第01伝【一等星の帰還】―後編―
ついに始まる辰巳と栄喜のレジェンダリーグによるカードバトル。
愛理は辰巳にデッキケースとサイコロを渡す。
レジェンダリーグはスマートフォンと紙媒体のカードの双方を同時に使用する珍しいタイプのカードゲームだ。
サイコロに関しては、プレイヤーが攻撃側かと防御側であるかを決めるのに使用する。
辰巳は受け取ったデッキの中身を見て、おおよその戦術を理解する。
「このデッキの戦術、7年前の……」
「ええ。まんまと言うわけにはいかなかったけれど、大体は貴方のプレイングスタイルに沿ったカードを選んだつもりよ」
「まさに至れり尽くせりってわけか」
ここまでお膳立てされたのであれば、負けるわけにはいかない。……まあ、元から負けるつもりなど一切ないが。
「準備は済んだかよ、一等星さん」
「ああ」
栄喜の言葉に頷き、互いにスマートフォンを構えてから声を揃えて宣言する。
『レジェンダリーグ・アウトブレイク!』
スマートフォンを起動させた後、アプリ【Legend.a.League Official.2020】をタップし、デルタシステムを発動させる。
〈Direct Link Trial System.Standby!〉
スマートフォンによって町中に配置されたロトム社製の装置が稼働して特殊粒子を散布、周囲が特殊粒子によって覆われる。特殊粒子によって宙に浮かぶ透明なテーブルのようなものがそれぞれ辰巳と栄喜の前に出現した。
辰巳と栄喜は各々のデッキをシャッフルしてからテーブルに置いてから初期手札4枚をドローし、最後に自分のスマートフォンをテーブルの中央に配置する。
すると、各々のスマートフォンに【LIFE:10000】と表示される。
【星永 辰巳】
【手札:4】
【コスト:0】
【ライフ:10000】
【夢野 栄喜】
【手札:4】
【コスト:0】
【ライフ:10000】
「これで準備は完了。いよいよだな、星永辰巳!」
栄喜は早くあの生きた伝説とも呼ばれた辰巳と戦いたくてウズウズしているが、辰巳の方は冷淡に返す。
「ご託はいい。さっさと始めるぞ」
「言ってくれるじゃねえかよ! ギミックステージ起動!」
辰巳と栄喜のカードバトルがいよいよ開始する。
2人の周囲が銀河のような背景に包まれた。
「ギミックステージシステム。各プレイヤーは3種類あるギミックを持つステージの内、1つをあらかじめ選択しておくことでそのステージの恩恵を得ることができる」
辰巳の解説に対し、栄喜は頷く。
「その通りだ。記憶が朧気じゃなくて安心したぜ」
このように、レジェンダリーグは他のカードゲームと比べて根本から異なる点が多々ある。
他にも異なる特徴として、従来のカードゲームが自分と相手で交互に回すのに対し、このゲームでは1つのターンを両者がそれぞれ攻撃側と防御側になって交互に回していくことになる。
流れとしては、1つのターンを攻撃側→防御側の順で進行していくことになる。
交互に回す順番である攻撃側と防御側の決定は、これから訪れる『ターン開始フェイズ』にて行われる。
「ターン開始フェイズ!」
「ダイスロール!」
辰巳と栄喜は同時に各々のサイコロを振る。
【星永 辰巳】
【3】+2=【5】
【夢野 栄喜】
【5】+2=【7】
辰巳と栄喜の出たサイコロの目はそれぞれ【3】と【5】。しかし、すぐにその数値は2つほど上昇したものに変化した。
これに関して栄喜が説明する。
「俺とあんたが選んだギミックステージは共に【銀河】。このステージを選択したプレイヤーが受ける恩恵は、自分が振って出したサイコロの目は常に2つ上昇する。そして!」
サイコロを振って出た目の結果から、攻撃側と防御側が決定した。
「サイコロの出た目は俺の方がデカい! よってこの第1ターン目は俺が攻撃側だ!」
「……」
辰巳は口元に力を入れる。防御側ということは、相手からの攻撃を受けることを意味している。
もし攻撃を受ければ、あの7年前のように……。
そう思うと、体が震えてしまいそうになる。
「……。コストステップだ」
辰巳は気を紛らせるようにターンを進行させていく。
この『コストステップ』では、互いのプレイヤーがターン開始フェイズ中に出した互いのサイコロの数の合計値分のコストを互いが得る。
【星永 辰巳】
【コスト:5+7=12】
【夢野 栄喜】
【コスト:5+7=12】
このコストはサポートカードを発動させるために必要だったり、使役するレジェンドを登場させる際に支払ったりと極めて重要なものだ。
そして、この後に訪れるのはドローフェイズ。互いにデッキの一番上のカードを引いて自分の手札に加えるフェイズである。
『ドローフェイズ! カード、ドロー!』
【星永 辰巳】
【手札:4→5】
【夢野 栄喜】
【手札:4→5】
手札のカードが共に5枚になり、次はいよいよ戦術フェイズ。
バトルフェイズに向けて攻撃側、防御側の順に戦術を組むフェイズだ。
「戦術フェイズ! まずは攻撃側である俺からだ!」
栄喜はそう宣言すると、テーブルに置いていたスマートフォンを手に取って画面を操作する。
「まずは待機室にいるレジェンドを1体選ばせてもらうぜ!」
『待機室』とは実際の卓上に存在するフィールドの概念ではなく、スマートフォン内に存在するデータバンクのような存在だ。
そこには自分が事前に組んだ戦闘可能なレジェンドが計7体登録されており、この戦術フェイズではバトルに用いるレジェンドをスマートフォンから選択することになる。また、この待機室に登録されている計7体のレジェンドたちは一般的に『チーム』と呼称される。
栄喜はスマートフォンを操作し、登録されているレジェンドのアイコンをタップするとそれを【待機室】→【闘技場】へとドラッグする。
この『闘技場』は実際の卓上とスマートフォン内の双方に存在しており、実際の卓上ではスマートフォンを置く場所、スマートフォン内では戦闘を行うレジェンドをここへ待機室から移動させることで次の『レジェンド入場フェイズ』にて呼び出すことができる。
「せっかくの攻撃側なんだ。初っぱなから派手に行かせてもらう!」
栄喜はレジェンドを選択した後、スマートフォンを置いている卓上の『闘技場』の真後ろに存在する『作戦場』にカードを裏向きで2枚配置する。
「手札から2枚の戦術カードを場に伏せる! これで俺の戦術フェイズは終了だ!」
【夢野 栄喜】
【手札:5→3】
『戦術カード』とは、バトルフェイズ中におけるレジェンドをサポートをするカードのことであり、使用するためには事前に戦術フェイズの段階で『作戦場』に裏向きで配置しておく必要がある。
「なら、今度はこちらの戦術フェイズ!」
攻撃側である栄喜の戦術フェイズが終了したので、次は防御側である辰巳の戦術フェイズだ。
「俺が選ぶレジェンドは……」
辰巳もまたスマートフォンを手に取って待機室に控えているレジェンドたちの一覧から、バトルに使用するレジェンドを選択するために少々思案する。
