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第03伝【星心竜の咆哮】―前編―

 試合会場・選手待機室。


「【スター・メンタルドラゴン】……」


 辰巳はスマートフォンのレジェンド管理画面に映るかつての切り札の姿を確認する。

 全てがあの頃のままだった。イラストも所持している能力さえも。


「お前は、本当に――あの頃の俺の、スター・メンタルドラゴンなのか。それとも、やはり……」


 果たして、7年前のデータそのものか、はたまた複製されたデータに過ぎないのか。

 いずれにせよ、このスター・メンタルドラゴンは何者かのレンタル登録によって貸し出されたレジェンド。

 つまり、既に別の人物の愛用する切り札ということだ。

 レンタルしている以上、今は味方として共に闘っている。

 だが、この小リーグが終われば、いつかは敵として相対するかもしれない。


「もし、スター・メンタルドラゴンと闘うことになったら……俺は、果たして勝てるのだろうか」


 初めて自分がスター・メンタルドラゴンを入手したのは2008年の第1回世界大会、アカウントを削除したのは2013年。

 およそ5年間愛用していた切り札だからこそ、スター・メンタルドラゴンが如何に強力なレジェンドかは重々理解している。

 だからこそ、このスター・メンタルドラゴンの持ち主が誰なのかが気になる。


「……くそ、駄目か」


 レンタル情報の詳細へアクセスしようとも、何故か画面には【ERROR(エラー)】の文字が表示されるばかりで、レンタル主が誰であるかの情報が一切明かされない。

 これは控えめに言って異常だ。

 普通、レンタル情報の項目を開けばレンタル主の情報は一目瞭然。このようにアクセスエラーによってレンタル主が不明という事態が起こることはないはずである。



〈では、ここでレジェンダリーグ・アメリカツアーを終えて日本へ帰国したばかりの『星永 彗狼』選手にお話を聞いてみましょう!〉


「――っ」


 そこで、待機室に備え付けのテレビから聞こえてきたアナウンサーの声に対し、辰巳は思わずそちらの方へ顔を向ける。

 そこには、女性アナウンサーが白髪の青年にマイクを向けて尋ねる。


〈見事、その手に優勝を収めたわけですが、やはりその道程は険しいものだったのでしょうか?〉


 白髪の青年は薄い笑みを浮かべながら、女性アナウンサーからの質問に答える。


〈そうですね。日本ではあまり見られないようなコンボがたくさん見れましたし、大変勉強になりました。この経験を今度の太陽杯にも活かしたいと思っています〉


「……『“星永(ほしなが)” 彗狼(ぜろ)』」


 白髪の青年――『彗狼』を見つめながら、辰巳は拳を強く握り締める。


「まさか、お前が……」


―――スター・メンタルドラゴンの、新たな主なのか。


〈そういえば、実は冨士ヶ峰グループがレジェンダリーグへの参加を表明したことはご存知でしょうか?〉


〈あー……ごめんなさい。アメリカにいたものですから、日本のニュースに疎くって。その冨士ヶ峰グループがどうかしたんですか?〉


 困惑したような笑みを浮かべるその姿。しかし、辰巳にはそれが作られたものであるかのようなものに見える。


〈実は、その冨士ヶ峰グループの代表選手として出場するのは、あの7年前に消えてしまった天才・一等星こと星永辰巳選手なのですよ!〉


〈………へぇ〉


 少々間を開けてから、彗狼は「それは興味深いですね」と述べる。


〈彼はボクの義兄(あに)なので、是非とも太陽杯本選で再会したいですね〉


〈なるほど。それでは7年ぶりの兄弟の感動の再会というわけですね!〉


〈そう、なりますかね。あはは……〉



「感動の再会、ねえ……」


 そうなれば、どれだけ幸せだっただろうな。辰巳はそう思う。

 あの7年前、傷が癒えたことで自分が退院した時。

 まだ幼い彗狼を伴って自分の前に現れた両親は、決して自分を迎えに来たわけじゃなかった。

 それはただの最後通告に過ぎなかった。


「……」



――『父さん、母さん。……その子は?』――



――『養子として引き取ったんだ。これからは、この義弟(ぜろ)がお前の代わりだ』――


――『貴方と違って、とても優秀なのよ』――



 それから、辰巳は親戚の家に預けられ――もとい、彗狼の教育に良くないからと厄介払いを喰らった。

 そんな辰巳のことを親戚一同もどう扱えばいいのか分からず、親族の家を転々とする日々。

 そんな日常に嫌気が差し、中学を卒業してからは本格的に放浪生活を始めた。

 生きるために必死だった。利用できるものは何だってやった。

 デッキも売った。アカウントを削除して、スマートフォンも売った。

 時には監視カメラの目を潜ってコンビニの残飯を漁ったり、どんなに低い賃金で劣悪な環境だろうが金が貰えるならどんな職にだって就いて働き続けた。


 そうした中で、トシヒコとタマミに出会い、やがて愛理との再会によって今に至る。


「結局、こうやって過ごした7年間も行き着く先はレジェンダリーグ。因縁に決着を着けろと言われてるみたいだ」


 そううんざりしたように呟いてから、再度テレビへ目を向ける。

 7年ぶりに見た彗狼の姿。今は女性アナウンサーに対して笑顔を浮かべてインタビューに答えている。

 その光景が、辰巳には尋常じゃないほどの違和感を感じる。

 辰巳が初めて彗狼を見たときに感じた印象は一言で言えば『虚無』。

 彼は何も宿らせないような瞳で辰巳をジッと見つめていた。

 ――……いや、その根底にあったのは恐らく。


――『捨てられないために、こんな奴にだけはならないようにしよう』――


