プロローグ
どこかの世界のある施設のある部屋で、鎖に繋げられた八歳程度であろう少年がいた。その少年の頭には奇妙な装置が取り付けられていた。
「何で…こんな……俺たちが何をしたってんだよ!」
少年は叫ぶ叫ばずにはいられなかった。自分達がなぜこんな理不尽な目にあわされているのか少年にはわからなかった。ただわかるのは、ここが地獄だと言うことだけであった。
少年が叫んでいると部屋の中に、一人の白衣の着た男性とそれのボディーガードであろう黒服のスーツを着た男性が入ってきた。
「おぉ、これは荒れているねぇ。どうだね少年? 今の気持ちは? えぇ?」
「死ね、サイコパス野郎」
「アハハ! それは少年、私にとっての最高の誉め言葉だよ。それにしても少年。君のお仲間は本当に役に立たないね。"あの方"の器となれると言うのに誰一人として受け入れようとしない。結局君以外の器はみんな死んじゃった。君には期待をしているよ少年」
「てめぇ……ぜってー許さね……皆を……殺してやる!! 何が器だ! 誰がてめぇみたいな奴のために器になるか!」
「フフフ、殺せるといいね。君が堕ちた時の顔を想像するだけでゾクゾクするよ。ハァ、ハァ……じゃあ時間だ少年。儀式を始めよう」
どこか高揚とした表情を浮かばせる白衣の男性
そして、白衣の男はおもむろに自分の手の中にあるボタンを押した。
「アァアァァァァーーーーー!」
少年の頭に取り付けられた装置が赤く光り出す。それと同時に少年の中に何かが入ってくる。
痛み、苦しみ、憎しみ、恐怖、怒り、嫌悪、恨み、憎悪、殺意、それらの負の感情が少年の中を駆け巡る。それらとは比べ物にならないほどの"絶望"が少年の感情を覆いつくす。
それでも少年の心は壊れなかった、呑まれなかった。たった一人の家族の言葉が、思い出が少年を支えていた。
「まだ耐えますか。う~~ん、何が少年を繋ぎ止めているのか? う~~ん、あっ! あの子を連れてきてくれないかい」
白衣の男は黒服の男に"あの子"と呼ばれた、人物を連れてくるよう指示を出し、黒服の男は部屋から出て行った。
「さぁ、少年、今君が一番会いたがっているだろう"あの子"を連れてきてあげるよ」
少年は男が何を言っているのかわからなかった。少年の友達であり仲間たちは、目の前にいるこの男に殺された。それは少年も自分の目で確認している。だからこそ男が言っていることがわからなかった。だが今目の前にいる男は、自分が今一番会いたい人物を連れてくると言った。少年には思い当たるのは一人しか思いつかなかった。だがそれはあり得ないと少年はその考えを切り捨てた。少年が思い当たる人物はこの世界にいるはずがないから…
そしてしばらく時間がたった後、黒服の男が部屋に入ってきた一人の少女を連れて…
「…ッ!」
「フフフ、驚いてくれたかな。実はね君がこちら側に来た次の日にね、この子が迷い込んできてたんだよ。でもまさか君の"妹"だとは思わなかったけどね。フフフ、こんなにも運命的な再会はないだろう、なぁ! 少年!」
少年の妹と呼ばれている少女は縄で身動きを封じられ、口には布を咥えさせられていた。だが目は隠れていなかったために少年のあまりの悲惨な姿を見てしまった。
「う~~~~! う~~~! ッ!」
暴れ出す少女を黒服の男が取り押さえる。
「威勢のいい少女のことだ」
白衣の男が少女に近づくと、少女は白衣の男を睨みつけていた。
「威勢は良いがその目は気に食わないな~。まっ、どっちにしろ君は死ぬ運命だけどね」
「少年よく見とくんだよ君の大事な人が今から死ぬところを」
「や…やめ……ろ…た……のむ…そいつ…だけは‥‥…おねが…いだ………やめ…て……くれ」
「フフフ、残念だけどそのお願いは聞けないな少年。まぁ、そこで見とくことだね。……やれ」
白衣の男が黒服の男にそう指示を飛ばした。指示を受けた黒服の男は、懐から拳銃を取り出し少女の眉間に押し付けた。だが、少女は恐怖していなかった。それどころか少年に対し笑みをこぼしていた。少年は少女の笑みがどんな意味か悟ってしまった。
「そんな……顔すんなよ…頼む…から…そんな…お別れみたいな…顔……すんなよ!やめろ……ヤメロ―――――――!」
黒服の男が拳銃に指をかけそして…
———————バッン! バッン! バッン!