(相手の選択したギミックステージは【銀河】。その恩恵は自分のサイコロの目の数を2つ上昇させるもの。他のギミックステージと異なり、この【銀河】で得られる恩恵はかなり運に左右されるタイプだ。それでも、わざわざこのステージを選択するということは、恐らく奴は俺と同じでガンガン攻めていくタイプのアンバサダーと見た)
栄喜の口調、言動、ギミックステージの選択、その全てから相手がこのターン、どんなレジェンドを繰り出してくるのかを考える。
キーワードは『栄喜が保有するコストは12』、『初っぱなから派手に行かせてもらう』、『場に伏せられた2枚の戦術カード』。
そこから導き出される結論から、自分の選ぶべきレジェンドを決める。
辰巳はレジェンドのアイコンをタップし、栄喜同様に【待機室】→【闘技場】にへとドラッグしてから、テーブルにスマートフォンを置いた。
「俺はコストを2つ支払って、手札から支援カード【補給支援】を発動!」
【星永 辰巳】
【コスト:12→10】
【手札:5→4】
それから、辰巳は手札から『支援カード』の効果を発動した。
前述したように『戦術カード』がバトルフェイズ中におけるレジェンドのサポートをこなすカードならば、『支援カード』はプレイヤーのサポートをこなすカードと言える。
『支援カード』は『戦術カード』と異なり、作戦場に伏せる必要はないものの、使用できるタイミングは戦術フェイズ中にのみ限定される。
余談だが、支援カードは発動させる場合、戦術カードと同様に作戦場に置き、効果処理を終えたら『廃棄所』と呼ばれる場所へ捨て札として置かれる。
【補給支援】
【支援カード/コスト:2】
【効果】[あなたは自分のデッキの一番上からカードを2枚ドローして、自分の手札に加える。]
「その効果により、俺はデッキからカードを2枚ドローする!」
辰巳は効果処理としてデッキトップからカードを2枚ドローして手札に加え、その後、発動するために作戦場に置いていた支援カード【補給支援】を『廃棄所』に置いた。
【星永 辰巳】
【手札:4→6】
「俺は場に戦術カードを3枚伏せて戦術フェイズを終了する!」
【星永 辰巳】
【手札:6→3】
これで両者の戦術フェイズが終了し、次に行うのは『レジェンド入場フェイズ』である。
このフェイズでは攻撃側、防御側の順にコストを支払って戦術フェイズで選択したレジェンドを場に呼び出す。
まずは栄喜のレジェンドが入場する。
スマートフォンの画面に【Legend:Touch the Screen!】と表示され、指で触れる。
「星を奪いし狩人よ、抱きし夢のために戦場を荒らし尽くせ! 5コストを支払って入場しろ、【スターハンター・ラッシュドリーム】!!」
【スターハンター・ラッシュドリーム】
【星属性/コスト:5】
【ダメージ値:4400】
【夢野 栄喜】
【コスト:12→7】
巨大な星の形を模した斧を持った巨漢の戦士がデルタシステムのレジェンド実体化機能によって出現する。
レジェンダリーグというカードゲームでは、プレイヤーが使役するキャラクターの出現は『召喚』ではなく、『入場』と呼称される。
スターハンター・ラッシュドリームの出現に、辰巳は唖然となる。
「星属性、コスト5のレジェンド……」
「それだけじゃねえぞ、ラッシュドリームの入場時能力を発動!」
【スターハンター・ラッシュドリーム】
【能力①】[<星/1枠分>【このレジェンドの入場時】このターン中、あなたが攻撃側である場合、このターンのターン開始フェイズ時に出たサイコロの目の数2つにつき1枚だけ、あなたは自分のデッキの一番上からカードをドローして手札に加える。]
「ラッシュドリームの入場時能力は俺が攻撃側である場合にのみ発動し、俺がターン開始フェイズ時に振ったサイコロの目の数が2つにつきデッキからカードを1枚ドローする! 俺が振ったサイコロの目は7、よってデッキから3枚ドローだぜ!」
【夢野 栄喜】
【手札:3→6】
ギミックステージ【銀河】の恩恵により、サイコロの目が2つ上昇しているのでドロー枚数が通常よりも底上げされている。
続いて、辰巳のレジェンドの入場である。辰巳も栄喜同様にスマートフォンに触れる。
「だが、俺はお前が切り札級のレジェンドを入場させることは読んでたぜ」
「なにぃ?」
「お前のスターハンター・ラッシュドリームは、このレジェンドで迎え撃つ! コストを4つ支払い、入場せよ【月盾の番兵】!」
【月盾の番兵】
【月属性/コスト:4】
【ダメージ値:5300】
【星永 辰巳】
【コスト:10→6】
「月属性のレジェンドだと……?」
栄喜は辰巳が入場させたレジェンドの属性に、思わず目を剥いた。
栄喜からすれば、辰巳は星属性のレジェンドを使用するイメージが強かったので、意表を突かれた形になるが辰巳は呆れたような声を出す。
「防御側なんだから星属性のレジェンドを場に出すわけないだろ。壁にすらならないって」
レジェンドには属性があり、それぞれには適材適所というものがある。
星属性ならば、攻撃側の際に有効打になる能力を持つ。
一方の月属性は、防御側の際に有効打になる能力を持っているので、防御側となったら順当に月属性のレジェンドを入場させておくのが安全牌である。
「俺の月盾の番兵には、このタイミングで発動できる能力はない。バトルフェイズに移行するぞ」
「いよいよだな。俺のラッシュドリームでそんな木偶の坊なんざ捻り潰してやるよォ!」
バトルフェイズ。それはレジェンドの攻撃と防御を宣言することでバトルが行われるフェイズだ。
「バトルフェイズ! スターハンター・ラッシュドリーム、一等星へアタックだ!」
バトルフェイズにおいて、攻撃側の宣言する『アタック』は基本的に相手プレイヤーへの直接攻撃になる。
防御側はこれを大人しく受けるか、それとも自分のレジェンドの『ブロック』を宣言することで受けるダメージ量を軽減することができる。
ただし、注意点として『ブロック』を宣言した場合、両者のレジェンド同士の戦闘が起こるため、ダメージ値の低いステータスのレジェンドは退場してしまい、原則、そのカードバトル中では再度の使用ができなくなってしまう。
「俺のアタック宣言時、伏せていた戦術カードを発動!」
【増援要請】
【戦術カード/コスト:3】
【効果】[【自分のレジェンドのアタック宣言時】あなたは自分の待機室に存在するレジェンドを1体指定して、休憩室に送る。そうしたら、そのレジェンドのダメージ値を、アタック宣言をした自分のレジェンドのダメージ値に加算する。]
「3コストを支払い、俺はレジェンド【コメット・ソルジャー】を待機室から休憩室に送り、そのダメージ値をラッシュドリームのダメージ値に加算する!」
【夢野 栄喜】
【コスト:7→4】
【コメット・ソルジャー】
【ダメージ値:2000】
【スターハンター・ラッシュドリーム】
【ダメージ値:4400+2000=6400】
スターハンター・ラッシュドリームのダメージ値が月盾の番兵のダメージ値を超えた。