 あの冷めた視線が、脳裏を離れない。離れてくれない。


「……離れないなら、別にいいさ。忘れたいわけでもないし」


 ただ。


「あいつが太陽杯に出るって言うなら、きっといずれ闘うことになる」


 辰巳と彗狼。この2人がぶつかった時、一体どんなバトルになるのか。

 互いに語るべきことなど、きっとない。

 それでも、辰巳が明確に言えることは1つしかない。


〈では、最後に太陽杯への意気込みを一言いただいてもよろしいでしょうか?〉


〈ええ、いいですよ〉


 彗狼は口元だけ微笑を浮かべながらも、瞳の奥に笑みなどという甘さは一切含んでいない。

 そのまま女性アナウンサーに向けていた視線をカメラに向けたことで、テレビ越しに彗狼と辰巳の目が合う。

 辰巳と彗狼は同時に口を開く。


『負ける気がしない』


 2つの声が重なる。

 そのことに、辰巳は思わず「フッ」と笑ってしまう。

 血は繋がっていないはずだが、それでもやはり兄弟。考えていることはどうやら同じらしい。


「……それじゃあ、まずはこの小リーグを制覇しなきゃな」


 そう言って、辰巳はテーブルの上に広げていたカードをまとめてからデッキケースに戻す。


〈星永辰巳様、まもなく決勝戦開始時刻です〉


「――来たか」


 そしてスマートフォンを手に取って時刻を確認する。

 大会開始時刻は13時30分で、現時刻は15時。

 既に辰巳も何試合か行っており、順調に勝ち進んでいる。

 残すのは決勝戦のみ。

 ここに至るまで、スター・メンタルドラゴンは使用していない。数回この小リーグで対戦して感じたことだが、辰巳からすればわざわざスター・メンタルドラゴンを出すまでもない試合ばかりだった。

 この小リーグに参加中の間は、受付で登録したチーム内のレジェンドの能力構成の変更はできない。

 スター・メンタルドラゴンの能力は極めて奇襲性の高い能力である。そのため、わざわざスター・メンタルドラゴンを使用するまでもないなら、その能力はギリギリまで秘匿しておく方が都合がいい。


「準備は万端。あとは勝つのみ!」


 自分に気合いを入れるために両頬を勢いよく叩いて選手待機室から出て行った。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 明かりのない暗い試合会場。

 そこへ、照明が1つ点いて1人の少女の姿を照らし出す。


〈さあ、レジェンダリーグ小リーグ・ドラゴン使いの部! いよいよ大詰めの決勝戦です!〉


 司会進行役の少女『宮地(みやじ) 藍羽(あいね)』がそう言うと、会場中の観客が一斉に「おおっ!!」と声を張り上げる。

 藍羽はレジェンダリーグの運営会社・ロトム社のアイドル部門がプロデュースしているアイドルであり、レジェンダリーグのプロモーターとしての活動もしている。


〈さて、その気になる対戦カードはこの両名!〉


 すると、それまで藍羽しか照らしていなかった照明の数が増える。

 まずは右側。


〈業火財閥の御曹司『業火 蓮司』選手! これまでに8つの小リーグを制覇し、さらにロトム社公認の世界ランキングはなんと上位12位の(まさ)しく強者(つわもの)(かた)です!〉


 藍羽から紹介された赤髪の少年『業火 蓮司』。年齢は10歳。

 因みに、蓮司はまだ10歳なので、安全上の配慮からDLT(デルタ)システムのリアルダメージフィードバックは最小限に留まるように設定されている。

 蓮司は「フッ」とキザな笑みを浮かべながらテーブルにデッキを置く。


「太陽杯への出場条件はとっくに満たしてるけど、……アレが出場するって聞いたからわざわざ出てあげたんだ。精々、楽しませてくれよ」


〈おお、これは凄い自信です! では、そんな業火選手を迎え討つアンバサダーはこの人!〉


 続いて左側の照明が点き、辰巳の姿を照らし出した。


〈7年前に突如その姿を消してレジェンダリーグを電撃引退をした通称『一等星』、本名は『星永 辰巳』選手! まさかまさかの冨士ヶ峰グループの代表選手として、これまた突如その姿を現しました!〉


 藍羽が辰巳をそう紹介した瞬間、会場全体の照明が吐いた時だった。

 観客の声は先ほどよりも大きく盛り上がり、熱気が沸き立つ。

 特にとある観客の声が大きい。


「一等星! 一等星! いっとおおおうぅぅせええええええい!!!!」


 言うまでもない。栄喜である。

 その声は辰巳にもよく聞こえており、思わず「あはは……」と乾いた笑い声をあげる。

 声の方へ顔を向ければ、栄喜の隣の席に座っている愛理が「うるさいですわ!」と怒鳴って彼の頭を叩いているのが見える。


「あいつら……」


 少し呆れを含んだ声を漏らす辰巳に対し、蓮司はあからさまに不満そうな表情を浮かべて周囲の様子を見渡す。


「凄い喚声(かんせい)だね。……亡霊さん」


「亡霊?」


 辰巳は蓮司の言葉に首を傾げる。

 『一等星』とはよく言われるが、『亡霊』とは初めて言われた。


「それともこう言うべきかな。『替え玉』さん」


「何が言いたいんだ。はっきり言いなよ」


 こちらを小馬鹿にしたような表情と言動。なんとなく、蓮司の発言の意図は読める。

 しかし、はっきり本人の口から聞かなければ辰巳としては納得がいかない。


「あんた、ネットで色々と言われてるよ。特に、本物の星永辰巳はあの7年前の事故で既に亡くなっていて、あんたは本当は冨士ヶ峰が用意した替え玉――いや、偽者さんってね」


「……」


「確かにあの一等星が代表選手となれば注目が集まるのは必然。その影響でまずは低迷気味だった株価の回復は見込める。さらに、デビュー戦の相手は土地開発の共同開発をしているドリーム・コーポレーション。トドメにアレ、あの執事服の人とのバトル」


