃棄した戦術カード【湧き上がる憎悪】の効果を発動!」


【湧き上がる憎悪】

【戦術カード/コスト:0】

【効果】[【このカードが廃棄された時】あなたは自分のレジェンドを1体指定する。このターン、そのレジェンドのダメージ値を1000加算する。]


「ストライクのダメージ値を1000アップする!」


【流星ストライク】

【ダメージ値:3000→4000】


「たったその程度のダメージアップがどうした!」


 蓮司は自身のブロックを宣言する。


「イビルドラゴンでブロック!」


【流星ストライク】

【ダメージ値:4000】


 VS


【ヘルファイア・イビルドラゴン】

【ダメージ値:8000】


「ブロック宣言時、イビルドラゴンの能力を発動!」


【ヘルファイア・イビルドラゴン】

【能力②】[<陽/1枠分>【このレジェンドのアタック宣言時またはブロック宣言時】あなたは自分の手札からカードを1枚指定して廃棄する。そうしたら、相手の廃棄所に置かれている戦術カード1枚につき500の数値を、このレジェンドのダメージ値に加算する。]


「ぼくは手札からカードを1枚廃棄し、あんたの廃棄所の戦術カードの数だけ、イビルドラゴンのダメージ値が上昇する!」


【業火 蓮司】

【手札:2→1】


 蓮司は手札から戦術カード【再利用戦術】を廃棄する。


「俺の廃棄所に置かれた戦術カードの枚数は、17枚」


「つまり、イビルドラゴンのダメージ値は8500アップする!」


【ヘルファイア・イビルドラゴン】

【ダメージ値:8000→16500】


「なっ?! ……い、16500!!」


 辰巳のこれまでのカードバトルの中で、これほどのダメージ値を誇るレジェンドは見たことはなかった。

 もしこのターン、蓮司が攻撃側であったのなら……。そんなあり得たかもしれない未来を思うと、思わず身体が震えてしまいそうになる。


「……っ」


 辰巳が安堵の息が漏らすと、蓮司は嘲笑うように言う。


「安心しているところ悪いけど、廃棄所から戦術カード【再利用戦術】を発動させてもらうよ!」


「再利用、戦術……っ!!」


【再利用戦術】

【戦術カード/コスト:1】

【効果】[【ダメージ計算ステップ時】この効果は、このカードが自分の廃棄所に置かれている場合にのみ発動できる。あなたは自分の廃棄所から発動条件を満たす戦術カードを1枚指定し、そのカードの効果をコストを支払って発動する。その後、この効果で指定した戦術カードとこのカードを自分のデッキの一番下に戻す。]


「1コストを支払い、ぼくは自分の廃棄所から【リフレクト・ダメージ】を選択!」


【業火 蓮司】

【コスト:3→2】


【リフレクト・ダメージ】

【戦術カード/コスト:2】

【効果】[【ダメージ計算ステップ時】このターン、あなたが自分のレジェンドで相手のレジェンドのアタックをブロックし、さらに自分のレジェンドのダメージ値が相手より上回っていた場合、その差分だけ相手のライフにダメージを与える。]


「2コストを支払って、効果を発動!」


【業火 蓮司】

【コスト:2→0】


【流星ストライク】

【ダメージ値:4000】


 VS


【ヘルファイア・イビルドラゴン】

【ダメージ値:16500】


 辰巳は目を見開く。

 戦術カード【リフレクト・ダメージ】。その効果は、ブロック側のダメージ値がアタック側のダメージ値を上回った場合、その差分の反射ダメージをアタック側に与えるもの。

 アタック側の流星ストライクのダメージ値は4000、一方でブロック側のヘルファイア・イビルドラゴンのダメージ値は16500。

 その差分は12500、そのダメージが、残りライフ2650の辰巳に襲いかかることになる。

 だが、蓮司は辰巳の場に伏せられた2枚のカードを見つめる。


(逆転の芽は、全て焼き尽くす!)