実体化したスターハンター・ラッシュドリームとその増援としてやってきたコメット・ソルジャーの連撃が辰巳に迫る。巨大な斧を振りかぶるその光景に辰巳は震える腕を押さえながら宣言する。
「っ……! 月盾の番兵で、ブロック!」
「えっ……?!」
辰巳のブロック宣言を聞いて、それまで試合の行く末を見守っていた愛理が初めて口を開いた。かなり焦ったように言う。
「ブロックはマズイわ、星永くん!」
しかし、栄喜はニヤリと笑いながら「もう遅ぇ!」とラッシュドリームの能力を発動させる。
【スターハンター・ラッシュドリーム】
【能力②】[<星/2枠分>【相手のレジェンドのブロック宣言時】あなたは、自分の手札から戦術カードを3枚指定して廃棄する。そうしたら、このレジェンドはこのバトルフェイズ中にもう一度だけアタックすることができる。]
【夢野 栄喜】
【手札:6→3】
「俺は手札から3枚の戦術カードを捨てることで、このターンのバトルフェイズ中にもう一度だけアタック宣言をすることができるのさ!」
「なにっ?!」
このカードゲームにおいて、アタックとブロックの宣言は基本的にそれぞれ1ターンに一度しか行えない。
こちらは既にブロックを宣言してしまった。その上でもう一度行えるということは、2回目の攻撃に対してこちらはブロックすることができないということだ。
だがこのターン、辰巳は1ダメージも受けるつもりはない。
「月盾の番兵のブロック時能力、発動!」
【月盾の番兵】
【能力①】[<月/2枠分>【このレジェンドブロック宣言時】攻撃宣言をした相手のレジェンドを1体指定し、このターンのターン開始フェイズ中に出したサイコロの目の数1つにつき500の値を、そのレジェンドのダメージ値から減算する。]
「この能力は、俺がターン開始フェイズ中に出したサイコロの目の数1つにつき、お前のラッシュドリームのダメージ値を500減少させる!」
辰巳は自身のサイコロを指差す。
「俺のサイコロの目の数は、ギミックステージ【銀河】の恩恵により2つ上昇した【5】! よって、お前のラッシュドリームのダメージ値は2500減少する!」
「くっ!?」
【スターハンター・ラッシュドリーム】
【ダメージ値:6400-2500=3900】
月盾の番兵が持つ盾に組まれた複数の月のマークが5つほど光り出し、ラッシュドリームの斧を受け止める。
【スターハンター・ラッシュドリーム】
【ダメージ値:3900】
VS
【月盾の番兵】
【ダメージ値:5300】
レジェンド同士のバトルにより、『ダメージ計算ステップ』が発生した。その名の通り、バトルフェイズ中に発生するダメージ計算を行う。
「まだだ!」
栄喜は場に伏せた2枚目の戦術カードを発動する。
「4コストを支払い、戦術カード【ダブル・パワー!】発動!」
【ダブル・パワー!】
【戦術カード/コスト:4】
【効果】[【ダメージ計算ステップ時】このターン中、あなたのレジェンドのダメージ値は2倍になる。]
「俺のラッシュドリームのダメージ値を2倍にする!」
【夢野 栄喜】
【コスト:4→0】
【スターハンター・ラッシュドリーム】
【ダメージ値:3900→7800】
VS
【月盾の番兵】
【ダメージ値:5300】
戦術カード【ダブル・パワー!】により、今度はスターハンター・ラッシュドリームのダメージ値が月盾の番兵のダメージ値を上回った。
月盾の番兵が持ってた盾は粉々に破壊されてしまった。
このままでは、辰巳はその差分の2500のダメージを受けることになる。
「ダメージステップ時! 月盾の番兵の2つ目の能力を発動する!」
【月盾の番兵】
【能力②】[<月/1枠分>【ダメージ計算ステップ時】このターン中、自分が受けるダメージ量を一度だけ半分にする。]
「俺が受けるダメージ量2500を半分の1250にする!」
「えっ?!」
なんで今!? と愛理は目を見開く。
ラッシュドリームは2回目の攻撃を控えており、それはブロックできない以上7800の大ダメージをそのまま受けることになる。
月盾の番兵の能力で受けるダメージを半減するなら、2500ダメージの方ではなく7800ダメージの方が被弾は低い。
しかし、辰巳はそれをしなかった。
「うっ……ぐっ……」
【星永 辰巳】
【ライフ:10000→8750】
次の瞬間、デルタシステムによるプレイヤーへのダメージのフィードバックとして辰巳の全身に電流が走り、その痛みに襲われる。
そのことに辰巳は苦悶の表情と声をあげた。
(これが……1250の、痛み……っ!!)
そこまで酷い痛みというわけではない。だが、今の辰巳は少々神経質になっており、少しの痛みもあたかも激痛であるかのように錯覚してしまっている。
そんな辰巳などお構いなしに栄喜はスターハンター・ラッシュドリームの追加攻撃を宣言する。
「ラッシュドリームの2回目のアタックだ!」
〈Gaaaaaaa!!!!〉
スターハンター・ラッシュドリームは雄叫びを上げて再度斧を振りかぶって辰巳に襲いかかろうと飛び上がる。
【スターハンター・ラッシュドリーム】
【ダメージ値:7800】
「……っ」
辰巳の体が震える。
7年前のトラウマが、フラッシュバックする。
(1250であの痛みだとしたら、7800なんて……)
7年前。あまりのレジェンドの攻撃による衝撃で自分の体は傷つき、また試合会場の機材もその衝撃に耐えきれず大破。
会場全体が炎に飲み込まれ、自分だけが取り残された。
どれだけ叫んでも、誰も助けてくれない。瓦礫によって身動きは取れず、肺は煙に焼かれた。
熱く、痛く、辛く。自分の瞳から溢れ出る涙だけが唯一の慰めで。
あの日の二の舞など、もうダメージなど、受けたくない。
「戦術カード、発動!」
【無血の障壁】
【戦術カード/コスト:5】
【効果】[【ダメージ計算ステップ時】あなたがブロックせずに相手のレジェンドの攻撃を受けた場合、そのダメージを全て0にする。]
【星永 辰巳】
【コスト:6→1】
「コストを5つ支払うことで、スターハンター・ラッシュドリームから受けるダメージを0にする!」
「チッ!」
辰巳の目前に巨大で透明な壁が出現し、スターハンター・ラッシュドリームの攻撃から辰巳を守った。
「……。レジェンド退場フェイズ」
今回のバトルフェイズ中では互いのレジェンドのアタックとブロックを宣言したことでレジェンド同士の戦闘が発生した。
これにより、このレジェンド退場フェイズではダメージ値の低いレジェンドが『休憩室』と呼ばれる場所へ送られることになる。
休憩室へ送られたレジェンドは、基本的にそのカードバトル中では再度の使用ができなくなる。
【スターハンター・ラッシュドリーム】
【ダメージ値:7800】
【月盾の番兵】
【ダメージ値:5300】
スターハンター・ラッシュドリームと月盾の番兵、ダメージ値が低いのは辰巳の月盾の番兵である。
辰巳のスマートフォンの画面を操作し、月盾の番兵を闘技場から休憩室へドラッグして送る。
(俺の戦術は攻撃一点特化。だから待機室には、もう防御側用のレジェンドはない。これから先、被弾を避けるためには俺が攻撃側になり続けるしかない……っ!!)
