二話 試合の前に心が折れそうです
『……では次の出場者の登場です!』
僕の緊張がほぐれてすぐに僕らの番が来た。
『B地区の代表者はこの方々だ!』
実況者であろう人のアナウンスと同時に僕らは会場に入場していく。
「「「ブー! ブー! ブー!」」」
僕らを包むブーイングの嵐
「わかってはいたけど、やっぱりこうなるよね。なんかもう、心が折れそう」
「何女々しいこと言ってるのよ。私達は頂点取りに来たのよ、これぐらいで心が折れてどうするのよ」
「まぁ、そうなんだけどね」
僕の隣にはやっぱりいつもどうり堂々とした歩みでこのブーイングの嵐を突き進んでいた。
なんだろう男の僕より男らしんだけど、試合の前ですでに負けた気分だ。
『なんと! B地区の代表者は前代未聞のたった二人での出場だー!』
『一人は皆様もご存じ、赤羽博士の娘にして今回の大会の注目株の一人! 赤羽姫乃選手だー!』
実はこの赤羽姫乃、かなりの有名人だったりする。
赤羽時宗、姫乃の父であり、魔獣の血を利用した武器を開発し、数百年先の技術を生み出した人物である。
そんな娘となれば少しは有名にもなる。ただ、それだけでなく彼女は若くして魔獣を討伐した実績もある。そりゃあ有名にもなる。
と言うか、今回の実況者はやけにテンション高いな。
『そして、もう一人の選手は……え~と……』
って、おい! 忘れないでくれよ!
『え~と……「パラパラ」……あぁ、あった! これですね』
今資料で確認しただろ!
てか、B地区の代表者は二名しかいないんだから、それぐらい覚えておいてよ
『コホン、失礼しました。え~もう一人の選手は黒沢蒼汰選手です!』
「「「……」」」
おい! どうしてくれるんですかこの空気! お前誰だよって言う雰囲気だよこれ絶対!
『え~とですね。彼は特に実績なしです!』
お願いします。そんな一言でかたずけないで
確かに! 確かに! 実績はないけども! 他に何かあるでしょ!
『えっ? それは駄目だって……あ~はい分かりました』
も~う、ヤダよこの実況者
折りに来てるよ、僕の心を折りに来てるよ。
『黒沢蒼汰選手はなんと! あのデュナミスを使えない最弱種族の人間の最後の生き残りです! って、ハァ? 馬鹿じゃないですかこの人! 恥晒しに来てるだけじゃないですか』
もう泣いていいよね? いいよね?
何なのこの実況者。僕をいじめてそんなに楽しいの!
僕が蹲っていると肩に誰かの手が置かれた。
振り返るとそこには、笑いをこらえている姫乃が……
「……プッ!……フフ……大丈夫……フフ私はわかってるから……アハハ!」
「言えてないから! 慰めれてないから! てか、普通に最後笑ってるし!」
「ご、ごめん……フフでもやっぱ面白い……あははは!」
「もうヤダよ~」
試合の前に何でこんなにメンタル削られなくちゃいけないのさ~
『え、え~と……次に進みます!』
あぁ、あれで終わりなんですね。はい、分かりました。
僕が落ち込んでいると、次々とほかの地区から代表者が入場してくる。
そんな中、僕らに近づいてくるグル-プがいた。
「久しぶりだな、姫乃」
「……」
姫乃に声を掛けて来た男は九鬼優
赤髪赤目で姫乃と同じ鬼人族の一人だ。
額からは黒い二本の角が伸びており、かなり顔の形が整った美形の青年だ。
しかし、身体ががっしりとした大柄で高身長である為ほとんどの人を見下ろす形になる。その為、近づかれると顔が少し厳つい感じになり、迫力がすごい青年になっている。
因みに、今回の大会での注目株の一人でもあり、この国の鬼人族の中でもトップクラスの実力を持った人物でもある。
「無視か……」
「何の用? 私はもう貴方達とは縁を切ったし、これからも関わるつもりは無いわよ」
「姫乃……本当にもう帰っては来てくれないのか?」
「言った筈よもう関わるつもりは無いと」
「それでも俺は……貴女に……」
「それを貴方が言うの? A地区から私を追い出した、貴方が」
「そ、それは……」
「……わかってるわよ、貴方が悪くないことぐらい……ハァ、悪かったわね嫌な言い方して」
「姫乃、もし俺が……」
「それでも! 私は貴方達の所に居なかったわよ。それに、もう戻るつもりは無いの、悪いわね」
「そう……か」
姫乃と優は両者ともにそれ以降、顔を合わせることはなかった
「時間を取らせてすまなかった」
「リアン、それに皆も悪かったな、もう戻るぞ」
優はこちらに、頭を下げてから元いた場所に帰って行った。それに続くようにA地区の代表メンバーも帰って行った。
ただ、一人だけ優にリアンと呼ばれた女性は何故か僕を一睨みしてから帰って行った。
え? 何? 僕何か睨まれるような事したかな?