 そして、自身の廃棄所に置かれている戦術カードを1枚手に取ってその効果の発動を告げる。


「それだけじゃない! さらに、廃棄所から戦術カード【太陽の威光】を発動!」


【太陽の威光】

【戦術カード/コスト:0】

【効果】[【ダメージ計算ステップ時】この効果は自分の作戦場から発動できず、あなたの場に【陽属性】のレジェンドが入場している場合にのみ、自分の廃棄所から発動できる。あなたは自分のデッキの一番上からカードを3枚廃棄する。そうしたら、その中に含まれる戦術カードの種類の数だけ、相手は自分の作戦場に置かれているカードを指定して廃棄する。その後、このカードを自分のデッキの一番下に戻す。]


「ぼくはデッキトップからカードを3枚廃棄する」


【ブロック・シャッター】〈戦術カード〉

【スリー・ツー】〈支援カード〉

【ブロック・シャッター】〈戦術カード〉


「……チッ」


 廃棄されたカードの中に含まれている戦術カードは【ブロック・シャッター】1種類のみ。


「廃棄したカードの中にあった戦術カードは1種類。よって、あんたは自分の場のカードを1枚指定して廃棄する」


「1枚……」


 辰巳は自分の作戦場に伏せられた戦術カード2枚を見つめる。

 その後、小さく笑う。


「俺はこのカードを廃棄する」


 そう言って辰巳が廃棄したカードは【ダブル・パワー!】。自分のレジェンドのダメージ値を2倍にする戦術カードだ。


「2枚廃棄されていたら、それだけで俺の負けが決まっていた。……蓮司くん、君は強いね」


「……なんだよ、その上から目線は! それに、あんたはリフレクト・ダメージの効果で12500のダメージを喰らって敗北だ!!」


「それは、俺の場に残されたこの最後の1枚が解決してくれる」


「っ!?」


 辰巳は、場に伏せてあった戦術カードを開示する。


「コストを5つ支払い、俺は戦術カード【ダメージ・ゼロ】を発動する!」


【ダメージ・ゼロ】

【戦術カード/コスト:5】

【効果】[【ダメージ計算ステップ時】あなたが相手の能力・効果でダメージを受ける場合、そのダメージを全て0にする。このカードが廃棄所にある場合、このカードをあなたのデッキの一番下に戻すことで、コストを支払わずに効果を発動することもできる。廃棄所から効果を発動した場合、このターン、あなたは【ダメージ・ゼロ】の効果を発動できない。]


【星永 辰巳】

【コスト:5→0】


「この効果により、俺がリフレクト・ダメージで受けるダメージを0にする!」


【星永 辰巳】

【ライフ:2650→2650】


「かわされた……?!」


「悪いけど、決着は次のターンで着けさせてもらう!」


 レジェンド退場フェイズ。辰巳は流星ストライクを休憩室に送る。

 そのことに、辰巳は黙って頷く。


(布石は十分。全てを次のターンでぶつけてみせる!)


 一方、蓮司は昂る気持ちを落ち着かせるように深呼吸をする。


(焦るな。このターンで潰せなくても、次のターンのレジェンド入場フェイズで相手のレギュレーション違反が発覚する。そうなれば、ぼくの勝ちは決まりだ)