辰巳は震える手を抑えるように強く握り締め、これから先の自分の戦い方を考える。
レジェンド退場フェイズを終えたので次に訪れるのはターン終了フェイズ。
闘技場に残ったレジェンドを待機室に戻し、このターンを終えるフェイズだ。
栄喜はスマートフォンの画面を操作して、闘技場に存在するスターハンター・ラッシュドリームを待機室に戻す。
「これでこのターンは終了。俺はスターハンター・ラッシュドリームを待機室に戻すぜ」
「ターン終了に伴い、俺の残ったコストは全て失われる」
【星永 辰巳】
【コスト:1→0】
また、ターン終了フェイズでは、全てのプレイヤーのコストがこのように失われる。
そのターン中に得たコストはそのターン中のみしか有効ではないので、できるだけコストを1ターンで使い切るのがポイントだ。
これで第1ターンが終了。第2ターンへと移行する。
この時点で、互いの待機室に存在するレジェンドは共に6体。
「ターン開始フェイズ! ダイスロールだ!」
「望む所だぜ、一等星!」
辰巳と栄喜がサイコロを振る。
【星永 辰巳】
【4】+2=【6】
【夢野 栄喜】
【2】+2=【4】
「……よしっ!」
サイコロの数が辰巳の方が高い。よって、通常ならば今度は辰巳が攻撃側となる。
しかし。
「攻撃特化で有名な一等星を、そう易々と攻撃側にするわけねえだろうが! 手札のカードを捨てて、サイコロの目をそのコストの数値に変更する!」
ターン開始フェイズにおいて、自分の手札からカードを1枚選んで廃棄することができる。そうすることで、自分が出したサイコロの目の数を、廃棄したカードのコストの数値に変更できる。
ただし、この行為ができるのは1回のゲーム中に3回までである。
「俺は、手札からコスト5の支援カード【ダイス・バースト】を廃棄し、俺のサイコロの目を【2】から【5】へ変更する!」
【星永 辰巳】
【4】+2=【6】
【夢野 栄喜】
【手札:3→2】
【5】+2=【7】
「くっ……!」
栄喜のサイコロの目がギミックステージ【銀河】の恩恵込みで【7】になったことで、栄喜が辰巳のサイコロの目の数を上回った。
これでは、再び栄喜が攻撃側となってしまう。
「ならば、俺は手札から5コストの戦術カード【無血の障壁】を廃棄する!」
「そんな……」
愛理は辰巳の行動に理解ができない。
【無血の障壁】は先程も辰巳が使用したように、相手レジェンドからのダメージを0にする最高の防御札だ。
捨てずとも防御側で使用すれば、少なくともダメージは避けられる。それをわざわざ捨ててまで何故攻撃側に固執するのか。
(さっきのターン、【無血の障壁】を事前に伏せていたというのなら、スターハンター・ラッシュドリームからのアタックを月盾の番兵でブロックする必要なんてなかった。むしろブロックしたことで余計なダメージを受けてしまった上に、貴重な防御側レジェンドである月盾の番兵まで失う結果に繋がってしまった)
この違和感。愛理は辰巳が抱える問題に気がつきつつあった。
そんな辰巳の行動を、栄喜は鼻で嗤う。
「ハッ、最強級の守り札を捨てるとはな! 随分と攻撃側にご執心じゃねえかよ、一等星!」
「うるさい! こんなバトル、さっさと終わらせてやる!」
辰巳の鬼気迫るような表情と言葉。
(まさか星永くん、貴方は――)
愛理の中でまだ明確な結論は出ない。だから、推論が確信に至るまで辰巳を見守るしかない。
【星永 辰巳】
【手札:3→2】
【5】+2=【7】
【夢野 栄喜】
【5】+2=【7】
これで互いのサイコロの目は共に【7】。
これではどちらも攻撃側にも防御側にもなれない。
「共にサイコロの目は7。ならば、もう一度ダイスロールをするしかないな」
この場合、互いに違うサイコロの目が出るまで何度もサイコロを振り直すことになる。
『ダイスロール!』
【星永 辰巳】
【2】+2=【4】
【夢野 栄喜】
【1】+2=【3】
「今度こそ、俺が攻撃側だ!」
「そうはいくかよ! 手札からコスト3の戦術カード【増援要請】を捨ててサイコロの目を【1】から【3】に変更!」
「またか!」
【星永 辰巳】
【2】+2=【4】
【夢野 栄喜】
【手札:2→1】
【3】+2=【5】
「これでもう一度、俺のサイコロの目が上回ったぞ。さあ、どうする一等星!」
「決まってる、手札からコスト4の戦術カード【ダブル・パワー!】を廃棄する!」
「はは、マジかよコイツ!」
【星永 辰巳】
【手札:2→1】
【4】+2=【6】
【夢野 栄喜】
【3】+2=【5】
「ダブル・パワーはレジェンドのダメージ値を2倍するカード。攻めにも守りにも使えるのに、それまで捨てるなんて……っ!」
はっきり言って、辰巳の攻撃側への執着は異常だ。確かに攻撃側にならなければ相手にダメージを与えることはできないが、辰巳が捨てたカードはいずれも勝利へ近づくためのキーカードとも言える強力なカードだ。
それを捨ててまで攻撃側の権利を得たところで、相手を仕留めきれずに終わるのがオチだ。
「ははは。ここまで乗ってくるなんて、所詮、一等星の輝きは過去のものってことだな!」
栄喜は笑いながら手札を開示する。それはコスト5の戦術カード【無血の障壁】。
これを捨てることで、再び栄喜のサイコロの目が辰巳を上回る。
(ゲーム開始前、一等星はこう言っていた)
――『このデッキの戦術、7年前の……』――
(つまり、奴のデッキ構築は7年前に近いはず。だとすれば、そのレジェンド構成も当時に近いと考えられる。ならば、奴の待機室にはもう防御側のレジェンドは存在しない)
7年前の辰巳は防御側のレジェンドの採用は最低限に抑え、それ以外は攻撃側レジェンドで待機室を固め、あとはデッキ内の防御札で対処する傾向がある。
(どういうわけか、今の一等星は攻撃側にご執心だ。ならば、それを利用して奴の防御札を徹底的に削ぎ落とす。幸い、俺の切り札のラッシュドリームは入場時能力でのドローによる手札補充と仮にブロックされても追加攻撃ができる以上、手札を使い切ったところでそこまで痛くはないからな)
このターン開始フェイズでのサイコロ合戦、別に栄喜は辰巳のように攻撃側であることにこだわっているわけではない。
狙いは辰巳から有用な防御札や殺傷性の高い戦術カードを削ぎ落とすことで、辰巳の戦術における攻撃と防御を低下させることにある。
「俺は手札から戦術カード【無血の障壁】を捨てる。さあどうする、一等星? その最後の手札まで捨てるか?」
【星永 辰巳】
【4】+2=【6】
【夢野 栄喜】
【手札:1→0】
【5】+2=【7】
「俺は……――」
最後の手札はコスト5の戦術カード【無血の障壁】。レジェンダリーグでは、1つのデッキに入れられる同名カードは3枚までなので、この【無血の障壁】は3枚目、つまりもう辰巳のデッキには【無血の障壁】が存在しないことになる。
これを捨てれば再び栄喜のサイコロの目と同じになり、ダイスロールのやり直しとなる。
しかし、それでもし栄喜のサイコロの目が大きかったら……。そう思うものの、これを捨てなくても栄喜が攻撃側になってしまうのなら、少しでも可能性のある方へ賭けるしか……。
「俺は、手札から……」
「いい加減にしなさい!!」
そこへ、ついに堪忍袋の緒が切れた愛理が辰巳を叱責する。
「そんなにダメージを受けるのが恐いの?! そんな目先だけの逃げの一手で勝てると本当に思ってるの!!?」
「それ、は……」
辰巳だって、本当は分かってる。今、自分が本当は何を優先しなければならないのか。
だが、体の震えが、辰巳に冷静な判断をさせてくれない。
あの7年前の記憶が、辰巳の思考を蝕んでしまうのだ。
愛理からの言葉に辰巳が思わず俯いてしまうと、愛理は即座に「軽々しく下を向かないでいただけませんこと!?」と言い放つ。