 声の節々から滲み出る嫌な雰囲気。


「アレ、狙いすぎだよね。あの人、冨士ヶ峰グループの社員さんでしょ。つまりそれって八百長じゃん」


「八百長、ねえ」


 辰巳はデッキケースから取り出したデッキをカット&シャッフルしてからテーブルに置く。


「君の目には、あのバトルが八百長に見えたか?」


「特に終盤の展開がね。あんたはたった1枚のドローカードからどんどんドローを重ねて手札を増やして、しかも伏せた戦術カードが全部都合が良すぎ」


「なるほどな」


 そう言いながら、淡々とスマートフォンを専用バトルテーブルの指定位置に乗せる。

 そんな辰巳の様子に蓮司は小さく「チッ」と舌打ちする。思っていた反応と違う。


「否定しないんだ?」


「否定材料がないし、現時点ではそれを明確に証明する術もない。……なら、君に納得してもらうしかない」


「……納得? ぼくがかい?」


「ああ」


 スマートフォンを起動させ、アプリアイコンに触れる。


「カードバトルはプレイヤーの本質を映し出す鏡だ。となれば、あのバトルが本当に八百長だったかは、これからのバトルが証明してくれるだろうさ」


「フーン。……あんた、カードゲーマーをやめて詩人にでもなれば?」


 吐き捨てるようにそう呟く蓮司に、辰巳は小さく笑う。


「ああ、このバトルに負けたら考えとく。行くぜ!」


「言われるまでもない!」


 互いに【Legend.a.League Official.2020】をタップし、デルタシステムを起動させる。

 それによりギミックステージが投影され、背景が変化する。


〈Direct Link Trial System.Standby!〉


 辰巳の背景は星々が輝く『銀河』。

 蓮司の背景は沸騰したマグマが流れる『煉獄』。


 辰巳と蓮司は掛け声をあげながら、カードバトルを開始する。


「レジェンダリーグ!」


「アウトブレイク!」


 第1ターンにのみ存在するフェイズ『ゲーム準備フェイズ』。

 互いに初期手札4枚と初期ライフ10000が設定される。


【星永 辰巳】

【ライフ:10000】

【手札:4】


【業火 蓮司】

【ライフ:10000】

【手札:4】


 続いてターン開始フェイズ。

 2人は自分のサイコロを投げる。


【星永 辰巳】

【2】+2=【4】


【業火 蓮司】

【3】


「ギミックステージ【銀河】により、俺の出したサイコロの目は常に2つ上昇する!」


「そんなこと、一々説明しなくても知ってるよ。くどいな」


 そして、両者の出したサイコロの目の合計値分のコストを互いに得る。


【星永 辰巳】

【コスト:4+3=7】


【業火 蓮司】

【コスト:4+3=7】


 蓮司は小さく笑う。


「今の環境でわざわざ銀河を選ぶなんて、余程の物好きだね」


「だが、サイコロの目が2つ上昇したことで攻撃側は俺だ」


「まあ、そうだね」


 蓮司は肩を竦めてデッキに手を伸ばす。

 辰巳もまた自分のデッキに触れる。


「ドローフェイズ。俺はデッキからカードを1枚ドローする!」


【星永 辰巳】

【手札:4→5】


「ぼくはカードを2枚ドローする!」


【業火 蓮司】

【手札:4→6】


「ぼくが選んだギミックステージ【煉獄】の恩恵は、ぼくがデッキからカードをドローする場合、その枚数を常に1枚多くする」


「ドロー増強のギミックステージ、か。確かに、こんなのもあったな」


 ギミックステージは全部で3種類。

 自分のサイコロの目を2つ増加させる【銀河】。

 自分のチーム内の全レジェンドのコストを1つ少なくする【汽水湖】。

 自分のドロー枚数を1枚多くする【煉獄】。


 レジェンダリーグのプレイヤーであるアンバサダーは、自分の戦術に合うギミックステージを選ぶことで、カードバトルを優位に進めることができる。


 さて、話を戻して戦術フェイズ。


「まずは攻撃側である俺の戦術フェイズ!」


 勝負の公平性を期すため、小リーグでは参加者は待機室に軟禁状態にされることで他の選手の試合を閲覧することはできない。

 つまり、辰巳も蓮司も互いのレジェンドのチーム編成も戦術さえも知らない。

 だからこそ、辰巳としてはここは無難に攻めたいところ。


「レジェンドを選択。カードを3枚伏せる!」


【星永 辰巳】

【手札:5→2】


「これで俺の戦術フェイズは終了だ」


「3枚も伏せてくれるなんて、警戒心が高いのか、それとも無警戒すぎるのか。……どっちにしろ、次はぼくの戦術フェイズだ」


 蓮司はスマートフォンの画面に触れてレジェンドを選択。手札からカードを1枚選んで場に伏せる。


「ぼくもレジェンドを選択して、場に1枚伏せる。戦術フェイズはこれでおしまい」


【業火 蓮司】

【手札:6→5】


 レジェンド入場フェイズ。辰巳はスマートフォンの画面に表示される【Legend:Touch the Screen!】に触れる。


「コストを2つ支払って、入場! 【彗星のナックラー】!!」


【星永 辰巳】

【コスト:7→5】


【彗星のナックラー】

【星属性/コスト:2】

【ダメージ値:1500】


「入場時、彗星のナックラーの入場時能力を発動!」


【彗星のナックラー】

【能力①】[<星/1枠分>【このレジェンドの入場時】このターン中、あなたが攻撃側である場合、あなたは自分の手札から任意の枚数を指定して廃棄する。そうしたら、このレジェンドのダメージ値を廃棄した枚数分だけ倍加させる。]


「俺は残りの手札2枚を捨てる。これにより、彗星のナックラーのダメージ値は2倍になる!」


【星永 辰巳】

【手札:2→0】


【彗星のナックラー】

【ダメージ値:1500→3000】


「こんな序盤から手札を使い切って大丈夫かい?」


「問題ない。捨てた2枚の【スクラップ・ドロー】の効果を発動!」


【スクラップ・ドロー】

【戦術カード/コスト:0】

【効果】[【このカードが廃棄された時】あなたは自分のデッキの一番上からカードを1枚ドローして、自分の手札に加える。]


「2枚のスクラップ・ドローにより、デッキから2枚ドロー!」


【星永 辰巳】

【手札:0→2】


「これで元通りだ」


「へえ。でも、そのカードは伏せておいた方が良かったかもね」


「なに……?」


 蓮司の意味深な発言に辰巳は眉間に皺を寄せる。

 蓮司は笑う。


「すぐに分かるよ。コストを3つ消費して入場、これがぼくのレジェンド【灼熱のブレイズ】!!」


【業火 蓮司】

【コスト:7→4】


【灼熱のブレイズ】

【陽属性/コスト:3】

【ダメージ値:2500】


「陽属性のレジェンドか」 


「そう。レジェンドには3つの属性があり、攻撃時に真価を発揮する【星属性】、防御時に真価を発揮する【月属性】、……そして攻撃だろうと防御だろうと立ち回れる万能属性【陽属性】だ!」