 ターン終了フェイズ。蓮司はヘルファイア・イビルドラゴンを待機室に戻す。


「いよいよ、第6ターンか」


 辰巳は自分のスマートフォンを強く握り締めながら、その画面に映るレジェンドを見つめる。

 待機室に残るレジェンドは1体だけ。ついに、このレジェンドを入場させる時が来た。


『ダイスロール!』


【星永 辰巳】

【6】+2=【8】


【業火 蓮司】

【1】


「よし!」


 辰巳は思わずガッツポーズを浮かべる。

 ついに来た、またとないチャンス。攻撃側は辰巳である。


「コストステップだ!」


「……テンション高いね、あんた」


【星永 辰巳】

【コスト:8+1=9】


【業火 蓮司】

【コスト:8+1=9】


「続いてドローフェイズ! ドロー!」


「……ドロー」


【星永 辰巳】

【手札:1→2】


【業火 蓮司】

【手札:1→3】


 ドローフェイズが終わり、戦術フェイズ。

 辰巳はスマートフォンを見つめながら、微笑む。


「待たせたな、切り札。いよいよ、お前の出番だ!」


 辰巳のその言葉に呼応するかのように、スマートフォンの画面に映る竜の瞳が煌めく。

 そのことに辰巳は一層笑みを浮かべ、手札のカードを1枚場に伏せる。


「俺は最後のレジェンドを選択。そして、手札のカードを1枚伏せる。……さらに」


【星永 辰巳】

【手札:2→1】


 手札のカードを蓮司に開示して、その効果の発動を宣言する。


「コストを3つ支払って、手札から支援カード【アウトブレイク・コマンド】を発動!」


【アウトブレイク・コマンド】

【支援カード/コスト:3】

【効果】[このターン、自分と相手はアタック及びブロックのいずれかを必ず宣言しなければならない。]


【星永 辰巳】

【コスト:9→6】

【手札:1→0】


「この効果により、俺と君は、このターン必ず『アタック』か『ブロック』を宣言しなければならない」


「へえ、強制バトルってわけね。だけど……」


 蓮司は辰巳のスマートフォンを見つめる。


「そもそも、バトルできるかどうか怪しいけど」


「レジェンド入場フェイズになれば分かるよ」


 辰巳の表情。そこに焦りはなく、むしろその瞳には闘志の炎が宿っている。

 そのことが蓮司の気を逆撫でる。


「……ほんと、気に入らないね。あんた」


 その敵意の言葉に、辰巳は乾いた笑い声をあげる。


「あはは……。満月の時もそうだけど、なんでこう嫌われちゃうかな、俺」


「知らないし。…………で、ぼくの戦術フェイズに入ってもいい?」


「ああ、勿論。俺の戦術フェイズは以上だ」


「あっそ。じゃあ、今度はこっちの番」


 蓮司の戦術フェイズ。

 蓮司は己の3枚の手札を見つめる。


「ぼくは手札から支援カード【補給支援】を発動する!」


【業火 蓮司】

【手札:3→2】


【補給支援】

【支援カード/コスト:2】

【効果】[あなたは自分のデッキの一番上からカードを2枚ドローして、自分の手札に加える。]


「2コストを支払って、デッキからカードを3枚ドローする!」


【業火 蓮司】

【コスト:9→7】

【手札:2→5】


 その後、自身のスマートフォンを手に取って闘技場に入場させるレジェンドを1体選択して、作戦場に伏せるカード3枚を自分の手札から選ぶ。


「レジェンドを選んでから、場にカードを3枚伏せさせてもらうよ」


【業火 蓮司】

【手札:5→2】


「さらに、手札から支援カード【ダスト・リフレッシュ】を発動!」


【ダスト・リフレッシュ】

【支援カード/コスト:2】

【効果】[あなたは自分のデッキの一番上から2枚のカードを廃棄する。そうしたら、この効果で廃棄したカードのコストの合計値1つにつき1000の数値だけ、自分のライフを回復する。]