「前も後ろも見られないのなら、せめて上だけでも見ようという気がないのかしら! 下ばっかりじゃ、気分が滅入るばかりでしょうが!!」
「……――っ! その、言葉は……」
愛理の言葉に、辰巳は目を見開いてマジマジと愛理を見つめる。
「まさか、君が……あの時の……」
当時、マスコミからの取材が億劫で、逃げるように病室から抜け出して病院の中庭にやって来た時に出会った少女。
名も知らぬ少女に、自分は火傷で醜くなった顔を見られないように、そのミイラ男のように包帯に覆われて所々から火傷による爛れた肌が見え隠れする顔を下に向けてポツリポツリと不安を溢した。
両親から向けられるまるでゴミでも見ているかのような視線。今まで無敗で称賛を贈っていた世間が、たった一度の敗北で掌を返したようにバッシング記事を印刷する。
誰も何も信じられなくなった。
こんなこと、彼女に言ったところで何にもならないのに、彼女は何も関係ないのに、それでも誰かにこのどうしようもない状況に対する不満をぶつけずにはいられなかった。
そんな時に、彼女に言われた。
――『前も後ろも見られないのなら、せめて上だけでも見たらいいわ。下ばっかりじゃ、気分が滅入るばかりよ』――
彼女はきっと、自分の話した内容の半分も理解していなかっただろう。
それでも、彼女なりに自分を勇気づけようとしてくれたのは十分に伝わった。
そんな彼女の言葉に、笑顔に、あの当時の自分は少なからず救われた部分もあった。
他人を信じられなくなりそうだった自分が、まだ誰かを信じてみてもいいかもしれない、と思えたから。
「ダメージを恐れず、受け入れなさい! 今のレジェンダリーグに、貴方が恐れるものは何もない!」
彼女は今も尚、あの頃と変わらず、自分を鼓舞してくれる。
「私の言葉を、信じなさい!!」
「……ああ」
俺は逃げてきた。過去の彼女の言葉に勝手に救われて、一番の問題に向き合うことをせず、ただただ逃げただけ。
だから結局、彼女にまた同じことを言われてしまった。
つまり、自分は、あの7年前から何も成長できていない。
当然だ。何も向き合ってないのだから、成長できるはずもない。
なら、これが本当に、最後のチャンスだ。
過去と向き合う、唯一無二のチャンスだ。
「俺は、この結果を受け入れる!」
辰巳は、手札を捨てない道を選んだ。
【星永 辰巳】
【手札:1】
【4】+2=【6】
【夢野 栄喜】
【手札:0】
【5】+2=【7】
「おいおい。本当にいいのか、一等星。このままだと俺が攻撃側になっちまうぜ~?」
「ああ、構わない」
「……チッ」
栄喜は舌打ちして愛理を睨む。
(あの女、余計なことを……)
せっかく、辰巳の手札を根絶やしにできるチャンスだったものをと悔しげだが、それでも2枚の有用なカードを捨てさせることに成功したので御の字としておく。
「ならば、コストステップだ!」
【星永 辰巳】
【コスト:6+7=13】
【夢野 栄喜】
【コスト:6+7=13】
「ドローフェイズ、お互いにドロー!」
【星永 辰巳】
【手札:1→2】
【夢野 栄喜】
【手札:0→1】
栄喜はドローしたカードを見て、ニヤリと微笑む。
一方の辰巳は「ここでこれが来たか」と呟く。
(【補給支援】、か。これでドローするカード次第で大きく変わってくるな)
全ては己の引き次第。
そんな辰巳の思案など知らず、栄喜はすっかり勝利を確信して笑い続ける。
「……くく。どうやら、このターンで決着が着くみたいだ。戦術フェイズ、レジェンドを選択させてもらう!」
栄喜はスマートフォンの画面に操作し、スターハンター・ラッシュドリームを待機室から闘技場へとドラッグする。
(一等星を仕留めるのは、当然、切り札であるラッシュドリームだ。今、ドローフェイズで引いたこのカードと組み合わせることで完全に勝った!!)
「俺は、場に戦術カードを1枚伏せて戦術フェイズを終了する!」
【夢野 栄喜】
【手札:1→0】
これで栄喜の戦術フェイズは終了。続いて辰巳の戦術フェイズである。
「なら、今度はこちらの番だ。まずはレジェンドを選択させてもらう!」
辰巳も同様にレジェンドを選択する。もう防御側用のレジェンドはないので、選別基準はとくにないが。
そして、まずは手札から支援カードを発動する。
「手札から支援カード【補給支援】を発動!」
【星永 辰巳】
【コスト:13→11】
【手札:2→1】
【補給支援】
【支援カード/コスト:2】
【効果】[あなたは自分のデッキの一番上からカードを2枚ドローして、自分の手札に加える。]
「コストを支払って、俺はデッキからカードを2枚ドローさせてもらう!」
【星永 辰巳】
【手札:1→3】
(……なるほど、これなら)
その後、手札のカードを1枚選んで場に伏せる。
「さらに、戦術カードを1枚伏せさせてもらう。俺もこれで戦術フェイズを終える」
【星永 辰巳】
【手札:3→2】
今、栄喜の場には1枚の戦術カード、一方で辰巳の場には前のターンに使用せずに場に伏せた戦術カードと今回のターンで新たに伏せた戦術カードを合わせて2枚の戦術カードが伏せられている。
「レジェンド入場フェイズ! コストを5つ喰らい、出でよ【スターハンター・ラッシュドリーム】!」
スマートフォンの画面に表示されている【Legend:Touch the Screen!】を指で触れることで、スターハンター・ラッシュドリームが再び闘技場へと入場した。
【スターハンター・ラッシュドリーム】
【星属性/コスト:5】
【ダメージ値:4400】
【夢野 栄喜】
【コスト:13→8】
「さらに、前のターンと同様にラッシュドリームの入場時能力を発動!」
【スターハンター・ラッシュドリーム】
【能力①】[<星/1枠分>【このレジェンドの入場時】このターン中、あなたが攻撃側である場合、このターンのターン開始フェイズ時に出たサイコロの目の数2つにつき1枚だけ、あなたは自分のデッキの一番上からカードをドローして手札に加える。]
「俺が振ったサイコロの目は先程と同様に7、よってデッキから3枚ドロー!」
【夢野 栄喜】
【手札:0→3】
たとえ手札が0枚でもスターハンター・ラッシュドリームの能力で一気にカードを3枚補充した。これで仮にこのターンで辰巳を仕留めなかったとしても次のターンで守りを固めればいいだけだ。
次に辰巳のレジェンド入場フェイズである。
「コストを3つ支払い、入場せよ【流星ストライク】!」
【流星ストライク】
【星属性/コスト:3】
【ダメージ値:2000】
【星永 辰巳】
【コスト:11→8】
「俺の流星ストライクに発動できる能力はない。バトルフェイズだ!」
「ハッ! よりによってそんな雑魚レジェンドを入場させるとはな! これで俺の勝利は揺るぎなくなったぜ!!」
バトルフェイズ。栄喜はスターハンター・ラッシュドリームに攻撃を命じる。
「やれ、ラッシュドリーム! 今度こそ一等星を粉砕しろ!」
スターハンター・ラッシュドリームの攻撃宣言。栄喜はすかさず更なる宣言をする。
「戦術カード発動! 【ダブル・パワー!】だ!」
【ダブル・パワー!】
【戦術カード/コスト:4】
【効果】[【ダメージ計算ステップ時】このターン中、あなたのレジェンドのダメージ値は2倍になる。]
【夢野 栄喜】
【コスト:8→4】
【スターハンター・ラッシュドリーム】
【ダメージ値:4400→8800】
「さあ、どうする! 一等星!!」
「……」
辰巳の残りライフは8750。僅かだが、ラッシュドリームはそれを上回った。
通常ならば被弾ダメージを少なくするためにブロックするだろうが、ラッシュドリームにはブロックされた時に追加攻撃を可能にする能力がある。
つまり、何もしなければ辰巳の敗北は決定的だ。
「俺は……」
辰巳の場には、防御側である場合には意味をなさない流星ストライクと、伏せられた戦術カード2枚のみ。
その限られた中で、辰巳は宣言する。