「万能属性……」


 辰巳は蓮司の言う「万能属性」という言葉に少し引っかかる。

 しかし、蓮司は特に気にすることなく灼熱のブレイズの能力の発動を宣言する。


「灼熱のブレイズの入場時能力を発動!」


【灼熱のブレイズ】

【能力①】[<陽/1枠分>【このレジェンドの入場時】この能力は自分と相手の作戦場にカードがそれぞれ1枚以上存在する場合にのみ、発動できる。互いの作戦場に置かれているカードを全て廃棄し、その枚数1枚につき500の数値を、このレジェンドのダメージ値に加算する。]


「この能力により、ぼくとあんたの場に置かれたカードを全て廃棄する!」


「っ!」



〈Nuuu……Aaaaaaaa!!!!〉


 灼熱のブレイズは雄叫びをあげながら、腕に纏った炎で場に伏せられた戦術カードを燃やし尽くす。


 陽属性。それは伏せた戦術カードを廃棄する能力に長けており、プレイヤーが攻撃側か防御側かで能力の発動の是非に関わる類いのものはない。

 それ故に、蓮司の言うように星属性や月属性のように攻撃と防御に左右されない属性と言える。


「あんたの場には3枚、ぼくの場には1枚。合計4枚の戦術カードを廃棄する!」


 4枚の戦術カードが廃棄された後、ブレイズのダメージ値が上昇する。


「さらに、廃棄した枚数1枚につき500の数値がブレイズのダメージ値に加算される。よって、その数値は2000加算されて4500となる!」


【灼熱のブレイズ】

【ダメージ値:2500→4500】


 灼熱のブレイズのダメージ値が彗星のナックラーのダメージ値を超えた。


「彗星のナックラーのダメージ値は3000、ぼくの灼熱のブレイズのダメージ値は4500。せっかくの攻撃側なのに不発に終わりそうだね」


 防御側であるブレイズのダメージ値がナックラーを超えている以上、これでは辰巳が蓮司にダメージを与えることはできない。だが、辰巳はニヤリと笑う。


「不発に終わる、か。そうとは限らないかもよ」


「なに……?」


「君によって廃棄された3枚のカード。その内2枚は【湧き上がる憎悪】だ」


【湧き上がる憎悪】

【戦術カード/コスト:0】

【効果】[【このカードが廃棄された時】あなたは自分のレジェンドを1体指定する。このターン、そのレジェンドのダメージ値を1000加算する。]


「発動枚数は2枚。よって、ナックラーのダメージ値は2000上昇する!」


【彗星のナックラー】

【ダメージ値:3000→5000】


 再び、ナックラーのダメージ値がブレイズを超えた。そのことに蓮司は舌打ちする。


「……へえ、ぼくが陽属性使いだって読んでたんだ」


「別に読んでたわけじゃない。ただ、様子見として伏せていただけだ。行くぜ、バトルフェイズ!」


 バトルフェイズに移行し、辰巳はナックラーによるアタック宣言をする。


「彗星のナックラーでアタック!」


「ならば、灼熱のブレイズでブロック!」


【彗星のナックラー】

【ダメージ値:5000】


 VS


【灼熱のブレイズ】

【ダメージ値:4500】


「これで500ダメージを削る!」


「……こんなところで使いたくはないけれど」


 蓮司は不快な声音でそう漏らすと、自分の廃棄所に置かれた戦術カードを手に取る。

 それは、ブレイズの能力で廃棄されたカードである。


「ダメージ計算ステップ時、ブレイズの能力で廃棄した【潰えぬ熱意】の効果を発動!」


【潰えぬ熱意】

【戦術カード/コスト:3】

【効果】[【ダメージ計算ステップ時】この効果はあなたの場に【陽属性】のレジェンドが入場している場合にのみ、廃棄所からコストを支払わずに発動できる。あなたは自分の廃棄所に置かれている戦術カードから任意の枚数を指定し、それらのカードを自分のデッキの一番下に好きな順番で戻す。そうしたら、このターン中、この能力でデッキの一番下に戻した戦術カードの枚数1枚につき1000の数値を、自分のレジェンドのダメージ値に加算する。その後、このターン中、あなたは【潰えぬ熱意】の効果を発動できない。]


「この効果により、ぼくは廃棄所の【潰えぬ熱意】1枚をデッキに戻す。1枚戻したことで、ブレイズのダメージ値は1000上昇する!」


【彗星のナックラー】

【ダメージ値:5000】


 VS


【灼熱のブレイズ】

【ダメージ値:4500→5500】


「くっ!」


「ナックラーの5000ダメージはブロックしたブレイズのダメージ値5500の分だけ、軽減される。つまりこのターン、ぼくが受けるダメージは0」


「そう、みたいだな」


 第1ターンのバトルフェイズ。辰巳は蓮司にダメージを与えることはできなかった。

 辰巳は拳を強く握り締める。


「それだけじゃないよ、替え玉さん。ブレイズのもう1つの能力を発動!」


【灼熱のブレイズ】

【能力②】[<陽/2枠分>【ダメージ計算ステップ時】この能力は相手の手札が2枚以上である場合にのみ、発動できる。あなたはコストを3つ支払う。そうしたら、相手は自分の手札からカードを2枚まで指定して作戦場にそのカードを表向きで置く。この効果で作戦場に置かれたカードは次のターンのターン終了フェイズまで手札に戻らない。] 