【業火 蓮司】

【コスト:9→7】

【手札:2→1】


「ぼくはデッキトップからカードを2枚、廃棄する」


【増援要請】〈戦術カード/コスト:3〉

【バーン・スパーク】〈戦術カード/コスト:4〉


「そして、廃棄したカードのコストの合計値1つにつき、1000の数値分だけ自分のライフを回復する。コストの合計値は7だから、ぼくはライフを7000回復する!」


【業火 蓮司】

【ライフ:4200→11200】


「ぼくの戦術フェイズはこれで終了。……見せてもらおうか、あんたのレジェンド」


 互いの戦術フェイズが終了したことで、レジェンド入場フェイズとなる。

 辰巳はスマートフォンに触れる。


「ああ、見せてあげるよ。俺の切り札、その姿を!」


 そして、【Legend:Touch the Screen!】と映し出された画面をタッチし、レジェンドを入場させる。


「空に刻むは星の軌跡、闇を切り裂くは星の精神(こころ)! 入場せよ、我が永久(とわ)の切り札【スター・メンタルドラゴン】!」


 暗い銀河の向こう側。たくさんの星々が光り輝く中、その内の1つが一瞬強く煌めいたと思ったら、それはまるで流星のように辰巳の元へと飛来してくる。


〈Guuu……Aaaaaaaaa!!!!〉


【スター・メンタルドラゴン】

【星属性/コスト:5→3】

【ダメージ値:4500】

【能力①】[<星/1枠分>【永続】自分のチームに星属性のレジェンドが5体以上含まれている場合、このレジェンドのコストを2つ軽減する。]


【星永 辰巳】

【コスト:6→3】


「コストを3つ支払う。スター・メンタルドラゴンの永続能力はチームに編成したレジェンドに星属性が5体以上含まれている場合、そのコストを2つ軽減する」


「……なるほど」


 蓮司は合点がいったとばかりに頷く。確かに、レギュレーションは違反していない。

 スター・メンタルドラゴンはコストが2つ軽減されているとは言え、コスト5のドラゴン。

 蓮司はスター・メンタルドラゴンを改めて見つめる。

 巨大な白銀の身体、翼を翻す姿は圧巻の一言に尽きる。


「確かに強そうなドラゴンだけど、勝つのはぼくのイビルドラゴンだよ」


「それは、これから実際に闘ってみれば分かることだ。スター・メンタルドラゴンの固有能力を発動する!」


「こ、固有能力……?」


【スター・メンタルドラゴン】

【固有能力】[<固定枠>【このレジェンドの入場時】あなたは自分の休憩室に存在するレジェンド1体の能力を1つ指定する。このターン中、このレジェンドは指定した能力を得る。]


「通常、レジェンドの保有可能な能力は3枠分のみ。だが、スター・メンタルドラゴンはそれに加えて固有能力を持っている」


「なっ、そんなのズルいじゃんか!!」


 限られた枠数の中で自分の戦術に合うように能力を厳選して自分だけの切り札を調整するのが、このレジェンダリーグというカードゲームの醍醐味。

 それなのに、3枠分の能力に加えて、固定の固有能力があるのはそれだけで他のレジェンドより一線を画す存在と言える。


「スター・メンタルドラゴンの固有能力。それは自分の休憩室からレジェンド1体の能力を1つ指定し、このターン中、スター・メンタルドラゴンは指定した能力を得る」


 辰巳が指定したのは流星ストライク。


「俺は、流星ストライクの以下の能力を指定して、スター・メンタルドラゴンに与える!」


【流星ストライク】

【能力②】[<星/2枠分>【このレジェンドのアタック宣言時】あなたはコストを3つ支払う。そうしたら、あなたは自分のデッキの一番上からカードを1枚ドローし、その後、自分の手札から発動条件を満たす戦術カードを1枚指定してその効果をコストを支払わずに発動する。]


「うっ、くっ……」


 蓮司は口元を強く噛み締めると、癇癪を起こすように両腕と両足をばたつかせて地団駄を踏む。


「ズルいズルいズルいズルいズルい!! 不公平だ、こんなの! なんだよ、他のレジェンドの能力を得るだなんて!!」


「え、ええ……?」


 蓮司の突然の態度に、辰巳は困惑する。


「そう、言われても」


「絶対に……、ぼくのイビルドラゴンで倒してやる!」


 蓮司は自分のスマートフォンを手に取る。


「コスト5、出でよ!」


 沸騰するマグマに覆われた煉獄。その底より炎の竜が出現する。


「あんなチート野郎なんて焼き尽くせ、【ヘルファイア・イビルドラゴン】!!」


【ヘルファイア・イビルドラゴン】

【陽属性/コスト:5】

【ダメージ値:5000】


「イビルドラゴンの入場時能力を発動!」


【ヘルファイア・イビルドラゴン】

【能力①】[<陽/2枠分>【このレジェンドの入場時】あなたは自分の作戦場から戦術カードを3枚指定して廃棄し、その後、自分の廃棄所から戦術カードを任意の枚数だけ指定して自分のデッキの一番下に好きな順番で戻す。そうしたら、この能力でデッキに戻した戦術カード1枚につき500のダメージを相手のライフに与える。ただし、相手は自分の作戦場から戦術カードを1枚指定して廃棄することで、ダメージを受ける代わりにこのレジェンドのダメージ値に加算する。]