「流星ストライクで、ブロック!」
「えっ……」
愛理は言葉を失う。彼は、自分を信じてくれなかったのか。
やはり、まだ、過去のトラウマを受け入れられなかったのか。
すると、辰巳は愛理の方へ向き、小さく笑顔を浮かべて言う。
「俺は君の言葉を信じる。……だから、今度は君が俺のことを信じてくれ」
「……。ええ、分かったわ」
彼の顔を見て、確信した。辰巳は、この勝負に絶対に勝つ。
今の彼には、あの一等星の輝きがある。
「ブロックを宣言したな! なら、ラッシュドリームの能力を発動だ!」
【スターハンター・ラッシュドリーム】
【能力②】[<星/2枠分>【相手のレジェンドのブロック宣言時】あなたは、自分の手札から戦術カードを3枚指定して廃棄する。そうしたら、このレジェンドはこのバトルフェイズ中にもう一度だけアタックすることができる。]
【夢野 栄喜】
【手札:3→0】
【スターハンター・ラッシュドリーム】
【ダメージ値:8800】
VS
【流星ストライク】
【ダメージ値:2000】
「これで俺の勝ちだ!」
栄喜は自分の勝利を確信して笑うが、辰巳は不敵に笑う。
「勝ちを宣言するには、少しばかり気が早すぎると思うぜ」
「……なんだと?」
栄喜は怪訝そうに眉間に皺を寄せる。一体、何が狙いなのか。
「俺も戦術カードを発動させてもらう! 3コストを支払って、【ブロック・シャッター】を発動!」
【ブロック・シャッター】
【戦術カード/コスト:3】
【効果】[【ダメージ計算ステップ時】あなたがブロックを宣言し、自分のレジェンドのダメージ値が相手レジェンドのダメージ値よりも低い場合、あなたが受けるダメージ量を一度だけ0にする。]
【星永 辰巳】
【コスト:8→5】
「ブロック・シャッターの効果により、俺が受けるダメージは0になる!」
「だが、これで0にしたところでまだ追加攻撃があるぜ!」
「なら、やってみろよ」
「……っ」
なんだ、こいつのこの余裕は。栄喜は言い知れない恐怖のようなものを感じる。
状況は圧倒的に有利なのに、何なのか。このまんまとしてやられたような感覚は。
「……いいや、そんなものはまやかしだ! ラッシュドリームで一等星へアタック! これで俺の勝ちだ!!」
「ならば、もう1枚の戦術カードを発動! 【ダメージ・カット】、2コストを支払う!」
「なっ?!」
【ダメージ・カット】
【戦術カード/コスト:2】
【効果】[【ダメージ計算ステップ時】あなたは自分の手札からカードを好きな枚数を指定して、廃棄する。そうしたら、この効果で廃棄したカード1枚につき1000だけ、自分が受けるダメージを一度だけ減少させる。]
「この効果により、俺は手札の【無血の障壁】を捨てることでお前のスターハンター・ラッシュドリームから受けるダメージを1000だけ減少させる」
【星永 辰巳】
【コスト:5→3】
【手札:2→1】
辰巳が捨てたカードを見て、栄喜は目を剥く。
「な、なぜだ?! その無血の障壁を場に伏せれば、ラッシュドリームから受けるダメージを完全に防げたはず! それなのに、なぜだ!?」
「そんなの、決まっている」
そう言って、辰巳は愛理の方へ顔を向けた。
「彼女の言葉を信じたからだ」
「……っ」
愛理は思わず口元に力が入り、泣きそうになるのを必死にこらえる。
辰巳が自分を信じ、その上で敢えて最善の道を捨てた。愛理の言葉に報いるために。
そのことが、愛理には嬉しくて堪らないものだった。
ただし、気がかりなこともある。
「それでも、ダメージが……」
スターハンター・ラッシュドリームから受けるダメージ量から1000を引いた値、7800ダメージが辰巳の身に振りかかる。
「大丈夫だ……」
愛理の言葉を信じると決めた。
――『ダメージを恐れず、受け入れなさい! 今のレジェンダリーグに、貴方が恐れるものは何もない!』――
「恐れるものは、何もない!!」
【星永 辰巳】
【ライフ:8750-7800=950】
辰巳の全身に電流が走る。
「ぐっ――……あれ、意外と痛くない……?」
辰巳は首を傾げながら愛理の方へ顔を向ける。
痛みのレベルとしては、前のターンでの1250とそんなに変わらない――というか、全く変わらない。
愛理は辰巳に対して頷く。
「あの7年前の事故から、痛みによるフィードバックは全て一律になったのですわ。しかも、痛みも全て必要最低限の、ちょっとした静電気にあったぐらいの痛みにね」
「………じゃあ、俺はずっと静電気に、怯えてたわけか」
なんというか、凄くショックである。そんな程度の痛みにビビってあれこれとパニックになってたことが、端から見れば完全に頭のおかしい人に見えるだろう。
溜め息を吐くが、とりあえずあの7年前の事故によるレジェンダリーグへの恐怖心に対する踏ん切りは着いたように感じる。
ここからは、一気に逆転させてもらう。
「次のターンで終わらせてみせる!」
辰巳はレジェンド退場フェイズにて、流星ストライクを休憩室に送り、ターン終了フェイズに移行。
「残りライフ950が何を偉そうに言ってんだ。勝つのは俺だ!」
栄喜はスターハンター・ラッシュドリームを待機室に戻し、互いはこのターン中に得たコストを全て失い、このターンは終了となる。
さあ、決着の3ターン目だ。
「ターン開始フェイズ、ダイスロールだ!」
「……フン」
栄喜の発言に、辰巳は鼻で笑う。
「何が可笑しい」
「すぐに分かるさ」
【星永 辰巳】
【1】+2=【3】
【夢野 栄喜】
【3】+2=【5】
「くくく……くははは! とことん運がないな、一等星! どうやらお前は一度も攻撃側になることなく終わるみたいだぜぇ?」
「1つ、お前に種明かしをしといてやるよ」
「あぁ?」
栄喜は辰巳が何を言いたいのか理解できない。
「俺がなぜ、さっきのターンに敢えてブロックしたのか」
「んなの知るかよ!」
「簡単だ。俺もお前と同じで、手札を削りたかったからだ」
「なっ……――」
栄喜は思わず言葉を失う。
「お前が俺をダイス合戦に引き込みつつ、俺の手札を削ることで戦術の幅を少なくしたように、俺もまた、このターンで確実に決めるために、お前の手札を削る必要があった。その方法として、お前にスターハンター・ラッシュドリームの能力を使わせたってことだ」
「……っ! だが、このターンは俺が攻撃側だぞ!!」
「そうはいかない」
辰巳は手札のカードを開示する。
そのカードはコスト5の戦術カード【ライフ・バーン】である。
「ターン開始フェイズにおける、手札のカードを捨ててそのコストの数値にサイコロの目を変更させる行為。これは一度のゲーム中に3回まで可能。俺は前のターンの段階でまだ2回しかやっておらず、これで3回目ってわけだ」
「くそっ!!」
【星永 辰巳】
【手札:1→0】
【5】+2=【7】
【夢野 栄喜】
【3】+2=【5】
栄喜は既にサイコロの目を変更する行為を3回行っており、そもそも手札も0枚なのでサイコロの目を変更することはできない。
よってこのターン、辰巳が攻撃側なのは揺るぎない。
「コストステップ!」
【星永 辰巳】
【コスト:7+5=12】
【夢野 栄喜】
【コスト:7+5=12】
「まだだ!」
栄喜は足掻くようにデッキに手を伸ばす。
「まだ、俺にはこのドローがある! ここで無血の障壁のような防御札を引ければ!!」
ドローフェイズ。お互いにカードをデッキからドローする。
『ドロー!!』
【星永 辰巳】
【手札:0→1】
【夢野 栄喜】
【手札:0→1】
辰巳はドローしたカードを見るが、イマイチなのか眉間に皺を寄せる。
(……このカードでは、攻めきれない)
悪くはないカードだが、勝利に繋げられる効果ではない。
一方の栄喜は「よっしゃあ!」とガッツポーズを浮かべる。
(無血の障壁ほどの防御札じゃないが、このターンを凌ぐならこいつで十分だぜ!!)