合計三発の銃声、頭から血を流しピクリとも動かなくなった少女。少年は頭が真っ白になった。次々と少年の中に痛み、苦しみ、憎しみ、恐怖、怒り、嫌悪、恨み、憎悪、殺意、と入ってき最後には"絶望"が少年を覆いつくし、そして少年の心は壊れた…
「……あぁ……あぁ……あぁー! あぁぁぁぁあぁぁぁぁーーーーーーーーーー!」
「クックックッ! アッハッハッハ! 遂に遂にこいつの心が壊れたぞ! 絶望に染まったぞ! さぁ、次の段階に乗り込むぞ! もうすぐだ! もうすぐで、私は"あの方"と」
『ビィ――! ビィ――! ビィ――!』
「ハァ?」
部屋全体に赤いサイレントが鳴り響いた
「おい! 何が起きた!」
異常事態に白衣の男は狼狽え、吠える
しかし、白衣の男の問いに答える者はいなかった
「何が起きてる……」
コツ、コツ、コツ
何かの足音が部屋中に鳴り響く
「誰だ!」
「別に誰だっていいでしょ?」
部屋に入って来た何か。それは、禍々しいオーラを纏い何人たりともそれに近づけさせない様に放ち続けていた。
「お前は誰だ!」
「だから、誰だっていいでしょ。どうせあなたは死ぬ。……それに、私の顔、見れないでしょ?」
それの言う通り。その何かは禍々しいオーラに体全体を包まれており、顔などは一切わからない状況だった。
その何かは手を前に突き出した。
黒服の男は何かが手を前に突き出したと同時に、白衣の男を庇うように前に出た。
そして……
―———ボン!
黒服の男が破裂した。
「……は?」
白衣の男は絶句した。今何が起きたのかわからなかった。いったい何をされたのか全く理解することができなかった。ただ、黒服の男が殺されたことは理解できた。今目の前にいる何かによって。
「貴様! 何をした! こちら側の人間ではないな!」
「あなたの、こちら側が何を指して言っているのか知らないけど、少なくともあなた達と同じではないわ」
そして何かは、白衣の男に一歩近づく
「ヒッ! く、来るな!」
何かは、また手を前に突きだし
「さようなら」
————ボン!
白衣の男は破裂した
「……本当に馬鹿な奴ら。あなた達が会いたがってるアイツはこんなことしても来ないのに」
その何かはどこか悲しそうな面持ちのまま人間の形をしていた肉塊を見下ろしていた
「にしてもあなた災難だったわね」
「……」
「……ねぇ、聞いてる」
「アー……アー……アー……」
「……これは駄目ね、完全に内側を壊されてるわね」
何かの言う通り少年の精神は完全に崩壊されていた
「…………貴方には悪いけど私の我儘に付き合ってもらうわ」
何かを考えるようなそぶりを見せながら
何かは少年の頭に手を置いた
『――――――我、汝と血肉と心の契約を今此処に結ぶ』
そう唱えた何かは少年の中に消えるように入っていく
「これは私の一方的な契約、貴方には私を恨む資格がある」
「……けれど、どうかこの歪んだ世界を――――」
そういって何かは消えていった
今此処に化け物と言われ世界に拒絶され続けた存在と契約した者が誕生した