「場から戦術カードを3枚廃棄する。ぼくの廃棄所には戦術カードが8枚あるから、その内6枚をデッキに戻してあんたに3000ダメージを与える!」


「なら、俺は場の戦術カードを廃棄することで、ダメージを免れる」


「だけどその代わり、イビルドラゴンのダメージ値が上昇する!」


【ヘルファイア・イビルドラゴン】

【ダメージ値:5000→8000】


 蓮司は笑う。


「あはは! あんたはこのターン、自分で発動したアウトブレイク・コマンドの効果で必ずアタック宣言をしなきゃいけない! だけど見てみなよ!」


【スター・メンタルドラゴン】

【ダメージ値:4500】


【ヘルファイア・イビルドラゴン】

【ダメージ値:8000】


「このイビルドラゴンの圧倒的なダメージ値を! あんたのドラゴンじゃ、ぼくのイビルドラゴンには勝てないよ!!」


「やってみなきゃ、分からないだろ」


 辰巳はスター・メンタルドラゴンに目を向けると、スター・メンタルドラゴンと目が合う。


「〈……〉」


 辰巳とスター・メンタルドラゴンは互いに無言で見つめ合うと、同時に頷いた。


「よし、スター・メンタルドラゴン、アタックだ!!」


〈Gooooooooo!!!!!!〉


 辰巳の指示に従うようにスター・メンタルドラゴンは大空へと舞い上がると、そのまま蓮司に目掛けて咆哮と共に光線を口から発射する。


「アタック宣言時、スター・メンタルドラゴンが得た流星ストライクの能力を発動!」


【スター・メンタルドラゴン】〈流星ストライクより継承〉

【能力②】[<星/2枠分>【このレジェンドのアタック宣言時】あなたはコストを3つ支払う。そうしたら、あなたは自分のデッキの一番上からカードを1枚ドローし、その後、自分の手札から発動条件を満たす戦術カードを1枚指定してその効果をコストを支払わずに発動する。]


「3コストを支払い、1ドロー!」


【星永 辰巳】

【コスト:3→0】

【手札:0→1】


 ドローしたカードを見ると、そのまま「フッ」と笑う。


「やっぱ俺のレジェンダリーグは、お前と一緒に闘ってこそだ! スター・メンタルドラゴン!!」


 辰巳はドローしたカードを作戦場に叩きつける。


【星永 辰巳】

【手札:1→0】


「アタック時能力により、このドローした戦術カードの効果をノーコストで発動する!」


【ダメージ・アブソーブ(プラス)

【戦術カード/コスト:4→0】

【効果】[【自分のレジェンドのアタック宣言時】あなたは相手のレジェンドを1体指定し、そのダメージ値を自分のレジェンドのダメージ値に加算する。その後、この効果で指定したレジェンドのダメージ値を0にする。]