どうやらお目当てのカードを引けたようだ。
戦術フェイズ。今までと違い、今度は攻撃側となった辰巳から行われる。
辰巳は待機室にいるレジェンドの能力を見て、その内1体を闘技場へドラッグして送る。
(俺は、こいつに賭ける!)
「レジェンドを選択、俺はこれで戦術フェイズを終了」
続いて、防御側である栄喜の戦術フェイズだ。
「俺もレジェンドを選択して、場に戦術カードを伏せて終了だ!」
【夢野 栄喜】
【手札:1→0】
栄喜が選んだレジェンドは、やはり自身の切り札であるスターハンター・ラッシュドリーム。
(ラッシュドリームには、防御側の時に発動できる能力はない。だが、この戦術カードの性能を最大限に活かせるレジェンドは、ラッシュドリーム以外にいないぜ!)
栄喜の思惑を、果たして辰巳は超えることができるのか。
レジェンド入場フェイズである。
辰巳はスマートフォンの画面にタッチする。
「空に流れる星の如く、敵を撃ち貫け! 4コストを捧げて入場せよ、【メテオ・ガンナー】!」
【メテオ・ガンナー】
【星属性/コスト:4】
【ダメージ値:3200】
【星永 辰巳】
【コスト:12→8】
流星の如く発射される銃を手に、星の模様があしらわれた黒いマントを着用し、これまた黒いカウボーイハットを被ったガンマンが降臨した。
「そして俺が攻撃側である場合、メテオ・ガンナーの能力が発動する!」
【メテオ・ガンナー】
【能力①】[<星/1枠分>【このレジェンドの入場時】このターン中、あなたが攻撃側である場合、あなたは自分の手札からカードを1枚指定して廃棄する。そうしたら、あなたは自分のデッキの一番上からカードを1枚ドローしてから見て、それが戦術カードであるならば作戦場に伏せて置くことができる。戦術カードでないならば、代わりに自分の手札にそのカードを加える。]
「俺は手札のカードを1枚廃棄し、デッキトップのカードをドローして見る」
【星永 辰巳】
【手札:1→0】
「そして、そのカードが戦術カードならば、そのまま場に伏せることができる!」
辰巳はデッキトップのカードを引いて、横目で確認する。
(この、カードは……)
その後、カードは裏向きのままでスマートフォンの上に乗せる。
〈カード・スキャン中。……戦術カードであることを確認〉
カードテキスト上に『相手に見せる』という記述がないので、スマートフォンで確認が取れれば引いたカードをわざわざ相手に見せる必要はない。
「俺は、この戦術カードを場に伏せる!」
果たして、場に伏せたカードは勝利へ導くキーカードに足り得るのか。
「なら、次は俺のレジェンドの登場だ! 三度入場せよ、【スターハンター・ラッシュドリーム】!!」
【スターハンター・ラッシュドリーム】
【星属性/コスト:5】
【ダメージ値:4400】
【夢野 栄喜】
【コスト:12→7】
今回の栄喜は防御側なので、スターハンター・ラッシュドリームの入場時能力は発動しない。
これで両者のレジェンドが揃ったので、いよいよバトルフェイズだ。
「メテオ・ガンナーで、夢野栄喜へアタック!」
メテオ・ガンナーのアタック宣言と同時に、メテオ・ガンナーの能力が発動する。
「そしてメテオ・ガンナーのアタック宣言時、能力発動!」
【メテオ・ガンナー】
【能力②】[<星/2枠分>【このレジェンドのアタック宣言時】このターン中、このターンのターン開始フェイズ時に出たサイコロの目の数1つにつき1000の値を、このレジェンドのダメージ値に加算する。]
「メテオ・ガンナーがアタックした時、そのダメージ値は、ターン開始フェイズ時に出た目の数1つにつき、1000加算される!」
辰巳のサイコロの目は変更され、さらにギミックステージ【銀河】の恩恵によって最終的に【7】であるため、そのダメージ値は7000アップする。
メテオ・ガンナーの銃に7つの星々が弾丸となって装填され、スターハンター・ラッシュドリームに照準を合わせて全弾発射された。
【メテオ・ガンナー】
【ダメージ値:3200→10200】
「なにぃ! コスト4の分際で、ダメージ値が10000を超えただと?!」
栄喜はメテオ・ガンナーの高いダメージ値に目を剥いて驚愕の声を出す。
しかし、栄喜はこの状況下でもどうにかするカードを引き当てていた。
「……はは、流石だよ一等星。だがな、俺も食らいついていくぜ! ラッシュドリームでブロックしてから戦術カードを発動!」
【メテオ・ガンナー】
【ダメージ値:10200】
VS
【スターハンター・ラッシュドリーム】
【ダメージ値:4400】
栄喜は場に伏せたカードをひっくり返して表向きにする。
【スター・ウォール】
【戦術カード/コスト:3】
【効果】[【ダメージ計算ステップ時】あなたが【星属性】のレジェンドでブロックを宣言した場合、このターン中、そのレジェンドのコスト1つにつき1000の値を、そのレジェンドのダメージ値に加算する。]
「コストを3つ支払う! これにより、ラッシュドリームのダメージ値が5000アップする!」
【スターハンター・ラッシュドリーム】
【星属性/コスト:5】
【ダメージ値:4400→9400】
【夢野 栄喜】
【コスト:7→4】
メテオ・ガンナーの火力には一歩及ばないが、ライフを守るには十分だ。
しかし、辰巳は特に動じることなく作戦場に伏せていた戦術カードを表向きにして開示する。
「コスト4【貫通弾】を発動!」
【貫通弾】
【戦術カード/コスト:4】
【効果】[【ダメージ計算ステップ時】あなたのレジェンドのアタックに対して相手がブロック宣言をした場合、このダメージ計算ステップ中でのみ、相手のレジェンドのダメージ値を0にする。]
【星永 辰巳】
【コスト:8→4】
「その効果により、お前のラッシュドリームのダメージ値はダメージ計算ステップの間だけ0になる!」
「ば、馬鹿な……。俺の、ラッシュドリームが……」
【メテオ・ガンナー】
【ダメージ値:10200】
VS
【スターハンター・ラッシュドリーム】
【ダメージ値:9400→0】
ダメージ値が0では、メテオ・ガンナーのダメージを軽減することはできない。
メテオ・ガンナーが発射した銃弾はそのままスターハンター・ラッシュドリームの体を貫通し、栄喜は10200のダメージを受けるのだった。
「くっそおおおおおおおお!!!」
【夢野 栄喜】
【ライフ:10000→0】
決着が着いたことで特殊粒子の散布が終了した。
項垂れる栄喜に対し、辰巳は声をかける。
「あんたはトシヒコさんに暴力を振るおうとした。だから好きにはなれないが……良いバトルだった」
「……くっ!」
そう声をかけた後にトシヒコの元へと駆け寄った。
「トシヒコさん、無事ですか」
「……ああ、大丈夫さ。それよりもわしは、お前が前に進めたことの方が嬉しいよ」
「……。はい!」
そうやってお互いに笑い合っていると、愛理が「もしもーし」と2人に声をかける。
「えー、お忘れかもしれませんが、これで今日からこの土地は冨士ヶ峰グループの所有物となったわけですわ」
その言葉に辰巳は表情を曇らせる。
そう、所有権がドリームコーポレーションから冨士ヶ峰グループに移っただけで、根本的な解決になったわけじゃない。
ここから出ていけと言う相手が変わっただけ。
しかし、トシヒコ並びにいつの間にいたのかタマミはその表情が柔らかい。
「それで、お嬢ちゃんは何がお望みなんだい?」
タマミがそう尋ねると、愛理は「当然ですわ!」と言って辰巳を指差す。