【業火 蓮司】

【コスト:4→1】


「3コストを支払うことで、あんたは自分の手札からカードを2枚選び、そのカードを作戦場に表向きで置く」


「っ!」


 辰巳は自身の手札を見つめる。辰巳の手札はちょうど2枚、つまり、ブレイズの能力によって辰巳は全ての手札を失うことになる。


「レジェンダリーグのルール上、戦術カードは裏向きで伏せられたものしかその効果を発動することはできないってこと、ちゃんと知ってるかい?」


「ああ」


【星永 辰巳】

【手札:2→0】


 戦術カードの効果発動手順は、裏向きから表向きにする行為も含まれているため、最初から表向きで場に置かれてしまえば当然発動することはできない。

 そればかりか、自分の手の内まで晒される始末。

 また、一応、次のターンのターン終了フェイズ時に手札に戻るとは言え、陽属性相手では手元に戻る前に廃棄されてしまうのは火を見るより明らかだ。


「レジェンド退場フェイズ、彗星のナックラーを休憩室に送る」


 彗星のナックラーが休憩室に送られたことで、辰巳の待機室の存在する残りのレジェンド数は6体となった。


【星永 辰巳】

【残りレジェンド:6】


 レジェンド退場フェイズが終了し、ターン終了フェイズに移行する。


「ターン終了フェイズ。レジェンド同士のバトルに勝利したぼくのブレイズは待機室に戻る」


 蓮司は不敵に笑って辰巳を見つめる。


「第1ターンはぼくの勝利。やっぱり、替え玉じゃ相手にならないね」


「……どうかな」


 辰巳はそう答えてみせるが、手札は0。これから先の戦術を組む見通しさえできないのが正直な話だ。

 ここから先は、全てドローしたカードによる土壇場の駆け引きになるだろう。

 第2ターン、ターン開始フェイズ。そして一気にコストを取得するコストステップまで移行する。


『ダイスロール!』


【星永 辰巳】

【3】+2=【5】

【コスト:5+6=11】


【業火 蓮司】

【6】

【コスト:5+6=11】


「くっ」


「あ、ラッキー♪」


 辰巳が苦虫を噛み締めた表情を浮かべる一方、蓮司は満足そうに微笑む。


「今回は、ぼくが攻撃側だ」


「……」


 辰巳は自身のスマートフォンを手に取ってチーム内のレジェンドを確認する。

 陽属性からの攻撃、それを迎え討つのはどのレジェンドが相応しいか。


(俺が持つレジェンドの中で防御に特化しているのは月属性の【月盾の番兵】のみ。しかし……)


 陽属性が相手である以上、戦術カードによるサポートは得られない。

 とすれば、ここで安易に守り札を切るのは得策とは言いづらい。

 ……ならば。


「目には目を、か」


「ん? 何か言ったかい?」


 首を傾げる蓮司に対し、辰巳は首を横に振る。


「いいや、ただの独り言だ。ドローフェイズだ!」


 やけに威勢の良い辰巳の声に、蓮司は「なんか、調子が狂うな」と漏らしながら、デッキからカードを2枚ドローする。


「まあ、いいや。なら、まずは攻撃側であるぼくがドローするよ」


【業火 蓮司】

【手札:5→7】


「ほら、あんたも引きなよ」


「ああ。ドロー!」


【星永 辰巳】

【手札:0→1】


 辰巳はドローしたカードを横目で確認する。


「戦術フェイズ。君からだ」


「一々言われなくたって分かってるよ」


 蓮司は自分の7枚の手札を見てから、辰巳の手札を見つめる。


(こちらが陽属性使いであることが知られた以上、恐らく、相手は手札の戦術カードを伏せるようなことはしない。……だったら)


 手札から支援カードを公開し、その効果の発動を宣言する。


「ぼくは、コストを2つ支払って手札から支援カード【エラー・サイン】を発動!」


【エラー・サイン】

【支援カード/コスト:2】

【効果】[あなたは自分の手札から戦術カードを任意の枚数だけ指定して、廃棄する。そうしたら、相手はその枚数だけ自分の手札からカードを指定して作戦場に伏せる。]


【業火 蓮司】

【コスト:11→9】

【手札:7→6】


「この効果により、ぼくは手札から戦術カードを1枚廃棄する」


【業火 蓮司】

【手札:6→5】


 蓮司が廃棄した戦術カードは【眠れる憤怒】。これは【潰えぬ熱意】と同様に廃棄所からでも発動可能な戦術カードである。


「さあ、手札のカードを場に伏せなよ」


「……」


 辰巳は蓮司に悟られないように眉間に皺を寄せる。

 辰巳の手札は支援カード【補給支援】。その効果はデッキからカードを2枚ドローする手札増強。

 そして支援カードは場に伏せず、手札から直接その効果を発動するカード。それ故に、仮に支援カードを場に伏せてしまった場合、その支援カードは使用できなくなってしまう。


【星永 辰巳】

【手札:1→0】


 現在、辰巳の場には表向きに置かれた戦術カードが2枚、裏向きで伏せられた支援カードが1枚。

 計3枚のカードが作戦場に置かれている。いずれも、効果を発動できないカードばかりだ。

 蓮司は目障りな辰巳の手札を一掃したことで満足し、スマートフォンを握る。

 そして待機室からレジェンドを1体指定して闘技場へエントリーさせる。


「このレジェンドで君の戦術を徹底的に機能停止にしてあげるよ」


 それから、さらに手札から支援カードを選び、その効果を発動させる。


「そしてコストを3つ支払い、手札から支援カード【スリー・ツー】発動!」


【業火 蓮司】

【コスト:9→6】

【手札:5→4】


【スリー・ツー】

【支援カード/コスト:3】

【効果】[あなたは自分のデッキの一番上からカードを3枚ドローして、その中から1枚指定して廃棄し、残りのカードを自分の手札に加える。]


「その効果により、ぼくはデッキからカードを3枚ドローしてその内1枚を廃棄し、残りのカードを手札に加える。……ただし、そのドロー枚数はギミックステージ【煉獄】の恩恵により1枚増加して、4枚ドロー!」


【業火 蓮司】

【手札:4→8】


「その後、1枚を廃棄」


【業火 蓮司】

【手札:8→7】


「さらに、手札から戦術カードを3枚伏せて、戦術フェイズを終了する」


【業火 蓮司】

【手札:7→4】


 攻撃側である蓮司の戦術フェイズが終わり、次は辰巳の戦術フェイズだ。


「……ようやく、俺の番か。と言っても、やれることは特に無いんだが」


 手札が0枚である以上、このターンの戦術フェイズで辰巳ができることはバトルフェイズで戦わせるレジェンドを選択することだけ。

 辰巳はあらかじめ決めていたレジェンドを選択する。


「レジェンドを選択。俺の戦術フェイズは、これで終わりだ」


「ふふふ。ずいぶんとあっさりした戦術フェイズだね」


「……」


 こちらを小馬鹿にしたような表情と声音。

 しかし、辰巳は特に何も言うことはなくスマートフォンの画面に手を添える。


「レジェンド入場フェイズだ。さっさとレジェンドを入場させな」


「……チッ、分かってるよ」


 こちらの煽りに顔色1つ変えない。そのことが蓮司にとっては全くもって面白くない。

 蓮司はスマートフォンに触れる。


「コスト3、再び入場しろ! 【灼熱のブレイズ】!!」


【業火 蓮司】

【コスト:6→3】


【灼熱のブレイズ】

【陽属性/コスト:3】

【ダメージ値:2500】


「続いて、入場時能力発動!」


【灼熱のブレイズ】

【能力①】[<陽/1枠分>【このレジェンドの入場時】この能力は自分と相手の作戦場にカードがそれぞれ1枚以上存在する場合にのみ、発動できる。互いの作戦場に置かれているカードを全て廃棄し、その枚数1枚につき500の数値を、このレジェンドのダメージ値に加算する。]