「だ、ダメージ・アブソーブ(プラス)?!」


「そうだ! この効果により、君のイビルドラゴンのダメージ値を吸収し、俺のスター・メンタルドラゴンのダメージ値に加える!」


【ヘルファイア・イビルドラゴン】

【ダメージ値:8000→0】


【スター・メンタルドラゴン】

【ダメージ値:4500→12500】


「ダメージ値、12500?!」


「そして君はこのターン、必ずブロック宣言をしなければならない!」


「ぐっ!!」


 支援カード【ダスト・リフレッシュ】で回復したとは言え、蓮司の残りライフは11200。このままでは一撃で自分もヘルファイア・イビルドラゴンもやられてしまう。

 蓮司は自分の手札を見つめる。


「まだだ、イビルドラゴンでブロック!」


 そして、ヘルファイア・イビルドラゴンの能力の発動を宣言する。


「ブロック時にイビルドラゴンの能力を発動させる!」


【ヘルファイア・イビルドラゴン】

【能力②】[<陽/1枠分>【このレジェンドのアタック宣言時またはブロック宣言時】あなたは自分の手札からカードを1枚指定して廃棄する。そうしたら、相手の廃棄所に置かれている戦術カード1枚につき500の数値を、このレジェンドのダメージ値に加算する。]


「イビルドラゴンにはまだこの能力がある、手札からカードを1枚廃棄! あんたの廃棄所の戦術カードの数だけ、イビルドラゴンのダメージ値がアップ!」


【業火 蓮司】

【手札:1→0】


 辰巳の廃棄所に置かれている戦術カードは21枚。1枚あたり500上昇するので、ヘルファイア・イビルドラゴンのダメージ値は10500上昇することになる。


【ヘルファイア・イビルドラゴン】

【ダメージ値:0→10500】


 そして、空中で2体の竜の攻撃がぶつかる。

 片や、スター・メンタルドラゴンの白き光線。

 片や、ヘルファイア・イビルドラゴンの赤き熱線。


【スター・メンタルドラゴン】

【ダメージ値:12500】


 VS


【ヘルファイア・イビルドラゴン】

【ダメージ値:10500】


 だが、ヘルファイア・イビルドラゴンのダメージ値は2000ほどスター・メンタルドラゴンのダメージ値に及ばなかった。

 その差分の2000ダメージだけ、蓮司のライフが削られる。


「うっ、ぐっ!!」


【業火 蓮司】

【ライフ:11200→9200】


「そんな……ぼくの、イビルドラゴンが……」


 蓮司はDLT(デルタ)システムによるリアルダメージフィードバックによる痛みよりも、自分の切り札であるヘルファイア・イビルドラゴンが敗れたことの方が衝撃が大きかった。

 だが、すぐに辰巳を睨み付ける。


「まだ、ぼくにはライフと、闘えるレジェンドがいる……! ぼくのイビルドラゴンの仇は、絶対に討つ!!」


「……生憎だけれど」


 辰巳はそんな蓮司の意気込みを折るように、スター・メンタルドラゴンの能力を発動させる。


「君にダメージを与えた時、スター・メンタルドラゴンの能力が発動する」


〈Guuuu………!!!!〉


 スター・メンタルドラゴンは倒れ伏したヘルファイア・イビルドラゴンを踏み退けて蓮司の前に立ちはだかる。


「な、なんだよ……」


 スター・メンタルドラゴンの口が光り始める。それはすなわち、ヘルファイア・イビルドラゴンを葬った光線を今度は蓮司に――蓮司の持つスマートフォンを見つめてそこに照準を合わせている。


〈Gaaaaaaaaaa!!!!!!!!〉


「ひぃっ!?」


【スター・メンタルドラゴン】

【能力②】[<星/2枠分>【ダメージ計算ステップ時】このレジェンドのアタックによって相手にダメージを与えた場合、このターンの自分のサイコロの目の数値が2つにつき1体、相手の待機室に存在するレジェンドをランダムに指定して相手の休憩室に送る。]


