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化け物と契約した者  作者: 白金 一歩
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三話 やっぱり運がない

 実況者のアイラが試合開始の合図と共に会場のフィールド一杯に魔法陣が浮き出す。次々と建造物が建てられていき、最後に目を開けられないほどの光が漏れ出し各地区の代表者たちはその場から消えた。


『さぁ、今回のフィールドは町の廃墟地をモデルにしたフィールドです。廃れたビル群や家々を巧みに使い敵を翻弄していこう!』

『うむ、たくさんの入り組んだ道もあるからのう。それをどのように使っていくか見物じゃのう』

『これなら、敵を待ち伏せして不意打ちができますね』


 実況の声はここでは聞こえないみたいだな。まぁ、どうせ碌でもない実況をするのだから関係ないか。

 僕たちは如何やら何処かの廃ビルの一室にいるみたいだ。


「さて、どうしようかな?」

「蒼汰」

「ん~? どうしたの?」


 僕の名前を呼びながら姫乃はいきなり戦闘態勢に入る。


「え! なに! 本当にどうしたの!」

「……はぁ~、どうして貴方はそんなに危機感知能力がないのかしら」


 姫乃は大きなため息をつきながら僕を可哀そうな目で見てくる


「何でそんな目で見てくるのさ。せめて説明して……」


 バッン!


「……」


 僕の目の前を何かが通り過ぎていき壁に穴が開いた。それも複数(・・)


「まっ、そういう事よ」


 ハハハ……そういう事ですか

 すでに僕たちは敵に囲まれていると。


「早くないですかね~!」

「あのクソジジィがB地区が優勝するなんて予想したからでしょ」

「!!」


 この人、英雄であるエンホースさんをクソジジィって言いましたよ!

 敵に囲まれているよりもそっちの方が驚きだよ! 僕は!


「何ボケっとしてるのよ! 早く戦闘態勢に入りなさい!」 

「あ、は、はい!」


 姫乃に怒られすぐに戦闘態勢に入り、敵の気配を探る

 え~と、一、二、三……六人!

 多すぎません! いや確かにエンホースさんがB地区が優勝する予想はしたけども! さすがにこれは……


「五人ね~思ったよりも多いわね」

「いや、六人だよ。一人うまく気配を消してるようだけど周りの気配も一緒に消えているせいで不自然な空白ができてるから」

「周りの気配と一緒に消えているね~」

「たぶん、デュナミスの力で消してるんだと思う」

「なるほどね、じゃあどうしようかしら?」


 いやこっちに向かれてもどうしようも……

 待って! 何でそこで笑うの! 危機感知能力がいくら低い僕でもその笑みには命の危機を感じるよ!


「まっ、こういう時は突撃一択よね」

「ちょ、まっ……」


 そう言った姫乃は僕の静止の声を聴き終える前に笑いながら敵の気配がする方に一直線に突っ込んでいった。


「あ~! もうどうなっても知らないからね!」


 そうだ、いっつもこれだ。いつもは僕よりも深く物事を考えてるくせにこういう戦闘の時だけは何も考えずに一人で突っ込もうとする。

そう、この赤羽姫乃と言う人物は、戦闘狂と呼ばれる人種だ。

 

「……フフフ、アハハ! 私の前に立つなら死を覚悟しなさい!」

「ちょ!殺しちゃだめだから!」


 あ~これだめだ。完全にスイッチが入ってる。頼むから反則負けだけは勘弁してくれよ~。いや、割とマジで……ホントに……





『おぉ~~~っと! 早速動きがあったそうです。』

『うむ、如何やらB地区の二人と複数の地区が衝突してるみたいじゃな』

『にしても早すぎる気がするのですが?』

『確かに、始まって数秒ですからね。流石に、これは早すぎますね。これは一体……?』


 数秒と言う時間で他のチームを見つけ更にその場所に移動することは不可能であった。しかし、現実はそれを可能にしていた。誰もが持つ疑問にエンホースが答えた。


『多分じゃが、始まって速攻で誰かが空間能力でB地区付近に飛ばしたのじゃろうな』

『空間能力ですか? ですがさすがにこの人数、しかも別々の場所に居た複数の地区の人を飛ばすとなるとかなりの負担がかかるのでは?』


 エンホースの発言にアイラが質問する。

 アイラの質問にエンホースは……


『まぁ、確かに試合開始と同時にそれをしようとするならさすがに脳の処理に魔力又は精神力が持たぬじゃろうな』 

『で、ではどうやって?』

『試合開始前に細工をしていたのでしょう』


 例えば試合開始直前にB地区の二人の周りに地区代表の人たちを転移させていたならちょっとした距離であるし目視しながらできるため、脳の処理に魔力又は精神力も持つ可能性が高い。

 更にフィールドを作成する際は大きな魔方陣が展開するため誰も小さな魔方陣(転移魔術)には気づきはしない。

 最後に目を開けられないほどの光が漏れだすためタイミングさえ合えば誰も気づかずに移動させることができるとエルリアが回答した。


『試合開始前ですか? それはルール上大『丈夫じゃ。』』


 アイラの疑問に被せる様にエンホースが答える。


『別に誰も試合前に細工してはいけないなど言ってもいませんし書いてもいませんからね』

『確かにルールブック上そう言った禁止事項は書かれていませんが……』

『アイラ君これは一つの試合の前にれっきとした戦争なんじゃよ。いくら卑怯などと言われようとも戦場の中では意味をなさないからのう。それにルール上大丈夫なのじゃから反則負けにはならんよ』