「あんたとぼく、どちらも場に置かれてるカードは3枚ずつ。つまりは計6枚」


「……」


 蓮司はニヤリと口角を上げて笑う。


「ブレイズの能力によって6枚のカードは廃棄され、1枚当たり500上がるので、ブレイズのダメージ値は計3000アップする!」


【灼熱のブレイズ】

【ダメージ値:2500→5500】


 自分と相手の場のカードを廃棄し、その枚数に応じてダメージ値を上昇させる灼熱のブレイズ。

 辰巳には手札と場に一切のカードはなく、頼れるのは入場を今か今かと待っている自分のレジェンドのみ。

 辰巳はスマートフォンの画面に触れて自身のレジェンドを入場させる。


「コスト3を支払い、出でよ陽属性レジェンド! 【妖炎・九尾のタマモ】!!」


「な、陽属性だと?!」


【妖炎・九尾のタマモ】

【陽属性/コスト:3】

【ダメージ値:3000】


【星永 辰巳】

【コスト:11→8】


 辰巳が入場させたレジェンドは陽属性。9つの尾の先に炎を宿らせた巨大な白い狐である。


「一等星のくせに、陽属性を使うなんて……」


「不服かい。だけど、俺は星属性をメインにしているだけで、別にそれだけに特化しているわけじゃない」


 そして、妖炎・九尾のタマモの入場時能力の発動を宣言する。


「タマモの入場時能力、発動!」


【妖炎・九尾のタマモ】

【能力①】[<陽/2枠分>【このレジェンドの入場時】この効果は、あなたの廃棄所に置かれているカード枚数が8枚以下である場合にのみ、コストを3つ支払うことで発動できる。あなたは自分の廃棄所に置かれているカード枚数が9枚になるように、自分のデッキの一番上からカードをめくって廃棄する。その後、自分の廃棄所に置かれている戦術カード3枚につき、あなたは自分のデッキの一番上からカードを1枚ドローする。]


「能力発動のために3コストを支払う。俺の廃棄所に置かれているカードは6枚。よって、デッキトップからカードを3枚廃棄する」


【星永 辰巳】

【コスト:8→5】


 タマモの能力でデッキから廃棄されたカードは以下の通り。


【ダメージ・カット】〈戦術カード〉

【ブロック・シャッター】〈戦術カード〉

【ダメージ・アブソーブ(プラス)】〈戦術カード〉


 3枚とも戦術カードであり、これで辰巳の廃棄所には戦術カードが合計8枚置かれた。


「さらに、俺の廃棄所に置かれている戦術カード3枚につき、デッキから1枚ドローすることができる。俺の廃棄所には戦術カードが8枚、よって2枚ドローする!」


【星永 辰巳】

【手札:0→2】


 辰巳がデッキから2枚ドローしたのを見て、蓮司は「あはは!」と声をあげて笑う。


「忘れちゃったの? ブレイズには相手の手札2枚を場に表向きで置く能力があることを!」


「別に忘れてはいないよ。バトルだ」


 しかし、辰巳はあくまでも冷静にそう返す。

 まるで全てを見透かしているような辰巳の言動に、蓮司はイラつく。


「だったら、お望み通りにしてあげるよ! ブレイズでアタック!」


「タマモでブロック!」


【灼熱のブレイズ】

【ダメージ値:5500】


 VS


【妖炎・九尾のタマモ】

【ダメージ値:3000】


 ブレイズの5500とタマモの3000、その差分の2500のダメージが辰巳を襲う。


【星永 辰巳】

【ライフ:10000→7500】


「うっ……ぐぅ!!」


 DLT(デルタ)システムのリアルダメージフィードバックによる痛みに、辰巳は表情を歪める。

 その光景に蓮司は笑みを浮かべる。


「やっとそのいけ好かない澄まし表情を変えたね、くくく……。このままもっと(なぶ)ってあげるよ!」


 ダメージ計算ステップ時、蓮司はさらにブレイズの能力を発動させる。


「ブレイズの2つ目の能力を発動!」


【灼熱のブレイズ】

【能力②】[<陽/2枠分>【ダメージ計算ステップ時】この能力は相手の手札が2枚以上である場合にのみ、発動できる。あなたはコストを3つ支払う。そうしたら、相手は自分の手札からカードを2枚まで指定して作戦場にそのカードを表向きで置く。この効果で作戦場に置かれたカードは次のターンのターン終了フェイズまで手札に戻らない。]


「3コストを支払って、あんたの手札を削らせてもらう!」


「……ああ、いいぜ」


 まだ自分の身に残る痛みに顔を歪めながらも、自分の手札を表向きで作戦場に置く。


【業火 蓮司】

【コスト:3→0】


【星永 辰巳】

【手札:2→0】


 これで辰巳の手札は再び0枚。蓮司はここ数日に公開された2つの動画を見て、1つの確信があった。


(結局のところ、八百長とかだなんて実際どうでもいい。ぼくが警戒しなきゃいけないのは、彼の異常な引きの強さ。ならば、それを削ることができれば勝つことは容易)


 今のところ、手札を尽く潰していることで蓮司が辰巳を圧している。

 このまま行けば、偽者だろうとそうでなかろうと、あの伝説と謳われた『一等星』を倒すことができる。

 そう思うと、ついつい笑い声が溢れてしまう。


「くくく…………、っ?!」


 だが、蓮司はすぐにその笑い声を引っ込めてしまった。そればかりか目を見開いてその表情は驚愕に染まっている。

 それを見て、辰巳は小さく笑う。


「どうした、まるで爆弾でも見たような顔じゃないか」


「ば、爆弾っていうか、それは……」


 辰巳が作戦場に表向きで置いたカード、それは……。


【生命感知ーライフ・マイン】

【戦術カード/コスト:1】

【効果】[【このカードが作戦場から廃棄された時】この効果は、あなたと相手のライフが異なる数値である場合にのみ、発動できる。ライフの数値が高いプレイヤーを1人指定し、2000ダメージを与える。]