「スター・メンタルドラゴンが相手プレイヤーにダメージを与えた時、俺のサイコロの目の数2つにつき1体、君の待機室からランダムにレジェンドを指定して休憩室に送る」


「あんたのサイコロの目は、8。……つまり」


「そう。君の待機室に存在するレジェンド4体を、休憩室送りにする」


「そ、んな……っ!!」


 蓮司の待機室に存在するレジェンドの数はちょうど4体。つまり、現状で待機室に存在する全てのレジェンドが一気に戦闘不能となる。

 スター・メンタルドラゴンの咆哮と共に放たれる光線が、蓮司もろとろに飲み込む。


「うあああああ!!!」


 蓮司はその場で倒れ、スマートフォンが地面に転がる。

 レジェンド退場フェイズによってヘルファイア・イビルドラゴンもまた休憩室送りとなったため、これで蓮司の待機室には戦闘可能なレジェンドはいなくなってしまった。


「ターン終了フェイズ。スター・メンタルドラゴンは待機室へ帰還する」


 辰巳はスマートフォンに映るスター・メンタルドラゴンを見ながら、少し悲しい気持ちになる。

 このスター・メンタルドラゴンは、あくまでレンタル。

 これから自分が宣言する言葉と共に、その使用権限を失う。


「ターン開始フェイズ」


 辰巳がそう告げた瞬間、蓮司のスマートフォンからエラー音が鳴り響く。


《戦闘可能なレジェンドがいません。レジェンダリーグ、続行不可能と判断》


 そう淡々と告げる機械音声。それが、蓮司の敗北を告げる声だった。

 そこへ、ここまで怒濤の闘いに黙って見守っていた司会進行役の藍羽はマイク片手に試合結果を言い放つ。


〈レジェンダリーグのルールにより、ターン開始フェイズ時に待機室にレジェンドが存在しないアンバサダーは敗北となります! よってこの試合、勝者は星永辰巳選手! 『一等星』の名に恥じない素晴らしいバトルでした! どうぞ皆様、この両名に盛大な拍手をどうぞ!!〉