 そう言うエンホースの言葉には重みがあった。戦場を体験し生き抜いてきた者の重みが。


『少し大人げなかったかのう?』

『い、いえそんなことはありません。未熟者の私がいけなかったことですし……』

『あの、アイラさん? エンホース様? そろそろ現状の実況をしませんか?』


 エルリアの言葉にハッとなりやっと実況に戻る二人だった。





 俺の名はボブ=ヴァラン、種族は獣人族の猫種だ。A地区の代表者として選ばれ今大会に出場している。

 選ばれた理由としては対人戦の強さとデュナミスの力が認められたためだ。自分自身そこら辺の奴に負ける気がしなかったし、自分の力に溺れず、毎日訓練して己の力を高めたつもりだった。今日この光景を見るまでは……


「……ここは? ッ!」


 俺はこの場にチームのみんなと一緒にいないことを瞬時に理解し、周りから複数の気配を確認したためすぐさま自分の能力、デュナミスの力を発動した。

 俺のデュナミスの力は"気配遮断"名前の通り気配を遮断することができる。この力のおかげで相手に気づかれずに不意打ちを打てるため、かなり強力な力だと思う。


「あれは…」


 俺は誰にも気づかれないよう周りを確認するとB地区の二人を確認できた。俺はそこで誰かの策略によりここに飛ばされたことに気づいた。多分周りの奴らも俺と同じように飛ばされたのだろう。


 そして俺はここでチャンスだと思ってしまった。多分他の奴も俺と同じように感じたのかもしれない。


 普通一対多の場合一時離脱してチームと合流するもしくはチームに知らせなくてはいけないのにこの時の俺はこの両方のどちらも取らずにあの二人に挑もうとしていたのだ。後からから考えるとなぜあんな判断をしたのか俺自身わからなかった。

 それでもその時はチャンスだと思ってしまったんだ。


 まずは様子見だな、誰かが攻撃してくれたらいいのだが……


 バッン!


 誰かがあの二人に向けて銃をぶっ放したようだ。

 それにより二人は周りを警戒し始めた(姫乃は最初から警戒はしていたが)。

 そしてなんと姫乃は何の躊躇もなく敵の方へと突撃し始めた。


 なっ! バカなのか! 単騎で六人の敵と戦うつもりか!


 壊れている壁を飛び越え廊下へと出てくる姫乃、そこでチャンスと思ったのか廊下の角から二人の敵が現れた。一人は剣を持ち姫乃に急接近する。もう一人はピストル型魔道銃を姫乃に向けトリガーを引く。


 魔道銃から計五発の銃弾が姫乃に向かっていくが、一発目と二発目は顔を少しずらすだけでかわし、三発目と四発目は姫乃の手に握られている刀で切り捨てられ、五発目は手で握りつぶされた。

 この間、わずか一秒。


 魔道銃を持つ敵は驚きで目が見開く。

 それもそのはず、躱すことや武器で防がれることは想定していた。相手はあの最強種族の一角、鬼人族の一人、それぐらいはしてくると想定していたが、まさか手で握りつぶされるとは思っていなかっただろう。


 本来、魔道銃とは魔獣専用の武器である。今回の武器が対人戦様にセーブされていようとも、改造されている武器であるため、最強種族の一角、鬼人族の一人だろうが当たればただの怪我だけで済むはずがない。


 それにもかかわらず、姫乃は素手でその弾丸を握りつぶしたのだ。それは全くの予想外であった。

 その為、剣を振りかざしていた敵もそれに驚き剣を振る一瞬、若干のズレが生じた。

 その隙を逃さず姫乃は振り切った刀を切り返す形で敵の胸にあったバッチを切り捨てた。

 そのまま、姫乃は魔道銃を持つ敵に近づき左手で相手の顔に拳を叩き込み敵は意識を手放して地面に倒れる。

 バッチを切られた敵と気絶した敵は会場の外に転移させられた。


「はぁ!」

 

 俺は思わず声をあげてしまった。

 なんだ今のは! 弾を躱し、刀で切るのは別に不思議ではない。ただ、素手で弾丸を握りつぶしただと! しかもその後だ一人の敵を切り捨てたと思ったら、次の敵の目の前まで移動してぶん殴っただと! いつ移動した! 一体どんな動体視力に判断力、運動神経をしているんだ。

 あれは確かに怪物だ。さすがに魔獣を倒したと言う実績は伊達ではないな。


 そう考えていると姫乃の後ろから一人の男が走ってきた。


 あれは確か、人間の黒沢蒼汰と言ったか。あれに関しては別に警戒しなくていいだろう。

 

 俺はこの時この男を一番に警戒しなければいけなったのだ。なぜこの男と姫乃二人だけがB地区の代表者なのか、なぜエンホース様がB地区が優勝するなんて予想したのか。この時深く考えていれば俺は地獄を見ずに済んだのかもしれない。