「その、カードは……」


 作戦場に置かれたカードは2枚とも【生命感知ーライフ・マイン】。


「ライフ・マインは場から廃棄された場合、ライフの高いプレイヤーに2000ダメージを与える戦術カードだ。そして、俺のライフは7500、君のライフは10000」


「つまり、その2枚を廃棄すれば、ぼくは……」


 1枚目のライフ・マインによる2000ダメージを受けたとしても蓮司のライフは8000、辰巳のライフは7500なので、2枚目のライフ・マインのダメージを受けるのもライフが高い蓮司である。

 すなわち。


「そう。2枚合わせて4000ダメージを受けてもらう」


「そ、んな……」


 蓮司の陽属性は場のカードを廃棄する能力及び廃棄した枚数に関わる能力に特化している。

 自身のレジェンドの能力を最大限に活かすには、どうしてもあのライフ・マインを廃棄しなければならない。

 でも、廃棄してしまえば計4000ダメージは避けられない。


「……やってくれるじゃないか」


「それだけじゃない。……レジェンド退場フェイズ」


 ダメージ値の低いタマモが闘技場から退場する。その時、タマモの能力が発動する。


「退場時、タマモの能力を発動する!」


【妖炎・九尾のタマモ】

【能力②】[<陽/1枠分>【このレジェンドの退場時】あなたは自分の待機室からレジェンドを1体指定して休憩室に送る。そうしたら、そのレジェンドのコスト2つにつき、自分のデッキの一番上からカードを1枚ドローする。]


「俺は、待機室のコスト4のレジェンド【メテオ・ガンナー】を休憩室に送る。この能力で休憩室に送ったレジェンドのコスト2つにつき、デッキからカードを1枚ドローする。よって、俺はデッキからカードを2枚ドローする!」


【星永 辰巳】

【手札:0→2】


「くっ、ドローされたか。でも……」


 これで辰巳の待機室に存在するレジェンドは残り4体。

 辰巳の取る戦術はどんどん限られてきている。

 焦る必要はない。


「まだ第2ターンが終わった程度だ。ターン終了フェイズ、ぼくはブレイズを待機室に戻す」


 第2ターンがこれで終了。佳境となる第3ターンが始まる。

 ターン開始フェイズ及びコストステップ。辰巳と蓮司は同時にサイコロを投げ、2人の声が重なる。


『ターン開始フェイズ、ダイスロール!』


【星永 辰巳】

【4】+2=【6】

【コスト:6+3=9】


【業火 蓮司】

【3】

【コスト:6+3=9】


 続いてドローフェイズ。それぞれがデッキからカードをドローする。


【星永 辰巳】

【手札:2→3】


【業火 蓮司】

【手札:4→6】


 互いにドローしたカードを手札に加え、戦術フェイズ。

 まずは攻撃側である辰巳からだ。


「レジェンドを選択。場にカードを2枚伏せる」


【星永 辰巳】

【手札:3→1】


「さあ、次は君の番だ」


「言われなくても分かってる。ぼくの戦術フェイズ!」


 スマートフォンを掴んでレジェンドを選択する。


(ブレイズでは駄目だ。ブレイズの入場時能力は場のカードを全て廃棄してしまう。ここは小回りがきくレジェンドを入場させて、ダメージを受けるしかない)


 ライフ・マインはライフの高いプレイヤーに2000ダメージを与える戦術カード。

 ならば、このターンはダメージを受けることで辰巳のライフより下回れば、逆に辰巳に2000ダメージを与えることができる。

 このターンは無駄に動く必要はない。


「ぼくもレジェンドを選択して、場にカードを1枚伏せる」


【業火 蓮司】

【手札:6→5】


「戦術フェイズは終了。レジェンド入場フェイズだ」


「ああ。こちらから行かせてもらう!」


 辰巳はスマートフォンに触れてレジェンドを入場させる。


「コスト3を支払い、入場させる。来い、【星詠みの道化師】!」


【星詠みの道化師】

【星属性/コスト:3】

【ダメージ値:2400】


【星永 辰巳】

【コスト:9→6】


「星詠みの道化師だと?!」


 蓮司は目を剥く。このレジェンドの存在は動画サイトで投稿された動画を見て、能力は確認済みだ。

 だからこそ、この状況で星詠みの道化師の能力が発動することがどれだけマズイかを理解している。


「星詠みの道化師の能力を発動!」


【星詠みの道化師】

【能力①】[<星/1枠分>【このレジェンドの入場時】このターン中、あなたが攻撃側である場合、あなたは自分の作戦場に置かれた戦術カードを任意の枚数だけ指定して廃棄する。そうしたら、この能力で廃棄した戦術カード1枚につき1000の数値を、このレジェンドのダメージ値に加算する。]


「俺は作戦場に置かれた2枚ライフ・マインを廃棄し、星詠みの道化師のダメージ値を2000アップする!」


【星詠みの道化師】

【ダメージ値:2400→4400】


「そして合計2コストを支払って、廃棄した2枚のライフ・マインの効果を発動!」


【生命感知ーライフ・マイン】

【戦術カード/コスト:1】

【効果】[【このカードが作戦場から廃棄された時】この効果は、あなたと相手のライフが異なる数値である場合にのみ、発動できる。ライフの数値が高いプレイヤーを1人指定し、2000ダメージを与える。]


【星永 辰巳】

【コスト:6→4】


「君のライフにダメージを与える!」


 まずは1枚目の効果によるダメージ。


【業火 蓮司】

【ライフ:10000→8000】


「ぐあぁぁ……っ!!」


 続いて2枚目の効果によるダメージが蓮司に襲いかかる。


【業火 蓮司】

【ライフ:8000→6000】


「うっ……くっ!!」


 蓮司は忌々しげに辰巳を睨みつける。


「よくも、やってくれたな……」


「自分のカードは自分で処理をしないとね。さあ、次は君のレジェンド入場フェイズだ」


「一々言われなくたって分かってる!!」


 蓮司は気が立っており、乱暴な手つきでスマートフォンの画面に触れてレジェンドを入場させる。


「2コストを支払い、レジェンドを入場させる! 【フレム・イーター】!!」


【業火 蓮司】

【コスト:9→7】


【フレム・イーター】

【陽属性/コスト:2】

【ダメージ値:2000】


〈Guuu……〉


 赤い炎に覆われたドーベルマンのような姿のレジェンドが唸り声をあげながら入場した。


「フレム・イーターの入場時能力を発動!」


【フレム・イーター】

【能力①】[<陽/1枠分>【このレジェンドの入場時】あなたはコストを1つ支払う。そうしたら、あなたは相手の作戦場に置かれたカードを1枚指定し、そのカードを廃棄する。]