「一等星。今日から貴方は私の専属アンバサダーとして、我が屋敷に住んでもらいます。これは決定事項ですわ!」
「え……?」
想像していた内容と違っていることに、思わず拍子抜けしてしまった。
「トシヒコさん達は、ここを追い出されずに済むのか?」
「貴方が私の誘いを断るのなら、それも視野に入れてもいいかもしれませんわね」
「そんなことはしないさ。でも……」
そこで辰巳はトシヒコとタマミを見つめる。
二人はもうそこそこ年齢がいっている。自分が2人のそばから離れるのは果たして良いことなのだろうか。
まだ、2人から受けた恩をろくに返せていないというのに。
しかし、トシヒコは辰巳に言う。
「行ってこい、タツ。……いや、辰巳」
「トシヒコさん……」
タマミの方へ顔を向けても、彼女も力強く頷くばかりだ。
「何も今生の別れというわけでもないだろうに。……そのレジェなんとかが終わったら、戻ってくるもよし。また苦しくなったら戻ってくるもよし。あたしたちは、いつだってあんたを我が子のように想ってるんだから、その繋がりが切れることはないんだよ」
「ああ、タマミの言うとおりだ。なんてったって、わしらはもう立派な家族だからな」
『私達は家族』。
そんな言葉、本当の家族だって一度だって言ってくれなかった。
その言葉に籠められた温かみと、2人を守るどころか、今まで自分は2人に守られてきたことを痛感し、そのまま辰巳は泣き崩れてしまった。
「はい……俺は、貴方達の家族、です……」
これは決別の涙では決してない。新たな道を歩む決意の涙である。
自分にはいつだって、自分の帰りを待ってくれている人がいる。
それだけでもきっと、人は前を向いて生きていけるのだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
翌日。
「それじゃあ、行ってきます」
新しい旅立ちの朝。明るい太陽の光を浴びながら、辰巳はトシヒコとタマミに告げた。
「ああ、やるなら優勝だぞ、辰巳!」
「くれぐれも風邪にだけは気を付けるんだよ」
そんな2人の言葉に辰巳は元気よく「はい!」と笑顔で返し、表通りで車を停めて待つ愛理達の元へと駆けて行った。
しかし。
「おい、一等星」
そこには何故か栄喜の姿があった。
「ゆ、夢野、栄喜……」
辰巳も思わず警戒してしまう。既にここ一帯の土地の所有権はドリームコーポレーションにはない。
周りを見ても、昨日のように部下の姿はないので、恐らく栄喜個人が辰巳に何か用事があるのだろう。
愛理は笑いをこらえるようにしながら、辰巳に言う。
「ほ、星永くん。このバカキが貴方に頼み事があるそうよ……プフ」
「バカキじゃねえ、栄喜だっつの! …………………………………そ、その、一等星!」
栄喜は大股で辰巳に近づく。
「は、はい。な、何でしょうか……?」
栄喜の顔は完全にヤのつく人そのままなような強面であり、しかも今はサングラスを着けて黒いスーツ姿なので尚更である。
栄喜はスーツの内ポケットに手を突っ込む。
「っ?!」
まさか、昨日の腹いせに拳銃でも突き付けてくるのか。
そう思って目が飛び出そうになる。
「こ、これを!!」
そして栄喜が取り出したのは――……なんと、サイン色紙だった。
「……へ?」
理解できない。一体全体、どういうことなのか。
辰巳は首を傾げる。
愛理は小声で栄喜に「ほら、ちゃんと言わないと伝わらないですわよ」と栄喜の脇腹を小突く。
それに対して栄喜は「るせーよ、今から言うんだよ」とキレる。
「そ、その、一等星……っ!!」
「は、はい……」
「じ、実は……」
「実は……?」
「実は12年前の世界大会優勝当時からずっとファンで、ずっと一等星と同じ星属性を愛用してます! 復帰おめでとうございます、デビュー戦の相手ができて光栄です、サインください!!」
「え……ええええええええ?!」
まさかの展開に、辰巳は開いた口が塞がらなかったのだった。
――月ノ守財閥・屋敷――
「……なに、星永辰巳が?」
バイオリンを弾いていた青年『月ノ守 琥鉄』は、執事長からの報告を聞いて、思わず演奏の手を止める。
「はい。昨日、冨士ヶ峰グループのアンバサダーとして、ドリームコーポレーションの夢野栄喜と対戦をしたようです」
「……そうか。よりによって、奴が冨士ヶ峰グループの」
琥鉄は忌々しそうに呟きながら、胸元のペンダントを開き、その中の写真を見つめる。
そこには、幼き日の自分と愛理の姿が映った写真が収められていた。
「星永辰巳。愛理の王子様は君じゃない、……この僕だ。彼女は僕の唯一なのだから」
琥鉄の瞳は仄暗く濁り、ペンダントを見つめていた。
それでいてその声音には、軽い殺意すら含まれているようで、目の前に立っている執事長は背筋に冷たいものを感じた。
そして、辰巳の登場に反応したのは琥鉄だけではない。
――ロトム社・本社ビル――
レジェンダリーグのカード開発並びに大会運営と、デルタシステムの管理をこなしている今や一流企業の仲間入りを果たした会社。
その最上階にて、1人の少女がカードバトルの映像記録を見つめていた。
少女の表情は喜怒哀楽に乏しく、あらゆるものへの関心が欠如しているように感じられるが、唯一、映像記録の中の辰巳の姿にだけは微かな反応を見せていた。
「一等星が、帰ってきた……」
【今週の最強レジェンド】
【スターハンター・ラッシュドリーム】
【星属性/コスト:5】
【ダメージ値:4400】
【能力①】[<星/1枠分>【このレジェンドの入場時】このターン中、あなたが攻撃側である場合、このターンのターン開始フェイズ時に出たサイコロの目の数2つにつき1枚だけ、あなたは自分のデッキの一番上からカードをドローして手札に加える。]
【能力②】[<星/2枠分>【相手のレジェンドのブロック宣言時】あなたは、自分の手札から戦術カードを3枚指定して廃棄する。そうしたら、このレジェンドはこのバトルフェイズ中にもう一度だけアタックすることができる。]
【解説】
夢野栄喜の切り札級レジェンド。決して過労死枠ではない。
自身が攻撃側ならば、能力①でドローをすることによって、能力②を発動するための重い手札コストを確保・軽減することができるぞ。
強力な追加攻撃で一気に勝利を引き寄せろ!
【次回予告/ナレーション:辰巳】
こんにちは、星永辰巳です。
まさか7年前に会った女の子が彼女だったなんて……意外と世間様は狭いんだな。
そんなわけでついに始まったレジェンダリーグ。ただし、その本選に進むためには小リーグでの勝利が必要不可欠らしい。
愛理が俺に出場するようにいったのは構築制限ルールのある【レジェンダリーグ・ドラゴン使いの部】。コスト5で『ドラゴン』と名の付くレジェンドを必ず1体以上をチームに編成しなければならないようだが……。
いや、待て! 昔ならともかく、今の俺のチームにはドラゴンなんていないぞ?!
……え、他のアンバサダーからレンタルすればいい? しかも既に確保している?
なーんだ、じゃあ大丈夫だな――って、いきなりレンタルキャンセルされてるじゃんか!!
どうすんだよ、このままじゃ不戦敗で失格になるぞ! しかも俺の戦い方に合う星属性のドラゴンなんて、俺の知る限りじゃ2種類しかいないぞ!?
……え、それはどんなドラゴンかだって? 1つは最初にレンタル登録されてた【コメット・ドラゴン】だろ? もう1つは……もう1つは……
次回、第02伝【切り札との邂逅】!
俺の、現役時代の、切り札……その名前は……
次回も俺と一緒に、レジェンダリーグ、アウトブレイク!!