――『うおおおおおおお!!!』――


 藍羽がそう言った瞬間、会場中から溢れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。

 特に、辰巳のカードバトルの一挙一動をずっと百面相で見守っていた愛理と栄喜は互いに抱擁し合いながら「よっしゃあ!!」と一際喜びを分かち合っていた。

 そんな中、辰巳は蓮司に手を差し伸べる。


「蓮司くん、ありがとう。素晴らしいバトルだった」


「……次は」


「うん?」


 蓮司が呟いた一言が聞こえなかった辰巳が首を傾げていると、蓮司は大きく叫ぶ。


「次は、絶対に負けないからな、『一等星』!!」


 そして辰巳の差し伸べた手を振り払って会場から走り去ってしまった。

 辰巳は「あはは……」と複雑そうな笑い声を出すと、すぐに笑顔を浮かべて蓮司の背中に向かって言う。


「ああ、またバトルをしよう!」


 そう言って、自分のスマートフォンを見つめる。

 既にそこにスター・メンタルドラゴンの姿はなく、映し出されているのは【NO(ノー・) DATA(データ)】の文字。


「スター・メンタルドラゴン……」


 一瞬だった切り札との邂逅。

 果たして、次に相対する時は味方か、それとも敵か。







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「そんな、馬鹿な……」


 辰巳の試合を人知れず眺めていた満月は、まさかの辰巳の小リーグ優勝に困惑していた。

 満月の策略でレンタル登録は解除されて参加することすら危うい状況だった。

 それなのに、そこから見事参加資格を満たしてみせて、さらには優勝まで勝ち取ってしまうとは。

 満月は、先程の電話で告げられた言葉を思い出す。


「これが、『一等星の奇跡』とでも言うのですか……」


 思わず、壁を強く殴ってしまう。


「あんな、運だけの男に、冨士ヶ峰の命運を託すことになるなんて!!」


 そう、忌々しそうに告げる。だが、ここで1つ考えが(よぎ)る。


「なんとしても、星永辰巳の……一等星の心を折らなくては。そのためには……」


 満月は怪しく「ふふふ……」と笑いながら、闇の中へと消えていった。

 辰巳に冨士ヶ峰の行く末を――――いや、引いては愛理の未来を任せるわけにはいかない。

 そんな危険な橋を彼女に渡らせるわけにはいかない。

 満月にとって、愛理は自分の生きる全て。彼女には光ある未来を歩んでもらいたい。

 そのためには、星永辰巳という存在は非常に邪魔だ。

 愛理が辰巳を諦めない以上、辰巳にレジェンダリーグを諦めてもらうしか、最早道はない。



「月ノ守様、今一度……今一度、貴方様のお力をどうかお貸し下さい」










――LotM(ロトム)社・研究室――



 研究室の奥に佇む少女は、モニターに映し出されるドラゴン――スター・メンタルドラゴンを見つめる。

 現在、スター・メンタルドラゴンは意図的にスリープ処置を施していることで休眠状態に入っている。


「サルベージ後の実戦投入。ひとまず、成果は上々ね」


 少女はそう嬉しそうに呟く。

 再度スター・メンタルドラゴンのデータをスキャンして保存する作業に入っていると、研究室内の後方に位置する扉がゆっくり開いていく。


「……彗狼」


 研究室に足を踏み入れた存在――『星永 彗狼』を睨み付けるように見つめると、彗狼は「あはは」と笑みを浮かべる。


「そんなに睨まないでよ。ちょっと遊びに来ただけじゃないか」


「お父様にバレたらどうするつもり? 貴方がここへ来ることは禁止されているのよ?」


「まあまあ、そこら辺は上手くやるから心配しないでよ。……それより」


 少女を丸め込むように言い、彗狼は興味深そうにスター・メンタルドラゴンに視線を移す。


「綺麗なドラゴンだね、姉さん(・・・)


 そのままジッと見つめていると、ふと何か思い立ったのか少女に言う。



「ボク、このドラゴンが欲しい」

【今週の最強レジェンド】


【ヘルファイア・イビルドラゴン】

【陽属性/コスト:5】

【ダメージ値:5000】

【能力①】[<陽/2枠分>【このレジェンドの入場時】あなたは自分の作戦場から戦術カードを3枚指定して廃棄し、その後、自分の廃棄所から戦術カードを任意の枚数だけ指定して自分のデッキの一番下に好きな順番で戻す。そうしたら、この能力でデッキに戻した戦術カード1枚につき500のダメージを相手のライフに与える。ただし、相手は自分の作戦場から戦術カードを1枚指定して廃棄することで、ダメージを受ける代わりにこのレジェンドのダメージ値に加算する。]

【能力②】[<陽/1枠分>【このレジェンドのアタック宣言時またはブロック宣言時】あなたは自分の手札からカードを1枚指定して廃棄する。そうしたら、相手の廃棄所に置かれている戦術カード1枚につき500の数値を、このレジェンドのダメージ値に加算する。]


【解説】

 業火財閥の御曹司・業火蓮司の切り札だ。

 自分の廃棄所のカードを任意の枚数だけデッキに戻して相手にバーンダメージを与える一方、相手が自分の場の戦術カードを廃棄した場合、今度はその分だけダメージ値を上昇させる豪快な能力①と、相手の廃棄した戦術カードの枚数だけさらにダメージ値を上昇させる能力②を有する大型レジェンドだ。

 バーンとダメージ値上昇で、一気に相手を追い詰める脅威のレジェンドだ!



【次回予告/ナレーション:辰巳】

 こんにちは。二度あることは三度ある、星永辰巳です。

 小リーグを優勝したことでレジェンダリーグ太陽杯・本選への出場資格を得た俺たち。

 スター・メンタルドラゴンの所在が気がかりな俺に対し、愛理は『本選を勝ち進めば、きっとまた巡り会える』と喝を入れる。

 今一度、本選出場へ気合いを入れる俺の元に、突如エキシビションマッチへの招待状が届く。

 相手はなんと愛理の婚約者の『月ノ守 琥鉄』。……え、婚約者じゃない? 認めた覚えはない?

 ……まあ、いい。とにかく、挑まれた勝負に応じないわけにはいかない。

 だが、琥鉄はそんな俺に対して、とあるレジェンドを入場させてくる。

 そしてそのレジェンドは、俺にとっての因縁で…………俺の心を抉る代物だった。 


 次回、第04伝【月舞の虎】!


 あの日の光景(げんじつ)が、俺の心に牙を剥く。


 次回も俺と一緒に、レジェンダリーグ、アウトブレイク!!

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