「ぼくは1コストを支払い、あんたの場のカードを1枚指定して廃棄する!」


【業火 蓮司】

【コスト:7→6】


 辰巳の場の戦術カードがフレム・イーターにより廃棄される。

 辰巳が場に伏せていた戦術カードは【リフレクト・ダメージ】であった。

 そこで気になるのは、未だに場に残ったままの伏せられた戦術カード。

 辰巳から廃棄した戦術カードはリフレクト・ダメージ。反射ダメージを与える効果を持っている。

 だとすると、残りのカードは……。


「星詠みの道化師でアタック!」


 辰巳のアタック宣言に、蓮司は拳を強く握り締める。


「フレム・イーターでブロックだ!」


【星詠みの道化師】

【ダメージ値:4400】


 VS


【フレム・イーター】

【ダメージ値:2000】


 星詠みの道化師の腕にフレム・イーターが噛み付き、星詠みの道化師はそれを振り払おうと腕を上下に振り回す。


「ダメージ計算ステップ時、戦術カードを発動する!」


 辰巳は伏せたままの戦術カードの効果を発動する。


【ダブル・パワー!】

【戦術カード/コスト:4】

【効果】[【ダメージ計算ステップ時】このターン中、あなたのレジェンドのダメージ値は2倍になる。]


「コストを4つ支払い、戦術カード【ダブル・パワー!】の効果により星詠みの道化師のダメージ値を2倍にする!」


【星永 辰巳】

【コスト:4→0】


【星詠みの道化師】

【ダメージ値:4400→8800】


「っ!!」


 戦術カード【ダブル・パワー!】により、星詠みの道化師のダメージ値は8800、一方でブロックしたフレム・イーターのダメージ値は2000。

 その差分は6800、蓮司の残りライフは6000。

 このままでは辰巳のワンショットキルが成立する。


「戦術カード、発動!」


 蓮司は自らが伏せた戦術カードの効果を発動させる。


【ダメージ・カット】

【戦術カード/コスト:2】

【効果】[【ダメージ計算ステップ時】あなたは自分の手札からカードを好きな枚数を指定して、廃棄する。そうしたら、この効果で廃棄したカード1枚につき1000だけ、自分が受けるダメージを一度だけ減少させる。]


「ぼくは手札からカードを5枚廃棄して、受けるダメージを5000軽減させる!」


【業火 蓮司】

【コスト:6→4】

【手札:5→0】


 蓮司は手札を全て廃棄した。だが、それだけでは終わらない。


「たった今、手札から廃棄した戦術カード【スクラップ・ドロー】2枚の効果を発動!」


【スクラップ・ドロー】

【戦術カード/コスト:0】

【効果】[【このカードが廃棄された時】あなたは自分のデッキの一番上からカードを1枚ドローして、自分の手札に加える。]


「この2枚のスクラップ・ドローの効果及びギミックステージ【煉獄】の恩恵により、デッキからカードを4枚ドローする!」


【業火 蓮司】

【手札:0→4】


 そしてダメージ・カットの効果により、蓮司が受けるダメージは6800から5000を差し引いて1800。


【業火 蓮司】

【ライフ:6000→4200】


「くっ……!」


 致命傷は避けたものの、星詠みの道化師からのダメージを受けてしまった。

 そのことが、蓮司の表情を暗くする。


「星詠みの道化師が相手プレイヤーにダメージを与えた瞬間、能力を発動する!」


【星詠みの道化師】

【能力②】[<星/2枠分>【ダメージ計算ステップ時】このレジェンドのアタックによって相手にダメージを与えた場合、相手の待機室に存在するレジェンドをランダムに1体指定して相手の休憩室に送る。]


「君の待機室からレジェンドをランダムに1体指定して、休憩室に送る!」


「くそ……」


 星詠みの道化師の能力で蓮司の待機室からレジェンドがランダムに休憩室に送られる。

 それだけではない。


「レジェンド退場フェイズ。ぼくはフレム・イーターを退場させる」


 フレム・イーターを退場させたことで、蓮司の待機室に存在するレジェンドは残り5体。

 だが、蓮司はただで転ぶわけにはいかない。


「目に物を見せてあげるよ。ぼくは廃棄所から【眠れる憤怒】の効果を発動!」


【眠れる憤怒】

【戦術カード/コスト:4】

【効果】[【レジェンド退場フェイズ時】この効果はあなたの場に【陽属性】のレジェンドが入場している場合にのみ、廃棄所からでも発動できる。このターン中、あなたのレジェンドが相手のレジェンドとのバトルによって退場した場合、あなたは相手のレジェンドを1体指定し、そのレジェンドを休憩室に送る。その後、このカードを自分のデッキの一番下に戻す。]


「この効果は、ぼくのレジェンドがあんたとのバトルによって退場した場合、あんたのレジェンドを退場させる!」


 退場したフレム・イーターの怨念を纏った炎が、星詠みの道化師を焼き尽くす。


〈う、ぐ、あああああああ!!!〉


 星詠みの道化師はそのまま休憩室に送られてしまった。

 これにより、辰巳の待機室に存在するレジェンドは残り3体。


「ターン終了フェイズ。これで第3ターンは終了だ」


 辰巳はそう告げると、自分のスマートフォンを見つめて待機室に存在するレジェンドを確認する。


「俺の待機室に存在するのは、【流星ストライク】、【月盾の番兵】、そして……」


 最後のレジェンドを見つめながら、同時に相手の待機室に存在する残りレジェンドの数を逆算する。


「相手のレジェンドは残り5体。……ならやっぱり、最後に決めるのはお前になるのかな」


 辰巳が勝利するための切り札。それはやはり――。



「もう一度、俺に力を貸してくれ。【スター・メンタルドラゴン】」

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