 



「一人で突っ込まないでよ姫乃」

「貴方が遅いだけよ」

「そんな無茶な」


 僕はただの人間で姫乃のような最強種族の一角じゃないんだから基礎能力で追いつける訳無いじゃないか。


「で? どうするの?」

「はぁ~……一人で突っ込んで敵の狙いやすい位置まで来て何がどうするの? だよ。もうこうなったら一つしかないじゃないか。」


 ふぅー……僕はその場で息を整える。

 敵陣のど真ん中で息を整えるところ僕も大概だな。これじゅあ姫乃のこと何も言えないな~。

 心の中で苦笑いしながら僕は姫乃に告げる……


「暴れ回るよ姫乃!」

「了解!」 


 



 あの男、黒沢蒼汰が姫乃と合流してすぐに二人は動き出した。

 まず姫乃は、隣の部屋の壁を思いっ切り殴りつけて壁に穴をあけそこから侵入していった。気配から察するにあの部屋には一人だけ敵がいるみたいだ。ここからでは中を見ることが出来ない為どのような戦闘が起きているのかわからなかったが、何度か刀と何かが打ち合う音が聞こえ、何かしらの魔術であろう爆発音が聞こえることからしてかなり激しい戦闘が行われてるようだ。


 廊下に残ったのはあの男、黒沢蒼汰ただ一人。これは絶好のチャンスだ。あの姫乃がいない間に奴をまずここから退場させる。


 そう思った俺はデュナミスを発動させたまま奴の背後に移動する。


 ハッ! やはりB地区で警戒すべきは姫乃ただ一人だ。隙だらけなんだよ人間!!


 俺は振り上げた腕に魔力を纏わせて強化させる。これは無属性の第一階級魔術『身体強化』を応用し、部分的に強化させたものだ。それを一気に振り下ろしたはずだった……。

 振り下ろした瞬間、一瞬の暗転そしてすぐに背中に痛みが走る


 カッハ! 背中が痛い! 息が上手くできない! 何が起きた!


 一瞬の出来事。攻撃したはずの俺がダメージを負い。何故か仰向けの状態にされている。

 俺は何が起きたのか全く理解できずにパニックを起こす。そこで俺は俺を見下ろしている人物と目が合った。


 なぜおまえがそこにいる! 黒沢蒼汰!


 俺が混乱している間に黒沢蒼汰は俺に向け拳を振り下ろそうとしたが、すぐに大きく横に飛んだ。その後すぐに俺の目の前を数発の銃弾が通り過ぎていった。

 黒沢蒼汰が飛び引いた隙にすぐさま体を起こして戦闘態勢に入る。


「チッ! 外したか。おい! そこのA地区代表! 一時休戦を求む! 先に奴をたたく! 文句あるか!?」


 廊下の端にあった瓦礫の隙間からガラの悪そうな獣人の男が姿を現してそう叫んだと同時に黒沢蒼汰がその男に向けて太ももに装備していた、ピストル型魔道銃を引き抜いて打ち込む。


「ッ!」

「させない!」

 

 瓦礫の陰から今度は小柄な半魚人の女が出てきて手甲に着けていたガントレットで弾丸を弾く。


 そこでこの場にほんのわずかな静寂が訪れる。

 しかし、その静寂を破ったのは先ほどのガラの悪そうな獣人の男。


「おい! そこのお前まだ返事がまだだぞ! どうなんだ文句あるのか、ないのか! どっちだ!」


 今ここであの二人(・・・・)と敵対するのは拙い。それに休戦しなければ三つ巴になる、一対一ならまだしも一対多の戦闘は俺としても避けたい。ならここは……


「文句はない!」

「よし。悪いがあんたには今ここで退場してもらうぞ! チビ!」

「チビ言うな!」


 そう言って女は黒沢蒼汰に急接近する。


「はぁ~……僕ってなんでこんなにも運がないんだろうか」


 小さな声で何かを呟く黒沢蒼汰に女は既に目の前まで移動していた。そして黒沢蒼汰に向けて拳を振るう。


 その拳は例えあの姫乃でさえ躱すことが困難であり受ければ軽くでは済まない怪我を負う危険性がある拳だった。

 

「……あれ?」


 その拳は黒沢蒼汰に受け止められた。片手で

 ありえない現状に驚き俺たちは数秒硬直してしまった。


「何が……」

「チビ! ボケっとすんな! すぐにその場から離れろ!」

「あっ……」


 男が警告するがすでに遅かった。

 黒沢蒼汰は女の拳を掴んでいる逆の手で女の腹に添えてこう言った


「"拳闘士のメイ=コベット"さん貴方の力そのまま返させてもらいます」


 女の腹に添えた手の甲に術式が浮かび上がり赤い光が漏れ出す


「『衝撃反転インパクトリベレーション』」


 術式が発動したと同時に大きな爆発音が鳴り響きビル全体を揺るがし至る所に罅を入れ、煙が立ち込めた。

 煙が晴れた所に立っていたのは黒沢蒼汰、ただ一人だけだった。  



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