『さぁさぁ、これで全ての代表者が出揃いました!』
『ではまずは、今大会のルールを説明します!
一、各々の地区から学生を二人から五人を出場させる
二、武器はこちら側が渡した武器を使用すること、ただし自分達が改造する分には許可する。その場合は改造した本人をメンバーの一人として登録すること
三、こちら側が渡したバッチを常に見える場所に装備していること
四、死者を出さないこと、もし人を殺してしまった場合は即退場に付け加えその地区の代表者たちは全員反則負けとする
五、魔術は第三階級まで使用可能。それ以上を使用した場合は、使用したものが反則負け判定になる
六、デュナミスは使用可能
七、こちら側が渡したバッチを壊される又は気絶した場合、負けと判断され会場の外に転移させられる。
八、最後の地区代表者又はチームが残るまで大会は続行される。
と、主なルールは以上となります。他にも色々と細かいルールはありますが、それは各自に配られているはずのルールブックを確認して下さい。さらに今回はトーナメント形式ではなくバトルロイヤル形式となっています』
『それでは、ここで私の自己紹介をさせていただきます。今回実況を務めさせてもらう、アイラ=ウィンターです』
『更に更に、今回のゲストは超大物のお二人をお呼びしました! まず一人目はこの方だー!』
『この国代表のエルリア=アン=ダーティオです。よろしくお願いします』
「「「うおぉぉぉぉーーー!」」」
観客の興奮した声が彼方此方から聞こえてくる。
エルリア=アン=ダーティオ、最強種族の一角である龍人族の一人で、この国の代表を務めている。
代表とはこの国のトップの権力者であり、統括者である。所謂、王という立場にいる人物だ。
銀髪青目の女性であり、絶世の美女と謳われている。
腕や首あたりには鱗が見えている、更に耳の少し上から縦ではなく横に伸びた角が生えている。これが、龍人族の特徴である。
このエルリア、実はかなり若く見える、僕たち学生と変わらない程の外見をしているのだ。一部では学生と同じ年齢だと噂されているが、実際のところは分からない。(国家機密な為、実年齢は公開されていない)
『そして、もう一人の超大物ゲストはこの方だー!』
『エンホース=ラファレーゼじゃ。よろしく頼む。』
「「「うおぉぉぉぉぉーーー!!!」」」
先ほどの歓声よりも大きい歓声がエンホースと呼ばれた老人に注がれる。
エンホース=ラファレーゼ、最強種族の一角である有翼族の一人で、今から約五十年前に起きた第4次人魔大戦時に大英雄と呼ばれた男だ。
彼は戦場で、敵の主力部隊だった約一万の敵兵をたった一人で全滅させた生きる伝説である。
しかし、大戦時に片腕と三翼ある内の二翼を失い徐々に当時の力から衰え始め、今では魔獣の討伐隊の教官として活動している。それでも、幾人者の強者を生み出してきた人物でもあるが。
『まさか今回こんな超大物ゲストが参加されるとは思ってもいなかったため私今かなり緊張しています。緊張して手の震えが……止まらない』
どうやら、あのやけにテンションの高い実況者でも緊張はするようだ。
『まぁ、そんなことは置いときまして』
……そんなこともなっかったかもしれない
『エルリア様、エンホース様のお二人は今回の優勝するのはどの地区だと思はれていますか?』
『私は中央地区かA地区のどちらかだと予想しますが、エンホース様はどうですか?』
『まぁそうじゃな、他の地区の代表たちには悪いが今回はB地区が優勝するぞ』
『な、なんと! エンホース様はあのB地区が優勝すると! これはさすがに予想外でした!』
エンホースがそう予想すると、周りの観客達からざわめきが生まれた。
そりゃあそうだろう、あの英雄が弱小地区のB地区が優勝すると断言したのだから誰もが驚くに決まっている。
『何故、エンホース様はB地区が優勝すると断言されたのですか?』
エルリアがそう聞くと、エンホースは当たり前のことのように言う
『だってのう、一人だけおかしいの居るし』
『おかしいの、ですか?』
『そうじゃ。一人だけ他の出場者と実力がずば抜けて高いのが居るからのう。さすがに、他の地区の代表者では勝ち目がなかろう』
『それはもしかしてですが、赤羽選手のことでしょうか?』
『さてのう? それは大会が始まったらすぐ分かるじゃろうて』
そう言ったエンホースは実況場からこっちを見下ろしてくる
あのそれで何でこっちを見るんですかね!?
『まさかの展開でしたがさっそく始めていきたいと思います!』
いきなりだね! 少しは心の準備を……
『第36回武術大会区別対抗戦スタートです!』
こうして、僕にとって運命の分かれ道となる大会が始まった。